嫁き遅れ令嬢の私がまさかの朝チュン 相手が誰か記憶がありません

七夜かなた

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幕間〜ロクサーヌ

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「話はまだ終わっていないわ」
「離してください」

振り払おうとするが、なぜか力が入らなかった。

「そう思うなら払い除けたらどう?」

私の様子を見て彼女がほくそ笑む。手に力が入らないのを彼女は知っているみたいだ。

「な、なにを…」

目の前が掠れてきて、足もガクガクし出した。明らかにおかしいと思い、机の上にある茶器を見た。あの中に何か薬を入れていた。飲んだふりをして少し口に含み、殆ど呑まなかったが、かなり効きめがある薬だったようだ。

「本当に正直な子ね。やっぱり馬鹿なのかしら。手紙ひとつでのこのこと…しかも一人で来るなんて…」

ではやはりあの手紙は…

「くす…り…」

先にルブラン公からもらった薬がどれほど効果があるのか、彼女が飲ませた薬がどれほどのものかわからない。

ガチャリと背後の扉が開いたのは聞こえたが、振り返る力が出ない。

「ご苦労様」
「言われたとおり休業中のお店を開けました。お茶に薬も入れました。まさか毒なんてことは…」
「そんなに怯えなくても毒ではないから大丈夫」
「このことが店長に知られたらクビになります」

毒でないという言葉が聞こえてホッとしたが、何の薬なのか。

今日は店に人が少ないと思ったら休みの日だった。
彼女は店主に無断で店を開けたようだ。

「い、言われたことはすべて致しました。早く約束のお金をください。そしてそのお嬢様を連れて早くお引き取りください」

二人の会話を聞いている間に少し体の震えが収まってきた。代わりに気持ち悪さは増しているが、これはルブラン公がくれた薬が効いてきているということなのだろうか。
でもこのまま彼女が呑ませた薬が効いているふりを続けなければ疑われる。私は黙って二人のやりとりを聞き続けた。

「わかったわ。渡すからこちらへ来て」

俯いている私の視界に従業員の女性の足元が見えてきた。

「ここまで協力ありがとう」

「がはぁっ」

呻く声が聞こえた気がしてどさりと何か重いものが床に落ちる音がした。

「………ヒ」

驚いて大きく目を見開いた従業員の女性の顔が目前に転がり、悲鳴を呑み込んだ。

「あ…」

空気とともにその口から声が漏れ、一瞬で彼女は息絶えた。
見開いた目から瞬く間に生気が消えていく。
血の匂いが鼻をつき、やがて赤黒い血が床に広がっていった。

力無く首を垂れて下を向いていた私は言葉もなくそれを凝視していた。

「お金で簡単になびく人間は信用出来ないわ」

ロクサーヌさんが彼女を刃物で刺したのだとわかった。

不意に肩を掴まれて仰向けにされて瞬間的に目を閉じた。
さっきの死に顔が脳裏に焼き付いて消えない。

「なかなか効きが悪かったみたいね」

ペチペチと頬を叩いて私の意識がないことを確認する。
今目を開けたら自分もあの女性と同じ目にあうのではと怖くて目を開けることができなかった。

そのままロクサーヌさんは誰かを呼び入れ私を運び出させた。

運ばれる間もパライン卿がどこかで見守っていてくれることを信じ、太腿に巻いた短剣の存在を重く感じた。

きっとレオポルドはどこかで生きている。
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