89 / 430
第10話「夏のなごり」
夏のなごり(4)
しおりを挟む
「しっ! 黙って!!」
語りが進むにつれて、映像は薄暗い廊下を映し出した。
左右に等間隔で並んだ扉。
非常口を示す電灯はチカチカ瞬いている。
建物の全体像が映り、そこが病院であると分かった。
「へぇ…ドラマ仕立てになってるんだね」
早くも有夏の腰に両腕を回しピタリと寄り添って、幾ヶ瀬。
夜の病院というシチュエーションに既に呑まれているようだ。
「稲川先生の『REIKO』ってやつも怖いって噂聞くんだけど、そっちは見付かんなくて。もぅ、絶対みたいのに!」
「イナガワセンセイ……?」
ラングドシャとクッキーを交互に食べながら、有夏は呆れ顔だ。
「うま! フランスバターのクッキー、もう1個買っときゃよかったな……ぉお!?」
幾ヶ瀬の腕の力が強くなり、有夏は呻いた。
痛いと言っても、彼は画面に夢中だ。
次々と映し出される怪異の映像と効果音に、心なしか血の気を失っている。
「これ……思ってたのと違う…………」
「は?」
「こ、怖すぎる……」
有夏の首筋に顔をうずめて、しかし視線だけはちゃっかりテレビの方を向いている。
成程。
幾ヶ瀬の言う人情味のある怪談話というより、これはジャパニーズホラーの枠に入る作品のようだ。
しかもかなりレベルの高い。
病院を舞台にした理不尽な恐怖体験を、ドラマ仕立てで描いたものであり、幾ヶ瀬の表情が見る間に強張っていくのが分かる。
「はぁぁ……ぁぁぁ…………ありかぁぁ!」
声が可哀想なくらい掠れている。
悲鳴にすらならないらしい。
「そんなになるなら見なきゃいいだろが。土台、作り物なんだし」
「ちょっ、台無し! そういうこと言わないでよ! 心霊映像の中には本物も混ざってるんだよ!」
麦茶を一口飲んで、有夏はちらりと幾ヶ瀬を見上げる。
「まぁ、中には本物もあるかもな。実際、そのテの話はよく聞くし。幾ヶ瀬……」
語りが進むにつれて、映像は薄暗い廊下を映し出した。
左右に等間隔で並んだ扉。
非常口を示す電灯はチカチカ瞬いている。
建物の全体像が映り、そこが病院であると分かった。
「へぇ…ドラマ仕立てになってるんだね」
早くも有夏の腰に両腕を回しピタリと寄り添って、幾ヶ瀬。
夜の病院というシチュエーションに既に呑まれているようだ。
「稲川先生の『REIKO』ってやつも怖いって噂聞くんだけど、そっちは見付かんなくて。もぅ、絶対みたいのに!」
「イナガワセンセイ……?」
ラングドシャとクッキーを交互に食べながら、有夏は呆れ顔だ。
「うま! フランスバターのクッキー、もう1個買っときゃよかったな……ぉお!?」
幾ヶ瀬の腕の力が強くなり、有夏は呻いた。
痛いと言っても、彼は画面に夢中だ。
次々と映し出される怪異の映像と効果音に、心なしか血の気を失っている。
「これ……思ってたのと違う…………」
「は?」
「こ、怖すぎる……」
有夏の首筋に顔をうずめて、しかし視線だけはちゃっかりテレビの方を向いている。
成程。
幾ヶ瀬の言う人情味のある怪談話というより、これはジャパニーズホラーの枠に入る作品のようだ。
しかもかなりレベルの高い。
病院を舞台にした理不尽な恐怖体験を、ドラマ仕立てで描いたものであり、幾ヶ瀬の表情が見る間に強張っていくのが分かる。
「はぁぁ……ぁぁぁ…………ありかぁぁ!」
声が可哀想なくらい掠れている。
悲鳴にすらならないらしい。
「そんなになるなら見なきゃいいだろが。土台、作り物なんだし」
「ちょっ、台無し! そういうこと言わないでよ! 心霊映像の中には本物も混ざってるんだよ!」
麦茶を一口飲んで、有夏はちらりと幾ヶ瀬を見上げる。
「まぁ、中には本物もあるかもな。実際、そのテの話はよく聞くし。幾ヶ瀬……」
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる