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第34話 ほう、夕食会ですか。
しおりを挟むホーク亭に戻るとメルちゃんがいたので、今日の夕食は不要と伝えた。食事代を返却しようとしてきたので、突然のことだからと無理矢理納得して返却代を収めてもらった。今現在は5と6の鐘の間か、微妙だな。いくら暇とはいえ、また短時間でクエストやるのは流石にアレだし。そうだ、折角の美人との食事会だ。少し早いがねぐらに行って風呂と洗濯を済ませますか。ついでにスガープラント植えるか。あとは、ジェミニの解体を鑑賞しますか。
「マーブルとジェミニ。微妙に暇なので、ねぐらに行きます。ねぐらでは風呂と洗濯はもちろん行いますが、スガープラントを植えたりします。あとはジェミニにワイルドボアの解体をとりあえず1体お願いしたいと思いますが、どうでしょうか?」
「ミャー!」
「行くです。ボマードさん達の解体を見てパワーアップしたワタシのテクニックをご覧じろです!!」
マーブル達も賛成してくれたので、早速行ってみた。ねぐらに戻ると、早速スガープラントを植えに行く。流石に2日くらい経っているので多少しおれてはいるが、実験も兼ねているため想定の範囲内だ。別の実験としていくつか冷凍してある。残念ながら解凍していろいろ確かめるほど時間はない。ジェミニの解体ショーがあるし、入浴と洗濯も済ませておきたい。
ジェミニの解体は、ハッキリ言って見事の一言だった。見た目は普通のウサギなのに、ワイルドボアの巨体を裁ちバサミが布を切るごとくスパスパ切っていく。殺人ウサギの別名は伊達じゃなかった。解体が終わると、そこには毛皮と牙と内蔵など綺麗に分けられていた。ちなみに5分程度だった。マーブルもお見事! と言わんばかりに「ニャー!!」とジェミニに声をかけていた。ジェミニも満足げだ。予定より時間に余裕ができたので、入浴と洗濯は結構のんびりできた。
入浴と洗濯、着替えを済ませてホーク亭の部屋に戻る。少し余裕を持って準備ができたので、ゆっくり支度をすませてメルちゃんに挨拶した後、ホーク亭の入り口でアンジェリカさん達を待った。そういえば、この辺の気候ってどうなっているのだろうか? 日は落ちてきているが、あまり寒さは感じない。まあ、寒くても左右のモフモフのおかげで首は温かいだろう。モフモフを堪能していたら、アンジェリカさん達が来た。
「お待たせいたしましたかしら?」
「いえ、丁度いいタイミングだと思います。」
そんな遣り取りをしているときに、丁度7の鐘が鳴った。本当にいいタイミングだ。私には無理かな。
「遅くなりましたが、紹介しておきますわ。こちらの方はセイラ。我が戦姫の斥候兼後衛をしていますの。」
「セイラだよ、よろしくね。」
「こちらの方は、ルカ。こちらも後衛をしていますの。」
「私はルカ、よろしく。」
「ご紹介ありがとうございます。では、私の方も自己紹介を。私はアイスと申します。こっちの猫はマーブル、ウサギはジェミニといいます。以後お見知りおきを。」
「詳しいことは、夕食をいただきながらにしましょう。では、案内いたしますわ。」
そう言うと、アンジェリカさん達はくるりと優雅に後方に方向転換した。うーん、洗練されていますな。どこかのご令嬢といった感じですかね。メンバーの2人は護衛といったところでしょうか。セイラさんはショートカットの可愛らしい感じだ。ルカさんはフードをかぶっているから髪型などはわからないが、全体的に幼い感じだ。女3人パーティでお嬢がリーダーで元気っ娘と無口なロリは定番といっていいのではないだろうか? 普通なら恋愛フラグキターーーー!! と叫びたいところだろうが、なぜかそういった感情はわいてこない。念のために言っておきますが、私にはウホッというものはありませんよ。立派にノンケですからね。
アンジェリカさん達に付いていくこと5分くらい。表通りからけっこう外れたところにその店はあった。いわゆる隠れた名店なのだろう。そう、思いたい。念のため、一緒に夕食とはいえ何が起こるかわからないので警戒はしている。その警戒の網にかかったのが5名ほど。こちらに敵意を感じられる。この5人が戦姫達とつながっているか、そうでないかは様子見だ。戦姫の3人には彼らと連絡を取るそぶりは見られない。何か魔法的な通信で遣り取りしているのであれば、マーブル達が気づくはず。とはいえこれから夕食だ。気配探知は解かずにおくが、今はメシだメシ。
「こちらですわ。」
アンジェリカさんが案内してくれた。
「いらっしゃい、アンジェリカちゃん達。今日はお連れさんも一緒かい? 珍しいねぇ。」
「ええ、明後日のクエストで同行する方ですの。」
「本当? それだけの関係?」
