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★★本編★★元戦闘奴隷なのに、チャイニーズマフィアの香主《跡取り》と原住民族の族長からの寵愛を受けて困っています

【14】僕の恋心は童貞(前編)

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【僕の恋心は童貞】
(デート/溺愛/トイレ/ラブラブ/性器ピアス)

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▽▽ KUKi side ▽▽

「い…ッた………はっ、ッ…」

肩から皮膚を切り裂く痛みが走る。
どうやらボクはまた“トんでた”みたいだ。
彼を地下闘技場で他人に抱かせてから毎日《食霊》している事もあり、一日も休まずにセックスしていると言うのに。
それもこれも左千夫くんがエロ過ぎるのが悪い。
最近はまた一段とエロくなった。

両手を頭上に上げるようにベッドに拘束されている左千夫くんが視界に映る。
どうやら今日、彼はトランスしたボクに酷く抵抗したようで、顔には殴られた痕があり、内出血を起こし変色していた。
こんな愉しそうな事をしておきながら全く覚えてない自分が憎い。
僕が眉間に皺を寄せると左千夫くんは僕がトランスから戻った事を認識したようで、安堵したように息を抜いて躰の力も抜いた。
彼を殴ったりめちゃくちゃにしてるのはボクだと言うのに、ココに関してはイヤミの一つも言ってこない。
そして、ボクから視線をそらせると耐えるように唇を結んで、更に大きく脚を開いて体を差し出してくる。
ボクの喉は大きく上下する。
このまま衝動的に奥まで犯してしまいたいが思い止まった。

ボクは彼を支配したいのだけど何かが違う。
コレをボクは望んでいるはずなのにどこか噛み合ってないココロに焦燥感が沸き上がる。
結合を解こうと腰を引くと左千夫くんの顔が苦痛に歪んでハッとした。
左千夫くんは《霊ヤラレ》 解消のセックスに中々女性器は使わせてくれないんだけど、明日は休みだからとゴネて譲らなかったのでオッケーが出たまでは良かった。
ただ、ボクは隠している幻術を解くだけといて女性器を露わにさせたまま“トんで”しまったので、トランス状態のボクが慣らしてもない膣を遠慮なくピアスで引っ掻いたのだろう。
その攻めに耐えれず暴れた為、余計にめちゃくちゃにされるという悪循環が生まれ、膣道は流血し、シーツも僕のチンコも真っ赤に染まっていた。
出来るだけ刺激をしないようにペニスを引き抜くと、指に唾液を絡ませてゆっくりとズタズタに内部を荒らされている膣道へと指を進めていく。

「九鬼………?……ッ、ぅ………すいま、せん…」

結合が解かれた事を不思議そうに見上げ、その後すぐに左千夫くんから謝罪が落ちる。
普通に考えたら謝るのはボクなのだけど。
左千夫くんの謝罪の意味はなんなのだろうか、セックスの道具として役に立たなくてスイマセン的なモノなんだろうナ。
膣の中の傷を塞いでいきながら逆の手を左千夫くんの頬に伸ばすと、ビクッと左千夫くんの体が大きく跳ねてグッと瞳を眇めていた。
一見、恐怖に慄いているようにも見える動作だけどコレは違う。
ボクを敵だとみなして反射的に攻撃に出ようとする体を、左千夫くんが押し留めているから起こる初動だ。
ゆっくりと頬を撫でて変色した頬や瞼の皮膚を舐め上げていく。
鬱血を取り除いていくと、元のきめ細かい皮膚に戻り、胎内の傷も治し終えると静かに指を引き抜く。

「左千夫くん、お風呂入ろっか?」
「九鬼…その、もういいんですか?」
「いいカナ~?左千夫くんがもっと犯されたいならお風呂でシてあげる~」
「結構です」

ここの返答は淡白で笑ってしまう。
拘束を解いてやり、左千夫くんをお姫様抱っこするとベッドから降りて既に温めてあった浴室へと向かう。
バスルーム自体はかなり広々と作ってあるが、バスタブはそこまで広くしていない。
バスタブの近くの床は柔らかくしてあるので直に腰を下ろす。
目の前は全面鏡張りなので左千夫くんを抱き直すと足を開脚させた。
恥部まで丸見えだけどボクもよく見ると引っ掻かれたり噛まれたりと結構傷付いていた。
それだけ今日のプレイは彼に取って耐え難いものだったのだろう。
治療した箇所の傷は治っているが、痛みは取れていない。
ちゃん治っているのを見てもらうのが痛みを取り除くには早いので、曝け出したまま固定する。

