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70 再び街へ
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太陽ーここではホルンーが昇りきる前には部屋へ戻った。
魔法で体は綺麗してもらったおかげでシャワーを浴びる必要はなかったので、メイドが呼びに来るまでうっかりウトウトしてしまい、朝食の席に少し遅れてしまった。アラサーに徹夜は無理な話でした。
「申し訳ございません」
アドルファスさんとレディ・シンクレアの二人に頭を下げ謝った。
「大丈夫です。朝食の席は特に時間は決まっていませんから」
すごすごと案内された席に座る私に、アドルファスさんは優しく言ってくれたが、この人は私には随分甘いことはもうわかっている。私に怒ることがあるのかというくらい、甘い。僅か数日で彼が私に対して孫を見る祖父母くらい甘いことがわかっている。
だから本当にだめなことは駄目と言ってもらわないと、この人のいいよいいよに甘えていては、私が自堕落な人間だと思われる。
それは隣のレディ・シンクレアの片方の眉が上がったのでわかる。
「いえ、駄目なときはきちんと諌めてください。ちゃんと食事を用意して頂いている方に失礼です。怒鳴られるのは怖いですが、諭していただけるとうれしいです。私の国に親しき仲にも礼儀ありという言葉があります。知っている方でも礼儀は大事にしなければ」
「そうですね。ユイナさんの言うとおりです。いい言葉ですね」
レディ・シンクレアがにこりと笑った。笑うとやはり彼女とアドルファスさんはよく似ている。けれどアドルファスさんのアイスブルーの瞳に比べ、彼女のそれは私を見定めるような鋭い光を宿している。
「どうやらユイナさんはきちんと教養を身に着けていらっしゃるようですね。結構」
私の対応が気に入ったらしい。理事長の人事査定を受けているような気になる。毎年秋になるとその年の冬のボーナスと翌年の給料の査定のために、人事評価が行われる。自分の評価をまずは副学園長が、そして学園長が書類査定し、最後にその評価を元に理事長が一人ひとり面接を行う。
現理事長は皇学園創設者の子孫で、自身も教壇に立ち、現在は学園の母体である皇グループの役員もしている女傑だ。
一見マザー・テレサのように慈愛に満ちた風貌だが、人を見定める能力がある。
私が家族に対して持っているトラウマについても、彼女は見抜いた。そのうえで私の仕事に対する意気込みや責任感、生徒への気持ちを理解してくれた。
レディ・シンクレアと彼女の容姿は全く似ていないが、纏う空気はよく似ている。彼女に会ったのは春の入学式が最後。懐かしい気持ちになる。彼女にもう一度会えるだろうか。
「甘い顔をするのがいいとは限りません。ユイナさんは元の世界でもしっかり自立した大人だと言うことです。そこを尊重してあげなければ」
理事長のことを思い出していると、レディ・シンクレアが言った。その言葉はまさに私が求めていたものだった。
「失礼しました。そうですね。これが生徒や部下なら礼儀を忘れるなと注意するところです。私が軽率でした」
「アドルファスさんは悪くありません。私に気を遣ってくれただけですよね」
彼一人が悪いみたいになって気が引けた。良かれと言ってくれた気持ちは嬉しい。
「まあ、男としては『恋人』を甘やかしたいところでしょう。アドルファスの生活にここまで踏み込んだ女性はいませんから、そのあたりのさじ加減はこれから調整していく必要がありますね」
「!!!レ…レディ…」
昨夜レディ・シンクレアに話はしたものの、昨日の今日で彼女から孫息子の『恋人』認定の言葉を聞くと恥ずかしさが先に立つ。
二人でお付き合いを始めて日々を重ねてから身内に紹介するのが一般的だったから、先に相手の身内に言われるとどうも調子が狂う。
「その件については、仰る通りです。彼女のことになると、何でも採点が緩くなってしまうみたいで…『恋人』には甘い顔をしたくなります」
「アドルファスさんまで…やめてください」
至極真面目な顔で真剣に悩まれる。彼の言動の端々から、濃密な時間を過ごした間柄だと思わせる空気が滲み出て、私だけが動揺しているのも何だか悔しい。それにこの部屋にはレディ・シンクレアだけでなく、使用人の人たちもいる。彼らに「この二人やったんだ」と言う目で見られるのだと思うと、顔を上げて歩けない。
使用人は彼らにとっては空気かもしくは、そこにいて当たり前の存在で、主がどんな行動をしても常に冷静に受け止めるよう教育されているのだろう。これもここにいるなら慣れないといけないことのようだ。慣れるかどうかは自信がないけど。
「ところで、厨房のルディクが今日街へ買い出しに行くので、ユイナさんを誘っても構わないかと聞いてきましたが、いかが?」
不意にレディ・シンクレアが話題を変えた。
私の様子を見て、ここまでだと思ってくれたようだ。
「一昨日のこともあります。ルディクだけでなく、今度はきちんと人を付けますけどね」
それはアドルファスさんに向けて言った。
「買い出し、連れて行ってもらえるのなら、ぜひ行きたいです」
前のめりになって頷く。そしてアドルファスさんの方に目で訴えた。
この場合、行くなと言うのが過保護なのか、私が行きたいと言う気持ちを尊重してくれる方が甘いのかどっちかわからない。
「市場へ行けばまた新しい料理が作れるかも…」
「ユイナの…料理」
今朝食を食べているのに、アドルファスさんは飢えた人のようにごくりと唾を飲み込む。
私が試作品を作ってからルディクさんの料理が変わった。
そのことは彼も否定できない。
「本当は私も付いて行きたいところですが…ルディクと護衛の傍を決して離れないと約束していただけるなら…」
