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第138話 さてと、どうにか完成しましたね。

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前回のあらすじ:こちらが知らぬ間に、勝手に会談の場所にされていた。




 ラヒラスに製作過程を実地見学も兼ねて伝えてから2日後、予定では3日後と言っていたにもかかわらず、頼んだ魔導具を完成させたことを伝えに来ていた。


「アイス様、頼まれたもの完成したから確認して。」


「予定では明日じゃなかった?」


「手伝いの助手が張り切ってたからね。時間がかかると思ったのは、材料を集めるのにそのくらいかかりそうだと思ってたからね。あっさりと集めてきたもんだから、完成が早くなったんだ。」


「なるほど。ラヒラスが作ったやつだから、心配はしてないけど、逆にこちらの意図がしっかり伝わっているかの確認をしておきたいんだけど。」


「もちろん、バリバリ動かしてみて。すぐに壊れるようなヤワなものを作ったつもりはないから。」


 そう言ってから、助手として手伝っていたメンバーが、ビール用の魔導具を運んでいた。予想以上にデカい代物だったよ、、、。基本的には3、4人で1台を運んでいたけど、約1名1人で運んでいた化け物がいた。ご存じアインである。他の人員が重そうな顔をして複数人で運んでいるのに、やつだけは1人で涼しい顔をして運んでいた、、、。後で試しに重量軽減のスキルを使って運んでみたけど、それでも結構重たかったのに、アインはそういったスキル無しで何でも無いような顔して運んでいたなあ、、、。


 ビール用の魔導具は、いわゆるオールインワン型とでもいうべきものだった。一番上の段は、大麦を発芽させ、発芽が終わったら、乾燥させることもできるようだ。乾燥が終わったら、二段目に落ちるようになっているそうだ。


 二段目は、乾燥させた麦芽を粉々にする臼が回転する場所らしい。すり潰した麦芽は三段目に落ちるようになっている。もちろん、魔導具の臼なので、カスは臼に残らず下に落ちるようにできている。平たく言うと、魔導具の臼をそのまま二段目に設置したようなものらしい。


 三段目は、粉になった麦芽に温水を入れて、糖に変える場所のようだ。今回は温水を直接入れるようにしているみたいだけど、普通の水を入れてから温めるやり方のパターンも一応考えているらしい。攪拌する羽に網を付けて、同時にカスも取り出すことも考えたらしいけど、多少時間がかかっても、ザルのように下でカスを貯める方が、甘い糖が生成されるし、そのカスが肥料として使えることがわかったので、糖化が終わってから少しずつ下の段へと落とす方式にしたようだ。


 三段目までは、全ての魔導具で共通しているようで、四段目からそれぞれ異なる装置になっているそうだ。それは、冷やすものと、熱くするものとの2種類らしい。この四段目で、じっくりと糖をアルコールに変化させ、ここでも次の五段目に通すときに、網で濾過するようだ。この四段目のカスは、酵素として半分くらい再利用するみたいだ。残りは使い途を考えておきましょうかね。


 で、次の五段目だけど、ここには壺が置かれており取り出せるようになっている。五段目にビールの元が落ちきったら自動的に封がされるようになっており、扉を開けて壺を取りだして、それぞれ倉庫に保管するようになっている。保管場所なんだけど、領民達が張り切って建築したようで、すでに完成させていた。ちなみにその場所は、フロスト城だった、、、。現在建築中だった箇所をほっぽり出して最優先で作ったようだ。


 保管場所は冷たくなるように作っておいたそうだ。私はビールには詳しくないので、本当なら常温管理の方がいい種類もあるかもしれないけど、いかんせん、ホップは入っていないので、冷やしておかないとそれこそ日が保たないと思うので、低温発酵であろうと高温発酵であろうと、完成品は例外なく冷蔵庫で保存しようと思っている。


 そんなわけで、起動開始、といきたいところだけど、ここは領主館、しかも私の私室である。現在発酵待ちの分だけなら、ここでもいいのだけど、魔導具で大量生産となると、流石に勘弁してもらいたい、ということで、魔導具の起動は別の日に持ち越しとなった。