「…ッ、九鬼!」
「洗うだけだヨ。ほら、ちゃんと見て、治ってることを知覚して」
「貴方に触られると……ッ、ゆっくり、ゆっくり…して」
「あー…ソンナコト言われると襲いたくなるじゃん」
「────ッ!…………く、………ぅ」

シャワーでは刺激が強すぎるのでもう一つ取り付けてある先がホースのままになっているものを手に取ると、お湯になるまで待って体全体を洗っていく。
陰部も血液を流してから言われるがままにゆっくりと鏡にヴァギナの中を映すように開いて湯を静かに注ぎ入れ中をきれいにしていった。
初めぎゅっと眉を顰めていたが暫くすると体の力が抜けたので陰核とペニスについているピアスにイタズラに触れてから手を引いた。
ちゃんとビクッと体を痙攣させて反応してくれるから嬉しい限りだ。
刺激の少ないボディーソープを使い一通り汚れを落とすと、抱き上げて左千夫くんだけ湯の中へと移動させていく。
情事後のこの行為は意識がある時は散々自分でできると言われたが、ボクが譲らなかったので左千夫くんは静かにボクの髪で遊んだりして待ってくれるようになった。

「頭洗ってあげるネー」
「ありがとうございます」

浴槽は凭れ掛かれるようになっているのでタオルを枠のところに置くと、左千夫くんは美容院でシャンプーをする時のように頭だけを浴槽の外に出してくる。
三つ編みを解いて、シャワーで全体を濡らしていくと左千夫くんが無防備になる。
多分この瞬間が一番彼を楽に殺せるのでは無いかと思うくらい気持ち良さそうに微睡む。
ボクにとっても幸福度が高い時間なので徒らに壊す事はしないが、他人でもそうなってしまうのかという不安は拭えない。
ソンナコトを考えているボクを左千夫くんはジーッと見上げていた。

「面倒ならしなくていいですよ?」
「何回も言ってるケド好きでやってるからネ~」
「ありがとうございます。明日はどうしますか?」
「明日?……あ!そっか!!忘れてた」
「忘れてたのなら無しでも……」
「ダメダメ~折角左千夫くんを独占できるチャンスなのに、無しとかナイから!」

明日と言うのはボクが左千夫くんに作ってもらった独占DAYだ。
喫茶【シロフクロウ】も連日で休みだし、左千夫くんの他の仕事に関しても一切入れずフリーにして貰っている日である。
喫茶店を始めて暫くしてから、余りにも仕事人間の彼と一緒にいるのに仕事ばかりで構ってくれないことにゴネて、一ヶ月に1度位の頻度でボクが作らせている日だ。
さて、どうするか。
一日中セックスしたりダラダラして不毛だと罵られた事もあるし、逆に健全にセレブ御用達の完全予約制のレストランに行ったり、夜景を見るためにヘリを飛ばしたこともある。
左千夫くんは何でも割と愉しんでくれる。
手は頭を洗う事に集中させながら思考は別の所に向かっていく。
最近は彼のメンタルに負荷を掛けすぎているのでゆるーく楽しめるものがいいかな。
色々考えているうちに名案が浮かんだ。
そう言えば左千夫くんと普通にデートしたこと無いなと。

「普通のデートとかどう?」
「普通の?九鬼の普通の?」
「………ボクの普通のだとバイブ突っ込んで首輪付けて練り歩かせて公衆の面前でめちゃくちゃに犯すとかになるケド…」

「…………………………」

「そんな汚物を見るような瞳で見つめないでヨ、興奮しちゃう~。じゃ無くて、一般人がするような、普通の!食べ歩きトカ!最後は適当なラブホ的な~」
「……わかりました」
「え!いいの!?
あ!《食霊》と緊急時以外は能力もナシね!
一般人を楽しみたいから幻術も無し!
オマンコも隠しちゃ駄目だよー!」
「そもそも、ボクの女性器は貴方の能力で作ったものなのですが…」
「硬いこと言わない~。なら、明日はお泊まりだネ!あ、普通のだからプレイも甘めにシてあげるからネ~」

会話をしながらも丁寧にシャンプー、トリートメント、コンディショナー、水気を切ってヘアオイルの行程をいつも通りに行っていき、指先が髪を滑る感覚を愉しむ。
最後に湯に浸からないように髪を纏めあげるとボクも体を流し、左千夫くんを抱きしめるようにしながら湯船に浸かった。
左千夫くんは原因不明のキャパオーバーを繰り返していることもあり既にうつらうつらしていた。
ボクに擦り寄るように体を預けると直ぐに瞼を落とす。
毎日体感してもこの瞬間は堪らなくボクの内側が震える。

