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37 すっぴんと天然のタラシ
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直視するのが耐えられず、かと言って変に顔を背ければ彼のことを傷つけてしまう。ここは外に目を向けるべきだと、美しい夜景を目に焼き付ける。
「王宮の中心部が一番古くて、その後数百年かけて建て増しをして今の大きさになったんです。壁に使われている大理石はラグランジュの北にある鉱山から切り出されたものです」
アドルファスさんが王宮の建物について、ガイドのように説明してくれる。彼の声は低音で、耳に心地よいまさしくイケボ。
「あの光っている水面はスティラ湖という湖で、冬でも凍ることはありません」
もともと私よりずっと大きいから、肩幅も広く腕も長い。その上、体も鍛えているのがわかる。彼が息をしたり話す度に胸が上下する。
「怖いですか? 少し高く昇り過ぎましたか」
「い…いえ…これくらいは…だ、だいじょ…」
私が体を緊張させているので、怖がっていると思ったのだろう。一旦下りかけたが私が大丈夫だと言ったら、下りるのは止まった。代わりに顔を良く見ようと顔を更に近づけてきた。
「み、見ないで…すっぴんは…」
「すっぴん?」
耐えきれず顔を手で覆い隠した。きめ細かさで言えばアドルファスさんの方が勝っている。髪の毛も魔力がある限り禿げないと言っていたけど、肌の細胞も魔力があると抗酸化作用でもあるのだろうか。
「すっぴんとは?」
そんな言葉がこの世界にはないのか、真顔で訊いてくる。
顔を覆っていた手の指の間隔を少し広げて、隙間からちらりとアドルファスさんの顔を見る。
「こっちではお化粧…しないんですか?」
「けしょー…ですか?」
それも初めて聞く言葉らしい。そこから説明しないといけないのか。
「顔に塗って肌のシミや皺を隠したり、目を大きく見せたり色艶が良くなるように見せたり、とにかく外面を良く見せるために作られたものを使って綺麗に見せるんです。絵の具、みたいなものかな。すっぴんは、それらを何もしていない状態を言います」
「つまりはありのまま、ということですか」
「そうです。でもずっと塗ったままだと肌に悪いので、寝るときは落とします」
「肌に悪いのに、塗るんですか?」
「ま、まあ…そうです」
なかなか真理を突いて来る。いくら敏感肌用とか天然成分配合と言っても、落としてケアしなければいけないものを塗っているのは事実だ。
「化粧はある意味鎧です。自分の欠点を隠して、人が好ましいと思う形に整えて…まるで別人みたいになるんです」
「それで今はその化粧をしていない状態だから、武装解除ということですか?」
「まあ…そんなところです。ご理解が早いですね」
開いた指の間からアドルファスさんがこっちをじっと見ている。
「でも昨日と今日、おっしゃるような劇的な変化はありません。特に違いはないと思いますが」
「それは…そこまで作り込んでいたわけでもありませんし…」
もしくは化粧をしてもしなくても大差がないということか。
「その手をどけて、良く見せて下さい」
「でも…」
「手をどけてくれないなら、私も仮面を外します」
「え!」
その発言に驚いて浮かせた手を素早く掴まれた。
「引っかかった」
「ちょっ…アドルファスさん」
騙されたと思ったが、不思議と腹は立たなかった。
それでも一応は怒っておくべきだろう。
「どこを気にしているんですか? 何も変な所はないのに」
アイスブルーの目がじっと見つめてくる。
ソルの青白い光が降り注ぎ、アドルファスさんの白銀の髪が光り輝いて、まるで神の使徒のようだ。
その人に至近距離で顔を覗き込まれ、逃げ出したいけどここは空中で、しかも腰をがっちりホールドされている。
「こっちの世界の人に比べたら、平らだし…」
「愛らしい顔だと思いますよ」
「肌だって……」
「象牙のようで綺麗ですよ」
「目も…」
「美しい黒曜石のようです」
「もう、なんでそんなにポンポン言葉が出てくるんですか、天然のタラシですか」
容姿を褒められ慣れていないので恥ずかしさは半端ない。
きっと今の私は夕食に食べたトマトのように真っ赤になっているはずだ。
「『てんねんのタラシ』の意味はわかりませんが、今言ったことは本心ですよ」
「!!!」
何の悪びれも無くしれっと彼は言った。容姿を褒められることに慣れていない日本人の悲しい習性。
これはもう文化の違いとしか言いようがない。
このままでは、私が先に悶え死ぬ。
「はっきりしたいことがあります」
これはもう釘を差して置かないといけない。
「はい、何でしょう」
「そう言うことを気軽に言われるのは慣れていないので、止めてもらえますか」
「『そう言うこと』とは?」
「その…黒曜石とか愛らしいとか…それが本心とか…気安くそう言うのが『天然のタラシ』って言うんです」
「あなたの言い方だと『てんねんのタラシ』は悪い意味に聞こえますが、褒めることが悪いことなのですか」
