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【13】温泉
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夕食後、二人は屋敷の外に移動してきた。目的の方角に湯気が見えた瞬間、セレーネは地下の部屋の事などすっかり忘れて駆け出していた。
「ついに露天風呂に入れるのね」
浮き立つようなセレーネの声に、追いついてきたヘリオスはその腰を抱いて足を進めた。
ダビウムの本邸は、屋敷の背後からなだらかな丘になっている。
屋敷は正面を南に構え、庭園なども南に広がっている。騎士達の演習所が西にあるので、そのあたりを散策する事はあるが、セレーネが北側を歩くのは初めてだった。
北側に位置する丘のその中腹に、湯の湧く泉がある。
「温泉っぽい匂いはしないけど……」
それでも登り坂を軽い足取りで進むセレーネ。その途中に、使用人が使って良い泉を見かけた。
「え……これって……丸見えじゃない?」
木々に覆われてはいるが、脱衣所もない。しかし十人は入れそうな泉に、岩から湯気がたちのぼって気持ちよさそうだ。
「ヘリオスが騎士達と入ったっていうのは、ここ?」
「そうですよ」
反対する理由が分かったと、セレーネは心の中で納得した。
そこから離れ、丘を登り切った瞬間、目の前の景色が開けた。
「良い景色」
振り返ると、南にある屋敷の全貌が見えた。
騎士達の訓練所も見えており、屋敷との対比に最適だった。
「領土も見渡せるので、わたしはよくここへ来ているのですが、あなたとこれる日が来るなんて」
じんと感動している様子のヘリオス。セレーネは辺りをぐるりと一周見渡してから、ヘリオスに目を向けた。
「私も一緒に見れて嬉しい。ヘリオスの仕事が、このミルテを治めているのだと思うと誇らしいわ。それに良い景色」
そう言うと、嬉しそうなヘリオスの顔が返ってくる。
「それでは入りましょうか」
先ほどの泉まで戻るのだろうと、南に足を向けたセレーネ。しかしヘリオスはセレーネを逆側に引っ張る。
「これが私達だけの入浴スペースです」
何もない空間を指しているヘリオスに、ポカンとしたセレーネの顔。
「手を」
言われるまま差し出した手を取ったヘリオス。引かれるまま宙に持って行かれた手に、何かが触れた。
「え……?何か……ある」
二人が手をかざしているように見える。実際は見えない壁に触れていた。
しばらくすると、薄く壁が現れる。
「この窪みに手を入れてください」
言われた通りにセレーネは手を入れた。隣で別の窪みにヘリオスが手を入れる。
「指輪が鍵です」
セレーネの銀の指輪が輝き、ヘリオスの金の指輪の一つが輝いている。
光の収束とともに壁が消えると、視界を遮るものがない露天風呂が現れた。
「凄い……」
魔法にも景色にも感動したセレーネ。しかしすぐに遮るものがない事に気が付く。
「これって……見られない?」
「大丈夫です。わたしの魔法で、見えなくなっています」
「ほ……本当に?」
「本当です。わたしがあなたの肌を、他人に見せると思いますか?」
思わないが……ヘリオスの性癖を熟知しているわけではない。
よって、見られたら興奮する類の趣味がないとは、言い切れないとセレーネは思った。
「私はあなたが考えているよりずっと、独占欲が強く嫉妬深い性格ですよ」
そんな事を口に出して言えるのは、本当にそうか、若しくは全くそうではないかのどちらかだ。
疑わしげな視線を送っていると、ヘリオスは極上の笑みでセレーネに歩み寄る。
「信じてくださいセレーネ」
背後から抱きしめられ、耳元で言われてしまえば、もう頷くしかない。
すっかりヘリオスに弱点を知られているようだ。