「おやすみ、左千夫くん♪明日楽しみ~、あ、そう言えば晩御飯食べてない…なんか、最近上手くはぐらかされてるナ」

左千夫くんはボクを誘惑するのが巧すぎるので、こういう事はしょっちゅうある。
二人の時はアレしてコレしてとは言わないけど、勝手に誘導されてしまっているのが現状だ。
けれど、不思議と嫌な気分にならないのはボクが彼に絆されて居るからだろう。
ボクは彼を絆したいのだけど。
無防備にボクの腕で眠る彼の額に口付けると、暫くしてから風呂から上がった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「九鬼、九鬼…。おはようございます」

「……………!お、おはよう、左千夫クン」

名前を呼ばれる声がしたので目を開けたらトンデモナイ美人が目の前に居た。
いや、左千夫くんなんだけど。
見惚れている間に唇を奪われ数度啄まれる。
朝は大体彼の方が早いけど起こされる事は余り無い。
ちゅっ、ちゅっと、リップ音を立てながら数度啄んでからいつもならディープに持っていくんだけど、もう一度左千夫くんをちゃんと見たくて直ぐに距離を取った。
瞳の色を隠すために黒いコンタクトを付け、ハイネックで長袖のゆったりしたサマーニットにタイトなブリーチ加工が施されているライトブルーのデニムを合わせていた。
髪も三つ編みなんだけどいつもよりもゆるく編まれていて柔らかい印象だ。

「朝ご飯できてますよ」

カーテンを開けて、掛け布団を畳むと彼は直ぐリビングに戻っていった。
普通のデートしようって言ったのはボクなんだけど、なんだろ全然普通じゃない。
いやこれが普通なんだけど。
左千夫くんがちゃんと服着てる。
オシャレしてる!!
別に彼がオシャレじゃないとかそういう訳ではない、でも彼は基本家では裸族だし、外に出るときもシロフクロウの制服か、ブランドもののジャケットにスラックスのかっちりした服しか着ない。
多分今日着てる服もブランドものなんだろうけどいつもと毛色が違う。
左千夫くんはもう準備万端って感じだったし、余り待たせるのもあれなので急いで衣装部屋へと入る。
左千夫くんに合わせるならいつものゆるっとした感じでも良いんだけど、しっくり来なくて服を体に当てては戻していく。
そう言えばボク、好きな子と普通にデートするの初めてなのか。

「なんだコレ、緊張して来た……」

鏡に映ったボクは顔の下から血液が頭に上がっていくように頬が薄っすら紅潮している。
他の子とデートなんて腐るほどしているけど、幼少期に奴隷市場で左千夫くんと出会って一目惚れの初恋から始まり、高校で再会するまでの会えない時間も全てボクの恋心は左千夫くんに注がれていた為、気付いてしまった事実に口許を手で覆った。
それならやっぱり服装はコッチかな。
いつもとは正反対の襟付きのシャツに同系色のシルエットがきれいにでるスラックスを合わせる。
衣装部屋の中にあるドレッサーで髪をセットして行く。
跳ね散らかしている髪を最大限に寝かせるようにアイロンしワックスで固め、前髪も方向を揃えるようにして流す。
伸ばしている襟足もパーマを当てるようにアイロンで巻いていった。
両方が房になっている黒い長い飾り紐で髪を結ぶ。
紐が垂れる位置を調節してから、最後に眼鏡を掛けた。
クラッチバッグに必要なものだけ詰め込み、靴もレザーのローファータイプを選んで指に引っ掛けてリビングへと向かう。

「左千夫くん、お待たせー」

「ゆっくり準備しても……!……すいません、別人見たいで」
「……!?…や、その、さっきも思ったけど左千夫クンも、素敵だヨ……」

左千夫くんはリビングのソファーに座ってネイルを塗っていた。
調度塗り終わったところで瓶の蓋を締めているんだけど、赤いエナメルの色が似合い過ぎていて心臓が痛い。
自然といつもと違う空気になってしまい、ボクの言葉も吃音が混ざる。
ナンダロウいつもの仕返しで、もしかしてボクの精神を殺しに来てるのだろうか。

「九鬼は男前なので何でも似合いますね」

静かな笑みと共に告げられるとドキンと、更に一際大きく心臓が跳ねた。
こんなお世辞なんて他人から死ぬほど言われているのに、彼から言われると破壊力が違い過ぎる。
いつも以上に彼にときめいてしまう事に焦燥感はあるが悪い気はしなかった。
普通のデートと言った手前我慢したが、全てを放棄し、押し倒して一日中セックスしたい衝動に駆られたのは言うまでもない。

