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17=来客=
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澄人の依頼のため、仕事帰りに最寄駅から近いスーパーに寄る。
「桜ちゃん」
急に声をかけられて、驚いた桜は飛び跳ねて振り返った。
「あ、あなたは昨日の……樹、さん?」
「うん、途中で帰っちゃって残念だったよ。あの後盛り上がってね、とても楽しかったんだよ」
「そ、そうなんですね」
美奈子の話ぶりだと、乱行パーティーのような印象を受けたのだが、違うのだろうか。
「美奈子は大丈夫でした?」
「彼女もちゃんと楽しんでたよ。特にもう一人の子とはしゃいでのは良かったな」
「はしゃぐって?」
桜が首を傾げて問うと、樹は含み笑いをして何も答えなかった。
「今度、一緒に楽しもうよ」
「えっと、何を……ですか?」
少し怖くて鼓動が早くなる。それでも平静を装って言った。
「参加してみれば分かるよ。あの子がいたら大丈夫じゃないかな?」
「あの子……?美奈子、ですか?」
樹は首を横に振ってもう一人の子と答える。
あまり詳細を聞くのはいけないような気がした。
「そうそう。家のほうは大丈夫だったの?」
「あ、はい……大丈夫でした」
あの、と言い置いて、桜はスーパーを指差した。
「買い物があるので」
「あ、ああ、ごめん。俺も買い物して帰ろうかな」
樹はそう言うと、スーパーに入りかけていた桜に着いてきた。
仕方なく、桜は買い物を始める。
調味料は揃っているので、ニンニクや野菜を中心にカゴへ入れていく。家に残っている材料を思い出しながら歩いていると、樹が後ろから声を掛けてくる。
「大荷物だね。何人家族?」
買い物カゴを覗きながら聞いてきる樹に、桜は首を横に振って答える。
「今日はお客様がいらっしゃるから……」
「へえ、そうなんだ。途中まで持つよ」
距離が近い樹に警戒して、一歩引いた桜。首を横に振ってはっきりと言った。
「いえ、大丈夫です。家の者に見られて、誤解されても困りますし」
「あ、あぁ、そっか。それもそうだよね」
ごめんごめんと両手を上げて降参したようなゼスチャーで言う樹。それでも桜の買い物に付き合うつもりなのか、後ろから付いてくる。
「樹さんは、買い物カゴ、使わないんですか?」
「うん、少ししか買わないから」
そうですか、と言いながら、桜はほうれん草をカゴに入れる。
「桜ちゃんはこの近くに住んでるの?」
「え?あ、はい……」
「そうなんだ南側?」
「はい……」
「へえ。元カノもそっちに住んでたなぁ」
「はぁ、そうですか……」
どうして付いてくるのかと、急ぎ食材をカゴに入れてレジへ向かった。
樹は何も買わずに着いてきて、スーパーの出口まで来ると桜に言った。
「重そうだよ。近所まで持ってあげる」
「いえ、大丈夫です」
キッパリと断った桜に、樹は一歩詰め寄って言った。
「今度、お茶でも飲みに行こうよ」
「あ、彼がいるので、行けません」
そうか、と言って樹は笑った。
「それは残念」
「すみません」
桜はぺこりと頭を下げると、樹に背を向けて歩き始めた。
なるべく振り返らないように、早足で進んだ。
そのせいで、桜は気がつくことができなかった。
距離を空けて、樹が着いて来ている事を。
「ただいま」
家に入ると、誰もいなかった。
澄人がいると言っていたのにと、桜は家に上がって各部屋を廻る。
「澄人?いないの?阿澄、いる?」
誰もいないのでスマホを取り出して確認すると、阿澄からメッセージが来ており、澄人が愛衣蘭を迎えに行った事が書かれてあった。阿澄は見張り中らしく、ターゲットの家の近くにいるらしい。
「ターゲットって……」
樹のことではないのだろうか。
阿澄の気配は感じなかったが、気が付かなかっただけなのか、それとも樹はターゲットではないのか。考えても分かりようがないと思い、桜は食材を取り出してキッチンへ向かった。
サラダとスープを作り終え、パスタを茹で始めようか迷っていたタイミングで、澄人が愛衣蘭を伴って帰ってきた。
「おっじゃまっしま~す」
元気よく入ってくる愛衣蘭に、呆れ顔の澄人が付き従うように歩いてくる。
それからしばらくして、阿澄も帰ってきて、桜を手伝おうとキッチンに入ってきた。
「は~い、これお土産~」
「愛衣蘭お勧めのロールケーキらしい。桜にって」