「湯船の中で、魔法を一つ披露しますね」
「え、魔法?」
さっきの壁も驚いたが、また違った魔法を見られるのだと思うと、瞳を輝かせて顔を上げた。
「楽しみだわ」
「では入りましょうか」
それを待っていたのか、ヘリオスはセレーネの腰に手を当てて中に進む。
よく見ると小さな脱衣所があり、そこまで誘導された。
ドレスを楽しげに脱がすヘリオス。セレーネは真っ赤になって胸元を押さえながら言った。
「恥ずかしいから自分で脱ぐわ。先に入って……いえ、後ろを向いてて。先に入るわ」
「残念。でも言われると思っていたので大丈夫ですよ。湯の中に入ったら声をかけてください」
ヘリオスはそう言うと、セレーネのドレスから手を離して背を向けた。
手早く脱いで、急いで湯を目指すセレーネ。
脱衣所を抜けると、開放的なその空間に圧倒された。
「素敵」
誰にも見られないのなら、最高に気持ち良い空間だ。
そっと湯船に足をつけ、そろそろと中に進む。
静かに腰を下ろすとほうっと息を吐き出した。
見上げると満天の星。見知った星座はないが、降り注ぐ様なその景色にしばし見とれる。
「そろそろ良いですか?」
脱衣所からヘリオスの声が聞こえて現実に戻る。
「あ……だ、大丈夫!」
脱衣所の方を見て言ったが、ヘリオスの足が見えた瞬間、体ごと顔を逸らした。
湯にヘリオスが入ってくる音が背後から聞こえる。
緊張しつつ待っていると、背中から抱きしめられた。
「開放的でよいですね」
無言で二度頷くセレーネの首筋に、ヘリオスの唇が這う。
「あっ……」
小さく漏れた声に、ヘリオスの唇が反応する様に動く。
「早速ですが、魔法を体験していただきますね」
ヘリオスはそう言うと、セレーネの股間に手を持っていく。
「え……魔法って……なにを」
セレーネの小さな抵抗を無視して、ヘリオスの指が割れ目から敏感な突起を探し出す。
するとすぐに滑るような感触が生じた。
「え……な、に?」
「魔法ですよ」
耳元でささやいた唇は、こめかみにキスを落とし、指は胸に移動して緩く揉む。
「あ、や……」
吸い付く様な感触に、セレーネは自らの股間に目を向けた。
しかし、そこには水面の揺らめきだけで、何も発見することは出来ない。
「ふふ、何か探していますか?気持ち悪いのでなければ良いのですけど」
「あっ……あぁ……」
吸い付いては離れる。まるで吸盤のような動きをしている何かが、敏感な突起を執拗に攻めている。
びくつく足に、跳ねる腰、それらを抑えることが出来ない。
「これ、魔法な、の?」
「そうですよ。水属性の魔法を練習中でしてね」
足をぴくぴくさせながら、セレーネは喘ぎ喘ぎ言う。
「だめ、吸っちゃ……だ……だめ……」
「おや、顔はダメとは言っていませんよ」
「そん、そんな……あっ、あっ……」
跳ねるセレーネの体を抱きしめながら、ヘリオスはその耳元で囁く。
「知っていますか?魔法使用中にいくことを覚えた体が妊娠した時、その子は高確率で魔法の力に目覚めて生まれてくるそうですよ」
びくんと跳ねたセレーネは、ぎゅっと力を入れて答えた。
「や、し、知らない……あぁ!」
知らないのは本当だった。元のセレーネが知らないだけなのか、ヘリオスの作り話かは不明だが、いずれにせよ、吟味している余裕などない。
背後から腰にヘリオスの手がかかる。
水の浮力でふわりと体が持ち上げられ、吸盤のような水の魔法が刺激を継続する中、そろそろとヘリオスに引き寄せられる。
「はぅ……あぁん……んん……」
ズブズブ入ってくるヘリオスに、体の芯が歓喜に震えるのが分かった。
ペロリと首筋を舐め上げられて、セレーネは一際大きく痙攣して絶頂を迎えた。
はぁはぁと息を荒くしているセレーネの首筋に、ヘリオスの息がかかる。
「ふふ、いきやすくなってきましたね」