「少し早いですが食べたら出かけましょうか」
「あ、うん。……あれ、一人分しかないけど左千夫くんはもう食べたの?」
「いえ……外で食べたいので、朝はパスします」
「えー、昨日の夜も食べてないジャン」
「でも、その…九鬼と食べ歩きしたいので……」
「……う゛、ント、ボクのポイント抑えてるよネ。わかったケドちゃんと外で食べて貰うからネ~。いただきまーす!!」

ダイニングテーブルにはオニギリが乗ったワンプレートと、味噌汁の和食の朝ご飯が用意されていた。
常備菜はシェフに作らせて冷蔵庫に入れてあるが、左千夫くんに合わせて作ってもらっているので下味くらいしか付いていない。
一緒に暮らし始めて分かったことだが神功家はかなりの薄味で素材の味を楽しむようだ。
それに加えて彼は幼少期の事もあり、味付けはあまり要らない。
と、言うか元から生野菜を齧るほうが好きそうなので無くてもいいくらいなんだろう。
なのでこれは常備菜を使われては入るが全て左千夫くんが手を加えてボク用に味を足してくれてある。
と、言っても体に悪いと薄味傾向にはされているので物足りない気もするが。

「うん。おいしー!左千夫くんほんと何でもできるよネ~。いつでもボクの奥さんになれるネ!」
「僕は男なので貴方の奥さんにはなれません。もし、女性であっても貴方は僕を選ばないと思いますが……」
「もー、ナンデ信じてくれないカナー、ボクには君しか居ないのに」
「……今はそうでも直ぐに飽きますよ。さて、鞄取ってきますね」

ここに関しては変わらない。
悲しい事に一切靡いてくれない。
今日、指輪は左の小指に嵌めてくれているけどボク的には毎日、いや永久にそこに嵌めていて欲しい。
左千夫くんが自分のクローゼットに行っている間にご飯を平らげると、ごちそうさまをしてシンクへと下げる。
一泊空けるならハウスクリーニングをしといてもらおうとお守り役にメールをしていると、左千夫くんが戻ってきた。

「着替え要りますかね?」
「ン?荷物になるからいいかな~サイアク同じのでもいいし、どーせなら買っちゃお!その方がデートっぽいデショ?」
「わかりました、繁華街に着くまで鞄預かりますね。……行きましょうか」

僕にちゃんと表情を作って左千夫くんが喋ってくれている。
いや、要件があるときはちゃんとこんな感じなんだけど、なんだろう今日はいつもと違って見えてしまう。
ボクのクラッチバッグを自分のトートバッグにいれてしまい肩から掛けて、靴を手に持ちそのままベランダへ歩いていく。
ボクは普通のデートと言ったはずなんだけどな……。

彼はベランダで靴を履くとそのまま軽く飛び上がり手すりの上に立つ。
因みに僕達の部屋はこのタワーマンションの最上階である。
海の近側と言うこともあり風も強いため左千夫くんの髪が揺れて、そよぐ風に気持ち良さそうに視線を眇めている。
そして、ボクの方に体を向けると手を伸ばして催促してきた。

「九鬼、行きますよ」
「はいはーい。あ、左千夫くん、待ってって…、と」

急いで靴を履いて、扉を閉めてからベランダへと出るが、手を繋げと催促して来るわりには繋ぐのを待たず背中から地上へ向かって落ちていく。
追いかけるようにベランダの、囲いを飛び越えると彼と手を繋いだ。

「んー、気持ちいいー!でも、折角セットしたのに崩れちゃいそー。左千夫くん的にはコレ普通のデートなの?車か電車の予定だったんだけど」
「脳のリミッター解除も特にしてませんよ。繁華街に行くなら車は邪魔ですし、僕と貴方なら電車よりも走ったほうが速いです、それに………」
「……ん?」
「普通のデートに従者は必要ありませんので、貴方の部下達を撒いてしまおうかと思いまして」

風を切るように猛スピードで最上階から落下していく。
頭から真っ直ぐに落下して行くが、途中左千夫くんは体勢を変える。
ボクも同じように体の向きを変えると上昇気流を掴みふわりと体が浮く。
その瞬間に二人同時に建物のベランダを蹴って外庭の木へと飛び移る。
勢いを殺す事なく手を引き繁華街へと人目に付かないように気をつけながら、塀の上や屋根の上に跳び移って進んでいく。
脳のリミッターとは普段人間が勝手に使い過ぎないようにとストッパー掛けているものだけど、ボク達が能力を使ったり身体能力を上げたりする時は意識的に解除を行っている。
これができるかどうかが能力者と普通の人間の違いと言っても過言ではないが、ボク達にまで至ってしまうと通常時でもまぁ、こんな感じだ。
パルクールの凄いバージョンと考えるのがわかりやすいか。
悪戯に愉しそうに唇に笑みを乗せる左千夫くん。
確かにボクの部下達は急に始まったこの動きには着いてこられないと思う。
流れるままに体を動かしていたが高低差のため高い壁がそびえ立つ。
左千夫くんが繋いでいた手を離すとスピードを速め、先に壁の下で両手を組み脚をかけられるようにしてくれたので、ボクは勢いを殺さずそのまま組まれた手に脚をかけた。
タイミングも、方向も、力の掛け方も完璧で彼の力を借りるだけでボクってこんなに高く跳べるんだなと自分に酔いそうだった。
気持ちがいい外気を感じながらフェンスを掴むと左千夫くんは壁を蹴り、飛び上がって来たのでその手を掴んで引き上げてやる。
いつも以上に視線が絡む気がしてちょっと照れくさい。
部下も完全に撒いたので本当の二人切りだと思うとまた心臓が五月蝿くなってくる。

人気のない通りや人の死角を選びながらボク達は街へと溶け込んだ。


▲▲ sachio side ▲▲

普通のデート、と言われたはずだが……。

時間が少し早かった事もあり繁華街に入る少し手前で滑走を止めた。
人目につくので、手を放して並んでゆっくりと繁華街までの道を楽しんだ。
九鬼は色々したいことや食べたい物を言っていたけど、僕はこの時間だけでも正直満ち足りている。
普通の、と念を押されたのでいつもよりも装うことを止めてみたが、元よりずっと装ってきたので何が正解かは分からなかった。
手初めに、いつも人の心を掌握する為に行っている印象操作を今日は止めてみたが、傍から見てそれがどう出るかはよく分からない。
こう魅せたいと創る方は簡単なのだけれど。
ピッタリと彼の横に着いて歩いていくと目の前に高級ランジェリーショップが現れた。
どう見ても女性ものだ。
僕が立ち止まったので、九鬼は腕を引いて有無を言わさず中へと入っていく。

「九鬼……ッ。普通のデートですよね?」
「うん。そうダヨ~、ウィステリアちゃんのパンツ選ぼうと思って~。これなんてどう?てか、これにしよー、これもいいネ~」
「…………ウィステリアも男なのでいろいろおさまらないと思いますが。そして、胸は要らないのでは?」
「ダメダメ~、こういうのは雰囲気も必要なんだからセットで着ないと」

こういう場所に来る事が必要な時は幻術ではぐらかすのだが、今日は能力の使用はなしだと言われているため視線が気になる。
逆に九鬼くらい堂々と下着を選んでいると目立っても恥ずかしくないのかもしれない。
と、言うか九鬼は慣れ過ぎていて恥ずかしい様子は無い。
“ウィステリア”とは地下闘技場に潜入する時に偽名なので僕の事だ。
僕は黒のボクサーパンツしか持っていない。
なのでウィステリアに変装するときはピッタリした服装になるため、下着のラインを出したくなくて九鬼のメンズビキニパンツを着けていた事がこの前バレたが、今彼が手に取っている下着たちはどう考えても僕の男性器が収まらない。
僕に手渡されていく下着をマジマジと見つめていると九鬼が耳許に唇を寄せてきた。

「地下で遊ぶ事は許してあげるから、ウィステリアの格好のままでボクのトコロに戻っておいでヨ。
あ、コレは左千夫くんに。今度エッチの時に履いてネ」

最後に黒いレースの下着を目の前で見せ付けられると紅潮してしまっている目許で睨むように彼に視線を流す。
九鬼は愉しそうにクツクツと喉を揺らして僕の手からランジェリーを全て持つと会計へと行ってしまった。

店から出るとブランド街だったので僕に服を買うという名目で何店舗も回った。
けれど九鬼の御眼鏡に適うものは無いようで、体の前で合わせたり、試着したりの繰り返しだった。

「九鬼……さっきの店の物で良くないですか?妥協してもいい範囲かと」
「え!?ダメだヨ。ボクは君に関して我慢はするケド、妥協はしないからネ~。次行こ次~!!」

直ぐ横に居る九鬼の服の袖を引き、声を掛けるが、逆に腕を掴まれて次の店舗へと進む羽目になる。
彼はいつも楽しそうだが今日はいつも以上に楽しそうなので良しとするが、自分の物を選ぶのに時間が掛かっていると思うと申し訳無い気分になってくる。

次の店舗に入った途端九鬼は僕の手を引いたまま速歩になる。
店内ディスプレイを目掛けて一目散に歩き顎に手をやると、納得したように頷いていた。
コットン生地のショート丈のジャンプスーツとサマーセーターを手に取っていた。