 ビール用の魔導具と領民達が撤収したところで、残ったのは私とマーブル達だけになったので、ミードについて確認してみる。ついにシュワシュワが聞こえなくなったので、少し開けてみると泡も出なくなっていたので、恐らくこれで完成であろう。ということで、試飲といきたいところだけど、失敗していたら厳しいので、カレーの味見さながら、少し掬って軽く舐めるような感じで試してみる。


 色については多少濁りがあった。少し飲む感じで味わってみると、かなり濃厚な甘さを持っているけど、そこはアルコールである、しっかりと酒の味を出しつつもハチミツ感はしっかりと出ていたが、何か少し雑味があるような気がした。少し失敗したかなと最初は思ったけど、濁りについて気になったので、急遽別の壺を用意してもらって、先日のビールのように、濾過を試してみた。


 濾過が完了して、先程のように少し掬って色を確かめると、綺麗な黄金色をしており、しっかりと透明感が出ている。試しに少し飲んでみると、今度は雑味がなくなっておりこれは大成功といえた。マーブル達にもお裾分けということで、少しあげると、マーブルはそこそこ、ジェミニは大喜び、ライムは味というより成功したことを喜んでいる感じだった。


 成功してホッとしてはいるけど、考えてみたら、水もハチミツも最高級、作り方がシンプルであるので、成功しないわけがないのだ。無事に完成したので、他の壺も泡が止まっていることを確認してから、それぞれ別の壺を使って濾過していく。


 他の壺も濾過が終わった頃、予想通りやつが来た。そう、我らが皇帝であるトリトン陛下である。ちゃっかりリトン公爵夫妻も一緒である。不幸中の幸いだったのは、来たのがこの3名だけだったことのみ、、、。


「おっ、侯爵、ついに完成したらしいな、ガッハッハ!!」


「おお、今か今かと待っていたよ、フロスト侯爵。」


「フロスト侯爵がお作りになったものですからね、どうしても期待が大きくなりますわよね。」


「・・・試作一号でありますけど、お土産に持って帰られます?」


 それほど量はできてないから、持って行かれると困るんだけど、こう言っておかないとマズいよね。と思っていると、意外な返事が返ってきた。


「いや、折角の試作一号なんだから、持って帰るわけにはいかねぇだろ。やはり、ここにいる領民達にも振る舞ってやらねえとな!」


「ですな。領民達を差し置いて我々だけで飲んでしまうのはどうかと思いますし。」


「ええ、折角のフロスト領で作られた初めてのお酒、、、。みんなで喜びを分かち合う方がいいに決まってますわ!」


 結局飲むのね、、、。まあ、いいか。みんなにも振る舞おうとは思っていたしね。とはいえ、1壺だけは、領民には放出せずに取っておく予定だ。この1壺は材料を提供してくれたシロップ率いるハニービーや濾過する網を用意してくれたヴィエネッタ率いる蜘蛛達へのお裾分け用だ。


 というわけで、やはり領民全員での宴会となったわけですよ。そりゃあ、今まで以上に盛り上がりましたよ、ええ。もちろん、試作一号のみでは全然足りないわけですよ。そしたら、冒険者ギルドが大量の酒を用意してきたではありませんか。しかも、費用はこっち持ちらしい、、、。話を聞くと、フェラー族長とカムドさんが、既に手を打っていたらしく、冒険者ギルド経由で大量に購入していたそうです。


 かなりの金額が投入されたようですが、基本的にフロスト領ではお金を使うことはそれほどないので、予算は潤沢にあるそうなので、この程度の出費は痛くもかゆくもないそうです。2人に投資の才能があったとは、と感心していたら、そうではなくて、私とマーブル達が倒した魔物達の素材の利益がもの凄いらしくて、逆に使い途がなくて困っていたところ、このような結果となったようです。ってか、君達普段、あまりお金使っていないのかい? 一応、一部は私の小遣いとしてもらっているけど、残りは領地の運営にガンガン使ってくれても構わないんだからね。


 ちなみに、試作一号のミードは最後に出てきた模様です。というのも、予想では、先にそれを飲んでしまうと他の酒では満足できなさそうだから、先に大量に購入した酒類を消費してしまおうということらしいです。そこまで期待させ過ぎると、後が怖いな、、、。


 はい、その考えは杞憂に終わりました。どの領民達(子供達を除く)も、完成したミードを絶賛しており、ミードを出す前に先に用意しておいた酒を出す差配をしたフェラー族長に感謝してたぐらいだった。我らが陛下もドワーフ族のガンドさんも大絶賛だった。


