7 / 17
冒険
しおりを挟む
秘書である奏は社長である浩介に一日の有給休暇を願い出た。秘書室長の加賀美はあまり有給を使わない奏に喜んで休暇を取るように言ってくれた。浩介は何か言いたげな顔をしていたが、黙って笑顔で休みを与えた。
「ありがとうございます!明日お休みさせて頂くので、今日はしっかり働きます!」
奏はいつもと変わらず有能な秘書ぶりできびきび働いた。加賀美だけは二人の関係を知っていたので、社長は休まなくてよろしいのですか?と聞いてきた。
「俺は留守番なんだよ」
「社長が留守番とは…。何かやらかしたのですか?」
加賀美は最近の二人を心配していた。浩介も奏もいつも通りに仕事をしていたが、二人の間に薄い膜が張っているような、微妙な空気を感じていた。
「過去の俺がな」
浩介は少し疲れたような顔をして、それきり黙ってしまった。
奏は奏で加賀美に聞きたいことがあった。
「加賀美室長。あとで少しお時間頂けますか?」
奏の様子を伺っているような加賀美に、
「個人的な事です。どうしても教えてほしい事があるんです」
「私で手助けになるのなら喜んで」
加賀美はこの二人にうまくいってほしいと思っていた。社長がこんなに自然体でいられるのは羽田がそばにいてくれているからだと信じていたから。
仕事帰り、加賀美は羽田と近所の古い喫茶店に入った。羽田はコーヒーを頼み、加賀美はケーキセットを頼んだ。
「室長はあんこはダメだけど、洋菓子は好きなんですね」
羽田は仕事中の加賀美の優秀さを知っているので、そのギャップに頬が緩んだ。
「コーヒーにはケーキでしょう?」
うちの上司たちは、おじさんでかなり有能なのに…。可愛いなと笑みがこぼれた。社長もおはぎ大好きだし…と思ったところで、加賀美に話しかけられた。
「ところで、私に聞きたいことがあるって。何なりとお答えしますよ。私が言える範囲で…」
「私、社長のかつての恋人に会いたいんです」
「…会ってどうしようと?」
「確かめたいんです。私…社長をとても大事に思っています。でも、このままそばに居るべきなのか分からなくなってしまって…」
「私は君に社長のそばにいてほしいと思ってるんだ。社長は昔…ひどい男だと私も思う時があった。それは事実だ。けどね、羽田君がきてからはまるで別人のように優しくなった。元々優しい所はあったんだけど、自分の内側には誰も入れようとしなかった。いつも鎧を身にまとい、弱い所など微塵も見せようとはしなかったんだ。でも今は違う。誰にも踏み入らせなかった内側に君は包まれてる。誰にも見せなかった心を君には全てさらけ出してるんだ」
加賀美は伝われ!と願った。
「僕は君が社長の命(いのち)なんだと思う。彼が変われたのは、君がそばにいたからだと僕は思う」
羽田は加賀美が自分のことを僕と呼ぶのを初めて聞いた。この人は自分の心からの言葉を私に言ってくれてるんだと思った。
加賀美は社長には内緒ね、と羽田に彼女の職場を教えた。ただ、一人では行かせられないと、車で連れて行くことを条件にした。羽田は加賀美がそう言うことも理解できたので、一緒に行ってもらうことにした。
「ありがとうございます!明日お休みさせて頂くので、今日はしっかり働きます!」
奏はいつもと変わらず有能な秘書ぶりできびきび働いた。加賀美だけは二人の関係を知っていたので、社長は休まなくてよろしいのですか?と聞いてきた。
「俺は留守番なんだよ」
「社長が留守番とは…。何かやらかしたのですか?」
加賀美は最近の二人を心配していた。浩介も奏もいつも通りに仕事をしていたが、二人の間に薄い膜が張っているような、微妙な空気を感じていた。
「過去の俺がな」
浩介は少し疲れたような顔をして、それきり黙ってしまった。
奏は奏で加賀美に聞きたいことがあった。
「加賀美室長。あとで少しお時間頂けますか?」
奏の様子を伺っているような加賀美に、
「個人的な事です。どうしても教えてほしい事があるんです」
「私で手助けになるのなら喜んで」
加賀美はこの二人にうまくいってほしいと思っていた。社長がこんなに自然体でいられるのは羽田がそばにいてくれているからだと信じていたから。
仕事帰り、加賀美は羽田と近所の古い喫茶店に入った。羽田はコーヒーを頼み、加賀美はケーキセットを頼んだ。
「室長はあんこはダメだけど、洋菓子は好きなんですね」
羽田は仕事中の加賀美の優秀さを知っているので、そのギャップに頬が緩んだ。
「コーヒーにはケーキでしょう?」
うちの上司たちは、おじさんでかなり有能なのに…。可愛いなと笑みがこぼれた。社長もおはぎ大好きだし…と思ったところで、加賀美に話しかけられた。
「ところで、私に聞きたいことがあるって。何なりとお答えしますよ。私が言える範囲で…」
「私、社長のかつての恋人に会いたいんです」
「…会ってどうしようと?」
「確かめたいんです。私…社長をとても大事に思っています。でも、このままそばに居るべきなのか分からなくなってしまって…」
「私は君に社長のそばにいてほしいと思ってるんだ。社長は昔…ひどい男だと私も思う時があった。それは事実だ。けどね、羽田君がきてからはまるで別人のように優しくなった。元々優しい所はあったんだけど、自分の内側には誰も入れようとしなかった。いつも鎧を身にまとい、弱い所など微塵も見せようとはしなかったんだ。でも今は違う。誰にも踏み入らせなかった内側に君は包まれてる。誰にも見せなかった心を君には全てさらけ出してるんだ」
加賀美は伝われ!と願った。
「僕は君が社長の命(いのち)なんだと思う。彼が変われたのは、君がそばにいたからだと僕は思う」
羽田は加賀美が自分のことを僕と呼ぶのを初めて聞いた。この人は自分の心からの言葉を私に言ってくれてるんだと思った。
加賀美は社長には内緒ね、と羽田に彼女の職場を教えた。ただ、一人では行かせられないと、車で連れて行くことを条件にした。羽田は加賀美がそう言うことも理解できたので、一緒に行ってもらうことにした。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる