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第五章

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「本当に…私にも出来ると思いますか?」

 子供が生めない女性は他にもいる。レシティもそうだと教えてくれた。
 それならそれで、子供については諦めることもできる。
 でも、もうひとつのことは、ジゼルはドミニコしか床を共にしたことがない。
 他の人となら、どうなのか。
 思ってもみなかった話だった。

「とりあえず、今ここで少し試して見るか?」

 ユリウスからの言葉に、ジゼルは目を大きく見開いた。

「い、今…こ、ここで、ですか?」

 ジゼルはキョロキョロと周囲を見渡した。
 夜も更けた人気のない場所とは言え、誰が通るかわからないし、何よりここは屋外だ。

「もちろん、服は着たままでいい。ほんの少し、前戯というものを試してみるだけだ」
「ぜ、前…戯?」

 ジゼルは息を呑んだ。

「まさか…知らないのか?」
「い、いえ…こ、言葉は知っていますが…その…具体的には何処までが前戯と言うのでしょうか。こ、こんな場所で出来るものなのでしょうか」

 ジゼルは、初心な生娘でもないのに物を知らないのを恥ずかしく思った。

「前戯というのは、男女が体を繋げる前に、口づけや互いの体に触れて、体を慣らすことだ。いきなりではお互いに痛いだけだ。何しろ女性の体は繊細で、男の性器を受け入れるために準備が必要になる。服を着たままでも、出来ることはある」
「く、口づけ…それなら…」

 一方的に押し付けるようなドミニコの口づけを思い出す。それからジゼルの胸を掴んで揉んだり、乳首を摘んだりされたことはある。

「それなら、私も…したことがありますわ」

 何も知らないわけではないとわかり、ジゼルは少しほっとした。

「本当に?」
「え、ええ…」

 しかし、ユリウスにそう尋ねられると、途端に自信を失う。

「わ、私…何も知らなくて…」
「知らないことは悪いことではないぞ。これから知っていけばいい。あなたさえ良ければ、俺が教えよう」

 ジゼルを導くように、ユリウスが手を差し出す。
 その手をジゼルはじっと見つめ、打ち震えた。

「約束しよう。もし途中で怖くなって止めてほしいと言えば、すぐに手を引く」
「や、約束…してくださいますか?」

 声が震える。ドミニコは止めてと言っても聞き入れてくれなかった。途中で止められないのだと思っていたが、違うのだろうか。

「ほ、本当に…私は…」

 自分は人と違う。どこかおかしい。ジゼルはそう思ってきた。でもそれが勘違いだったら…
 恐る恐るジゼルは差し出されたユリウスの手に、自分の手を重ねた。

「おいで」

 すぐ近くにいるジゼルにも、辛うじて聞こえるような低くて小さな声だった。
 ユリウスはジゼルの手を引き、薄暗い中庭を更に奥へと向かう。
 木立ちの影になった場所には、木のベンチがひとつ置かれていて、そこにユリウスは腰を下ろすと、ジゼルの手を引いて膝の上に座らせた。

「ユ、ユリ…」

 硬い木の感触ではないが、彼の太ももも、それなりにがっしりとしている。

「そっちの手も」

 握っていたジゼルの右手を上に向けさせると、左手もそこに添えさせる。
 
「ほっそりとしていて美しい手だ。緊張しているな。手が冷たい」
「あ…」

 ユリウスは両手でジゼルの手を包み込むと、親指で掌全体を優しく揉みだした。
 親指の付け根の膨らんだ部分を、円を描くように親指で撫でる。そして人差し指、中指のそれぞれの指の付け根も、軽く力を加えながら丁寧に揉み込んでいく。
 そうしていると、次第に手が温かくなってきた。
 そのまま指の一本一本を丁寧に解していく。
 ジゼルが焦れったく思うほどに。

「あの、ユリウス…様」
「ユリウスと呼べ」
 
 ユリウスは彼女の手を包み込んだまま、上に持ち上げて顔の近くまで持っていった。
 
「あの、ユリウス」
「何だ?」
「その…い、いつまで手を…」
「ん? 気に入らないか?」
「そ、そういうわけでは…」 

 どちらかと言えば、優しく撫でられるのは気持ちがいい。ごつごつしているとは言え、人の手の温かさが伝わってくる。
 
「でも、なんだか…その…じれったいと言うか…」
「そうだな。ではこれは?」
「ひゃっ!」

 ユリウスが顔を近づけ、掌に唇を寄せた。
 驚いて手を引こうとしたが、がっしりと手首を掴まれて動かせない。
 柔らかく温かいユリウスの唇が掌に軽く触れ、手を掴んだまま親指が手首の内側を擦ってくる。

「あ、ユ、ユリウス」

 ザラリとした舌の感触にが掌に、びくりと体が震える。

「いやか? いやなら言ってくれ」
「その…く、くすぐったい」

 両手を交互にユリウスが舐める。手首を掴まれたまま、顔を僅かに伏せたジゼルは、耳まで赤くなっている。

「言っただろう? 嫌と言わないなら止めないぞ。止めてほしいのか?」

 掌に唇を押し当てたまま喋りながら、ユリウスの視線がジゼルの視線と絡みつく。
 獣のような鋭い視線に、ジゼルは自分が狩られる獲物のように思えた。
 しかしその鋭い視線とは真逆に、触れる手はまるで羽が触れるかのように軽くて、優しい。 

(こんな…こんな風な触れ方があるのね)

 決して強引に押し付けるのではなく、ジゼルのことを傷つけないようにと気遣うユリウスの愛撫に、ジゼルは人肌の心地良さと、お腹の奥の方が疼くの感じた。
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