『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第2話~風のこえ~

「直くん」(6)

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 今も、相変わらず成長しないことと突発的な発言を除けば、普段の言動自体におかしなところは見られない。ただ、やはり好奇の目で見られるからか、学校にはあまり行っていないらしかった。もはや、時間が本当の意味で陽南を癒してくれるのを待つしかないからと、家族は余計な口出しをせずに見守り続けている。
 ……とはいえ、来年は中学入学が控えているため、さすがに最近は不安もあるらしい。話をしてくれた橋本のおばさんはそう締めくくった。
 見た目は7歳の頃と同じでも、実際の年齢までそのままでいられはしない。海を見つめる陽南の横顔には、実年齢以上の大人びた雰囲気が見え隠れしている。
 彼女はきっと、周囲が思う以上にいろんなことを理解している。だから外見は幼い子供でも、言葉遣いまで同じようにはしていない。
 それでもなお、現実を認めたくない気持ちはいまだに強く心の中にあって、その思いが体の成長を止めてしまっているのだろう。映見子は身内ではないが、彼女が生まれた時から一応は知っているし、自分自身がもうすぐ子供を産むからか、陽南に対して母親に近い感情を覚える。実際の彼女の親の、心配や不安はこんな程度では済まないともわかっているけれど。
 その後も陽南は黙ったまま海を眺め続け、30分ほど経って唐突に立ち上がり、映見子が歩いてきた方向へと走っていった。直前に振り返り、こちらに無言で会釈してから。
 陽南が去るまで、映見子も何も話しかけずに、彼女の近くに座っていた。
 ……そうしていたい、と思ったからだった。
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