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10 殺人犯
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「ここですか」
次の日の夜。アディーナは例のハンスを殺したと言う男の家の前に立っていた。
真夜中近くの住宅街。人の往来も既に無い。
一階が作業場兼事務所。二階が住居の典型的な間取りの建物だった。
「それじゃ、お願い」
『はい』
隣にいたハンスが玄関扉をすり抜けていく。扉には魔法で解錠できないように制御魔法が掛けられている。
『いいですか?』
鍵穴から霊力を中のハンスに流し込む。そうすることで、霊でも一時的に物質に触れることができる。ただしそれは無機質に限ってで、生き物に触れることはできない。せいぜいが少し物を動かしたりする程度だが、こうやってすり抜けた後に鍵を開けて貰えるので、簡単に人の家に入り込めてしまう。
時々家でも夜中に忍び込んで、祖父たちに頼んで生活に必要なお金をくすねたりしていた。
アディーナとて、そんな真似をしたくはなかったが、時折父はアディーナに生活費をくれるのを忘れるので仕方ない。
人の家に忍び込むのも必要に迫られた今回のような時だけだ。
カチャリ
鍵が開く音がしたので、周りを気遣いながら中に入った。
(ありがとう)
声を潜めてお礼を言うと、ハンスが僅かに頷いた。暗闇に目が慣れるまで玄関先に佇んだ。
(それで、例の物は?)
『どうやら魔力防御のかかった箱に入っているようです』
魔道具はそれを作った魔道具師の魔力の痕跡が残るので、魔力の波動が分かれば誰の作かすぐわかる。
今回はハンスが自分の作品を探しているので、自分の波動を追えばすぐにわかる。
もちろんそれを魔力防御の効果のある入れ物に入れてあれば別だが。
今回もそうらしく、ならば本人に訊くしかない。
作業場の奥から階段を上り、ジャクソンが眠る部屋へと向かう。
『アディーナ、気を付けてね』
『気を抜くな』
母と祖父が心配して声をかけるのをアディーナは黙って頷いて答える。
家の中の扉には鍵がかかっていないので難なく寝室へ入ることが出来た。
『あれですね。恐らく指輪はあの中です』
寝室へ入るとベッドの傍にある机の上に宝石箱が置かれていた。
玄関の鍵とは違い、封印魔法がかかった箱は、掛けた本人か、もしくはそれよりずっと力のある者にしか解除できない。
魔力のないアディーナにはもちろん無理だ。
霊魂であるハンスにも。
アディーナは懐から短剣を取り出した。
腰にも剣を携えているが、今は脅すために使おうとしているので、そちらは使わない。
寝ている男の首筋に刀身をあてがい、声を低くして耳元で囁く。
「起きろ」
びくりと男が驚いて目を開けた。
「ひ……」
「声を出すな」
悲鳴を上げそうになった男の口を手袋をした手で塞ぐ。
「指輪はどこだ?」
男と思われるようにできるだけ声を低くして訊ねる。
「ふごご」
「お前がハンスを殺して奪った指輪だ」
そう言うと男は目を見開いた。どうして知っているのかと顔に書いてあった。
「心配するな。大人しく指輪を渡せば命は助けてやる」
殺すつもりはないが、これくらい脅す必要がある。
男の視線が枕元の箱に向く。
アディーナはそれを掴むと男の胸元に放り投げた。
「開けろ」
刃先を男の首筋に当てたまま命令すると、男はあたふたとそれを手に持ち自分の魔力を流し込んだ。
パカッと蓋が開いて、中を見ると指輪がいくつか入っていた。
その中のひとつを男が差し出す。
『違います。私の作ったものはそれではない』
ハンスがジャクソンが差し出した指輪を否定する。
「騙されないぞ。それではない」
ぐっと短剣に力を入れて首筋に押し込む。
『それです。そのルビーの付いた銀色のやつです』
ハンスが教えてくれた指輪を掴むと、ジャクソンはどうしてわかったのかと言う顔をした。
「騙されないと言っただろう?」
ズボンのポケットにそれをしまいこみ、短剣を滑らせて顎先に刃が当たるようにする。
ジャクソンが更に恐怖の色を瞳に滲ませてこちらを見上げた。
「う!」
首に手刀を当ててジャクソンを昏倒させてから部屋を後にする。攻撃魔法を使用する人間は限られているので、彼が放つとは思えないが、足留めくらいは使ってくるかも知れない。
『意外と簡単でしたね』
ジャクソンの家を出てハンスの家へと向かう途中で彼が言う。
『油断は禁物だぞ。家に帰り着くまで気を抜いてはならん』
「わかっています」
人の目に見えない霊はいいが、アディーナはそうはいかない。まして魔法が使えないので、攻撃されたら反撃できない。
何の警戒もされていなかったジャクソンの家と違い、ハンスの家は殺人があったと言うことで、何かしら警戒されている筈だ。
住み込みで働く弟子に次はどうやってこの指輪を渡すかと用心しながら、人目を避けて歩いていく。
「待て」
後ろから声が聞こえたかと思うと、途端に体が動かなくなった。
拘束の魔法を掛けられたのだとすぐにわかった。
アディーナに恐怖が走った。
次の日の夜。アディーナは例のハンスを殺したと言う男の家の前に立っていた。
真夜中近くの住宅街。人の往来も既に無い。
一階が作業場兼事務所。二階が住居の典型的な間取りの建物だった。
「それじゃ、お願い」
『はい』
隣にいたハンスが玄関扉をすり抜けていく。扉には魔法で解錠できないように制御魔法が掛けられている。
『いいですか?』
鍵穴から霊力を中のハンスに流し込む。そうすることで、霊でも一時的に物質に触れることができる。ただしそれは無機質に限ってで、生き物に触れることはできない。せいぜいが少し物を動かしたりする程度だが、こうやってすり抜けた後に鍵を開けて貰えるので、簡単に人の家に入り込めてしまう。
時々家でも夜中に忍び込んで、祖父たちに頼んで生活に必要なお金をくすねたりしていた。
アディーナとて、そんな真似をしたくはなかったが、時折父はアディーナに生活費をくれるのを忘れるので仕方ない。
人の家に忍び込むのも必要に迫られた今回のような時だけだ。
カチャリ
鍵が開く音がしたので、周りを気遣いながら中に入った。
(ありがとう)
声を潜めてお礼を言うと、ハンスが僅かに頷いた。暗闇に目が慣れるまで玄関先に佇んだ。
(それで、例の物は?)