意味合いは通じているみたいだけど、私の言いたいことはなかなか通じない。
どう言えばわかってもらえるんだろう。
「王宮の中心部が一番古くて、その後数百年かけて建て増しをして今の大きさになったんです。壁に使われている大理石はラグランジュの北にある鉱山から切り出されたものです」
アドルファスさんが王宮の建物について、ガイドのように説明してくれる。彼の声は低音で、耳に心地よいまさしくイケボ。
「あの光っている水面はスティラ湖という湖で、冬でも凍ることはありません」
もともと私よりずっと大きいから、肩幅も広く腕も長い。その上、体も鍛えているのがわかる。彼が息をしたり話す度に胸が上下する。
「怖いですか? 少し高く昇り過ぎましたか」
「い…いえ…これくらいは…だ、だいじょ…」
私が体を緊張させているので、怖がっていると思ったのだろう。一旦下りかけたが私が大丈夫だと言ったら、下りるのは止まった。代わりに顔を良く見ようと顔を更に近づけてきた。
「み、見ないで…すっぴんは…」
「すっぴん?」
耐えきれず顔を手で覆い隠した。きめ細かさで言えばアドルファスさんの方が勝っている。髪の毛も魔力がある限り禿げないと言っていたけど、肌の細胞も魔力があると抗酸化作用でもあるのだろうか。
「すっぴんとは?」
そんな言葉がこの世界にはないのか、真顔で訊いてくる。
顔を覆っていた手の指の間隔を少し広げて、隙間からちらりとアドルファスさんの顔を見る。
「こっちではお化粧…しないんですか?」
「けしょー…ですか?」
それも初めて聞く言葉らしい。そこから説明しないといけないのか。
「顔に塗って肌のシミや皺を隠したり、目を大きく見せたり色艶が良くなるように見せたり、とにかく外面を良く見せるために作られたものを使って綺麗に見せるんです。絵の具、みたいなものかな。すっぴんは、それらを何もしていない状態を言います」
「つまりはありのまま、ということですか」
「そうです。でもずっと塗ったままだと肌に悪いので、寝るときは落とします」
「肌に悪いのに、塗るんですか?」
「ま、まあ…そうです」
なかなか真理を突いて来る。いくら敏感肌用とか天然成分配合と言っても、落としてケアしなければいけないものを塗っているのは事実だ。
「化粧はある意味鎧です。自分の欠点を隠して、人が好ましいと思う形に整えて…まるで別人みたいになるんです」
「それで今はその化粧をしていない状態だから、武装解除ということですか?」
「まあ…そんなところです。ご理解が早いですね」
開いた指の間からアドルファスさんがこっちをじっと見ている。
「でも昨日と今日、おっしゃるような劇的な変化はありません。特に違いはないと思いますが」
「それは…そこまで作り込んでいたわけでもありませんし…」
もしくは化粧をしてもしなくても大差がないということか。
「その手をどけて、良く見せて下さい」
「でも…」
「手をどけてくれないなら、私も仮面を外します」
「え!」
その発言に驚いて浮かせた手を素早く掴まれた。
「引っかかった」
「ちょっ…アドルファスさん」
騙されたと思ったが、不思議と腹は立たなかった。
それでも一応は怒っておくべきだろう。
「どこを気にしているんですか? 何も変な所はないのに」
アイスブルーの目がじっと見つめてくる。
ソルの青白い光が降り注ぎ、アドルファスさんの白銀の髪が光り輝いて、まるで神の使徒のようだ。
その人に至近距離で顔を覗き込まれ、逃げ出したいけどここは空中で、しかも腰をがっちりホールドされている。
「こっちの世界の人に比べたら、平らだし…」
「愛らしい顔だと思いますよ」
「肌だって……」
「象牙のようで綺麗ですよ」
「目も…」
「美しい黒曜石のようです」
「もう、なんでそんなにポンポン言葉が出てくるんですか、天然のタラシですか」
容姿を褒められ慣れていないので恥ずかしさは半端ない。
きっと今の私は夕食に食べたトマトのように真っ赤になっているはずだ。
「『てんねんのタラシ』の意味はわかりませんが、今言ったことは本心ですよ」
「!!!」
何の悪びれも無くしれっと彼は言った。容姿を褒められることに慣れていない日本人の悲しい習性。
これはもう文化の違いとしか言いようがない。
このままでは、私が先に悶え死ぬ。
「はっきりしたいことがあります」
これはもう釘を差して置かないといけない。
「はい、何でしょう」
「そう言うことを気軽に言われるのは慣れていないので、止めてもらえますか」
「『そう言うこと』とは?」
「その…黒曜石とか愛らしいとか…それが本心とか…気安くそう言うのが『天然のタラシ』って言うんです」
「あなたの言い方だと『てんねんのタラシ』は悪い意味に聞こえますが、褒めることが悪いことなのですか」
意味合いは通じているみたいだけど、私の言いたいことはなかなか通じない。
どう言えばわかってもらえるんだろう。
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