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優しい人
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奏は浩介のかつての恋人に会うために、彼女の勤めている病院に加賀美室長とやって来た。
「私は車で待ってますね」
加賀美は奏を一人で送り出してくれた。奏は彼女におかしな真似はしないだろうと信じていたから…。奏も加賀美が自分を信じて送り出してくれたことに感謝した。
奏は会って何から話そうと考えていた。そして、浩介が愛した女性はどんな人なんだろうと、好奇心と怖さが入り交じった感覚でいっぱいだった。
浩介がかつて愛した女性、雪が職場から出てきた。奏は息を深く吐いてから背筋を伸ばした。そして雪に声をかけた。
「すみません。あの…」
「?病院にかかろうと思ったんですか?ごめんなさい、今日はもう診察は終わってしまったの」
雪は奏がぎりぎりで駆け込もうとしていたと思ったらしい。
「いえ、あの…あなたに会いたくてここに来ました」
奏がそう言うと、雪は不思議そうな顔で見つめてきた。
「私に?…。どこかでお目にかかったことが?」
「いえ。初めてお目にかかります」
奏は深呼吸した。
「私、砂川の秘書をしております、羽田奏と申します」
「…。そうでしたか…。私に何か御用ですか?」
「すみません。私、あなたに会いたかったんです。ただ会って話してみたくて」
「それは…お仕事として?それとも」
「すみません。私…浩介さんと一緒に住んでいます」
「…そうですか…私のことはお気になさらないで下さい。私は昔、家庭があることを知っていたのに愛してしまって、子供を勝手に生んだ女です。私の身勝手で生んで育ててきました。でも、今は結婚して幸せに暮らしてます。だから、何も気になさらなくて大丈夫です」
「私、浩介さんがあなたがいなくなっても探さなかったことや、あなたの周りを探偵に調べさせていたりしていたことを聞いて、彼がひどい人だと思いました。謝ったってすむ事じゃないと思うから…」
雪はそれを聞いて驚いた顔をした。奏は雪が知らなかったんだと思い、思わず頭を下げた。
「ごめんなさい。私に謝られたって困られると思いますが、今一緒に住まわせてもらってる自分に出来るのはこのくらいしかないから…」
雪は奏の肩に優しく触れた。
「顔を上げて下さい。私、なんとなく分かっていたの。もしかしたらって。でも、ちゃんと謝りに来てくれたし、すごく後悔していたのはよく分かったから…。私が驚いたとしたら、あなたにちゃんと全てを隠さず話した事なの。ごまかしたりしないでちゃんと弱いところを見せたこと」
雪は奏に優しく微笑んだ。
「あなたが彼をそうさせたのね。私が愛した人とは別人のように柔らかな印象だったから。あなたが彼のそばにいたからなのね」
雪は奏を抱きしめた。
「あなたがそばにいれば間違いないわね」
奏は雪に抱きしめられてびっくりしてしまった。
「あ、あの…」
「あっ!ごめんなさい…。可愛くてつい…」
真っ赤になった雪を見て、奏はこの人だから浩介は愛したんだと思った。
「ほんとにごめんなさい。初めて会ったおばさんに抱きしめられたら、そりゃびっくりするわよね(笑)」
雪の明るい笑顔に思わず奏もつられて笑った。
「あの、私、一緒にいていいんだろうかって考えてました。愛した人にそんなひどい事する人と…。分からなくなってしまって、何故かあなたに会って決めようと思ったんです」
「私に?」
「そうです。あなたに会ったら何かつかめるんじゃないかなって」
雪はふと真剣な顔で奏を見つめた。
「離れないでいてほしい。あなたにとっても彼はなくてはならない存在でしょう?誰にも気兼ねなく一緒にいられるなら、そんな幸せなことはないと思うの」
奏は雪の言葉に、かつてこの人は本当に浩介を愛していたんだなと思った。だから、何も言わず姿を消したんだなと。
「雪さんは、今ちゃんと幸せなんですね?」
雪は太陽のような笑顔で、
「もちろん!」と答えた。
「奏さん、あなたもちゃんと幸せになってね」
