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75 お出迎え
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「レイ、これでいいか?」
「先生は、どう? 今ので許してくれる? 私はいまいちだと思うけど」
王子が期待を込めて財前さんに尋ねる。褒めて褒めてと飼い主の望まない貢ぎ物…たとえば虫の死骸などを咥えて持ってきた犬のように見える。
けれど財前さんは完璧ではないと思っている。そもそも王子に完璧な謝罪を求めること自体無理な話だ。
「ええ。充分です」
謝り方は問題ではない。要はそこに気持ちが籠められているかだ。
財前さんに嫌われたくないから渋々謝るようではだめだ。でも今更謝り方をダメ出ししても、新人研修でもないのだから難しい話だ。
「じゃあ、許してあげる、ただし、先生の優しさに免じてよ」
「か、感謝する」
一応の及第点にその場は何とか収まった。
「じゃあ、私はそろそろ帰ります。また来るわね」
迎えが来る頃になり、私は財前さんに暇を告げた。
「ありがとう、先生。また美味しいもの持ってきてね。先生がこんなに料理が上手いなんて知らなかった。私もやっておけば良かった」
「ずっと一人暮らしだから、必要に迫られて覚えただけよ。何かリクエストがある?財前さんが食べていたものよりずっと庶民的だけど。実はこの前、パルミジャーノレッジャーノみたいなチーズを見つけて、リゾットを作ってみたの。ここに持ってくるのは無理だったけど」
「ええ、リゾット…パルミジャーノって…あの…食べたい」
「財前さんが知っている味になったかどうかわからないけど、レインズフォード家の方には好評だったわ」
「う、うらやましい…でも、あの仮面の人の所で、先生が楽しんでるみたいで良かった」
「心配してくれてありがとう。案外自由にさせてもらえているわ」
私が立ち上がると、アドキンスさんたちも一緒に立ち上がった。
「では、我々もそろそろ引き上げます」
「私も執務に戻ります」
「私はもう少しここに残る」
王子だけが残ると宣言する。まだ財前さんと一緒にいたいんだろう。
「構わないけど、私は先生を送ってくるから。暫く一人でいてね」
「なら、私も行く」
「どうぞご勝手に」
王子も慌てて立ち上がって、結局五人で廊下に出た。
「どうぞ、ユイナ様」
アドキンスさんとカザールさんが同時に私の前に掌を差し出す。
なんで私なのか。横を見ると、エルウィン王子が財前さんに同じように手を伸ばしている。
なんだ、王子に気を遣ったのかと納得する。
「私に気遣いは不要です。手を引いて貰わなくても一人で歩けます」
「どうか私共にあなたをエスコートする栄誉をいただけませんか?」
「そうです。あなたをお世話する役割はレインズフォード卿に奪われましたが、我々もユイナ様のことを気にかけていることをわかってください」
「先生、モテモテ」
「財前さん、からかわないで。そんなんじゃないくて、本当にお気持ちだけで…」
「ユイナ」
二人に挟まれて困惑している私の耳に、アドルファスさんの声が聞こえた。
「あ、アドルファスさん」
一瞬耳を疑ったが、廊下の向こうから歩いて来るのは間違いなくアドルファスさんだった。
彼は杖を持ち、長い足であっという間に私達の側まで来た。
「レインズフォード卿、ここにはどのようなことで?」
カザールさんが私の前に立つ。
「この前のようなことがあっては困るから、ユイナを迎えに来たのだ」
「わざわざあなたが? 学園の方はよろしいのですか?」
「途中で抜けさせていただいた。学園長の許可はもらってある。彼女を送り届けてから戻る」
アドキンスさんも何故か私をアドルファスさんから隠すように前に出る。
背の高い人たちが立つと、私にはもう壁にしか見えない。
「そのことは、二度とあのようなことがないように、こうして私が責任をもって彼女をお見送りさせていただくつもりでした」
「副神官長自ら? それはまた仰々しいことですね
「それなら私がきちんとお見送りします。カザール殿はお仕事に戻ってください」
「魔塔と我が家では方向が逆ですから、お気遣い無用です」
何やら三人で誰が私を送るかで言い合いが始まった。レジで誰が払うか揉めている主婦のようだ。
「何だか大変ですね」
財前さんが私にそっと耳打ちする。
「なぜ彼らはそんなことで言い合うのだ?そこまで気を遣うこともなかろう。それとも、そこまでしないといけないものなのか?」
エルウィン王子も、三人がなぜ言い合いをしているのかわからない様子だった。
「どうやら私はここでは幼く見えるようなので、財前さんより十歳は上なのに、身長とかのせいで頼りなく見える思われているのかも」
「それ、本気で言ってる?」「え、そんなに年上なのか?」
二人同時にツッコまれる。王子は私の年齢に驚いたのはわかる。でも財前さんの驚きは別のところにあるようだ。
「どういう意味だ?」
王子も財前さんの言葉が引っかかり、尋ねた。
「三人共、先生に好意を持っているからお互いに誰が先生のことを送るかもめているんでしょ?」
「え?」
まさか…と思いながら三人を見る。アドルファスさんについては、財前さんの言葉に間違いないとは思う。何しろ私達は「恋人」だから。
でも魔塔主補佐のアドキンスさんと神官長補佐のカザールさんはそうとは言い切れないのでは?
