元の世界には戻れない?戻れますけど。

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拐われた私。 一度目

この世界に召喚された理由

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ルシアスさんは不安でいっぱいの私に、この世界の事をとても丁寧に教えてくれた。

説明をする最中に私が怯えたり、不安がったりすると、その都度ぴたりと話を止めて私が落ち着くまで静かにしてくれた。

続けたり止まったり、そんな事を何度か繰り返した後、
スッと立ち上がって私の隣に座り、私の心が落ち着く様に背中を優しくそっと撫で続けてくれた。

強引にこちらの世界に私を呼んだ事は…どうかと思うけど。

この世界は定期的に異世界から“聖女”と呼ばれる存在を召喚して、蔓延する瘴気を浄化して貰っているのだそう。
聖属性の魔法は聖女にしか扱えず、それに似た魔法や魔術を編み出してどうにか世界が瘴気に呑まれるのをジワジワと防いではいるが、払うまでには至らない。
現状維持が出来ればいいが、やはりほんの少しずつ土地や空気が浸食していくのだそう。
その土地では作物も育たず生き物も瘴気に侵され魔物化するのだという。
たくさんの森や町や人が瘴気に呑まれて汚染されていった。
もうこのまま滅びる運命なのかと自暴自棄になるも、やはり諦めきれずに現在。

前回聖女を召喚して三百年も経過した事、それは異世界から人を召喚する事の非道さを各国が考えた結果だそう。
過去の召喚された聖女たちの残した日記などが残っており、知らない世界に召喚された事を嘆き悲しむ事が多かったそうなのだ。
そうやって少しずつ召喚することに消極的になったということだった。

召喚するしないは置いておいても、聖女を召喚する為には莫大な魔力が必要。
召喚するからと、何人もの魔導士を集めて魔力を注げば召喚出来るものでもないらしい。

魔力にも質があるそうで、混ざりものの魔力では聖女は召喚出来ないことが分かったのだった。
同じ質となると、とても難しいんだって。
聖女を百年ごとくらいに召喚していた時は、奇跡的に莫大な魔力量を持つ者が居たということだった。

それって奇跡っていうより、召喚出来る時にそういう人がこの世界に産まれるんじゃないかなあと思う。

魔力は血液のようなもので、同じ型であっても食べる物や生活によって質は違う。
少しでも違えば召喚陣は発動しない。
全く同じ生活や食事で質の均一化を図ったりする研究もされたそうだけど、今日ルシアスさんがたった一人で召喚するまで聖女召喚の陣が発動せず、成功する事はなかったそうだ。

しなければならなかった理由をしっかり聞くと、この世界が追い込まれ切羽詰まっていたのは、まだ子供な私でも分かった。

だからと言ってこんなことされて許せるかって言われたら、まだ許せないけど…。

でも、憎むことは違うと思った。

召喚する為にはルシアスさんの力が無ければ出来なかったらしい。
だからその力を使って私を浚って来たのはルシアスさんだと言われた。
もっと私を怒って叫んで嫌ってもいいんですよって言われたけど、ルシアスさんはこの世界を守る為にした事で…


多分もっと怒らないといけないのかもしれない。
でも、今この時間すら夢の中にいるようで。

ルシアスさんが丁寧に説明してくれる魔物だとか瘴気だとかも、全てがファンタジー過ぎて…
小説や漫画を読んで寝てしまったから、たまたまそんな夢を見た…そんな感じ。


ルシアスさんに責めてくれと言われても、困ってしまう。


ルシアスさんは、凄く…凄く優しい人なんだと思う。

…もし私にお兄ちゃんが居たら、こんな感じなのかな?って図々しくも思ったりした。

仮にお兄ちゃんが居たとしても、こんなに綺麗な男の子ではないのは間違いない。

ルシアスさんは、びっくりするくらい綺麗な人だ。
カッコイイというよりも、綺麗が似合う男の人だ。

あの白い広場では、ずっと怖くて何も考えられなかったけれど、落ち着きを取り戻してきた今は、じっくりとルシアスさんを観察出来た。

寄り添うようにして隣に座られている今は物凄く近い。


目元より少し長めの前髪はサラサラとしていて、銀色に輝いていた。
白っぽい金色とかじゃなくて、とってもハッキリとした濃い銀色だ。
凄く艶々キラキラと光を反射して輝いてる。

(神々しい…ってルシアスさんの為にある言葉だな。)

生きて来た人生の中で間違いなく一番美しい人だ。
失礼になるかもと思いながらも、目が離せない美しさ。
何度もバカみたいに見惚れそうになって、ハッとするの繰り返しだった。


透き通った海のような緑と青が混ざり合った瞳は驚く程に透明で、とっても綺麗で……
何だか吸い込まれそうで、ずっと見てしまう。
美しい海を綺麗だなあとずっと覗き込んでるような気持ち。

少し前に興味かあって図書館で借りた鉱物と宝石の大辞典という本に載ってた“クリソベリル”という鉱石のグリーンクリソベリルにそっくりだった。

その高い透明度を誇るとても希少な宝石は、悪魔の目から身を守ると伝えられているんだと辞典に書いてあった。
グリーンクリソベリルは写真ですら魅きつけられて覚えていたのに、
その生きた実物のようなものが、人の両目に全く似た輝きを放って存在しているなんて。

いや、写真で見たあの宝石よりもっともっと透き通って綺麗だ、ずっと見つめていたいくらい。


私がずっと見つめている事に気付いているだろうに、それを嬉しそうににっこりと笑って許してくれるから、
私も遠慮を忘れて余計にまじまじと見てしまった。

ジロジロと人を見るのはとても失礼な事だって、人を嫌な気持ちにさせるんだよって、お母さんに言われたのにな。

じっと見るつもりは無くても、気づいたら見てしまうんだから、こういう時はどうしたらいいの…

テレビや映画ですら見た事ないような綺麗な人を前にすると、失礼な事だと分かっているのに、我慢する事ができないんだろうなって思った。

ルシアスさんが、じっと見ても怒らない心の広い優しい人で本当に良かった。


この時の私は幼くてちょろかったんだろうな…と今なら思う。

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