「はい、約束します!」
こうして私は二度目のお出かけをすることになった。
魔法で体は綺麗してもらったおかげでシャワーを浴びる必要はなかったので、メイドが呼びに来るまでうっかりウトウトしてしまい、朝食の席に少し遅れてしまった。アラサーに徹夜は無理な話でした。
「申し訳ございません」
アドルファスさんとレディ・シンクレアの二人に頭を下げ謝った。
「大丈夫です。朝食の席は特に時間は決まっていませんから」
すごすごと案内された席に座る私に、アドルファスさんは優しく言ってくれたが、この人は私には随分甘いことはもうわかっている。私に怒ることがあるのかというくらい、甘い。僅か数日で彼が私に対して孫を見る祖父母くらい甘いことがわかっている。
だから本当にだめなことは駄目と言ってもらわないと、この人のいいよいいよに甘えていては、私が自堕落な人間だと思われる。
それは隣のレディ・シンクレアの片方の眉が上がったのでわかる。
「いえ、駄目なときはきちんと諌めてください。ちゃんと食事を用意して頂いている方に失礼です。怒鳴られるのは怖いですが、諭していただけるとうれしいです。私の国に親しき仲にも礼儀ありという言葉があります。知っている方でも礼儀は大事にしなければ」
「そうですね。ユイナさんの言うとおりです。いい言葉ですね」
レディ・シンクレアがにこりと笑った。笑うとやはり彼女とアドルファスさんはよく似ている。けれどアドルファスさんのアイスブルーの瞳に比べ、彼女のそれは私を見定めるような鋭い光を宿している。
「どうやらユイナさんはきちんと教養を身に着けていらっしゃるようですね。結構」
私の対応が気に入ったらしい。理事長の人事査定を受けているような気になる。毎年秋になるとその年の冬のボーナスと翌年の給料の査定のために、人事評価が行われる。自分の評価をまずは副学園長が、そして学園長が書類査定し、最後にその評価を元に理事長が一人ひとり面接を行う。
現理事長は皇学園創設者の子孫で、自身も教壇に立ち、現在は学園の母体である皇グループの役員もしている女傑だ。
一見マザー・テレサのように慈愛に満ちた風貌だが、人を見定める能力がある。
私が家族に対して持っているトラウマについても、彼女は見抜いた。そのうえで私の仕事に対する意気込みや責任感、生徒への気持ちを理解してくれた。
レディ・シンクレアと彼女の容姿は全く似ていないが、纏う空気はよく似ている。彼女に会ったのは春の入学式が最後。懐かしい気持ちになる。彼女にもう一度会えるだろうか。
「甘い顔をするのがいいとは限りません。ユイナさんは元の世界でもしっかり自立した大人だと言うことです。そこを尊重してあげなければ」
理事長のことを思い出していると、レディ・シンクレアが言った。その言葉はまさに私が求めていたものだった。
「失礼しました。そうですね。これが生徒や部下なら礼儀を忘れるなと注意するところです。私が軽率でした」
「アドルファスさんは悪くありません。私に気を遣ってくれただけですよね」
彼一人が悪いみたいになって気が引けた。良かれと言ってくれた気持ちは嬉しい。
「まあ、男としては『恋人』を甘やかしたいところでしょう。アドルファスの生活にここまで踏み込んだ女性はいませんから、そのあたりのさじ加減はこれから調整していく必要がありますね」
「!!!レ…レディ…」
昨夜レディ・シンクレアに話はしたものの、昨日の今日で彼女から孫息子の『恋人』認定の言葉を聞くと恥ずかしさが先に立つ。
二人でお付き合いを始めて日々を重ねてから身内に紹介するのが一般的だったから、先に相手の身内に言われるとどうも調子が狂う。
「その件については、仰る通りです。彼女のことになると、何でも採点が緩くなってしまうみたいで…『恋人』には甘い顔をしたくなります」
「アドルファスさんまで…やめてください」
至極真面目な顔で真剣に悩まれる。彼の言動の端々から、濃密な時間を過ごした間柄だと思わせる空気が滲み出て、私だけが動揺しているのも何だか悔しい。それにこの部屋にはレディ・シンクレアだけでなく、使用人の人たちもいる。彼らに「この二人やったんだ」と言う目で見られるのだと思うと、顔を上げて歩けない。
使用人は彼らにとっては空気かもしくは、そこにいて当たり前の存在で、主がどんな行動をしても常に冷静に受け止めるよう教育されているのだろう。これもここにいるなら慣れないといけないことのようだ。慣れるかどうかは自信がないけど。
「ところで、厨房のルディクが今日街へ買い出しに行くので、ユイナさんを誘っても構わないかと聞いてきましたが、いかが?」
不意にレディ・シンクレアが話題を変えた。
私の様子を見て、ここまでだと思ってくれたようだ。
「一昨日のこともあります。ルディクだけでなく、今度はきちんと人を付けますけどね」
それはアドルファスさんに向けて言った。
「買い出し、連れて行ってもらえるのなら、ぜひ行きたいです」
前のめりになって頷く。そしてアドルファスさんの方に目で訴えた。
この場合、行くなと言うのが過保護なのか、私が行きたいと言う気持ちを尊重してくれる方が甘いのかどっちかわからない。
「市場へ行けばまた新しい料理が作れるかも…」
「ユイナの…料理」
今朝食を食べているのに、アドルファスさんは飢えた人のようにごくりと唾を飲み込む。
私が試作品を作ってからルディクさんの料理が変わった。
そのことは彼も否定できない。
「本当は私も付いて行きたいところですが…ルディクと護衛の傍を決して離れないと約束していただけるなら…」
「はい、約束します!」
こうして私は二度目のお出かけをすることになった。
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