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試練
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砂川浩介は心筋梗塞の手術から3か月経ち、ようやく仕事も軌道に乗り始めてきた。
復帰してすぐに、かつての恋人に一人で子供を育てさせてしまったことの謝罪に訪れた事を、恋人である羽田奏に伝える事が中々出来ないでいた。そして、彼女に対して人を使ってストーキングさせた事も。
二人が想いを通じ合えたのはひと月前。仕事上ではきっちり有能な秘書だが、家に帰るとすごく自然に二人になった。浩介はこんなに飾らない自分でいられることに日々驚かされていた。だからこそ奏に秘密を抱え続ける事がつらかった。今日こそ言わなければと思い続けて2週間以上経ってしまった。たが、言わないでいて、もしどこかから聞いてしまったら余計に傷つけてしまう。奏を失う事になるかもしれない。失いたくない…。
「奏。俺、奏に言わなければならないことがあるんだ」
奏は俺がひどい男だったことは知っている。だが、これは受け入れてもらえないかもしれない。
奏はいつもと違う様子に、浩介がいるテーブルについた。
「何ですか?怖い顔して…」
浩介は今ほど過去の自分をぶん殴りたいと思ったことはなかった。でも、これ以上隠しておくことは、二人に何もいいことはないはずだ。俺は奏を傷つけたくない。でも、このことを話したら、俺を愛したことを後悔するかもしれない…。
「奏。俺は今ほど過去にしてきた事を後悔したことはないんだ。奏に俺の気持ちを伝えたとき、俺はひどい男とさよならしてきたと言っただろう?あれは、かつての恋人が子供が出来たからと俺の前から姿を消し、一人で中学生になるまで子供を育てていたことを知って彼女に謝りに行ったことなんだ。そして…」
奏は俺に子供がいた事にはさほど驚かなかった。自分と出会うよりもっと昔のことだからか。
「そして。何?子供がいた事は知らなかったんでしょう?それは仕方ない事だと思うけれど…」
浩介は覚悟を決めて奏に向き合った。
「俺が子供の事を知ったのは、それまでよく利用していた探偵に彼女に付きまとうように依頼したからなんだ」
奏の顔色が変わったのが分かった。
「それは…犯罪でしょう?…なんでそんな…愛してた人に…」
「奏…すまない。俺は彼女に拒絶されて頭に来てしまって…」
「だからストーキングさせたの?そんなのって…私があなたの気に入らない事をしたら、同じ事をするの?」
「しない!そんなことしない。大切な人を傷つけるようなことは決して」
「そんなの信じられると思う?」
「そうだな。でもそんなことは出来ないんだ。俺は…信じてもらえないと思うが、奏に会うまでこんなに自然に振る舞えなかった。自分のほんとの姿を見せたのは君だけなんだ」
「…。私だってあなたが変わっていく姿をずっと見てきた。最初は秘書として社長のあなたが変わっていく姿を。恋人になれたときからもどんどん変わっていった…。私はこの瞬間もあなたを愛してると言える。でも、やっぱり許していいのか分からない私もいるの」
奏は少し時間がほしいと言って、部屋に閉じこもってしまった。浩介はもう、奏が自分をどう判断するのかを待つしかなかった。
復帰してすぐに、かつての恋人に一人で子供を育てさせてしまったことの謝罪に訪れた事を、恋人である羽田奏に伝える事が中々出来ないでいた。そして、彼女に対して人を使ってストーキングさせた事も。
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「奏。俺、奏に言わなければならないことがあるんだ」
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「そして。何?子供がいた事は知らなかったんでしょう?それは仕方ない事だと思うけれど…」
浩介は覚悟を決めて奏に向き合った。
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