【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

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 馬車が到着する前に、すでに表にはたくさんの人々が立っていた。
 皆、軽く頭を下げて俯いて待っている。
 馬車が停まると、すかさず声がかかる。

「アドルファス様、トレヴァスでございます。よろしいでしょうか」

 アドルファスを抱き締めていた私は、ぱっと彼から離れた。

「構わない」

 アドルファスが返事をすると、ガチャリと外から大きく扉が開かれた。

 お仕着せの燕尾服を着た壮年の男性が胸に片手を当てて、丁寧にお辞儀する。

「お久しぶりで御座います。ご到着、一同心待ちにしておりました」
「ああ、本当に久し振りだな」

 さっと男性が体をずらすと、アドルファスが席から立って優雅な仕草で馬車から降りた。

「さあ、ユイナ」

 アドルファスが差し出してくれた手に支えられ、私も席から立ち上がった。

 馬車の入口から広いポーチにずらりと並ぶ人達の頭が見えた。
 一瞬躊躇する私の腰にアドルファスが手を添えて、ふわりと地面に降ろしてくれた。

「トレヴァス、ユイナだ」
「ユイナ様、領地の筆頭執事をしております、トレヴァスと申します」
「ユイナです。宜しくお願いします」

 彼と挨拶を交わすと、立ち並ぶ人々の中から、長いスカートに詰襟のブラウスを着た女性が前に進み出て来た。

「アドルファス様、ハンナマリナです。お久しぶりで御座います」
「ハンナマリナ、お前も変わらないな」
「ありがとうございます。若…旦那様もお変わりなく」

 降りる直前、アドルファスはまた仮面を付けていた。

「ハンナマリナ、ユイナだ」
「ユイナです」
「このお屋敷のメイド頭をしております、ハンナマリナです。お見知りおきを」

 長い髪を首の後ろで団子状に纏めたハンナマリナは、どこかレディ・シンクレアに雰囲気が似ている。

「さあ、お父上がお待ちです」

 お父上、とトレヴァスは言った。それがそこに母親がいないことを安易に伝えている。

「大丈夫、まだこれから。それに、今回はお父様に会えれば目的は達成、でしょ?」

 彼の手に触れきゅっと握る。

「そうだな」

 さらりと彼の銀髪が流れる。

 トレヴァスの後ろについて、アドルファスの父の待つ居間へと向かう。

「お館様、アドルファス様とユイナ様がお着きになりました」
「入れ」

 その声でトレヴァスが扉を開けて、私達を促す。

 アドルファスに付いて入ると、男性が部屋の中央に立ってこちらを見つめている。

 面差しはアドルファスに似ている。長い銀髪を後ろでひとつに纏め、きっちりとスーツを着ている。

「どこかへお出かけですか?」

 そうアドルファスが尋ねる。

「いや、息子の結婚相手に初めて会うのだから、きちんとしないとと思ってな」

 ちらりと私の方に視線を向ける。
 笑ってはいるが、緊張しているのがわかる。
 彼も私と同じように緊張してくれているのがわかり、いくらか気楽になった。

「アドルファスの父のカーライル・レインズスワンプです」

 互いに歩み寄り、対面する。好きな人のお父様、この人がいたから彼が生まれたのだと思うと、感謝の気持ちが溢れてくる。

「ユイナ…ムコサキです」

 この世界の人達には発音が難しい私の家名。でもきちんとフルネームで挨拶しないといけない。
 何事も始めが肝心だ。

「ムオ…? あ、失礼した。難しいお名前ですね」
「はい。ですから、気軽にユイナとお呼びください」
「では私のこともカーライルと、あ、それともお父様かな」
「まだ気が早いですよ父上」
「そ、そうか? しかし、娘が出来るとは嬉しいものだ」

 どうやら娘認定してもらえたようでホッとする。

「それで、手紙にもあったが、もう少し詳しく説明してくれ」

 三人で長椅子へと移動し、アドルファスのお父様の向かいに二人並んで座った。

「はい、聖女召喚の話は父上もご存知ですよね」
「無論だ。彼女がその時この世界に来たことも聞いている。しかし、リングの変化については、具体的にはどういうことなのだ?」
「あ、あの、私、お庭を見せて頂いてもよろしいでしょうか」
「ユイナ?」
「あの、アドルファス…後はお父様と二人でお話して、やっぱり恥ずかしいから」
「よろしいですか? 父上。これから先の話は、男同士で」

 私の戸惑いを察して、アドルファスが父親に尋ねる。

「ああ、そうか…庭か…今、庭には彼女が居るはずだ」

「彼女」とは一人しかいない。
 アドルファスの顔に緊張が走る。

「母上は…」
「最近は落ち着いている。ここの気候が性にあっているのだろう。記憶の方は相変わらずだがな」

 それは、アドルファスのことを憶えていないということだ。

「初対面のユイナさんなら、大丈夫ではないだろうか。女性や子どもには彼女から近づいて話しかけるのだ」
「えっと、アドルファス構わない?」

 息子の彼より先に私が会っていいものか気になった。

「大丈夫です。後で様子を聞かせてください」

 そう言ってくれたので、トレヴァスさんに案内してもらって、庭の方へと向かった。
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