「ありがとうございます」
ケーキを受け取った桜は、それを冷蔵庫に入れると料理を再開させた。
パスタを茹でながら、刻んだニンニクをフライパンに入れる。
「う~ん、いい匂い~」
愛衣蘭がそう言って、鼻をヒクヒクさせた。
「すぐ出来ますので、もう少し待ってくださいね」
「は~い!」
澄人の誘導でいつもは使っていない椅子に腰掛ける愛衣蘭。両腕をテーブルに置き、頬杖をつきながら呟いた。
「スーツを脱いですぐにエプロンっていいよね」
「ちょっとやめてよ愛衣蘭。桜に変な気起こさないでよね」
「何よ澄人だって鼻の下伸ばして見てたくせに」
「ちょっ、何言ってんだよ」
そんな会話が漏れ聞こえてくるが、他の音に紛れてよく聞こえてない桜に、阿澄が輪をかけるようにあれこれ聞く。
「皿はこれ使うのか?スープは何にいれようか?サラダは……ああ、取り皿にするのか」
桜に指示されながら、あれこれ手伝う阿澄。
二人の声がちゃんと聞こえている阿澄は、チラリと桜の姿を見て一人納得する。
桜はいつもスカートタイプのスーツで、ジャケットだけを脱いでブラウスの上からエプロンを着用している。阿澄もその姿はいいと思っていたが、愛衣蘭を警戒して着替えてくるよう桜に言いたくて堪らない。
「桜、スーツ汚れないか?」
「うん、大丈夫」
あっさり言われてしまって、それ以上何も言えない阿澄。愛衣蘭の視界を遮るように動くしかなかった。
「美味しかった~」
満足そうな愛衣蘭に、桜は微笑んで言った。
「お口にあって良かった」
食後のコーヒーをと言って立ち上がった桜に、今度は澄人が手伝うと言ってキッチンへ着いてくる。
「今日は例のターゲットどうしてるの?」
「さっき家に帰って来て、今は澄人の落とした男といる」
「じゃあ安心だね」
阿澄と愛衣蘭がこっそり確認しあっている中、澄人は桜とキッチンへ入ってマグカップを取り出す。
「愛衣蘭のはこれでいいかな?」
「うん。あ、どうしよう。コーヒーでいけるかな?紅茶も買って来てるけど」
「たまにはみんなで紅茶にしない?」
「わかった」
桜は澄人の提案に頷き、緑茶を入れる急須で紅茶を入れ始めた。
「さ、ケーキ食べよ。あそこのロールケーキ食べたことある?」
「ないと思う。澄人もおすすめ?」
「うん」
嬉しそうに頷いた澄人に微笑みながら、桜は四人分の紅茶を淹れた。それを澄人が運ぶ。
「桜ちゃん」
急に声をかけられて、驚いた桜は飛び跳ねて振り返った。
「あ、あなたは昨日の……樹、さん?」
「うん、途中で帰っちゃって残念だったよ。あの後盛り上がってね、とても楽しかったんだよ」
「そ、そうなんですね」
美奈子の話ぶりだと、乱行パーティーのような印象を受けたのだが、違うのだろうか。
「美奈子は大丈夫でした?」
「彼女もちゃんと楽しんでたよ。特にもう一人の子とはしゃいでのは良かったな」
「はしゃぐって?」
桜が首を傾げて問うと、樹は含み笑いをして何も答えなかった。
「今度、一緒に楽しもうよ」
「えっと、何を……ですか?」
少し怖くて鼓動が早くなる。それでも平静を装って言った。
「参加してみれば分かるよ。あの子がいたら大丈夫じゃないかな?」
「あの子……?美奈子、ですか?」
樹は首を横に振ってもう一人の子と答える。
あまり詳細を聞くのはいけないような気がした。
「そうそう。家のほうは大丈夫だったの?」
「あ、はい……大丈夫でした」
あの、と言い置いて、桜はスーパーを指差した。
「買い物があるので」
「あ、ああ、ごめん。俺も買い物して帰ろうかな」
樹はそう言うと、スーパーに入りかけていた桜に着いてきた。
仕方なく、桜は買い物を始める。
調味料は揃っているので、ニンニクや野菜を中心にカゴへ入れていく。家に残っている材料を思い出しながら歩いていると、樹が後ろから声を掛けてくる。
「大荷物だね。何人家族?」
買い物カゴを覗きながら聞いてきる樹に、桜は首を横に振って答える。
「今日はお客様がいらっしゃるから……」
「へえ、そうなんだ。途中まで持つよ」
距離が近い樹に警戒して、一歩引いた桜。首を横に振ってはっきりと言った。
「いえ、大丈夫です。家の者に見られて、誤解されても困りますし」
「あ、あぁ、そっか。それもそうだよね」
ごめんごめんと両手を上げて降参したようなゼスチャーで言う樹。それでも桜の買い物に付き合うつもりなのか、後ろから付いてくる。