満足そうな声に薄目を開けて少し振り返る。
ヘリオスの笑みが近寄ってきて、セレーネの唇、頬にキスをする。
「ヘリオスは、ちゃんと気持ちよくなってる?」
「もちろんですよ。あなたの中で蕩けそうです」
そう言われたセレーネは幸せそうに微笑む。
「それよりも、ほら」
ヘリオスの言葉に連動するように、止まっていた水の魔法が動きを再開する。
「ん!……っぅん」
「あぁ、また締まってきた」
熱い吐息が首筋にかかり、ゆるゆるとヘリオスの腰が上下し始める。
激しくないが、ぐい、ぐいっと中を刺激され、さらに水の魔法で快楽が増す。
「あっ……だめ、また……」
「それでは一緒に……」
背後から密着するようなヘリオスは、少し腰を浮かせて下から突き上げる。
ぱしゃ、ぱしゃっと水が跳ね、セレーネは体の奥深くにヘリオスを感じると同時に、高まる感覚を自覚した。
「ヘリオス……あっ……ヘリオス!」
「あぁ、セレーネ!」
互いの名を呼び合いながら、同時に絶頂を迎えた。
煌めく星も、鮮やかな濃紺の空も、今はどちらの瞳にも映らなかった。
「ふふ、気持ちよかったですね」
「うん……」
長湯でぐったりしたセレーネは、部屋に戻ってきてベッドに倒れ込んだ。
念願の温泉は嬉しかったが、熱気で体が怠いのだと言って、そのまま寝てしまいそうになっている。
ヘリオスはまだ濡れているセレーネの髪を、ゆっくり布で拭きながら撫でる。
「ヘリオスの手、気持ちいい……」
落ちそうな意識の中、そう呟いたセレーネ。
「それは、湯の中での事ですか?」
「ううん、今……安心する……」
頬を紅潮させて言うセレーネに、ヘリオスは小さく笑う。
「こんな事で喜んでもらえるのなら容易い事ですね」
いつも緊張していた前のセレーネを、ヘリオスはまだはっきりと覚えていた。
こんなに無防備に眠る姿を見せるなど、一生ないかもしれないと思っていただけに嬉しい言葉だ。
すうすうと寝息に変わっている事に気がついたヘリオス。その横にすべりこみ、背後から抱き寄せると、自らも目を閉じた。
「ついに露天風呂に入れるのね」
浮き立つようなセレーネの声に、追いついてきたヘリオスはその腰を抱いて足を進めた。
ダビウムの本邸は、屋敷の背後からなだらかな丘になっている。
屋敷は正面を南に構え、庭園なども南に広がっている。騎士達の演習所が西にあるので、そのあたりを散策する事はあるが、セレーネが北側を歩くのは初めてだった。
北側に位置する丘のその中腹に、湯の湧く泉がある。
「温泉っぽい匂いはしないけど……」
それでも登り坂を軽い足取りで進むセレーネ。その途中に、使用人が使って良い泉を見かけた。
「え……これって……丸見えじゃない?」
木々に覆われてはいるが、脱衣所もない。しかし十人は入れそうな泉に、岩から湯気がたちのぼって気持ちよさそうだ。
「ヘリオスが騎士達と入ったっていうのは、ここ?」
「そうですよ」
反対する理由が分かったと、セレーネは心の中で納得した。
そこから離れ、丘を登り切った瞬間、目の前の景色が開けた。
「良い景色」
振り返ると、南にある屋敷の全貌が見えた。
騎士達の訓練所も見えており、屋敷との対比に最適だった。
「領土も見渡せるので、わたしはよくここへ来ているのですが、あなたとこれる日が来るなんて」
じんと感動している様子のヘリオス。セレーネは辺りをぐるりと一周見渡してから、ヘリオスに目を向けた。
「私も一緒に見れて嬉しい。ヘリオスの仕事が、このミルテを治めているのだと思うと誇らしいわ。それに良い景色」
そう言うと、嬉しそうなヘリオスの顔が返ってくる。
「それでは入りましょうか」
先ほどの泉まで戻るのだろうと、南に足を向けたセレーネ。しかしヘリオスはセレーネを逆側に引っ張る。
「これが私達だけの入浴スペースです」