『どうやら魔力防御のかかった箱に入っているようです』
魔道具はそれを作った魔道具師の魔力の痕跡が残るので、魔力の波動が分かれば誰の作かすぐわかる。
今回はハンスが自分の作品を探しているので、自分の波動を追えばすぐにわかる。
もちろんそれを魔力防御の効果のある入れ物に入れてあれば別だが。
今回もそうらしく、ならば本人に訊くしかない。
作業場の奥から階段を上り、ジャクソンが眠る部屋へと向かう。
『アディーナ、気を付けてね』
『気を抜くな』
母と祖父が心配して声をかけるのをアディーナは黙って頷いて答える。
家の中の扉には鍵がかかっていないので難なく寝室へ入ることが出来た。
『あれですね。恐らく指輪はあの中です』
寝室へ入るとベッドの傍にある机の上に宝石箱が置かれていた。
玄関の鍵とは違い、封印魔法がかかった箱は、掛けた本人か、もしくはそれよりずっと力のある者にしか解除できない。
魔力のないアディーナにはもちろん無理だ。
霊魂であるハンスにも。
アディーナは懐から短剣を取り出した。
腰にも剣を携えているが、今は脅すために使おうとしているので、そちらは使わない。
寝ている男の首筋に刀身をあてがい、声を低くして耳元で囁く。
「起きろ」
びくりと男が驚いて目を開けた。
「ひ……」
「声を出すな」
悲鳴を上げそうになった男の口を手袋をした手で塞ぐ。
「指輪はどこだ?」
男と思われるようにできるだけ声を低くして訊ねる。
「ふごご」
「お前がハンスを殺して奪った指輪だ」
そう言うと男は目を見開いた。どうして知っているのかと顔に書いてあった。
「心配するな。大人しく指輪を渡せば命は助けてやる」
殺すつもりはないが、これくらい脅す必要がある。
男の視線が枕元の箱に向く。
アディーナはそれを掴むと男の胸元に放り投げた。
「開けろ」
刃先を男の首筋に当てたまま命令すると、男はあたふたとそれを手に持ち自分の魔力を流し込んだ。
パカッと蓋が開いて、中を見ると指輪がいくつか入っていた。
その中のひとつを男が差し出す。
『違います。私の作ったものはそれではない』
ハンスがジャクソンが差し出した指輪を否定する。
「騙されないぞ。それではない」
ぐっと短剣に力を入れて首筋に押し込む。
『それです。そのルビーの付いた銀色のやつです』
ハンスが教えてくれた指輪を掴むと、ジャクソンはどうしてわかったのかと言う顔をした。
「騙されないと言っただろう?」
ズボンのポケットにそれをしまいこみ、短剣を滑らせて顎先に刃が当たるようにする。
ジャクソンが更に恐怖の色を瞳に滲ませてこちらを見上げた。
「う!」
首に手刀を当ててジャクソンを昏倒させてから部屋を後にする。攻撃魔法を使用する人間は限られているので、彼が放つとは思えないが、足留めくらいは使ってくるかも知れない。
『意外と簡単でしたね』
ジャクソンの家を出てハンスの家へと向かう途中で彼が言う。
『油断は禁物だぞ。家に帰り着くまで気を抜いてはならん』
「わかっています」
人の目に見えない霊はいいが、アディーナはそうはいかない。まして魔法が使えないので、攻撃されたら反撃できない。
何の警戒もされていなかったジャクソンの家と違い、ハンスの家は殺人があったと言うことで、何かしら警戒されている筈だ。
住み込みで働く弟子に次はどうやってこの指輪を渡すかと用心しながら、人目を避けて歩いていく。
「待て」
後ろから声が聞こえたかと思うと、途端に体が動かなくなった。
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アディーナに恐怖が走った。
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