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14 王宮からの使者
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初めて感じた魔力の流れはとても気持ちが良かった。
霊力はどちらかと言えばアディーナには冷たく感じられていたが、あの魔力は体がほっこりとして温かくなった。
「お嬢様、お嬢様、起きてください、アディーナ様」
二日連続叩き起こされ、慌てて起き上がった。
「ヘレナ……あれ?もうそんな時間」
ベッドの側に立つ通いの掃除婦のヘレナを見て目をぱちくりさせる。
「旦那様がお呼びです。お客様だそうで、呼んで来るように命令されたんです。さあ、お仕度を手伝いますから、起きてください」
「お客様?」
「よくわかりませんが、えらく立派な様子の騎士様でしたよ」
「え?」
がばりと起き上がり、ぽかんと口を開けてヘレナを見上げる。
「な、なななな……何で?」
「知りませんよ、さあ、遅くなると旦那さんの雷が落ちますよ。それでなくてもピリピリしてるのに」
ヘレナは男兄弟に囲まれて育ったのかとても男らしくさばさばしていて、色々と不気味な噂が絶えないアディーナの所にもかれこれ五年通ってくれている。
「騎士……」
いきなり訪ねてきた騎士。
ばれていないと思ったが、夕べのことが脳裏に浮かび嫌な予感しかしない。
「取りあえず……しらをきりとおそう」
何の証拠もない……はず。
持っている中で一番上等なシャンティエのお古を着てヘレナに教えられた客間に向かった。
「お父様……アディーナです」
「来たか……入りなさい」
「失礼いたします」
「遅かったな」
俯いて部屋に入ると、苛立った父の声が降ってきた。
「遅いですわよ」
継母とシャンティエも居てぎょっとした。
父には昨日一年ぶりに顔を合わせたが、継母とシャンティエはもっと長い間顔を合わせていない。
「こちらが、ご長女ですか?」
「アディーナ、御挨拶なさい。近衛騎士のコージス殿だ」
「初めまして、アディーナ・ヴォルカティーニです」
「初めまして、王宮で第一王子の護衛をしております、ディラン・コージスです。子爵位を頂いております」
王子……不吉なキーワードに背筋に冷や汗が流れる。
カーテシーするアディーナに対して、彼は立ち上がって胸に手を添えて腰を曲げて騎士の礼を取った。
「それで、殿下の近衛騎士殿が我が家に何のご用でしょうか」
父親の隣にアディーナが腰かけとすぐに父親が訊ねた。
どうやらアディーナが同席するまで訪問の理由が保留されていたようだ。父親が苛立つのもわかる。
「先にこちらの質問に答えて頂きたい。ご令嬢はなぜデビューされていらっしゃらないのか。お見受けしたところ、とうに十二は越えていらっしゃるようなのに、ご令嬢がデビューした記録がない」
記録を見なくても黒髪黒目とくれば必ず印象に残る筈が、まったくそれがないことに騎士は疑問を投げ掛ける。
「それは…娘は少々体が弱くて、デビューの時も熱を出しておりました。とても人混みは耐えられずいつも昼まで起き上がれなくて、今日遅くなったのもそういう理由からです」
すらすらと言い訳が父の口から吐き出され、アディーナは俯いたまま呆れた。
相手は第一王子付きの騎士で、嘘だとばれたらどうするのだろう。
「病弱……」
納得したのかしていないのか、コージスが呟く。
寝不足なのか目の下に隈が出来ているが、農作業で少し日に焼けている肌色は病弱とは程遠い。
「実は、ゆうべちょっとした事件がありまして、賊がこの辺りに潜伏しているようなのです」
「なんと!」
「まあ、怖いわ」
「それで、第一王子の命を受けてこの辺りに邸を構える方々を訪問して、何か変わったことがないか訊ねてまわっているのです」
どうしてわかったのだろう。それともまだ確定でなく、彼の言うとおり可能性としてやって来たのだろうか。
「どうしてこの辺りにその賊がいると思われたのですか?」
「賊と対峙した殿下が魔法を撃ち込み、その魔力の流れを追って来たのですが、それがこの辺りでかき消えたのです」
魔力の流れ?
