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 時は少しだけ遡る。

 エイダに強制的に追い出された疾風の英雄達は館と南門の中間辺りの場所に姿を現した。

「聖女はあそこか」

「みたいね」

「さっきまで空を飛んで皇女と目立っていたようだから間違いねえな」

 そう言って歩を進める4人は周囲から目立っている。

 当然だろう、兵士達よりも明らかに良い装備をし、目立った汚れもない。

 更に疾風の英雄として戦いの始まる前に紹介されているのだ、既に突入を果たしたはずの4人が今ここにいるという事に兵士達は訝しげな顔を浮かべる。

 しかしそのような不躾な視線も気にせずに4人は進み続ける。

 そして救護所と並んで設置された指揮所に近付いていく。

「ここからは許可無きものは立ち入り禁止だ!」

「立ち去るがよい!」

 その歩みを二人の騎士が遮る。

 事を起こすまで目立たないようにと大人しくつくられた道を歩いてきていたのだが、そういうところには要所に守備の人間が立っている、それがこの二人である。

「邪魔すんな!」

「おらぁ!!」

 ゲラートとガイルが開口一番殴りかかる。

 ガイルに殴られた騎士はそのまま吹き飛び意識を飛ばすが、ゲラートの相手をした騎士は辛うじて防御を成功させ、警笛を鳴らす。

 この騎士が幸運だったのはゲラートがまだ剣を抜いておらず、素手で襲撃されたことか。

 しかし警笛を鳴らす以上の事は出来ずガイルの標的になり壁にめり込み沈黙する。

「チッ」

「なにやってんだよ」

「折角奇襲しようと思ったのに無駄になったじゃん」

「責任とってあいつら全部蹴散らせよ」

 そう言い合っている4人に警笛を聞きつけた守衛の兵士達が駆けつけてくる。

「なにやぐあああああああ」

「くせものおおおおおおおおおおおおお」

 言葉を発し終える事すらできずに吹き飛ばされていく兵士達。

「チッ、めんどくせえな、一気にふっとばすか、」

 そう言って魔力を高めていくゲラート、しかしそれを黙って見逃す程錬度は低くは無い。

「何かやる気だぞ!」

「怯むな!何かする前に叩くんだ!」

 そう言って兵士達はゲラートに殺到しようとするがそこに立ち塞がる巨漢がいた。

「ったく、結局こうなるのか」

「文句言わないでさっさとやりなさい」

「ヘイヘイ」

 ぼやくガイルに冷たくバーバラが言い捨てる。

 その姿は敵を前にしているのに余裕を前面に押し出しているため兵士達は苛立ちを隠さない。

「怯むなかかれー!」

「余裕こきやぐああああああ」

「しにさああああああああああ」

 その挑発に乗って叫びながら掛かっていく兵士達の叫びは途中から悲鳴に変り、戦闘不能となり吹き飛ばされていく。

 ちぎっては投げられ投げられては砕かれる兵士達、そうして暴れるガイルだが流石にSSSランクパーティというところか、余裕が崩れる事も、息を切らすこともない。

「ったく、雑魚がわらわらと、めんどうくせえな!ゲラート!いつまでかかってやがる!」

 苛立ちを顕に叫ぶガイル、だがそれに応えるのはゲラートではなかった。

「おおっと!?」

 突然突き出された鋭い切っ先に仰け反り回避しながら大きくバックステップを踏み距離を開ける。

「へえ、ちっとは骨のありそうな奴がいるんだな、何もんだ」

 スッと頬に走る一筋の赤い線を触りながら笑うガイル。

「賊に名乗る名等持ち合わせていない、貴様らを排除する」

 そこにいるのはライム村でもアンジェの守護を任されていた近衛騎士隊長、ハインである。

 一瞬のにらみ合いの後、激突する二人。

 足を使って後ろのゲラートに迫ろうとするが、ガイルもフットワークを駆使して正面を外さないようにしつつ攻防を繰り返す。

