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第二話 あなたのぜんぶ
あなたのぜんぶ(3)
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思わず漏れた梗一郎のツッコミを受ける蓮の口調はどこまでものんきだ。
今、彼は玄関を入ったすぐ横にこじんまり設置された台所で、客人のためにお茶をいれていた。
カップがないのだろう。
茶碗や小鉢になみなみと注がれた日本茶を梗一郎が受け取って、座卓に陣取るモブ子らに運んでやる。
「待て待て、嘘だろう。ご飯茶碗かよ」
「びっくりするくらい薄っすい茶だな」
「ガーベラの花びらが入った紅茶所望」
アタシらのイメージを返せとわめくモブ子らを、梗一郎が睨みすえるが、もちろん彼女たちに堪えた様子はない。
「すみません、先生。モブ子らが好き放題して。ご自宅にまで押しかけるなんて」
お菓子の芋けんぴをどんぶりに盛り、すっかり世話役が板についた様相で梗一郎が蓮の耳元で囁く。
「いいんだよ。そんなの気にしないで。そもそも、なんで君が謝るんだい?」
「いや、あいつらの魔の手から先生を守るのが当面の僕の役目かなって」
「魔の手って!」
朗らかに笑い転げる蓮。
ふと視線をあげると梗一郎の色素の薄い瞳とぶつかり、蓮の頬が緩む。
キッチンと呼ぶより台所と表現するしかない狭い空間で、ふとした拍子に感じる彼の体温がなぜだか心地好い。
最近、講座の準備とアンケートの集計と論文の調べ物ばかりに時間を費やしていた。
すべてが遅々として進まず、自分の時間の使い方の何が悪いのか考え込んだり。
そんななか、今日はよく笑っている気がする。
「芋けんぴかよー」と、背後からの遠慮ない叫びに、梗一郎が顔をしかめた。
端正な顔が歪むのを間近で眺めて、蓮は目を細める。
「ごめんよ、モブ子さんたち。うちにはお菓子は芋けんぴしかないんだ。トロトロオムレツの次に好きなのが芋けんぴなんだ」
不平を漏らしつつも、しっかり芋けんぴに手を伸ばす女子たち。
今、彼は玄関を入ったすぐ横にこじんまり設置された台所で、客人のためにお茶をいれていた。
カップがないのだろう。
茶碗や小鉢になみなみと注がれた日本茶を梗一郎が受け取って、座卓に陣取るモブ子らに運んでやる。
「待て待て、嘘だろう。ご飯茶碗かよ」
「びっくりするくらい薄っすい茶だな」
「ガーベラの花びらが入った紅茶所望」
アタシらのイメージを返せとわめくモブ子らを、梗一郎が睨みすえるが、もちろん彼女たちに堪えた様子はない。
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お菓子の芋けんぴをどんぶりに盛り、すっかり世話役が板についた様相で梗一郎が蓮の耳元で囁く。
「いいんだよ。そんなの気にしないで。そもそも、なんで君が謝るんだい?」
「いや、あいつらの魔の手から先生を守るのが当面の僕の役目かなって」
「魔の手って!」
朗らかに笑い転げる蓮。
ふと視線をあげると梗一郎の色素の薄い瞳とぶつかり、蓮の頬が緩む。
キッチンと呼ぶより台所と表現するしかない狭い空間で、ふとした拍子に感じる彼の体温がなぜだか心地好い。
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そんななか、今日はよく笑っている気がする。
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不平を漏らしつつも、しっかり芋けんぴに手を伸ばす女子たち。
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