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ハジメユキノ

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奏はすっかりごちそうになってお腹も心もいっぱいだった。
「ごちそうさまでした。ご家族も皆さん素敵で楽しかったです」
深々とお辞儀をすると、三人は「また来てね」とそっくりな笑顔を見せた。
「お邪魔しました」
奏が帰ろうとすると、周作が駅まで送ると言ってくれた。

駅までの道すがら、周作は奏と話した。
「俺、あなたに会えて良かったです」
「…。本当に私、来て良かったんでしょうか…」
「もちろん!あなたと話してみて俺はやっとあの人を許そうと思えたんだ」
奏は泣きそうだった。
「!許してくださるんですか?私…彼にその事を告白されて、一緒にいてもいいのか悩みました。許せないと思いました…。でも、雪さんは私に離れないでいてと、誰にも気兼ねなく一緒にいられるならば、一緒にいて幸せになってって…」
こらえきれず涙を流してしまった。
「すみません!外で泣いてたら迷惑なのに」
周作は優しく微笑んでいた。
「そんなに泣くほどあの人が大切なんだね」
「…。ここで、はいって言っていいのか…」
「いいんだよ。あなたはまっすぐあの人を好きでいて…」
「…はい!」
「あはは(笑)素直だね!」
「はい(笑)」
二人は駅まで雪の話で盛り上がった。
「うちの奥さん可愛いでしょ?」
「ほんとに(笑)私、雪さんのファンになっちゃいました」
「あはは(笑)雪に言ったら喜ぶよ!」
周作も素敵だと思った。二人はすごく素敵なご夫婦…。私たちもこんな素敵な夫婦になれるのかな…。
「雪はすごく優しくて、そしてすごく強い。気が強いとかではなく、芯が強いひとなんだ」
周作は頭の中に雪を思い浮かべているんだろう。幸せそうに笑った。
「君にも同じ匂いを感じるよ(笑)」
「ほんとですか?私、うれしいです(笑)」
二人は顔を見合わせて笑った。気を付けてねと周作は駅まで送ると帰って行った。

電車に乗り、浩介のいる家に向かった。この所ずっと帰るのがつらいなって思っていた家に、今は早く帰りたいと思っていた。早く帰って浩介に会いたいと…。
家が近づくと、奏は早足になった。早く早く!と気がせいた。家が見えると、門の前を落ち着かない様子でうろうろしている浩介が見えた。
「浩介さん!」
奏が声をかけると、浩介はちょっと泣きそうな顔になった。その表情を見て、奏は泣きそうになった。
「奏…。帰ってこないかと思った…」
「浩介さん…ただいま(笑)」
奏の笑顔に、浩介も笑顔で応えた。
「おかえり!良かった…帰ってきてくれた…」
奏は浩介の手を掴んで家の中に入った。
「ただいま、浩介さん…」
奏は浩介に抱きついていた。浩介はこらえきれなかった涙が頬を濡らした。自分の持ってる全てを伝えようと、奏の体を抱きしめた。
「俺、奏を失うのかと怖かった。全部自分が招いた事だけど、どんなことをしても奏を失いたくないって…」
奏は浩介の頬に優しく触れ、唇を塞いで最後まで言わせなかった。奏も泣いていた。
「私、雪さんに会ってきたの。会えば何か掴めるかもって…。浩介さんが大好きで、でも許せなくて…。一緒にいていいのか分からなくなってしまったの。もう一人では決められない、あなたが愛した人に会って決めようって思ったの」
「…会ってどう思ったの?」
「雪さんはあなたから離れないでって…。誰にも気兼ねなく一緒にいられるならば、一緒にいて幸せになってって…」
奏は再び浩介に抱きついた。
「浩介さん。雪さんも雪さんのご主人も、浩介さんを許してくれたよ…」
浩介は言葉にならない想いを感じた。俺のしたことを許すなんて…。
「俺は許してくれなくても、ずっと恨まれててもいいと覚悟していた。奏にもずっと怒られててもいいから、それでも一緒にいてほしいと思っていたんだ…」
浩介は人前で初めて泣いた。奏は泣いている浩介を優しく抱きしめた。
「ずっと怒ってるなんてイヤです。一緒に笑っていたいのに(笑)」
奏は明るい笑顔で浩介を見つめた。
「私はあなたが何よりも大切なんです。ずっとずっと一緒にいたいんです。だからもうひどい事はしないで下さい」
「するわけない。奏を傷つけるようなことは絶対にしない。約束する」
奏を優しく抱きしめて男泣きに泣いた。奏は浩介の頭を優しく撫で続けた。
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