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第3話~空のおと~
同級生の彼女(9)
しおりを挟むだが繭子も「彼」も、反対に屈しはしなかった。根気よく説得を続けた結果、家族はやっと、二人が本気だと認めてくれたらしい。最終的には「許してもらえないなら家を出る」とまで繭子は断言したという。
そのくだりに、良行は複雑な驚きを感じた。本音の一部を口にする。
「ずいぶん、思いきったこと言ったんだね」
「うん、自分でもそう思う。でもその時は、何でもしてやるって心境だったから。彼と結婚するためなら」
照れくさそうだったが、彼女が当時、相当の固い決意でそう言っただろうことは想像できる、そんな口調。「彼」への想いの強さを知るには、それだけで充分だった、
……覚悟していたから、少しだけ痛みはあっても、悲しくはない。
繭子が幸せであるのなら、それでいいと思う。心の底から。
会話が途切れたが、お互いに話しかけず、コーヒーをすするだけの沈黙ができた。
その時初めて気づいた。周囲の音が、店内に流れる有線の音楽だけになっていることに。
良行が店に入った時点で、客がいたテーブルは3つか4つ。一人客はいなくて、皆、何かしらの会話をしていたはずだった。
目だけで見回すと、入り口近くの一角は空席になっていたが、比較的近い2ヶ所にはまだ複数の人がいる。
そのグループ客のどちらもが口を閉ざし、一人ないし二人以上がこちら側に視線を向けている。良行と目が合った途端にそそくさと逸らした様子は、さっきのウエイトレスと酷似していた。
彼らの仕草は、何を意味するのだろう。
繭子は小野寺家の娘だから、この町の中でなら誰に顔を知られていてもおかしくない。婚約の事実もそれなりに広まっていると思う。その繭子が、婚約者でない男と親しく話しているのが、気になるということなのか。
だが訳ありの関係などではないのは、こちらの会話で明らかだろう。彼らの距離なら、特に声をひそめていなかったさっきの会話は、聞く気があれば聞こえていたはずだ。
店のどこかで、チャイムのような機械音がした。おそらく時計の音だろう。
「え、もう7時? ごめんなさい、長話しちゃって」
「いや、先に長話したのはこっちだから」
言いながら、遅くなることを家に連絡し忘れていたことに、ようやく思い至った。
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