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「ここまで自己評価が低いと、ジーンが気の毒に思えてきたわ」
「女性の扱いが落第点だとは自覚しているが、私のせいばかりではないとわかってくれたか?」
「そうね。でも、やっぱりジーンが悪いわ。私みたいなタイプと違って、彼女みたいな人ははっきり言わないと伝わらないものよ」
「確かに…」
「そういうことだから、私はこれで失礼するわ。きっちり話し合いなさい」
そう言うとさっさとティアナさんは部屋を出ていく。
「ありがとう」
すれ違いにティアナさんはジーン様の肩に触れ、こちらを振り返って微笑んだ。
「頑張って」
どちらに向けた言葉かわからない励ましの言葉を残し彼女は部屋を出ていった。
ティアナさんの背中を見つめていた私は、ジーン様を見ることが出来ず、視線を反らした。
「少し……話をしてもいいか?」
躊躇いがちにそう訊かれれば、断ることなど出来ない。私は黙って頷いた。
「ティアナのことで言っておきたいことがある」
さっきまでティアナさんが座っていた場所に腰をおろしてジーン様が言った。
「はい」
「私がティアナに昔、結婚を申し込んだことは話したね。そして断られたことも」
「はい」
「あの時、私は何人かの女性に色仕掛けで迫られたり、既成事実を作ろうと無理矢理二人きりにさせられそうになったり、正直、少し女性というものに恐怖を感じていた。唯一平気だったのがティアナで、彼女となら結婚できると思った。考えてみれば、彼女が言ったように、彼女と抱き合えるかと言われたら、難しかっただろう。断られて良かった。彼女の方が状況を良く理解していたようだ」
「そんなことがあったなら、女性というものに怖じ気づいても仕方ありません。ジーンがそんな苦労をしていたなんて知りませんでした。さぞ、大変だったでしょう」
「そう言ってくれて嬉しいよ。だからなのか、私は女の性を前面に押し出してくる女性が今でも苦手で、人目があるところでは何とか対応できるが、二人きりになるとかは今でも無理だ」
完璧に思えたジーン様のこんな弱々しい顔を見るのは初めてだった。
「私は……平気ですか?」
「小さい頃から知っているし、君はそんなことをしないとわかっている。何しろ、自分に女としての武器があるなんて気づいていないのだから。使い方も知らないだろう?」
「そんなもの……持っていません。ないものは出しようもありませんし、ましてやそれを振り回すなんて……」
「誰でも持っているよ。君の場合はそれを認識していないからだ。それに、出来ればその武器は人前では出さないで欲しいものだ。知っているのは私だけでいい」
ジーン様は何を言っているのだろう。私に女としての魅力があるような口振りだ。
「私は君が好きだよ。人としても、女性としても。君との婚約はかなり本気のつもりだ。君がいいならもう一度あの時のように君と肌を重ねたいと思っている。君の肌の感触や君とひとつになった時の快感は忘れられない。今でも夢に見る」
あからさまな表現に顔どころか全身が赤くなる。夢に見るのは私だけではなかった。
ジーン様も、私が欲しくてたまらないと言っている。
「でも………ジーン……あの……ティアナさんは…今でもあなたのこと……」
「彼女には彼女の事情があってここに来た。たが、これだけは確かだ。私とどうにかなりたいと思って来たわけではない。それは彼女にも確認した。だから私は彼女の気が済むまでここに滞在するのを許すことにした。でも決して彼女に思いがあって居させるのではない。彼女にも誰にも……君以外が私達の関係を壊すことはない」
「私……以外?」
「君が……私を嫌って、この関係を……私達の婚約をなかったことにしたいなら言ってくれ。残念だが、私は君の決定を優先する」
「私がジーンを嫌い?そんなことは……」
「なら、この婚約を続けて、いつか私の花嫁になってくれるのか?」
「でも、ジーンは私でなくても……」
「言っただろう?君がいいんだ。君しかないない。君がだめなら私はもう誰とも結婚しない。もっと直接的に言うなら、君しか欲しくない。君にしか勃たない」
直接的過ぎる表現に言葉がみつからない。
「そんなこと……言ってしまっていいのですか?辺境伯は誰が跡取りに……」
「養子を取る。幸い王室には優秀な王子がたくさんいるし、候補には事欠かない」
「そんな……誰とも結婚しないなんてこと通るわけが……」
「本当なんだから仕方ない。何とかなるさ。気になるなら、君がこのまま私の婚約者を続けて結婚してくれればいい」
「それは……」
「今すぐ決める必要はない。前にも言ったが、我々の関係は少々特殊だ。だが、好きか嫌いかで考えてくれればいい。私は君の決めたことに従うよ。出来れば……受け入れて欲しいが…」
「私………」
「失礼いたします」
言い掛けようとしたした時、ヘドリックさんが入ってきた。
「お客様でございます」
夜遅くの来客を告げに来た。
「誰だ?」
「サーフィス卿でございます」
サーフィス卿と言えばティアナさんの結婚予定の相手だ。
ジーン様はその名を聞いて口元を緩める。
「来たか。すまないが、ティアナを呼んできてくれないか。私は彼を出迎える」
「わかりました」
私は言われた通りティアナさんの部屋へ向かい、ジーン様は夜遅く訪れたサーフィス卿を出迎えに行った。