でもアドルファスさんにも同じようなことを言われたことを思い出す。
「先生可愛いもの」
「いえ、そんなことは…」
「私はレイの方が優れていると思うぞ」
「こういうのは好みの問題だから」
「ユイナ」「ユイナ様」「ユイナ様」
不意に三人は一斉にこちらを向いてわたしの名前を呼んだ。
「先生は、どう? 今ので許してくれる? 私はいまいちだと思うけど」
王子が期待を込めて財前さんに尋ねる。褒めて褒めてと飼い主の望まない貢ぎ物…たとえば虫の死骸などを咥えて持ってきた犬のように見える。
けれど財前さんは完璧ではないと思っている。そもそも王子に完璧な謝罪を求めること自体無理な話だ。
「ええ。充分です」
謝り方は問題ではない。要はそこに気持ちが籠められているかだ。
財前さんに嫌われたくないから渋々謝るようではだめだ。でも今更謝り方をダメ出ししても、新人研修でもないのだから難しい話だ。
「じゃあ、許してあげる、ただし、先生の優しさに免じてよ」
「か、感謝する」
一応の及第点にその場は何とか収まった。
「じゃあ、私はそろそろ帰ります。また来るわね」
迎えが来る頃になり、私は財前さんに暇を告げた。
「ありがとう、先生。また美味しいもの持ってきてね。先生がこんなに料理が上手いなんて知らなかった。私もやっておけば良かった」
「ずっと一人暮らしだから、必要に迫られて覚えただけよ。何かリクエストがある?財前さんが食べていたものよりずっと庶民的だけど。実はこの前、パルミジャーノレッジャーノみたいなチーズを見つけて、リゾットを作ってみたの。ここに持ってくるのは無理だったけど」
「ええ、リゾット…パルミジャーノって…あの…食べたい」
「財前さんが知っている味になったかどうかわからないけど、レインズフォード家の方には好評だったわ」
「う、うらやましい…でも、あの仮面の人の所で、先生が楽しんでるみたいで良かった」
「心配してくれてありがとう。案外自由にさせてもらえているわ」
私が立ち上がると、アドキンスさんたちも一緒に立ち上がった。
「では、我々もそろそろ引き上げます」
「私も執務に戻ります」
「私はもう少しここに残る」
王子だけが残ると宣言する。まだ財前さんと一緒にいたいんだろう。
「構わないけど、私は先生を送ってくるから。暫く一人でいてね」
「なら、私も行く」
「どうぞご勝手に」
王子も慌てて立ち上がって、結局五人で廊下に出た。
「どうぞ、ユイナ様」
アドキンスさんとカザールさんが同時に私の前に掌を差し出す。
なんで私なのか。横を見ると、エルウィン王子が財前さんに同じように手を伸ばしている。
なんだ、王子に気を遣ったのかと納得する。
「私に気遣いは不要です。手を引いて貰わなくても一人で歩けます」
「どうか私共にあなたをエスコートする栄誉をいただけませんか?」
「そうです。あなたをお世話する役割はレインズフォード卿に奪われましたが、我々もユイナ様のことを気にかけていることをわかってください」
「先生、モテモテ」
「財前さん、からかわないで。そんなんじゃないくて、本当にお気持ちだけで…」
「ユイナ」
二人に挟まれて困惑している私の耳に、アドルファスさんの声が聞こえた。
「あ、アドルファスさん」
一瞬耳を疑ったが、廊下の向こうから歩いて来るのは間違いなくアドルファスさんだった。
彼は杖を持ち、長い足であっという間に私達の側まで来た。
「レインズフォード卿、ここにはどのようなことで?」
カザールさんが私の前に立つ。
「この前のようなことがあっては困るから、ユイナを迎えに来たのだ」
「わざわざあなたが? 学園の方はよろしいのですか?」
「途中で抜けさせていただいた。学園長の許可はもらってある。彼女を送り届けてから戻る」
アドキンスさんも何故か私をアドルファスさんから隠すように前に出る。
背の高い人たちが立つと、私にはもう壁にしか見えない。
「そのことは、二度とあのようなことがないように、こうして私が責任をもって彼女をお見送りさせていただくつもりでした」
「副神官長自ら? それはまた仰々しいことですね
「それなら私がきちんとお見送りします。カザール殿はお仕事に戻ってください」
「魔塔と我が家では方向が逆ですから、お気遣い無用です」
何やら三人で誰が私を送るかで言い合いが始まった。レジで誰が払うか揉めている主婦のようだ。
「何だか大変ですね」
財前さんが私にそっと耳打ちする。
「なぜ彼らはそんなことで言い合うのだ?そこまで気を遣うこともなかろう。それとも、そこまでしないといけないものなのか?」
エルウィン王子も、三人がなぜ言い合いをしているのかわからない様子だった。
「どうやら私はここでは幼く見えるようなので、財前さんより十歳は上なのに、身長とかのせいで頼りなく見える思われているのかも」
「それ、本気で言ってる?」「え、そんなに年上なのか?」
二人同時にツッコまれる。王子は私の年齢に驚いたのはわかる。でも財前さんの驚きは別のところにあるようだ。
「どういう意味だ?」
王子も財前さんの言葉が引っかかり、尋ねた。
「三人共、先生に好意を持っているからお互いに誰が先生のことを送るかもめているんでしょ?」
「え?」
まさか…と思いながら三人を見る。アドルファスさんについては、財前さんの言葉に間違いないとは思う。何しろ私達は「恋人」だから。
でも魔塔主補佐のアドキンスさんと神官長補佐のカザールさんはそうとは言い切れないのでは?
でもアドルファスさんにも同じようなことを言われたことを思い出す。
「先生可愛いもの」
「いえ、そんなことは…」
「私はレイの方が優れていると思うぞ」
「こういうのは好みの問題だから」
「ユイナ」「ユイナ様」「ユイナ様」
不意に三人は一斉にこちらを向いてわたしの名前を呼んだ。
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