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ハジメユキノ

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冒険

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秘書である奏は社長である浩介に一日の有給休暇を願い出た。秘書室長の加賀美はあまり有給を使わない奏に喜んで休暇を取るように言ってくれた。浩介は何か言いたげな顔をしていたが、黙って笑顔で休みを与えた。
「ありがとうございます!明日お休みさせて頂くので、今日はしっかり働きます!」
奏はいつもと変わらず有能な秘書ぶりできびきび働いた。加賀美だけは二人の関係を知っていたので、社長は休まなくてよろしいのですか?と聞いてきた。
「俺は留守番なんだよ」
「社長が留守番とは…。何かやらかしたのですか?」
加賀美は最近の二人を心配していた。浩介も奏もいつも通りに仕事をしていたが、二人の間に薄い膜が張っているような、微妙な空気を感じていた。
「過去の俺がな」
浩介は少し疲れたような顔をして、それきり黙ってしまった。

奏は奏で加賀美に聞きたいことがあった。
「加賀美室長。あとで少しお時間頂けますか?」
奏の様子を伺っているような加賀美に、
「個人的な事です。どうしても教えてほしい事があるんです」
「私で手助けになるのなら喜んで」
加賀美はこの二人にうまくいってほしいと思っていた。社長がこんなに自然体でいられるのは羽田がそばにいてくれているからだと信じていたから。

仕事帰り、加賀美は羽田と近所の古い喫茶店に入った。羽田はコーヒーを頼み、加賀美はケーキセットを頼んだ。
「室長はあんこはダメだけど、洋菓子は好きなんですね」
羽田は仕事中の加賀美の優秀さを知っているので、そのギャップに頬が緩んだ。
「コーヒーにはケーキでしょう?」
うちの上司たちは、おじさんでかなり有能なのに…。可愛いなと笑みがこぼれた。社長もおはぎ大好きだし…と思ったところで、加賀美に話しかけられた。
「ところで、私に聞きたいことがあるって。何なりとお答えしますよ。私が言える範囲で…」
「私、社長のかつての恋人に会いたいんです」
「…会ってどうしようと?」
「確かめたいんです。私…社長をとても大事に思っています。でも、このままそばに居るべきなのか分からなくなってしまって…」
「私は君に社長のそばにいてほしいと思ってるんだ。社長は昔…ひどい男だと私も思う時があった。それは事実だ。けどね、羽田君がきてからはまるで別人のように優しくなった。元々優しい所はあったんだけど、自分の内側には誰も入れようとしなかった。いつも鎧を身にまとい、弱い所など微塵も見せようとはしなかったんだ。でも今は違う。誰にも踏み入らせなかった内側に君は包まれてる。誰にも見せなかった心を君には全てさらけ出してるんだ」
加賀美は伝われ!と願った。
「僕は君が社長の命(いのち)なんだと思う。彼が変われたのは、君がそばにいたからだと僕は思う」
羽田は加賀美が自分のことを僕と呼ぶのを初めて聞いた。この人は自分の心からの言葉を私に言ってくれてるんだと思った。
加賀美は社長には内緒ね、と羽田に彼女の職場を教えた。ただ、一人では行かせられないと、車で連れて行くことを条件にした。羽田は加賀美がそう言うことも理解できたので、一緒に行ってもらうことにした。
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