「コレにしよ!左千夫くんもいいと思うよね~。あ、でもこのサマーニットもいいナ。両方買おうか?どうせながらお揃いにしよ~。」
「丈が短くないですか?」
「明日着るだけだから良いジャン。気に入らなかったらいつもみたいにシーズンオフに一緒にリサイクルに出しちゃっていいヨ~。これだったらさっきのお店のカーディガン似合うヨネ!アレもおそろいにしよっか!」

僕もそうだがこの男も決めたらそこからの段取りは速い。
インナーやズボンもぱっぱと決めて行き、さっきの店にも携帯で連絡して行ったら直ぐに受け取り用に手配している。
下着まで一式ブランド品で揃えると凄い金額になるのだが、彼も一応?いや、かなり金持ちの部類なので気にも止めていない。
僕は神功コーポレーションの養子なので、外で父の仕事関係の知り合いに会うことも多く、適当な格好は出来ない為揃えているが。

「九鬼、別にブランドじゃ無くても……」
「でも、左千夫くんにもメンツがあるから外に着ていくならこのランクじゃなきゃ着れないでしょ?左千夫くんのパパさんと、君のお兄さんのトッキーはオーダーメイド品しか着てないし」
「よく、見てますね……」
「フフフ、このクッキーに掛かれば何でもわかるんだヨ♪どうせ、左千夫くんは採寸嫌いだからオーダーメイド品拒否してるんデショ」
「……お恥ずかしながらその通りですね。触られるのはどうも苦手で、スーツだけなら偶で大丈夫ですのでお願いしてますが、私服になると頻繁に採寸が必要になるので既製品に頼ってます。と、言っても僕の服は全て父さんの口座に繋がっているカードで買っているので」
「え!!ソレは知らなかったナ。流石パパさん……だから左千夫くんが服買わなかったら送り付けて着てるのか」
「ですね。神功の二人は僕に対しては過保護過ぎるんです。服はシーズン単位で新しく購入しなければカード履歴でバレて送り付けられてしまいますね。……父さんの趣味は少し僕には派手なので、自分で無難な物を選ぶようにしてます」

実は今日の服も送り付けられた物だ。
九鬼は会計の準備ができたようでカウンターへと向かっていった。
半分払おうかと声を掛けたが、勿論了承を得られる筈もなく彼は会計を済ますと商品を準備している間に「ちょっと待ってて~」と、先程の店舗に戻っていった。
商品が包まれている間に店舗内を見渡していると彼に似合いそうな服を見つけて手に取った。
彼は服なんて腐るほど持っているんだけど。
少し悩んでから店員に頼むとその服も包装して貰った。
会計をカードで済ませて、包装し終わった袋を両手に抱えると店を出て九鬼のところに向かう。
九鬼もロゴ入りの袋を持って早足で此方に向かって来ているところで出会った。

「あ!待っててくれてよかったのに、持つヨ」
「これくらい持てますよ、あ、九鬼、すいません、待っててください。────こんにちは、古河さん。ご無沙汰しております。」

「これはこれは神功家の……」
「はい、神功左千夫です。古河さんの最近のご活躍は父から聞いております。新しく始められた外食産業も素晴らしいですね。僕も最近喫茶店を開いたので色々参考にさせて頂いてます」

どうしてもブランド店が建ち並ぶ通りを歩いていると家や仕事関係の知り合いに出会ってしまう。
無視する事は出来ないので此方から話題を仕掛けて早く終わらせてしまおうと、僕は会話を続けた。



▽▽ KUKi side ▽▽

左千夫くんがお金持ちのオジサマの方に行ってしまった。
仕事関係もあるからこの辺りは仕方が無いので何とも思わないんだけど。
かなり有名所の人物っぽいので時間が掛かるかなと思ったが。

「すいません、今日は友人と遊びに来てまして、またご一緒させてください」
「そうか、それは残念だね。お父さんにもよろしく伝えといておくれ」
「はい。失礼いたしますね」

珍しく早々に会話を切り上げて僕の元に早足で駆けてくる。
トンデモナイ優越感を感じてしまうのを彼は分かっているのだろうか。
左千夫くんは僕から半分荷物を奪うとさっさと歩き始める。

