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44 苦手なもの

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キルヒライルは逃げるように自分の部屋に駆け込み、閉めた扉に背中を預けた。

女性のことで兄たちにからかわれた後、ようやく本来の会議になってほっとしたのも束の間、騎士団の訓練場でのその日の鍛練を終えると、兄から夕食を共にと誘いを受けた。
晩餐の席に着いたら、今度は王妃である義姉上にも結婚や女性との付き合いについて話題を振られた。
十歳にも満たない甥の王太子やまだあどなさの残る王女の前だからと言うと、王太子には既に婚約者がおり、自分よりはるかに女性の扱いが洗練されていると言われ、年端もいかない王女ですら母である王妃そっくりの口調で叔父様って女心がわかってない、と冷めた目で見られた。

自分が国を離れている間に生まれた王女もそうだが、最後に会った時まだ三才だった王太子も、自分のことは覚えていなかったため、彼らとはほぼ初対面と言っていい。
だが、父の弟である自分のことは両親や周囲の者から話を聞いていたため、何となく昔から知っているような気になっていたようだったが、六年の間に自分の顔に刻まれた傷に、今は打ち解けているが、二人は当初怯えた。


一体何の拷問だと逃げるように帰宅してみれば、ヨガ用の薄着を纏ったメイドと出くわしてしまい、精神的に疲労困憊していたところにトドメを刺された。
薄着のため体の線がはっきりとわかる。
髪を後ろでひとつにまとめ、化粧っ毛がなくうっすらと上気した顔。
切れ長のアメジストの瞳を若干びっくりして見開き、慌ててお辞儀をした。
どこに視線を置いたらいいのかわからず、目が泳ぐ。
まったく彼女には恥じらいというものがないのか。
だが、あのような格好をしていても、女を全面に出して色気を振り撒いているようには見えない。
どちらかと言えば自然体。好きな格好をしている、それだけなのだろう。

この年になるまでまったく女性を抱いたことがないかと言えば、そこは王族の一員。そっちの方の教育も受けてはいた。それは、女の色香に騙されて間違いを犯さないようにという訓練のためであった。
考えてみれば自分から求めたことは一度もない。
兄が冗談で言ったように、男の方が好きかと聞かれれば、それはないと断言できる。
女性と肌を重ねることは嫌ではなかった。
すべらかで柔らかい肌に触れるのは好きだ。

だが化粧臭く、明らかに男受けを狙って下から見上げたり、わざとすり寄って胸を見せつけてくる様子を見ると、悪寒が走るのだ。

触れたい、抱きたいと思える女性が現れなければ、一生独身でもいいとさえ思っている。

「もう寝るか………」

寝台横に置いた椅子の背に脱いだ服をかけ、置かれていた部屋着に着替え、蝋燭を一本だけ残して全て消し、上掛けの間に体を滑り込ませてから、最後の蝋燭も吹き消す。

真っ暗になり仰向けになると、兄たちとの会議で交わした話を思い出した。




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