危ない双子〜その愛に溺れて〜

橘 葛葉

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5=マーレの再現=

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三人で帰宅し、桜はすぐにランチを作るためにキッチンへ移動する。
阿澄と澄人は仕事の打ち合わせがあると言って、桜からは離れてノートパソコンを広げ、ボソボソと話している。
あまり聞いてはいけないのだろうと思った桜は、調味料をしまったり野菜を切ったりして家事に集中した。
「サラダにかけるバルサミコ酢も欲しいところよね。今日はとりあえず酢とオリーブオイルで作ろうかな。えっと塩……あ、そうか。入れ物もないんだった」
袋のまま塩と小瓶に入った胡椒で味付け、スープは根菜を中心にした。
「葉物野菜のサラダにに根菜のスープ、パスタは味付けどうしよう」
首を捻って考えていると、すぐ後ろからリクエストの声。
「トマト系がいい」
阿澄の声がして振り返るとオレンジ色のセーターが目に入った。
二人は並んで桜の手元を見ていた。
「分かった。トマト系にするね。澄人と上着交換したの?」
阿澄を見てそう言った桜に、澄人が少し跳ねて言った。
「凄い!」
「え?」
「ねえ、桜はどうやって僕達を見分けてるの?」
「どうやってって……澄人は写真見て自分がどっちか分からないの?」
「……いや、それはさすがに分かるけど」
戸惑うような澄人。
「似てないって事か?」
不思議そうに言う阿澄に、桜は笑って答える。
「ううん、そっくりだと思う。でも色々違うよ?」
桜の言葉に二人同時に問うてくる。
「「例えば?」」
「う~ん、まずは声かな。それに所作?動き?言葉遣いも違うし、話し方も違う。目の感情表現も違うし歩き方も違う」
「え、そんなに?僕達歩き方違うの?」
澄人が前に乗り出し、桜はそれに頷いた。
「きっと性格も全然違うんだよね?」
「まあね。性癖だって違うんだもん」
「ふふ。そうね」
桜は笑みを溢すとスープの火を止めて言った。
「お椀が一つしかなかったから、マグカップに入れてもいい?」
「ああ、午後からの買い物は腕を追加だな」
パスタの湯を切り、トマト缶を開けながら、桜はそれに頷いた。









「澄人に不快なこと言われてないか?」
午後からの買い物で阿澄と歩く。
「ううん、大丈夫。澄人の意地悪はスキンシップみたいなものだよね」
「そうだな。あいつにしては珍しく懐いていて、俺も少し驚いてる」
「懐くって、私に?」
「そうだ。男が好きだと言っているが、女に手を出せない訳じゃないから、何かあったらすぐに言うんだぞ」
「え?そんな……」
桜は想像しようとして、全くそれが出来ないと首を横に振った。
「大丈夫だと思うけど、気遣ってくれてありがとう」
「手を出さないから家に来いと言った手前、俺には桜を守る責任がある」
それは自分も手は出さないと言われているような気がして、桜は少しだけ寂しく思った。そしてそんな自分に気がついて戸惑いも感じる。
「ねえ、阿澄」
桜は口を開きかけてすぐにつぐむ。なんだと覗き込んでくる阿澄に、慌てて別の事を言った。
「澄人はオレンジ色が好きなの?それなら食器もそれぞれの色を決めて買ったら分かりやすいかな?」
「あぁ、そうだな。そうしよう。桜は何色が好きなんだ?」
「やっぱり、ピンク、かな」
「名前と親和性があるから当然か。でもそれなら澄人と被るようなものも出てきそうだな」
確かに赤い系統に含まれるので、色選びが難しくなりそうだ。
「マグカップくらいは色分けしたらいいけど、スープ皿とかお茶碗は同じデザインのモノを三つ買えばいいんじゃない?」
桜の提案に、阿澄が頷く。
「言われてみればそうだな。じゃあ、まずはマグカップから見に行くか」
「うん!」
嬉しそうに歩く桜を、目を細めて見守る阿澄。自分でも優しい顔をしている自覚があった。










「阿澄、週末ショーが決まったって」
家に戻ると澄人はおらず、阿澄と二人で食器を出して片付けていた。桜が洗って、阿澄が拭いて、ひと段落ついたのでお茶を沸かしていた時だった。
大きな段ボールを抱えた澄人が帰ってきてそう言った。
「はい、これ桜の」
昨日言ってた、ボツの試作品だろう。
「ありがとう。いっぱいだね」
「うん。ちょっとセクシーなのもあるけど、可愛いから着てね」
ウインクしながら言う澄人に、ぎこちなく頷いた桜は段ボールを受け取ると寝室へ向かう。
「社長と会ったのか?」
「そ、だから直接依頼されたんだよ」
相談が始まった二人に背をむけて、寝室の扉を閉めると段ボールを開けた。
二人の声は聞こえているが内容は分からない。きっと、あまり聞かない方がいいだろう。
段ボールの中に手を入れて、適当に取り出したモノを広げる桜。
「!」
紐のようなショーツが出てきた。
「これ、隠すところないよね」
どんな試作品だろうと次のを手に取る。
次は普通のショーツに見えた。しかしよく見ると、中心に穴が空いている。
「こ、これは……もしかして着用したまま?」
次に取り出したのはシルク生地だった。着物のように羽織るタイプの……
「パジャマ?ナイトガウン?」
太腿までしかない長さに、下もどこかにあるのかと段ボールを漁ってみたが見当たらない。
これはさすがに挑発的だろうと横によけた。
どうやって身につけるのか分からないようなモノを避けていくと、普通の下着もいくつか出てきた。ほっと安心してそれらを見る。
使えるものを分けると、クローゼットを開けて奥に手を伸ばす。
クローゼットは澄人が半分を使っており、阿澄の使っていた場所を桜が奪う形で使用している。
そこにはアクリルの透明なボックスがあり、その中に入る分だけで阿澄は充分なのだと言っていた。桜から見えないよう、大きな布で覆っているが、不便そうで申し訳なく思っている。
「大型のフィギュアでも展示していたのかしら」
「人だよ」
背後から澄人の声。びっくりして肩が跳ねた。
「どう、気に入ったのあった?」
「う、うん。なんだか凄いのもあったけど、使えそうなものもあったよ」
「え~、その凄いの着て欲しいんだけど」
澄人がそう言って桜に微笑みかける。
「あ、あんなの着てどうするの?」
「う~ん、ま、その時じゃないと見れないし、いっか。阿澄を襲うなら着用した方がいいよ。絶対に興奮するから」
「お、襲いません!」
慌てて言う桜に、澄人はくすくす笑って手を振った。
「分かった分かった。こっちの話は終わったから戻ってきていいよ」
「あ、う……うん」
「聞いてても困らないんだけどね。気を遣わなくていいよ」
澄人の言葉に頷くと、追加で寝室に入ってきた阿澄が言った。
「聞きたくない内容かもしれないだろ。気を遣わせるな」
「あ、そっか。それはそうかもね」
「そ、そんな事ないよ!二人のお仕事でしょう?ただ、秘密クラブって言ってたから、秘密なのかなって……」
「え、なにそれ」
澄人はそう言うと、直後に大笑いして腹を抱えた。
「秘密って、そう捉えたの?桜、おっもしろ!」
「え?えっと、へ、変だった?」
動揺して言う桜に、阿澄が首を横に振る。
「いや、変じゃない。気遣ってくれてありがとう」
阿澄のフォローに助けられた桜は、赤い顔のまま下着を収納し、ディナーの用意をしにキッチンへ向かった。
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