「な、何を言っておりますの? それだけの関係ですわよ。余計な詮索は止めてちょうだい!!」
「ええ? だって、アンジェリカちゃん、いつも来るときは3人だけで、他の人連れてきたことないでしょ、そりゃ、そう考えちゃうでしょ。」
女将さんらしき人はニヤニヤとアンジェリカさんをいじっている。少なくとも私もクエストの同行者としか見ていない。もっとも、アンジェリカさん達の目当てがマーブルとジェミニということなら合点がいく。中年且つ見た目も冴えないオッサンに興味は沸かないだろう。
「そ、それよりも紹介いたしますわ。こちらはアイスさん、明後日のクエストに同行してくださる方達ですの。」
「アイスです。美味しい夕食を頂けると窺い、親睦会を兼ねて参加いたしました。以後お見知りおきを。あとマーブルとジェミニです、こちらもお見知りおきを。」
「ニャア!」
「キュウ、キュー(ジェミニです、よろしくです!!)!!」
「まあ、ご丁寧にどうも。猫ちゃんもウサちゃんも自分で挨拶できるのね、賢いわね。私はジュディ、ここの店『ご飯屋』の店主よ。気に入ってくれたら贔屓にしてくれると嬉しいわ。」
「お昼も営業してます?」
「ええ、うちはお昼と夕食の時間帯がメインね。残念だけど酒類は用意してないからね。あと、うちは持ち帰りも受け付けているから。気に入った品は持ち帰り注文してくれるとありがたいわ。」
「おお、そうですか。それはありがたいですね。ちなみに私は酒飲みませんので問題なしです。」
「そう、じゃあ、うちの料理を楽しんでいってね。」
「ありがとうございます。楽しみにしております。」
テーブルに案内された。店内はそれほど広くなく、カウンター席が5席ほど、テーブル席がいくつかといったところだ。今日は予約というか貸切とのことで、4人掛けのテーブルをつなげた感じで席が用意されていた。マーブルとジェミニには椅子の上に箱みたいなものが置かれた特別な椅子を用意してもらった。案外しっかりしていてほとんど揺れがなかった。聞くと、たまにペット連れのお客さんが来るらしく、大きさに応じて高さも変えられるそうだ。やるな、ご飯屋。
席について料理を待っている間に改めて自己紹介が行われていた。セイラさんの職は盗賊で、ルカさんの職業は魔法使いだそうだ。戦姫は全員Bランクのハンターとのことだった。私の職業がポーターということに疑問を抱いていたが、ギルドカード(隠蔽済み)を見せると3人とも驚いていたがとりあえず納得した。
職業スキルについて情報交換がされた。ポーターには重量軽減のスキルがあることを伝えた。といってもポーターって私しかなれないんだよね。仮に他の人がポーターになってしまったら人生詰むよ、本当に。こちらの説明の後にヴァルキリーの職業について聞くことができた。ヴァルキリーは前衛職ではあるが、回復魔法も使えるそうだ。防御しながら対象にも回復魔法をかけたりできるそうだ。鍛えるのが大変そうだと言ったら、やはりかなり大変だったらしい。日頃の鍛錬のキツさから始まり、愚痴は延々と続きそうだったが、運良く料理の方が出てきてくれたので話は一旦中断となった。
出てきたのは大皿料理で、どれも美味そうだった。マーブルとジェミニも食べたそうにしている。でも合図があるまで待っているのは偉い。流石はうちの自慢の猫達だ。
「では、みなさん、今日の出会いに乾杯!!」
「乾杯!!」「ミャッ!」「キュウ!」
アンジェリカさんの乾杯のかけ声にみんなが一斉に応じる。マーブルとジェミニも応じたのは流石だ。乾杯の後、飲み物を頂く。これはオレンジジュースか? 甘さの中に酸味と多少の苦みが混じる。これは間違いなく手で搾ったやつだ。マーブル達には皿で出されていて、美味しそうに飲んでいた。
「これは、何のジュースですか?」
「オレンジという黄色っぽい果実を搾ったジュースですの。ここに来たら、これを頂かないと始まりませんのよ。」
まんま、オレンジかい! 異世界だから違う名前を期待していたのだが、まあ、わかりやすいからいいか。大皿料理の方も手をつける。平たく言うと、唐揚げとサラダとパスタみたいなものだった。パスタはペンネタイプのやつだ。どれも絶品だった。マーブルとジェミニに取り分ける。マーブルとジェミニはこれも美味しそうにガツガツ食べていた。ああ、ほっこりする。そんなことを考えていると戦姫の3人も同じ事を考えていたらしく、思わず口に出していた。
「ああ、なんて可愛らしい子達なんでしょう。これを見ることができただけでも今日の夕食会は大成功のようなものですわ。」
「ああ、可愛いよう。」
「・・・カワイイ。」
そうだろう、そうだろう、何せうちの自慢の猫達だからねえ。でも、あげないよ。そんなことを考えていたら、女将さんも参戦してきた。