「樹さんは、買い物カゴ、使わないんですか?」
「うん、少ししか買わないから」
そうですか、と言いながら、桜はほうれん草をカゴに入れる。
「桜ちゃんはこの近くに住んでるの?」
「え?あ、はい……」
「そうなんだ南側?」
「はい……」
「へえ。元カノもそっちに住んでたなぁ」
「はぁ、そうですか……」
どうして付いてくるのかと、急ぎ食材をカゴに入れてレジへ向かった。
樹は何も買わずに着いてきて、スーパーの出口まで来ると桜に言った。
「重そうだよ。近所まで持ってあげる」
「いえ、大丈夫です」
キッパリと断った桜に、樹は一歩詰め寄って言った。
「今度、お茶でも飲みに行こうよ」
「あ、彼がいるので、行けません」
そうか、と言って樹は笑った。
「それは残念」
「すみません」
桜はぺこりと頭を下げると、樹に背を向けて歩き始めた。
なるべく振り返らないように、早足で進んだ。
そのせいで、桜は気がつくことができなかった。
距離を空けて、樹が着いて来ている事を。
「ただいま」
家に入ると、誰もいなかった。
澄人がいると言っていたのにと、桜は家に上がって各部屋を廻る。
「澄人?いないの?阿澄、いる?」
誰もいないのでスマホを取り出して確認すると、阿澄からメッセージが来ており、澄人が愛衣蘭を迎えに行った事が書かれてあった。阿澄は見張り中らしく、ターゲットの家の近くにいるらしい。
「ターゲットって……」
樹のことではないのだろうか。
阿澄の気配は感じなかったが、気が付かなかっただけなのか、それとも樹はターゲットではないのか。考えても分かりようがないと思い、桜は食材を取り出してキッチンへ向かった。
サラダとスープを作り終え、パスタを茹で始めようか迷っていたタイミングで、澄人が愛衣蘭を伴って帰ってきた。
「おっじゃまっしま~す」
元気よく入ってくる愛衣蘭に、呆れ顔の澄人が付き従うように歩いてくる。
それからしばらくして、阿澄も帰ってきて、桜を手伝おうとキッチンに入ってきた。
「は~い、これお土産~」
「愛衣蘭お勧めのロールケーキらしい。桜にって」
「ありがとうございます」
ケーキを受け取った桜は、それを冷蔵庫に入れると料理を再開させた。
パスタを茹でながら、刻んだニンニクをフライパンに入れる。
「う~ん、いい匂い~」
愛衣蘭がそう言って、鼻をヒクヒクさせた。
「すぐ出来ますので、もう少し待ってくださいね」
「は~い!」
澄人の誘導でいつもは使っていない椅子に腰掛ける愛衣蘭。両腕をテーブルに置き、頬杖をつきながら呟いた。
「スーツを脱いですぐにエプロンっていいよね」
「ちょっとやめてよ愛衣蘭。桜に変な気起こさないでよね」
「何よ澄人だって鼻の下伸ばして見てたくせに」
「ちょっ、何言ってんだよ」
そんな会話が漏れ聞こえてくるが、他の音に紛れてよく聞こえてない桜に、阿澄が輪をかけるようにあれこれ聞く。
「皿はこれ使うのか?スープは何にいれようか?サラダは……ああ、取り皿にするのか」
桜に指示されながら、あれこれ手伝う阿澄。
二人の声がちゃんと聞こえている阿澄は、チラリと桜の姿を見て一人納得する。
桜はいつもスカートタイプのスーツで、ジャケットだけを脱いでブラウスの上からエプロンを着用している。阿澄もその姿はいいと思っていたが、愛衣蘭を警戒して着替えてくるよう桜に言いたくて堪らない。
「桜、スーツ汚れないか?」
「うん、大丈夫」
あっさり言われてしまって、それ以上何も言えない阿澄。愛衣蘭の視界を遮るように動くしかなかった。
「美味しかった~」
満足そうな愛衣蘭に、桜は微笑んで言った。
「お口にあって良かった」
食後のコーヒーをと言って立ち上がった桜に、今度は澄人が手伝うと言ってキッチンへ着いてくる。
「今日は例のターゲットどうしてるの?」
「さっき家に帰って来て、今は澄人の落とした男といる」
「じゃあ安心だね」
阿澄と愛衣蘭がこっそり確認しあっている中、澄人は桜とキッチンへ入ってマグカップを取り出す。
「愛衣蘭のはこれでいいかな?」
「うん。あ、どうしよう。コーヒーでいけるかな?紅茶も買って来てるけど」
「たまにはみんなで紅茶にしない?」
「わかった」
桜は澄人の提案に頷き、緑茶を入れる急須で紅茶を入れ始めた。
「さ、ケーキ食べよ。あそこのロールケーキ食べたことある?」
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