雪の優しい言葉は、奏の凍った心をあたたかく溶かした。奏は雪のことが大好きだと思った。
「私は車で待ってますね」
加賀美は奏を一人で送り出してくれた。奏は彼女におかしな真似はしないだろうと信じていたから…。奏も加賀美が自分を信じて送り出してくれたことに感謝した。
奏は会って何から話そうと考えていた。そして、浩介が愛した女性はどんな人なんだろうと、好奇心と怖さが入り交じった感覚でいっぱいだった。
浩介がかつて愛した女性、雪が職場から出てきた。奏は息を深く吐いてから背筋を伸ばした。そして雪に声をかけた。
「すみません。あの…」
「?病院にかかろうと思ったんですか?ごめんなさい、今日はもう診察は終わってしまったの」
雪は奏がぎりぎりで駆け込もうとしていたと思ったらしい。
「いえ、あの…あなたに会いたくてここに来ました」
奏がそう言うと、雪は不思議そうな顔で見つめてきた。
「私に?…。どこかでお目にかかったことが?」
「いえ。初めてお目にかかります」
奏は深呼吸した。
「私、砂川の秘書をしております、羽田奏と申します」
「…。そうでしたか…。私に何か御用ですか?」
「すみません。私、あなたに会いたかったんです。ただ会って話してみたくて」
「それは…お仕事として?それとも」
「すみません。私…浩介さんと一緒に住んでいます」
「…そうですか…私のことはお気になさらないで下さい。私は昔、家庭があることを知っていたのに愛してしまって、子供を勝手に生んだ女です。私の身勝手で生んで育ててきました。でも、今は結婚して幸せに暮らしてます。だから、何も気になさらなくて大丈夫です」
「私、浩介さんがあなたがいなくなっても探さなかったことや、あなたの周りを探偵に調べさせていたりしていたことを聞いて、彼がひどい人だと思いました。謝ったってすむ事じゃないと思うから…」
雪はそれを聞いて驚いた顔をした。奏は雪が知らなかったんだと思い、思わず頭を下げた。
「ごめんなさい。私に謝られたって困られると思いますが、今一緒に住まわせてもらってる自分に出来るのはこのくらいしかないから…」
雪は奏の肩に優しく触れた。
「顔を上げて下さい。私、なんとなく分かっていたの。もしかしたらって。でも、ちゃんと謝りに来てくれたし、すごく後悔していたのはよく分かったから…。私が驚いたとしたら、あなたにちゃんと全てを隠さず話した事なの。ごまかしたりしないでちゃんと弱いところを見せたこと」
雪は奏に優しく微笑んだ。
「あなたが彼をそうさせたのね。私が愛した人とは別人のように柔らかな印象だったから。あなたが彼のそばにいたからなのね」
雪は奏を抱きしめた。
「あなたがそばにいれば間違いないわね」
奏は雪に抱きしめられてびっくりしてしまった。
「あ、あの…」
「あっ!ごめんなさい…。可愛くてつい…」
真っ赤になった雪を見て、奏はこの人だから浩介は愛したんだと思った。
「ほんとにごめんなさい。初めて会ったおばさんに抱きしめられたら、そりゃびっくりするわよね(笑)」
雪の明るい笑顔に思わず奏もつられて笑った。
「あの、私、一緒にいていいんだろうかって考えてました。愛した人にそんなひどい事する人と…。分からなくなってしまって、何故かあなたに会って決めようと思ったんです」
「私に?」
「そうです。あなたに会ったら何かつかめるんじゃないかなって」
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「離れないでいてほしい。あなたにとっても彼はなくてはならない存在でしょう?誰にも気兼ねなく一緒にいられるなら、そんな幸せなことはないと思うの」
奏は雪の言葉に、かつてこの人は本当に浩介を愛していたんだなと思った。だから、何も言わず姿を消したんだなと。
「雪さんは、今ちゃんと幸せなんですね?」
雪は太陽のような笑顔で、
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「奏さん、あなたもちゃんと幸せになってね」
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