「ねえ、アイスさん、この子達をうちの店でお手伝いさせられないかい? いいマスコットキャラになるよ。しかもこちらの言葉がわかるくらい賢いし。」
「謹んでお断りさせて頂きます。お気持ちは痛いほどよくわかりますが、私にとってマーブル達はかけがえのない存在ですから、すべてを敵に回しても譲るつもりはこれっぽっちもありません。」
「そうだよねぇ、こんな可愛い子達だったら、そう思うのも無理はないね。スカウトはあきらめるから、たまにはお店に顔を出してちょうだい。少しくらいならおまけするからさ。」
「そういう話だったら、大歓迎ですよ。料理もおいしいですので、昼食メインで寄れるときは寄りますよ。」
「料理も気に入ってくれたかい、料理はまだまだ出てくるから楽しんでおくれよ。」
そんな感じで夕食会は楽しい雰囲気で過ぎていった。いろいろ話していくうちに、明後日のクエストに備えて、明日クエストを一緒に受けようということになった。そうなってくると話はどんどん進み、機会があればちょくちょく一緒に組もうという話になった。レアな魔物を倒しても、その素材が持ち帰れないことも多く悔しい思いをしているそうだ。ポーターを雇うときもあるそうだが、ポーター役は基本戦闘では役に立たないのが多いので、人数が少ない戦姫だと、ポーターの護衛も考えないとならないから満足に狩りができないそうだ。人数の問題だが、合同パーティの誘いも多いそう、しかしどれも下心満載で逆に危険だとか。そんな戦姫が私を誘ったのはポーターなのに強い事が一番大きいらしい。ゴブリンの討伐数やワイルドボアの討伐の件は把握しているらしく、これ以上ない条件なのだそうだ。また、よこしまな気配を全く感じないそうだ。逆にもう少し女として見て欲しいと言われた。どうすればいいのさ? それと、言うまでもなくマーブルとジェミニの存在だ。癒やしは必要だ。何せ冴えない中年に入ったオッサンが唯一自慢できるものがこの猫達だ。これもまた一つの縁ということで、こちらも了解した。
終始楽しい雰囲気で夕食会は終了した。かなり食べたのでどれだけかかったのか心配だったが、金貨2枚弱だった。最初は向こうが費用を持つと言ってくれたのだが、半分以上私たちが食べたし、最近素材などでお金の余裕があるので、ということで金貨1枚こちらが払うことで話が付いた。それでもかなり安かったのは気のせいではないと思う。
ご飯屋からの帰途では、途中まで一緒の道だったので帰りもご一緒した。アンジェリカさんが言っていたように本当にホーク亭の近くだった。でももの凄い高級な感じだった。別れ際にアンジェリカさん達と、明日2の鐘と3の鐘の間くらいの時間に冒険者ギルドで合流することで話は決まった。
そういえば、夕食前の待ち合わせから感じていた気配だったが、今でも続いていた。何という執念。アンジェリカさん達との接触はとりあえず無かったので、彼らと戦姫のつながりはなさそうだ。そうなると、戦姫ファンからの嫌がらせかな。マーブルとジェミニも無邪気に楽しんでいたことから彼女たちには私たちをどうこうする意思は間違いなくない。気配はこちらに向かってくるようだ。さて、どうしましょうか。
マーブルとジェミニが行きたがっていたので、私はここで待機してマーブル達に行かせることにした。
「マーブル隊員、ジェミニ隊員。君たちが行きたそうにしているので、2人に行ってもらうことにします。」
「ミャッ!」
「お任せあれです!!」
マーブル達は揃って敬礼で応える。
「目的は敵の無力化です。武器防具は壊してもかまいませんが、殺しは厳禁です。後で面倒そうなので。」
「ミャッ!」
「承知しましたです! 敵を文字通り丸裸にしてやるです!!」
「頼みましたよ。では、任務開始!!」
マーブル達は勢いよく飛び出した。あの程度の相手なら腹ごなしにすらならないだろう。思っていたとおり2人は5分くらいで戻ってきた。
「ミャア!」
「任務完了です! 言葉通り全裸にしてやりましたよ!!」
「お2人ともご苦労様でした。任務完了ということでホーク亭に戻ります。」
定位置に乗った2人にねぎらいのモフモフで応える。2人とも嬉しそうだ。私も嬉しい。私達はいい気分のままホーク亭に戻り、本日2度目となる入浴と洗濯を済ませ、床に就いた。
「おやすみ、マーブル、ジェミニ。」
「ニャン。」
「アイスさん、マーブル殿、おやすみなさいです。」
明日は待ちに待った新装備が完成する。楽しみで眠れないかもしれない、遠足前の小学生に戻った気分だ。でも、共同でクエストがあるからしっかり眠っておかないとな。そう思いながらまどろみに包まれていった。
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