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72 四面楚歌の王子

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潔斎の儀が終わった翌日に、私は神殿に財前さんとの面会を希望していた。
神殿から午後に来るよう連絡が来て、朝から財前さんのために差し入れを用意して向かった。
神殿の入口で、先日の門番たちを見かけた。
彼らは私が来ると、深々と頭を下げた。

「先日は大変失礼いたしました。それにも関わりませず、我々の処分についてご配慮いただき、ありがとうございました」
「いえ、私は何も…」
「減給や謹慎にはなりましたが、お陰で皆、職を失わずに済みました」
「それは良かったです」

アドルファスさんやクムヒム神官が働きかけてくれたんだとホッとする。自分勝手な行動が招いたことだったので、罪悪感を感じていた。それもまた勝手な言い分だったが、ここでの自分の行動が人々にもたらす影響について、もっと考える必要があった。

「先生!」
「財前さん、こんにちは」

この前と同じ部屋に通されると、彼女が駆け寄ってきた。少し顔が細くなった気がするが、明るい表情を見せ、元気そうで安心した。

「元気そうね」

部屋に入ってすぐ彼女が駆け寄ってきたので、気づかなかったが財前さん以外にも人がいた。

エルウィン王子はもう財前さんとセットのような感じだが、後二人は副神官長と魔塔主補佐だった。

「レイがどうしてもと言うから、会わせてやっているんだ」
「お久しぶりです。改めてリヴィウス・カザールと申します。先日は申し訳ございませんでした」
「ロイン・アドキンスです。ずっとお会いしたいと思っておりました」

相変わらず私には塩対応どころか敵意丸出しの王子に対して、他の二人は私にとても丁寧に挨拶をしてくれた。

「私は…」
「大丈夫、あなたのお名前は覚えています。ユイナさん。家名の方では呼びにくかったのでお名前で失礼します」
「それは構いません」

五人で取り敢えずソファに座る。ソファの片側に財前さんと私。カザール氏とアドキンス氏が向かいに座り、エルウィン王子が一人がけに座った。

「魔塔主補佐様には素敵な花をいただきまして、ありがとうございました」

花のお礼を言うと、カザール氏がおやっと言う顔をして魔塔主補佐に顔を向けた。

「大したものではありません。シンクレア・レインズフォード様からご丁寧な礼状と瓶詰めをいただきましたが、私はあなた様から貰えるものと思っておりました」
「本来ならそうなのでしょう。失礼いたしました。私はがここでの作法に不勉強なため、すべて彼女にお任せしたのです」
「恨み言のように聞こえたなら申し訳ございませんでした。あの瓶の中身はあの薔薇で作ったのですか?」
「あの薔薇ジャムとかって魔塔からもらったの?」
「聖女様もお召し上がりに?」
「ええ、砂糖漬けは紅茶に浮かべて。美味しかったわ」
「あれがそうだったんですか。聖女殿が私にもお裾分けしてくれました」
「お前たち、何の話をしているんだ」

四人で薔薇ジャムや砂糖漬けの話で盛り上がっていると、エルウィン王子が口を挟んできた。

「薔薇がどうした? 私は知らないぞ」

四人で王子の方を向くと、一人話題に乗れなかった王子が口元を尖らせている。

「女、お前がレイに何かいかがわしいものを食べさせたのか」
「いかがわしいもの…」

言うに事欠いて失礼だと思った。

「エルウィン、先生にそんな言い方しないで、あなたがそんなだから、他の人も先生を馬鹿にするんだからね。いい加減大人になってよ」

そんなエルウィン王子の態度を財前さんが諌めた。あとの二人も苦笑してそれを止めない。この中で王子にこんな物言いができるのは財前さんだけのようだ。

「レイ…私は…お前には大事な任務があるのに、なぜそんな女に気を使うのかわからない。ただ同じ世界から来ただけのおまけのくせに、なぜ」
「おまけとか、取るに足らないとか失礼だわ。私は先生を尊敬しているの」

財前さんは私の腕を取り、甘えるように身を寄せてくる。

「先生のことをこれ以上色々言うなら、エルウィンはここから出ていって」
「レイ、そんな…」

出ていけと言われて、王子は明らかに動揺し、アドキンスさんたちを見る。

「殿下、僭越ながら、それ以上ユイナ様のことを悪し様に仰られますと、本当に聖女殿のご不興を買うことになるかと…」
「アドキンス、お前…」
「私もそう思います。それにレイ殿は潔斎の儀を終えた後にユイナ様と彼女の作る食事をとても楽しみにして挑まれました。聖女殿があれほど頑張られたのも、心の支えがあったからです。私としては聖女殿の心が少しでも安定し、浄化に挑んでいただけることが一番です」
「カザール…お前まで」

味方だと思っていた二人にも異議を唱えられ、王子はショックを隠せない様子だ。四面楚歌のようや彼が気の毒に思える。

「私が何の力もないのは本当だし、それに私のことを好意的に受け入れてくれる人もいるから、大丈夫よ」

頭の中ではアドルファスさんのことを思い浮かべる。夕べも髪の毛を乾かしてくれ、そしてまた彼に抱かれた。
彼が私に触れる手は優しく、そして突き立てる楔はどこまでも雄々しく、自分が彼に取って大切な存在であると同時に、彼の雄の部分を刺激するのも自分なのだと思うと、女であることに幸せを感じる。

「先生やさし~、やっぱり大人だね。エルウィン、先生が優しいことを感謝してね」

更に財前さんが言うと、口には出さかなかったが、私を認めるつもりはないらしく、きつく睨まれた。

「それより先生、何を持ってきてくれたの?」

財前さんが私の持ってきた籠の中身について尋ねた。
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