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第一章 塔の異世界
マギナ先生の精霊術講座 実践編 精霊書
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「じゃあ、まずは精霊書からね」
そう言ってマギナは足元の箱からさっき握り潰してしまった巻紙を取り出した。そして紐を解いて広げて僕に向けた。
「簡単なのだけど、これが精霊書だよ」
紙面には明らかに違う二種類の言語が記されていた。上半分には"意思疎通"の精霊書を無理矢理読まされた時に見たのと同じような文字が並んでいる。下半分は象形文字を筆記体にしたような文字で書かれている。そして真ん中には円がひとつ描かれていた。
当たり前だけど、どちらの文字も読めない。
「一番上の一文が精霊書を起動させるための起動文。これを声に出して読めば精霊書が使えるよ。で、その下が説明文。この精霊書の効果と注意書きだね。そしてそして下半分は精霊語で書いた本文だよ」
「なるほど」
構成は理解した。なにが書かれているのかはさっぱりだけど。
マギナは精霊書を地面に置き、石を拾って円の近くに置いた。
「その石は?」
「風に飛ばされないようにしただけだよ」
「なるほど」
てっきり精霊書を使うのに必要なのかと思った。緊張してるのかな……今ならなんでもそれっぽく見えそうだ。
「じゃあクーヤ、精霊書の使い方は簡単! 触れて読む。以上!」
またアバウトな……。まあ、それで使えるんだろうけど。
マギナは精霊書の横で屈んだまま、どうぞとばかりに両手で精霊書を指した。
僕も同じように屈んで精霊書に触れる。だけど――
「読めないんですけど……」
「あ~、そっか、文字が読めるようにはなってないんだね」
マギナは苦笑いで肩を落とした。
”意思疎通”の精霊書の効果は会話に限定されているのかもしれない。読み書きだって意思疎通の方法だと思うんだけどなぁ……。
「じゃあ、わたしが読むからクーヤは真似して。あ、真ん中の円の近くに指を置かないようにね」
「うん、了解」
改めて精霊書の端に指を置く。
あー、緊張するなぁ。
「いくよ~……”点火”!」
「っ……”点火”!」
次の瞬間、精霊書の円の上にライターのそれよりも少し大きい火が現れた。それと同時に精霊書の四隅が青い光の粒になって、少しずつ消え始めた。
凄い。本当に使えた。まあ、効果はちょっとショボいけど。
……ん?
目を細めて精霊書の起動文を見る。
「読めた」
「なにが?」
「起動文」
「え~っと、うん、読めたね。そんなことより、感想とかないの?」
マギナは呆れたような顔で僕を見た。
これは通じてないな。
「どう説明すればいいのか……あぁ、そうだ! 説明文も読んでくれないかな」
僕が混乱している間にも青い光の侵食は続いている。このままのペースなら数分のうちに起動文どころか精霊書そのものが消えてしまうだろう。
「……うん。じゃあ読むね。
本書をご使用になりますと中央の円に火が灯ります。薪の点火などにお使いください。中央の円に触れて起動致しますと大変危険ですのでご注意ください」
「うん、読めた! なんか頭の中にこの世界の言葉がすっと入ってきたみたいになった!」
マギナにはまだ通じていないようで、ちょっと引き気味の御様子だ。対する僕は少し変なテンションになってしまっている。
「え~っとつまり、例えばマギナさんが本を読んで僕がその文字を目で追えば、この世界の言語が読めるようになるってことだよ」
「それって頑張れば普通にそうなるよ……ね? それとも記憶力自慢?」
確かにその通りだ。だけどそういうのとは明らかに違う。それとその困った人を見るような目がちょっとイラッとする。
「そうじゃなくて、言葉を勉強する時って理解したり記憶したりって工程を挟むよね? 何回も繰り返して読んだり書いたり……」
「うん、そうだね」
「でもそういう工程をすっ飛ばして言語を理解できたって感じなんだよ。あぁ、ほら! さっき言ってたよね? 神託で公用語しか使えなくなったって。多分そんな感じ」
「クーヤも神託の影響で文字が読めるようになったってこと?」
そう言われると少し違う気がする。神託の強制力だとしたら日本語を忘れるはずだ。だけど、日本語を書けと言われても難なく書ける自信がある。となると――
「いや、”意思疎通”の効果……じゃないかな」
ようやく納得してもらえたのか、引き気味だったマギナが感慨深そうに腕を組んだ。
「そっか~。あの精霊書にそんな効果まであったなんてね~」
「おかげで文字を一から勉強しなくても済みそうだよ。……あ~、だけど誰かに本とか読んでもらわないと……」
「まっかせてよ!」
マギナは笑顔で引き受けてくれた。
よかった。これで読み書きはどうにかなりそうだ。
そうこうしているうちに精霊書の大半が消え、光の侵食は中央の円に迫っていた。
静かな時間が流れる。
線香花火を眺めているような気分だ。
残った紙も大気に溶けて、呆気なく火とともに消えてしまった。
「どうだった!?」
余韻に浸ろうとする僕の首根っこを掴むかのように、マギナは感想を求めてきた。
彼女にばれないよう、吐息にため息を混ぜる。
「凄かったけど、もうちょっと派手なのがよかったかな……」
マギナは苦笑いで目を反らした。
「そういうのは少しお高い商品だから……。でもでも、そのうちすっごく派手なの見せてあげるよ!」
今度は僕が苦笑する。
つまりはケチったってことか。
「まあ、期待だけはしておくよ」
