ネグレクト少年の拾い食いとヤンデレ少女の餌付け

小鳥遊愚香

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僕の家

みすと

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 浴室の椅子に座っている。
 目の前にある鏡は湯気で曇って、僕の顔は輪郭すら分からない。

「じっとしていて。あんたは昔から、すぐにふらつくんだから」

 背後からママの声が聞こえる。
 泡立てられたタオルが肩に触れ、胸をなぞる。
 お腹から、その先へと下りていく途中で、反射的に身体をよじる。
 無駄なことと頭ではわかっていた。

「ほら、動かないの」

 触れられたくない境界線を、ママはお世話という免罪符を持って平然と越えてくる。

 抵抗は許されない。これは介助であり、正しい親子の形なのだから。
 屈辱で頭がのぼせていく。目眩がした。

 どこを洗われているのか、途中から分からなくなった。
 ママの手がどこに触れようとしているのか。
 そもそもなぜこんな状況になったのか。
 何も分からなくなる。
 分からなくなっていることが、いちばん怖い。

 怖いのに、ママはずっと優しい。
 僕の身体を撫でる手つきも、かけてくる声の調子も。
 懐かしい。
 僕が、疑わずに好きでいられた頃の優しかったママみたいで。

 ねえ、そんなに?
 そんなにこの傷はママにとって特別なの?

 目の奥が、急に熱くなった。
 瞬きをした拍子に、涙が一粒、頬を伝って落ちる。

 どうして泣いているのか、自分でも分からない。

 分からないことが怖くて、でも、そのままではいられなくて。

「……っ」

 喉が鳴る。

 ママに気づかれる前に、僕は理由を用意しなければならなかった。

「……泡、目に入っただけ」

 自分の声が、ひどく遠く聞こえた。

「ほらもう。だから言ったでしょう、動かないでって」

 ママは少しだけ呆れたように言って、シャワーの角度を変え、温度を自分の手で確認してから、僕の目元を丁寧に流す。

 心配している。

 ちゃんと、正しく。
 それがいちばん苦しい。

 涙は止まらない。
 シャワーで流れた水と混ざっていく。

 シャワーの音に紛れるように、ママがぽつりと呟いた。
「……お兄ちゃんに、似てきたわね」

 悲しいからじゃない。

 屈辱だからでもない。

 泡が、目に入っただけ。

 そういうことにしておかないと、いよいよ僕はここにいられなくなってしまう気がした。
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