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より濃密な表現を抽出せよ!短歌作りのすすめ
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二つ目の訓練は、短歌作りだ。
これは結果論なので、話半分で聞いてほしい。かの流行病の時に漂った濃厚な死の気配に耐えかねて、死に際には辞世の句をこさえようと、私は短歌の通信講座を習い始めた。これが、後々小説作りにも役立っているように思えている。
「なぜ長編を書くために短歌を?」と拍子抜けするかもしれない。長編の各エピソードを魅力的な掌編として機能させるには、表現を削ぎ落とし、核となる感情や情景を鋭く抽出する必要がある。思いつくだけ全部書くのではなく、これぞというものを取捨選択する作業を磨くのだ。
よく知らない人のために、短歌について簡単に説明する。
短歌は「五・七・五・七・七」という限られた形式で、一つの物語を表現する。この訓練は、文章がだらしなく長くなりがちな私のようなにわか物書きにとって、エピソードや描写をシャープにするための、表現のダイエットのようなものだった。
講座では、まず歌にしたい情景を文章で説明し、その隣に短歌を書き出す。実際に私が提出した例を挙げてみよう。
①聾学校の生徒たち
情景説明:バス停で聾学校の生徒たちがバスを待っている。彼らは大いに盛り上がっており、非常に楽しそうなのだが、手話が読めない私には、それが不思議な疎外感ともどかしさを抱かせた。
自作:バス停で笑い転げる子供らの手話が読みとれずもどかしい午後
添削後:バス停で笑い転げる生徒らの手話が読めずにもどかしい午後
「子供」よりも「生徒」とする方が、聾学校という背景のニュアンスがより正確に伝わるとのことだった。
なるほど。こうした微細な言葉の選択が、物語の解像度を左右するのかもしれない。
せっかくなので、もう一つ。
②棺の中の故人
情景説明:閉所恐怖症だった故人は、生涯、飛行機に乗ることはなかった。そんな故人が、さらに狭い箱である棺に入って安らかに眠っていることで、改めてこの人は死んだのだと実感させられた。(それと同時に、これまで自分の中で)漠然としていた死の概念(幸か不幸か、私が26歳になるまで、周りの人間が死ぬ事が無かった為)にハッキリと形を与えられた気がして、じっと見てしまった。
※この説明が既に長くて辿々しいのは目をつぶって欲しい。
自作:閉所恐怖症だった故人が安らかに眠る棺にじっと死を見る
添削後:閉所恐怖症なりし故人が安らかに眠る棺に死をじっと見る
「じっと」という副詞を「見る」の直前に置くことで、視線の強さが際立つとのこと。
短歌は基本的な文章スキルも磨かせてくれる。必要な情緒だけを、鮮やかに立ち上がらせることができるようになる。
こんな感じ。
ここに載せたのは、これでもかなりこなれてきた頃の作品なので、習い初めの頃は「アイディアと着眼点は認めるが、それに伴う短歌スキルがない」というかなり耳が痛い総評をいただくことがあった。
短歌で培った表現の凝縮力は、ストーリーの描写を冗長にさせず、必要な情報と情緒だけを鮮やかに立ち上がらせる力として大いに役立っているように思う。
私は仕事の休憩時間に毎日ひとつ短歌を作っていた。「57577」という専用アプリや、毎日歌会のような日替わりお題と発表の場を設けているところへ、思いつくだけ投稿した。
このランダムなお題形式も、アウトプットする上で非常に刺激的だった。お題として提示されなければ、考えもしなかったであろうことについてあれこれ頭を悩ませる時間も悪くない。
もちろん、出ない日は出ない。10分考えてダメなら潔く諦める。そのくらいの気軽さで言葉を削ぎ落とす習慣を持つことが、結果として重厚な物語を支える地味な筋トレとなりえるのではないだろうか。
あなたも一首、詠んでみては?
これは結果論なので、話半分で聞いてほしい。かの流行病の時に漂った濃厚な死の気配に耐えかねて、死に際には辞世の句をこさえようと、私は短歌の通信講座を習い始めた。これが、後々小説作りにも役立っているように思えている。
「なぜ長編を書くために短歌を?」と拍子抜けするかもしれない。長編の各エピソードを魅力的な掌編として機能させるには、表現を削ぎ落とし、核となる感情や情景を鋭く抽出する必要がある。思いつくだけ全部書くのではなく、これぞというものを取捨選択する作業を磨くのだ。
よく知らない人のために、短歌について簡単に説明する。
短歌は「五・七・五・七・七」という限られた形式で、一つの物語を表現する。この訓練は、文章がだらしなく長くなりがちな私のようなにわか物書きにとって、エピソードや描写をシャープにするための、表現のダイエットのようなものだった。
講座では、まず歌にしたい情景を文章で説明し、その隣に短歌を書き出す。実際に私が提出した例を挙げてみよう。
①聾学校の生徒たち
情景説明:バス停で聾学校の生徒たちがバスを待っている。彼らは大いに盛り上がっており、非常に楽しそうなのだが、手話が読めない私には、それが不思議な疎外感ともどかしさを抱かせた。
自作:バス停で笑い転げる子供らの手話が読みとれずもどかしい午後
添削後:バス停で笑い転げる生徒らの手話が読めずにもどかしい午後
「子供」よりも「生徒」とする方が、聾学校という背景のニュアンスがより正確に伝わるとのことだった。
なるほど。こうした微細な言葉の選択が、物語の解像度を左右するのかもしれない。
せっかくなので、もう一つ。
②棺の中の故人
情景説明:閉所恐怖症だった故人は、生涯、飛行機に乗ることはなかった。そんな故人が、さらに狭い箱である棺に入って安らかに眠っていることで、改めてこの人は死んだのだと実感させられた。(それと同時に、これまで自分の中で)漠然としていた死の概念(幸か不幸か、私が26歳になるまで、周りの人間が死ぬ事が無かった為)にハッキリと形を与えられた気がして、じっと見てしまった。
※この説明が既に長くて辿々しいのは目をつぶって欲しい。
自作:閉所恐怖症だった故人が安らかに眠る棺にじっと死を見る
添削後:閉所恐怖症なりし故人が安らかに眠る棺に死をじっと見る
「じっと」という副詞を「見る」の直前に置くことで、視線の強さが際立つとのこと。
短歌は基本的な文章スキルも磨かせてくれる。必要な情緒だけを、鮮やかに立ち上がらせることができるようになる。
こんな感じ。
ここに載せたのは、これでもかなりこなれてきた頃の作品なので、習い初めの頃は「アイディアと着眼点は認めるが、それに伴う短歌スキルがない」というかなり耳が痛い総評をいただくことがあった。
短歌で培った表現の凝縮力は、ストーリーの描写を冗長にさせず、必要な情報と情緒だけを鮮やかに立ち上がらせる力として大いに役立っているように思う。
私は仕事の休憩時間に毎日ひとつ短歌を作っていた。「57577」という専用アプリや、毎日歌会のような日替わりお題と発表の場を設けているところへ、思いつくだけ投稿した。
このランダムなお題形式も、アウトプットする上で非常に刺激的だった。お題として提示されなければ、考えもしなかったであろうことについてあれこれ頭を悩ませる時間も悪くない。
もちろん、出ない日は出ない。10分考えてダメなら潔く諦める。そのくらいの気軽さで言葉を削ぎ落とす習慣を持つことが、結果として重厚な物語を支える地味な筋トレとなりえるのではないだろうか。
あなたも一首、詠んでみては?
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