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第三話 願いをだきしめて
願いをだきしめて(8)
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「モブ子さんたちだろう? あはは、そんな気がするよ」
ひどい言われようだ。
コミケの新刊制作に勤しんでいる彼女たちは、きっと今ごろ大きなクシャミをしているに違いない。
「それより先生、布団に入ってください。あっ、その前に薬を飲んで」
「かぜ薬なんてうちにはないよ」
ションボリ首を振る蓮の前で、梗一郎が自分の鞄からビニール袋を取り出す。
「さっき僕がコンビニで買いました。あっ、薬を飲む前に何か胃に入れたほうがいいですね」
蓮ちんの世話係とモブ子らに認定されているだけのことはある。
台所を借りますよと、梗一郎は玄関に入ってすぐ隣りの小さなキッチンスペースへと向かった。
「何か食べたいものはありますか?」
軽い口調での問いに「とろとろのオムレツがいい」なんて答えながら、長身の後姿を見つめる。
その頼もしい背中は、冷蔵庫の前にしゃがみこんで数秒間固まっていた。
「どうした? 中でなにかカビてたっけ? それだったら、見えないように端によけておいて」
冷蔵庫の中に傷むものを残していたっけ。
なんだか内面を見られるような気恥ずかしさを覚えて、蓮は熱い頬に両手で風を送る。
しかし、梗一郎が固まっていたのは別の理由があったようで。
「すみません。何を食べるか聞いておきながら僕、料理がからっきしで……」
梗一郎、罰が悪そうに冷蔵庫の蓋をしめた。
隙がないと思われた青年の意外すぎる告白に蓮は声をあげて笑い、あわてて口元を押さえる。
「そ、そんなの気にしちゃいけないよ。むしろ君にも苦手なものがあるなんてホッとしたくらいだよ」
申し訳なさそうに長身を縮めて、梗一郎は冷蔵庫に入っている野菜ジュースを持ってきてくれた。
ありがとうと受け取って、蓮は窓を見やる。
外では遅咲きの桃の花が風に揺られていた。
「俺はおとなしくしてるから、鳥獣腐戯画の展覧会に行っておいで」
ひどい言われようだ。
コミケの新刊制作に勤しんでいる彼女たちは、きっと今ごろ大きなクシャミをしているに違いない。
「それより先生、布団に入ってください。あっ、その前に薬を飲んで」
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ションボリ首を振る蓮の前で、梗一郎が自分の鞄からビニール袋を取り出す。
「さっき僕がコンビニで買いました。あっ、薬を飲む前に何か胃に入れたほうがいいですね」
蓮ちんの世話係とモブ子らに認定されているだけのことはある。
台所を借りますよと、梗一郎は玄関に入ってすぐ隣りの小さなキッチンスペースへと向かった。
「何か食べたいものはありますか?」
軽い口調での問いに「とろとろのオムレツがいい」なんて答えながら、長身の後姿を見つめる。
その頼もしい背中は、冷蔵庫の前にしゃがみこんで数秒間固まっていた。
「どうした? 中でなにかカビてたっけ? それだったら、見えないように端によけておいて」
冷蔵庫の中に傷むものを残していたっけ。
なんだか内面を見られるような気恥ずかしさを覚えて、蓮は熱い頬に両手で風を送る。
しかし、梗一郎が固まっていたのは別の理由があったようで。
「すみません。何を食べるか聞いておきながら僕、料理がからっきしで……」
梗一郎、罰が悪そうに冷蔵庫の蓋をしめた。
隙がないと思われた青年の意外すぎる告白に蓮は声をあげて笑い、あわてて口元を押さえる。
「そ、そんなの気にしちゃいけないよ。むしろ君にも苦手なものがあるなんてホッとしたくらいだよ」
申し訳なさそうに長身を縮めて、梗一郎は冷蔵庫に入っている野菜ジュースを持ってきてくれた。
ありがとうと受け取って、蓮は窓を見やる。
外では遅咲きの桃の花が風に揺られていた。
「俺はおとなしくしてるから、鳥獣腐戯画の展覧会に行っておいで」
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