「すいません、お待たせしました。次どこ行きますか?」
「あんなに早く切り上げてよかったの?」
「……?構いませんよ、今日の僕はオフなので」

オフと言われるとその通りだ。
左千夫くんは容姿もスタイルも完璧なので嫌でも人目を引く。
いつもなら人目を引くと言う事を最大限利用しながら近づき難いオーラを纏っているので、高嶺の花といった感じで話かけ辛い。
ただ、計算された隙も作られているので用件があれば話しかけやすくはなっている。
でも、今日の左千夫くんは人目を引くことは変わらないけど無防備だ。
僕が居るから話し掛けられたりしないけど、この状態の彼を一人で歩かせたくないし、他の奴の横も歩かせたくない。
左千夫くんは知人が多く居るこのゾーンを抜けたいんだろう早足で別方向へと歩いていく。
ボクは腕では無く手を繋ぐと密着するように横に並んで歩き始める。
左千夫くんは驚いた様に数度瞬いてからボクの耳に唇を寄せてきた。

「目立ちますよ?」
「ずっと繋ぐわけじゃないしいいデショ。なんか食べよっか~いつの間にかお昼だいぶ過ぎてるし」
「貴方が妥協しなかったせいですね」
「それが原因なら仕方ないカナ~。あ、先にトイレ行きたーい、そこに調度有るから行ってくる」
「僕も行きたいです」
「……!左千夫くんが外でトイレとかなんかやらしい気分になるんだけど」
「……ッ!?僕も人間なのでトイレ位行きますよ」
「そうダネ~オシッコ出るのは知って、─ッいったい!もー、革靴磨くの大変なんだから踏まないでよネ~。なら行こ行こ~」

そのまま繋いだ手を引っ張って公衆トイレに入っていく。
誰も居なかったのだが左千夫くんは個室に向かおうとしたので男性用の小便器の一番奥へと押し込んでやる。

「……!?九鬼…、僕こっちではあまり」
「ん?今ボクしか居ないし誰か来てもガードしといてあげるから大丈夫ダヨ」

確かに左千夫くんが小便器で立ちションしているところは見たことない。
と言うか、セックス中におしっこをさせるところは何度も見てるけど、こうやって普通に排尿する所を見るのは初めてだな。
ボクは隣でサッサとズボンのチャックを下ろしピアスが主張しているイチモツを引きずり出すと、排尿を始める。
珍しくめちゃくちゃ困った顔をしていたが観念したように肩に掛けている鞄や荷物の位置を整えると、オーバー気味の袖を捲ってからジー…とジッパーの音を響かせて左千夫くんが男性器を取り出した。
プレイ中に開けたプリンス・アルバートのピアスホールはペニスの下側から開けるホールだし、プリンスワンド型のピアスは尿道内にこそ違和感は有るだろうが、パッと見はペニスの先端に排尿用の穴が空いた赤いルビーが見えるだけだ。
と、言っても美麗な彼のチンコがズル剥けで先端に宝石が着いていたらギョッとするし、立ちションしている姿は見てはいけないものを見ている感覚になる。
ピアスの穴が空いてるからか幾分慎重に左千夫くんはジョロジョロと排尿を始める。
ダイヤの穴から小水が出てくる様はエロすぎた。
別にプレイ中でも何でもないんだけど、めちゃくちゃムラムラしてきたので耳許に唇を寄せた。

「左千夫くん、なんかやらしい……」
「………ッ、態々言わなくていいです。元から兄さんにもこっちではしない方が良いって言われてるんですから」
「ナンデトッキーが出てくるの?」
「昔、普通に学校でしてた時に周りが失心しちゃうから止めておけと」
「あー…それ、わかる気がする……ボク達肉食系からしたら、襲って~って言ってるようなもんだしネ~」
「言ってません、僕は用を足しているだけです。誰かさんが変なものを付けてくれたのでますますこっちでは出来なくなりましたしね」

珍しく刺々しい口調でそう告げると、左千夫くんは排尿を終えたようで根本を軽く扱いてから早々にズボンへと直していた。
かなーり良いものが見れたのでボクのチンコが勢いを増すけど、そんな事お構いなしに左千夫くんが体を押してくる。

「ちょっと、ボクまだモロ出しだって」
「大丈夫です、出てても出てなくても貴方は全てが猥褻物です」
「それ褒め言葉?」
「───ッ!褒めてません!もうさっさと行きますよ」

半勃ちの性器を仕舞って手を洗ってからトイレから出る。
少しだけ先に出た左千夫くんは《紅魂》を見つけたようで息を吸うように《食霊》していた。

「相変わらず魂は食べるの早いネ~、ご飯は食べないのに」
「今日は全部僕が頂きますよ、誰かさんが公衆の面前で勃起したら困るので」
「えー、ズボンの中で勃つくらい、いいじゃん!あ、左千夫くんクレープあるヨ!食べる?」
「そうですね、ピスタチオと苺が乗ってるのが食べたいです」
「他のも食べたいネ~。あ、あっちにある唐揚げ食べたーい。ボク買ってくるネ、飲み物も適当に買っといて、ちゃんとココで待ってるんダヨ?変な人についていっちゃ駄目だからネ~」
「……僕はもういい大人なので大丈夫ですよ」