何もない空間を指しているヘリオスに、ポカンとしたセレーネの顔。
「手を」
言われるまま差し出した手を取ったヘリオス。引かれるまま宙に持って行かれた手に、何かが触れた。
「え……?何か……ある」
二人が手をかざしているように見える。実際は見えない壁に触れていた。
しばらくすると、薄く壁が現れる。
「この窪みに手を入れてください」
言われた通りにセレーネは手を入れた。隣で別の窪みにヘリオスが手を入れる。
「指輪が鍵です」
セレーネの銀の指輪が輝き、ヘリオスの金の指輪の一つが輝いている。
光の収束とともに壁が消えると、視界を遮るものがない露天風呂が現れた。
「凄い……」
魔法にも景色にも感動したセレーネ。しかしすぐに遮るものがない事に気が付く。
「これって……見られない?」
「大丈夫です。わたしの魔法で、見えなくなっています」
「ほ……本当に?」
「本当です。わたしがあなたの肌を、他人に見せると思いますか?」
思わないが……ヘリオスの性癖を熟知しているわけではない。
よって、見られたら興奮する類の趣味がないとは、言い切れないとセレーネは思った。
「私はあなたが考えているよりずっと、独占欲が強く嫉妬深い性格ですよ」
そんな事を口に出して言えるのは、本当にそうか、若しくは全くそうではないかのどちらかだ。
疑わしげな視線を送っていると、ヘリオスは極上の笑みでセレーネに歩み寄る。
「信じてくださいセレーネ」
背後から抱きしめられ、耳元で言われてしまえば、もう頷くしかない。
すっかりヘリオスに弱点を知られているようだ。
「湯船の中で、魔法を一つ披露しますね」
「え、魔法?」
さっきの壁も驚いたが、また違った魔法を見られるのだと思うと、瞳を輝かせて顔を上げた。
「楽しみだわ」
「では入りましょうか」
それを待っていたのか、ヘリオスはセレーネの腰に手を当てて中に進む。
よく見ると小さな脱衣所があり、そこまで誘導された。
ドレスを楽しげに脱がすヘリオス。セレーネは真っ赤になって胸元を押さえながら言った。
「恥ずかしいから自分で脱ぐわ。先に入って……いえ、後ろを向いてて。先に入るわ」
「残念。でも言われると思っていたので大丈夫ですよ。湯の中に入ったら声をかけてください」
ヘリオスはそう言うと、セレーネのドレスから手を離して背を向けた。
手早く脱いで、急いで湯を目指すセレーネ。
脱衣所を抜けると、開放的なその空間に圧倒された。
「素敵」
誰にも見られないのなら、最高に気持ち良い空間だ。
そっと湯船に足をつけ、そろそろと中に進む。
静かに腰を下ろすとほうっと息を吐き出した。
見上げると満天の星。見知った星座はないが、降り注ぐ様なその景色にしばし見とれる。
「そろそろ良いですか?」
脱衣所からヘリオスの声が聞こえて現実に戻る。
「あ……だ、大丈夫!」
脱衣所の方を見て言ったが、ヘリオスの足が見えた瞬間、体ごと顔を逸らした。
湯にヘリオスが入ってくる音が背後から聞こえる。
緊張しつつ待っていると、背中から抱きしめられた。
「開放的でよいですね」
無言で二度頷くセレーネの首筋に、ヘリオスの唇が這う。
「あっ……」
小さく漏れた声に、ヘリオスの唇が反応する様に動く。
「早速ですが、魔法を体験していただきますね」
ヘリオスはそう言うと、セレーネの股間に手を持っていく。
「え……魔法って……なにを」
セレーネの小さな抵抗を無視して、ヘリオスの指が割れ目から敏感な突起を探し出す。
するとすぐに滑るような感触が生じた。
「え……な、に?」
「魔法ですよ」
耳元でささやいた唇は、こめかみにキスを落とし、指は胸に移動して緩く揉む。
「あ、や……」
吸い付く様な感触に、セレーネは自らの股間に目を向けた。
しかし、そこには水面の揺らめきだけで、何も発見することは出来ない。