 両手の小太刀から嵐のような剣戟が、突きが、時には蹴り上げる土での目潰しや蹴りも駆使して徐々に前に歩を進めていく。

 しかしガイルもそれを防ぎ、反撃を行いながら時間を稼ぐ。

 本来ならこのような展開にはならないのだが、今のガイルはゲラートの為に足止めをしなければいけない為、自由に動けない。

 それがこの戦いを一方的にしているのだが、それは長くは続かない。

「待たせたな!どけ!ガイル!炎竜一閃!!!」

 言うや否や溜めた魔力を使った必殺の一撃を放つゲラート

「おま!ちょっとはまてや!」

 それを見てハインに蹴りかかり、防がせたところを足場にして大きく飛び下がるガイル。

「そいつはおまけだ!とっとけや!」

 後ろに吹き飛んだハインに言い捨てるガイルが勝ち誇った笑みを浮かべる。

 絶体絶命、直撃不可避。

 当たれば死ぬ攻撃を前にハインが取った行動は迎撃である。

 半身になり、右足が前で前傾し、両手に握った二刀を左上後方に構える。

「はぁっ!!!」

 踏み込みと共に振り下ろした二つの斬撃が衝撃波となり、地を走る。

 一瞬で込められるだけの魔力を込めたそれは炎竜一閃にぶつかり、その進行を止めるのだが。

「あめえ!!!」

 かけた時間か、実力か、すぐに押し返されてしまい、それはハインに猛烈な勢いで迫ってくる。

 技後硬直で動けないハインに避ける術はなく、それが直撃し、彼が散る事をそこにいる人間全てが確信する。

 あるものは笑い、ある者は目を覆う中、二つの光線が飛来する。

 それは狙い違わず炎竜一閃を直撃し、再びの拮抗が訪れる。

「ぐ、しゃ、しゃらくせええええ!うおおおおおおおおおお!!!」

 そう気勢を上げるゲラートだが、それは無駄に終わる。

「シィルドオオオオオオオオ!バアアアアアアアアアアアアアアッシュ!」

 ハインの後ろから飛び出してきた影の雄たけびと共に振りぬかれた左手が、炎竜一閃を弾き飛ばす。

「よおハイン、苦戦しているようだな?」

 全身を金属鎧で武装し、ミスリルで作られたブロードソードを腰に差し、ミスリルのラウンドシールドを振りぬいた姿で声をかける男。

「アルフレッド殿、かたじけない」

 そういいながら軽く頭を下げ歩み寄るハイン

「なに、いいってことよ、んでこの状況だが、やっぱりあれか?」

「ええ、嘆かわしいことですが」

「全くだ」

 そう言葉を交わし目の前の賊を見据える二人。

「投降しろ、さもなければ」

「反逆者として死ぬよりも苦しい責め苦を与える」

 その勧告を聞いたゲラートは激昂する。

「はっ!一匹増えた程度で何言ってやがる!まとめてぶっころしてやる!やるぞ!」

「おう!袋叩きだ!」

「ええ!思い知らせてあげる!」

 戦闘体勢に入る両者、しかし。

「二人だけではありませんよ!」

「私達も闘うわ」

「城の決着つける」

 そこに投げかけられる女の声。

 それはロイドが守ると決意したアンジェとルイス。

 そして彼に懐く小さなレディ、リンの3人であった。

 SSSランクの4人PTに5人で挑む。

 無謀と言われる戦いが幕を上げようとしていた。



アイ「これ、無謀なのか?」
リリ「どっちかというと無謀なのは……」
アラ「まぁそうだよな。」
アイ「本来なら無謀なんだが、この場合だとなぁ」
アラ「作者は一般論で言ってるだけだと思うがな」
リリ「それでも中身をみちゃうとねぇ……」
アラ「そりゃ、擁護しきれないな」
アイ「まぁそんなわけだから安心してみていられそうだな」
リリ「それはそうとクウちゃんどうしたのかしら?」
アラ「そういえばいないな」
アイ「まぁ予想はつくけどな」
リリ「うーん、どうなるのか楽しみだからネタバレはなしで!」
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