掌編書きが10万字超えの小説を書けるようになるまで

小鳥遊愚香

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長編のディテールを支える「頭の中の省略癖を無くせ」

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 一つ目の訓練。それはタイトル通り、頭の中の省略癖を無くすこと。つまり日常的な思考や行動の言語化の徹底である。

 長編小説が説得力を持つかどうかは、大きな事件ではなく、いかに些細な日常の描写に真実味があるかにかかっていると思っている。

 例えば、真面目で几帳面な設定のキャラクターが、集合場所に遅刻してくるようなことがあれば、それだけで既に何かしら事件の予感を作れる。

 この「真面目で几帳面な設定」に説得力を持たせるのは、地の文による説明ではない。物語を読み進める読者へのご褒美として、キャラクターの情報を少しずつ提供していくべきなのだ。

 何気ない、ともすれば退屈なシーンで見せていくのがいい。そういう退屈なシーンでは、我々筆者もまた、筆が乗らないからだ。何を書けばいいか分からないと言い換えてもいい。

 というわけで、貸してあげたハンカチをちゃんと洗ってアイロンをかけて返してくれるとかそういうサブストーリーを差し込んでかさ増し&キャラクター設定を開示するのだ。

 そろそろ「真面目で几帳面」のサブストーリー案が浮かばずに冷や汗をかき始めた方もいるのではないか?

 登場人物がコーヒーを飲む、道を歩く、誰かを待つ。その一瞬一瞬を、我々は案外頭の中で省略してしまう。

 この省略癖こそが、長編の余白を薄くする元凶だと私は思い至った。

 情報は1冊のノートにまとめなさい/奥野宣之/ダイヤモンド社
 を参考に、私は、自身の行動と周囲の情景を、できる限りで言語化する訓練を始めた。

 実際につけていた日記の一部を引用する。

230421
エドワード・ゴーリー展で見た折り畳み式の固形絵の具に心惹かれて似たようなものを探し、Amazonのカートに入れたが、同じ物を買ったところで、自分がゴーリーになれるわけではないのだ。

230421
4/28は職場のマスコットキャラクターの誕生日だ。しかしこちらはベテラン2人が辞めた後、なかなかその穴が埋まらないままさらにもう1人辞めて行った直後である。正直、お祝いムードどころではなくて、「アレって祝われるほど愛されてるんですか?」と毒づいてしまった。

 全く同じ日、全く同じ人間だというのに、この感情のブレ。

 毎回毎回こんなに長々と書いたわけではなく、日によっては「カバンから500円玉が出てきた。ラッキー」しかない日もある。

 それでいいのだ。そして何より、続けることが大切だ。

 指南書はよく「とにかく完成させろ」というが、それは何も小説の形でなくていい。日本語は句点をつければ完成なのだから。

 夜に見た夢も、覚えている限り記録したので、それも引用する。

230428 夢
受験面接を控えながら、ホームセンターでガラス細工を見ていた。老害に絡まれて、左目の中にガラス細工を入れられる。痛みや恐怖心はなく、冷静にガラス細工を取り出して、絶対に殺してやると思ったところで目が覚めた。


230429 夢
なぜか学生に戻っていた。高校の時の同級生にいじめられて、何か良くないことに加担するように迫られていた。首謀者に言い返す、机の中身をぶち撒けて暴れる、直接的な暴力などでやり返したが、効果はなかった。教室の居心地の悪さ、授業中に教師にバレないようにこっそりこちらへ指示してくる首謀者の感じがヤケにリアルだった。
恋人が居たが、これは同級生でもなんでもない夢の中だけの人物だと思う。教室は居心地が悪いが、彼の存在が救いだった。

 こんな感じ。全ては筆が乗らない時のネタ帳として残しておくイメージだ。

 この訓練は、自分の生活を客観視する視点を鍛えるだけでなく、長編で求められるディテールの解像度を飛躍的に向上させてくれたように思う。これが、サブクエストの核となるリアリティの担保と量産の源泉となった。

 この訓練から得られた教訓:物語の余白は、私小説的な『ディテールの解像度』で埋める。
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