「おい、フロスト公爵! こいつは素晴らしい出来だな!! 俺はこういった甘いものより、酒精の強い辛めの酒の方が好きなんだが、こいつだけは例外になりそうだな!!」


「おお、陛下もですか! ワシも、陛下と同意見ですわ!」


「ほう、ドワーフのお前も同じ意見か!!」


「ですな! これだけの上質の味、今まで味わったことがありませんわい!!」


 ・・・何か同じ酒飲み同士、もの凄い意気投合しているんですが、、、。まあ、仲違いするよりはずっと良い結果ではありますけどね。


「アイスさん! ワタクシもこのような美味しいお酒飲んだことありませんわ!! 流石はアイスさんですわね!」


 アンジェリカさんがこちらに来て手放しで褒めてくれる。いや、そこまで喜んでもらえるのは嬉しいんだけど、何か様子が変である。


「でも! アイスさんは! 何故! いつもワタクシ達がいない間に! このような、楽しいことを勝手に始めてしまうんですの!」


 ありゃ、絡まれたか、、、。って、あれ? 酔ってる? そう聞くと面倒なことになりそうだから敢えて聞かないけどね、、、。


「王女殿下、、、。アイスさん、ゴメンね。王女殿下って、かなりお酒強いんだけど、みんなにつきあってもの凄い量飲んでるから、、、。」


「そうなんですか? それで、みんなにつきあって飲むって、一体どれだけ、、、?」


「ほぼ領民の全てですね。その上、ガンドさんだけでなく、ロックさんやボーラさん達とも飲み比べ勝負までしてしまって、、、。」


 何? 全員それぞれ飲み合って、その上、酒が超強そうな洞穴族と飲み比べだと? どれだけ酒強いんだよ。


 結局これ以上絡まれることなく、アンジェリカさんはセイラさんとルカさんに連れて行かれたようだ。


 酔いつぶれた者も大勢出てしまったが、それ以外はこれといった問題もなく無事お披露目が終わった。みんなと一緒に飲んで少しご機嫌のマーブル達を見てホッコリしていると、トリトン陛下とリトン公爵がこちらにやってきた。


「フロスト侯爵よ、さっきも言ったが、これは予想以上に素晴らしい出来の酒だな。」


「ありがとうございます。そう仰って頂けると、こちらも作った甲斐がありましたよ。」


「それでだ。フロスト侯爵に話があるんだ。」


「リトン公爵、話というと、この酒を大量生産して他国に広めたりとか?」


「いや、その逆かな。」


「逆、ですか? 何故?」


「ああ、逆だな。陛下もそうみたいだけど、私もこれほどの酒は今までに飲んだことがなかった。ハチミツ酒自体は、貴重ではあるけど、ハチミツが採れる国なら、どこでも作っているような代物だ。」


「まあ、そうでしょうね。ハチミツと水を入れるだけで作れますからね。」


「そう、それを踏まえても、このハチミツ酒は群を抜いて美味いのだ。ということで、これは外交の場などで利用させてもらいたいんだ。」


「それは構いませんけど、一応、この酒って領民達用に作ったものですから、領民達には飲めるようにしますけど、それでもいいですかね?」


「それはもちろん構わない。こちらの希望は、ここ以外では飲めないようにしてもらうことによって、外交を有利に進めていきたいんだ。」


「まあ、元々売る気はなかったので、それは構いませんよ。」


「そうか。それは助かる。けど、、、。」


「けど?」


「個人的には少し回して欲しい、、、。」


「・・・わかりました。今後も生産していくので、その時に欲しければ仰ってください。」


「ありがとう、侯爵。」


「おい、侯爵! 俺の分も忘れないでくれよ!!」


 お、ま、え、ら、、、。まあ、いいか。どうせ、そのつもりだったし。


「しかし、そうなるとエールの完成が待ち遠しいですな、陛下。」


「そうだな!! 期待してるぜ、侯爵!!」


 そのつもりではあったけど、催促されると何か少し腹が立った自分がいた。

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ロック、ガンド、ボーラ「「「も、もう飲めない、、、。」」」

アンジェリカ「さあ、次はどなたですの!?」

領民達「(何でドワーフたちと飲み比べて勝てるんだ!?)」
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