「うん! 期待してて! じゃあ、次は詠唱法だね」
マギナは立ち上がり、僕もそれに倣う。
彼女の話だと精霊語を唱えるだけで使えるらしいけど、どんな代物だろう。
そう言ってマギナは足元の箱からさっき握り潰してしまった巻紙を取り出した。そして紐を解いて広げて僕に向けた。
「簡単なのだけど、これが精霊書だよ」
紙面には明らかに違う二種類の言語が記されていた。上半分には"意思疎通"の精霊書を無理矢理読まされた時に見たのと同じような文字が並んでいる。下半分は象形文字を筆記体にしたような文字で書かれている。そして真ん中には円がひとつ描かれていた。
当たり前だけど、どちらの文字も読めない。
「一番上の一文が精霊書を起動させるための起動文。これを声に出して読めば精霊書が使えるよ。で、その下が説明文。この精霊書の効果と注意書きだね。そしてそして下半分は精霊語で書いた本文だよ」
「なるほど」
構成は理解した。なにが書かれているのかはさっぱりだけど。
マギナは精霊書を地面に置き、石を拾って円の近くに置いた。
「その石は?」
「風に飛ばされないようにしただけだよ」
「なるほど」
てっきり精霊書を使うのに必要なのかと思った。緊張してるのかな……今ならなんでもそれっぽく見えそうだ。
「じゃあクーヤ、精霊書の使い方は簡単! 触れて読む。以上!」
またアバウトな……。まあ、それで使えるんだろうけど。
マギナは精霊書の横で屈んだまま、どうぞとばかりに両手で精霊書を指した。
僕も同じように屈んで精霊書に触れる。だけど――
「読めないんですけど……」
「あ~、そっか、文字が読めるようにはなってないんだね」
マギナは苦笑いで肩を落とした。
”意思疎通”の精霊書の効果は会話に限定されているのかもしれない。読み書きだって意思疎通の方法だと思うんだけどなぁ……。
「じゃあ、わたしが読むからクーヤは真似して。あ、真ん中の円の近くに指を置かないようにね」
「うん、了解」
改めて精霊書の端に指を置く。
あー、緊張するなぁ。
「いくよ~……”点火”!」
「っ……”点火”!」
次の瞬間、精霊書の円の上にライターのそれよりも少し大きい火が現れた。それと同時に精霊書の四隅が青い光の粒になって、少しずつ消え始めた。
凄い。本当に使えた。まあ、効果はちょっとショボいけど。
……ん?
目を細めて精霊書の起動文を見る。
「読めた」
「なにが?」
「起動文」
「え~っと、うん、読めたね。そんなことより、感想とかないの?」
マギナは呆れたような顔で僕を見た。
これは通じてないな。
「どう説明すればいいのか……あぁ、そうだ! 説明文も読んでくれないかな」
僕が混乱している間にも青い光の侵食は続いている。このままのペースなら数分のうちに起動文どころか精霊書そのものが消えてしまうだろう。
「……うん。じゃあ読むね。
本書をご使用になりますと中央の円に火が灯ります。薪の点火などにお使いください。中央の円に触れて起動致しますと大変危険ですのでご注意ください」
「うん、読めた! なんか頭の中にこの世界の言葉がすっと入ってきたみたいになった!」
マギナにはまだ通じていないようで、ちょっと引き気味の御様子だ。対する僕は少し変なテンションになってしまっている。
「え~っとつまり、例えばマギナさんが本を読んで僕がその文字を目で追えば、この世界の言語が読めるようになるってことだよ」
「それって頑張れば普通にそうなるよ……ね? それとも記憶力自慢?」
確かにその通りだ。だけどそういうのとは明らかに違う。それとその困った人を見るような目がちょっとイラッとする。
「そうじゃなくて、言葉を勉強する時って理解したり記憶したりって工程を挟むよね? 何回も繰り返して読んだり書いたり……」
「うん、そうだね」
「でもそういう工程をすっ飛ばして言語を理解できたって感じなんだよ。あぁ、ほら! さっき言ってたよね? 神託で公用語しか使えなくなったって。多分そんな感じ」
「クーヤも神託の影響で文字が読めるようになったってこと?」
そう言われると少し違う気がする。神託の強制力だとしたら日本語を忘れるはずだ。だけど、日本語を書けと言われても難なく書ける自信がある。となると――
「いや、”意思疎通”の効果……じゃないかな」
ようやく納得してもらえたのか、引き気味だったマギナが感慨深そうに腕を組んだ。
「そっか~。あの精霊書にそんな効果まであったなんてね~」
「おかげで文字を一から勉強しなくても済みそうだよ。……あ~、だけど誰かに本とか読んでもらわないと……」
「まっかせてよ!」
マギナは笑顔で引き受けてくれた。
よかった。これで読み書きはどうにかなりそうだ。
そうこうしているうちに精霊書の大半が消え、光の侵食は中央の円に迫っていた。
静かな時間が流れる。
線香花火を眺めているような気分だ。
残った紙も大気に溶けて、呆気なく火とともに消えてしまった。
「どうだった!?」
余韻に浸ろうとする僕の首根っこを掴むかのように、マギナは感想を求めてきた。
彼女にばれないよう、吐息にため息を混ぜる。
「凄かったけど、もうちょっと派手なのがよかったかな……」
マギナは苦笑いで目を反らした。
「そういうのは少しお高い商品だから……。でもでも、そのうちすっごく派手なの見せてあげるよ!」
今度は僕が苦笑する。
つまりはケチったってことか。
「まあ、期待だけはしておくよ」
「うん! 期待してて! じゃあ、次は詠唱法だね」
マギナは立ち上がり、僕もそれに倣う。
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