「ふふ、何か探していますか?気持ち悪いのでなければ良いのですけど」
「あっ……あぁ……」
吸い付いては離れる。まるで吸盤のような動きをしている何かが、敏感な突起を執拗に攻めている。
びくつく足に、跳ねる腰、それらを抑えることが出来ない。
「これ、魔法な、の?」
「そうですよ。水属性の魔法を練習中でしてね」
足をぴくぴくさせながら、セレーネは喘ぎ喘ぎ言う。
「だめ、吸っちゃ……だ……だめ……」
「おや、顔はダメとは言っていませんよ」
「そん、そんな……あっ、あっ……」
跳ねるセレーネの体を抱きしめながら、ヘリオスはその耳元で囁く。
「知っていますか?魔法使用中にいくことを覚えた体が妊娠した時、その子は高確率で魔法の力に目覚めて生まれてくるそうですよ」
びくんと跳ねたセレーネは、ぎゅっと力を入れて答えた。
「や、し、知らない……あぁ!」
知らないのは本当だった。元のセレーネが知らないだけなのか、ヘリオスの作り話かは不明だが、いずれにせよ、吟味している余裕などない。
背後から腰にヘリオスの手がかかる。
水の浮力でふわりと体が持ち上げられ、吸盤のような水の魔法が刺激を継続する中、そろそろとヘリオスに引き寄せられる。
「はぅ……あぁん……んん……」
ズブズブ入ってくるヘリオスに、体の芯が歓喜に震えるのが分かった。
ペロリと首筋を舐め上げられて、セレーネは一際大きく痙攣して絶頂を迎えた。
はぁはぁと息を荒くしているセレーネの首筋に、ヘリオスの息がかかる。
「ふふ、いきやすくなってきましたね」
満足そうな声に薄目を開けて少し振り返る。
ヘリオスの笑みが近寄ってきて、セレーネの唇、頬にキスをする。
「ヘリオスは、ちゃんと気持ちよくなってる?」
「もちろんですよ。あなたの中で蕩けそうです」
そう言われたセレーネは幸せそうに微笑む。
「それよりも、ほら」
ヘリオスの言葉に連動するように、止まっていた水の魔法が動きを再開する。
「ん!……っぅん」
「あぁ、また締まってきた」
熱い吐息が首筋にかかり、ゆるゆるとヘリオスの腰が上下し始める。
激しくないが、ぐい、ぐいっと中を刺激され、さらに水の魔法で快楽が増す。
「あっ……だめ、また……」
「それでは一緒に……」
背後から密着するようなヘリオスは、少し腰を浮かせて下から突き上げる。
ぱしゃ、ぱしゃっと水が跳ね、セレーネは体の奥深くにヘリオスを感じると同時に、高まる感覚を自覚した。
「ヘリオス……あっ……ヘリオス!」
「あぁ、セレーネ!」
互いの名を呼び合いながら、同時に絶頂を迎えた。
煌めく星も、鮮やかな濃紺の空も、今はどちらの瞳にも映らなかった。
「ふふ、気持ちよかったですね」
「うん……」
長湯でぐったりしたセレーネは、部屋に戻ってきてベッドに倒れ込んだ。
念願の温泉は嬉しかったが、熱気で体が怠いのだと言って、そのまま寝てしまいそうになっている。
ヘリオスはまだ濡れているセレーネの髪を、ゆっくり布で拭きながら撫でる。
「ヘリオスの手、気持ちいい……」
落ちそうな意識の中、そう呟いたセレーネ。
「それは、湯の中での事ですか?」
「ううん、今……安心する……」
頬を紅潮させて言うセレーネに、ヘリオスは小さく笑う。
「こんな事で喜んでもらえるのなら容易い事ですね」
いつも緊張していた前のセレーネを、ヘリオスはまだはっきりと覚えていた。
こんなに無防備に眠る姿を見せるなど、一生ないかもしれないと思っていただけに嬉しい言葉だ。
すうすうと寝息に変わっている事に気がついたヘリオス。その横にすべりこみ、背後から抱き寄せると、自らも目を閉じた。
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