左千夫くんを残して唐揚げ屋に向かう。
激辛メニューもあるし逆に台湾ドーナツという丸いドーナツもあるしお腹も空いていたので色々頼んでしまう。
荷物もかなり多くなってきたし、このままホテルコースで良いかと携帯で自系列の高級ラブホテルをボクだとバレないように抑えた。
適当な所に行っても良かったんだけど、初デートと考えるとそこは外す事ができなかった。
だいぶマシになっていたのにまた無駄にドキドキしながらホテルの予約を済ませて、持ち帰り用で頼んだ大量の食べ物を持つと左千夫くんの元へと戻る。

「あれ、居ないし…」

左千夫くんはクレープ屋には居なかった。
キョロキョロ見渡していると、ブワッと一瞬だが能力の気配を感じたので急いで路地裏に視線を向けると左千夫くんが美女の瞳に口付けていた。
《食霊》をしていると分かっているんだけど何だかココロが落ち着かない。
美女の《紅魂》が炎に包まれると左千夫くんはこっちに気付いてクレープを片手に走ってくる。

「すいません、見つけてしまったので……凄い量ですね…」
「んー…なんか、色々食べたくなっちゃって。荷物も多いし少し早いけどホテル行こっか?途中食べたいのあったら買っていこー」
「わかりました。……九鬼、はい、あーんしてください」
「……ッ!!?左千夫くん、ソレ絶対嫌がらせだよネ!!ボクが甘いの嫌いなこと知ってる癖にッ」
「九鬼、あーん?」

悪魔だ、ここに悪魔が居る。
小悪魔なんてレベルではない。
無防備な表情を浮かべながらそんな事言われたら食べない訳には行かないんだけどッ!
珍しいお誘いに仕方なくボクは口を開く。
高校時代はこうやって食べさせられた事もあったけど、左千夫くんは最近甘いモノも食べなくなったので懐かしいなと思いながらクレープに齧り付いたんだけど。

「──!?あっっっっまい!ヤッパリあまーい!!頭痛くなるー!」

これは決してオーバーではない。
本当に甘い味は苦手だ。
口に残る感じといい胸焼けするような、気持ち悪くなるような味わいに文句を垂れていると、珍しく左千夫くんがクスクスと愉しそうに笑いながら袋から飲み物を差し出してきた。
ヤバイこの笑顔はかなりクるものがある。
コレも甘かったらどうしようと思ったけど、ちゃんとブラックコーヒーだった。

「すいません、甘いものを見ていたら久々に貴方のその顔が見たく…ッフフ、なって……く、フフフ」

「ちょっ、そんな理由で?流石に酷いでしょッ!も、行くヨー」
「はい。すいま、…せん、ふ…」
「笑い過ぎだって、あ、……左千夫くんに仕返し~これ食べてヨ」

体を丸めるようにして笑う様子になんだかココロがムズムズする。
甘いモノを食べた事によりこの表情が見られるなら良いかと思ってしまうやつだ。
彼は袋の中にコーヒーを戻すと並んで歩き始めたが、不意に仕返しを思い付いてボクの袋の中から“刺激的スパイシー”を謳い文句にしていた台湾唐揚げを取り出した。
袋から少し出すと歩きながら相手の口許に持っていってやる。
左千夫くんが、うっ…と喉を詰めて少し体を引いていた。

「九鬼…僕、辛いものは……」
「知ってるヨ、でも最近は喫茶店の為にも少し味見してるのも知ってる」
「そうですけど……」
「ボクも食べたんだから、左千夫くんも食べてヨ」
「……でしたら、少しだけ、いただきます。ん……………───ッ!!!!?」

ボクの手にある唐揚げを少しだけ齧った左千夫くんは直ぐに悶絶した。
無言で目許を真っ赤に染めてから慌てて自分の持っていたクレープに齧りついていた。
少し、いやだいぶ涙目だ。
歩きながらその可愛さを満足気に覗き込んで居たら濡れた瞳に睨まれてドキッと心臓が跳ねた。
もう今日のボクは駄目だと思う。
左千夫くんが可愛過ぎる。
平静を装う様に左千夫くんが齧った残りを食べると、ボクが好きな味が口の中に広がった。
でも、ソレよりも自分が甘いモノを食べて、左千夫くんが笑ったときのほうが満たされてしまう事に気付いてますます鼓動が速くなった。

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