「女性の扱いが落第点だとは自覚しているが、私のせいばかりではないとわかってくれたか?」
「そうね。でも、やっぱりジーンが悪いわ。私みたいなタイプと違って、彼女みたいな人ははっきり言わないと伝わらないものよ」
「確かに…」
「そういうことだから、私はこれで失礼するわ。きっちり話し合いなさい」
そう言うとさっさとティアナさんは部屋を出ていく。
「ありがとう」
すれ違いにティアナさんはジーン様の肩に触れ、こちらを振り返って微笑んだ。
「頑張って」
どちらに向けた言葉かわからない励ましの言葉を残し彼女は部屋を出ていった。
ティアナさんの背中を見つめていた私は、ジーン様を見ることが出来ず、視線を反らした。
「少し……話をしてもいいか?」
躊躇いがちにそう訊かれれば、断ることなど出来ない。私は黙って頷いた。
「ティアナのことで言っておきたいことがある」
さっきまでティアナさんが座っていた場所に腰をおろしてジーン様が言った。
「はい」
「私がティアナに昔、結婚を申し込んだことは話したね。そして断られたことも」
「はい」
「あの時、私は何人かの女性に色仕掛けで迫られたり、既成事実を作ろうと無理矢理二人きりにさせられそうになったり、正直、少し女性というものに恐怖を感じていた。唯一平気だったのがティアナで、彼女となら結婚できると思った。考えてみれば、彼女が言ったように、彼女と抱き合えるかと言われたら、難しかっただろう。断られて良かった。彼女の方が状況を良く理解していたようだ」
「そんなことがあったなら、女性というものに怖じ気づいても仕方ありません。ジーンがそんな苦労をしていたなんて知りませんでした。さぞ、大変だったでしょう」
「そう言ってくれて嬉しいよ。だからなのか、私は女の性を前面に押し出してくる女性が今でも苦手で、人目があるところでは何とか対応できるが、二人きりになるとかは今でも無理だ」
完璧に思えたジーン様のこんな弱々しい顔を見るのは初めてだった。
「私は……平気ですか?」
「小さい頃から知っているし、君はそんなことをしないとわかっている。何しろ、自分に女としての武器があるなんて気づいていないのだから。使い方も知らないだろう?」
「そんなもの……持っていません。ないものは出しようもありませんし、ましてやそれを振り回すなんて……」
「誰でも持っているよ。君の場合はそれを認識していないからだ。それに、出来ればその武器は人前では出さないで欲しいものだ。知っているのは私だけでいい」
ジーン様は何を言っているのだろう。私に女としての魅力があるような口振りだ。
「私は君が好きだよ。人としても、女性としても。君との婚約はかなり本気のつもりだ。君がいいならもう一度あの時のように君と肌を重ねたいと思っている。君の肌の感触や君とひとつになった時の快感は忘れられない。今でも夢に見る」
あからさまな表現に顔どころか全身が赤くなる。夢に見るのは私だけではなかった。
ジーン様も、私が欲しくてたまらないと言っている。
「でも………ジーン……あの……ティアナさんは…今でもあなたのこと……」
「彼女には彼女の事情があってここに来た。たが、これだけは確かだ。私とどうにかなりたいと思って来たわけではない。それは彼女にも確認した。だから私は彼女の気が済むまでここに滞在するのを許すことにした。でも決して彼女に思いがあって居させるのではない。彼女にも誰にも……君以外が私達の関係を壊すことはない」
「私……以外?」
「君が……私を嫌って、この関係を……私達の婚約をなかったことにしたいなら言ってくれ。残念だが、私は君の決定を優先する」
「私がジーンを嫌い?そんなことは……」
「なら、この婚約を続けて、いつか私の花嫁になってくれるのか?」
「でも、ジーンは私でなくても……」
「言っただろう?君がいいんだ。君しかないない。君がだめなら私はもう誰とも結婚しない。もっと直接的に言うなら、君しか欲しくない。君にしか勃たない」
直接的過ぎる表現に言葉がみつからない。
「そんなこと……言ってしまっていいのですか?辺境伯は誰が跡取りに……」
「養子を取る。幸い王室には優秀な王子がたくさんいるし、候補には事欠かない」
「そんな……誰とも結婚しないなんてこと通るわけが……」
「本当なんだから仕方ない。何とかなるさ。気になるなら、君がこのまま私の婚約者を続けて結婚してくれればいい」
「それは……」
「今すぐ決める必要はない。前にも言ったが、我々の関係は少々特殊だ。だが、好きか嫌いかで考えてくれればいい。私は君の決めたことに従うよ。出来れば……受け入れて欲しいが…」
「私………」
「失礼いたします」
言い掛けようとしたした時、ヘドリックさんが入ってきた。
「お客様でございます」
夜遅くの来客を告げに来た。
「誰だ?」
「サーフィス卿でございます」
サーフィス卿と言えばティアナさんの結婚予定の相手だ。
ジーン様はその名を聞いて口元を緩める。
「来たか。すまないが、ティアナを呼んできてくれないか。私は彼を出迎える」
「わかりました」
私は言われた通りティアナさんの部屋へ向かい、ジーン様は夜遅く訪れたサーフィス卿を出迎えに行った。
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