魔力がなくて魔法とは縁のないアディーナには初めて聞く話だった。
魔力の波動が指紋と同じように一人一人違うのは知っていたが、それを感じることのできないアディーナにはわからない内容だった。
母も祖父もアディーナの前では気を遣って魔法のことはあまり話さない。
「我が家にはとんと、心当たりがありません。残念ですが、お役に立てることはないようです」
「そうですか……それならば致し方ありません」
「ねえねえ、コージス卿、第一王子のアシェル様は噂通り凄い魔力をお持ちなの?」
シャンティエが好奇心いっぱいに訊ねる。
「これ、シャンティエはしたない。すいません、何でも知りたがって」
嗜める継母だが、真剣に怒っていないのは口調でわかる。
そうやって何でも許されてきたのだろう。
「構いませんよ。そうですね。複数の魔道具がなければ溢れて周りが魔力酔いになってしまいます」
ちらりと彼がこちらを見た気がしたが、気のせいだろうか。
「来月この子はデビューですの。親が言うのもなんですが、この子ならデビューしてすぐにお相手が見つかると思いませんか?」
娘自慢にもほどがある。聞いていてこちらが恥ずかしくなるとアディーナは思ったが、そう思ったのは彼女だけのようだ。
「おっしゃるとおり、とてもお可愛らしいですね。何人かのご令息が夢中になるでしょう」
如才のない受け答えだった。その何人かのご令息に彼が入っていないことはわかった。
霊力はどちらかと言えばアディーナには冷たく感じられていたが、あの魔力は体がほっこりとして温かくなった。
「お嬢様、お嬢様、起きてください、アディーナ様」
二日連続叩き起こされ、慌てて起き上がった。
「ヘレナ……あれ?もうそんな時間」
ベッドの側に立つ通いの掃除婦のヘレナを見て目をぱちくりさせる。
「旦那様がお呼びです。お客様だそうで、呼んで来るように命令されたんです。さあ、お仕度を手伝いますから、起きてください」
「お客様?」
「よくわかりませんが、えらく立派な様子の騎士様でしたよ」
「え?」
がばりと起き上がり、ぽかんと口を開けてヘレナを見上げる。
「な、なななな……何で?」
「知りませんよ、さあ、遅くなると旦那さんの雷が落ちますよ。それでなくてもピリピリしてるのに」
ヘレナは男兄弟に囲まれて育ったのかとても男らしくさばさばしていて、色々と不気味な噂が絶えないアディーナの所にもかれこれ五年通ってくれている。
「騎士……」
いきなり訪ねてきた騎士。
ばれていないと思ったが、夕べのことが脳裏に浮かび嫌な予感しかしない。
「取りあえず……しらをきりとおそう」
何の証拠もない……はず。
持っている中で一番上等なシャンティエのお古を着てヘレナに教えられた客間に向かった。
「お父様……アディーナです」
「来たか……入りなさい」
「失礼いたします」
「遅かったな」
俯いて部屋に入ると、苛立った父の声が降ってきた。
「遅いですわよ」
継母とシャンティエも居てぎょっとした。
父には昨日一年ぶりに顔を合わせたが、継母とシャンティエはもっと長い間顔を合わせていない。
「こちらが、ご長女ですか?」
「アディーナ、御挨拶なさい。近衛騎士のコージス殿だ」
「初めまして、アディーナ・ヴォルカティーニです」
「初めまして、王宮で第一王子の護衛をしております、ディラン・コージスです。子爵位を頂いております」
王子……不吉なキーワードに背筋に冷や汗が流れる。
カーテシーするアディーナに対して、彼は立ち上がって胸に手を添えて腰を曲げて騎士の礼を取った。
「それで、殿下の近衛騎士殿が我が家に何のご用でしょうか」
父親の隣にアディーナが腰かけとすぐに父親が訊ねた。
どうやらアディーナが同席するまで訪問の理由が保留されていたようだ。父親が苛立つのもわかる。
「先にこちらの質問に答えて頂きたい。ご令嬢はなぜデビューされていらっしゃらないのか。お見受けしたところ、とうに十二は越えていらっしゃるようなのに、ご令嬢がデビューした記録がない」
記録を見なくても黒髪黒目とくれば必ず印象に残る筈が、まったくそれがないことに騎士は疑問を投げ掛ける。
「それは…娘は少々体が弱くて、デビューの時も熱を出しておりました。とても人混みは耐えられずいつも昼まで起き上がれなくて、今日遅くなったのもそういう理由からです」
すらすらと言い訳が父の口から吐き出され、アディーナは俯いたまま呆れた。
相手は第一王子付きの騎士で、嘘だとばれたらどうするのだろう。
「病弱……」
納得したのかしていないのか、コージスが呟く。
寝不足なのか目の下に隈が出来ているが、農作業で少し日に焼けている肌色は病弱とは程遠い。
「実は、ゆうべちょっとした事件がありまして、賊がこの辺りに潜伏しているようなのです」
「なんと!」
「まあ、怖いわ」
「それで、第一王子の命を受けてこの辺りに邸を構える方々を訪問して、何か変わったことがないか訊ねてまわっているのです」
どうしてわかったのだろう。それともまだ確定でなく、彼の言うとおり可能性としてやって来たのだろうか。
「どうしてこの辺りにその賊がいると思われたのですか?」
「賊と対峙した殿下が魔法を撃ち込み、その魔力の流れを追って来たのですが、それがこの辺りでかき消えたのです」
魔力の流れ?
魔力がなくて魔法とは縁のないアディーナには初めて聞く話だった。
魔力の波動が指紋と同じように一人一人違うのは知っていたが、それを感じることのできないアディーナにはわからない内容だった。
母も祖父もアディーナの前では気を遣って魔法のことはあまり話さない。
「我が家にはとんと、心当たりがありません。残念ですが、お役に立てることはないようです」
「そうですか……それならば致し方ありません」
「ねえねえ、コージス卿、第一王子のアシェル様は噂通り凄い魔力をお持ちなの?」
シャンティエが好奇心いっぱいに訊ねる。
「これ、シャンティエはしたない。すいません、何でも知りたがって」
嗜める継母だが、真剣に怒っていないのは口調でわかる。
そうやって何でも許されてきたのだろう。
「構いませんよ。そうですね。複数の魔道具がなければ溢れて周りが魔力酔いになってしまいます」
ちらりと彼がこちらを見た気がしたが、気のせいだろうか。
「来月この子はデビューですの。親が言うのもなんですが、この子ならデビューしてすぐにお相手が見つかると思いませんか?」
娘自慢にもほどがある。聞いていてこちらが恥ずかしくなるとアディーナは思ったが、そう思ったのは彼女だけのようだ。
「おっしゃるとおり、とてもお可愛らしいですね。何人かのご令息が夢中になるでしょう」
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