精霊書店の異世界人

多々羅

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第三章 黒犬が駆ける森

丘陵の街道

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 冒険者ギルドで手続きを済ませた僕たちは、ついでに早めの昼食をとり、ペンピストを出発した。
 それがえ~っと……何時間前だっけ……六、七時間? いや、日が傾いてきてるけど、夕方までまだまだ時間がありそうだから……四時間ってところか。だとしたら、この世界の時計は三時間半くらいしか進んでないってことかな。

 この世界の時間も時計も地球のそれとはまったく違う。この世界の時計の文字盤はぜろから九までしかない。つまり一日二十時間だ。だけどスマホで計ってみたら一日は約二十二時間だった。要するにこの世界と地球とでは一日の長さどころか一秒の長さも違うということだ。異世界だからって、まさか時間まで違うとは思わなかった。

 まあ、そんなこと、今は、どうでも、いいんですよ。もうね……徒歩なんですよ。移動手段が。ペンピストからずっと。足が、もう、パンパンなんですよ。というか、感覚がなくなり始めてるんですよね。

「にしても、人通りが少ねぇな」
「そだね~。街道なのにね」
「この街道はどこへ行くにも遠回りになってしまいますから、利用する方は少ないでしょうね」

 街道というだけあって道は悪くない。道幅も広いし、整備もされてるようだから歩きにくいってことはない。問題は地形だ。丘陵きゅうりょうが連なっている。なだらかな坂を上ったり下ったり……。じわじわと地味に体力が削られていく。いっそ急斜面のほうが「もう無理」と音を上げられるってもんだ。

「ねぇレーシア、どうすればそんなに大きくなれるの?」
「それ、俺も聞きてぇ」
「わたしは自然に伸びたので……ですが、ミルクやお魚を食べるといいらしいですよ。それと……鉄棒にぶら下がると伸びるという話もありますが……」

 前を歩く三人は元気そうだ。そりゃそうさ。だって彼女らはリュックを背負ってないんだもの。ペンピストを発つ時に、僕のリュックに皆のリュックを詰め込みやがったんだもの。さぞかし快適なことだろう。
 それにこのハンマースピアだ。最初こそ杖代わりになってくれてたけど、五キロ前後はある金属塊は持ち上げるごとに僕の腕力を奪ってくれた。肩に担いだら担いだらで、今度はその肩にめり込む始末。まさかハンマースピアの最初の餌食が自分になろうとは、夢にも思わなかった。

「そういえば、ネキア先生はお元気でしたか?」
「うん、いつも通りだったよ」
「あいつは店をぶっ壊さねぇ限り死にゃしねぇよ」

 あとどれくらいで着くんだろう……次の休憩はいつだろう――ん?
 前を行く三足の靴。そのうち一対いっついの靴底が少し分厚い。誰の靴なのか気になって視線を上げると、マギナだった。
 ――上げ底!?
 身長のことを気にしてるからって、これはどうなんだろう……。
 だけどよく見れば、ヒールの側面に長方形の穴が空いている。横二十ミリ、縦五ミリってところか。なんのための穴だろう?
 と、底上げされた靴が動きを止め、爪先がこちらを向いた。再び見上げるとマギナたちがこちらを向いていた。

「クーヤ、大丈夫~?」

 マギナの問い掛けに、頭を左右に振って応える。声を出す気力も残ってない。

「ありゃ駄目だな。少しはえぇけど休むか」

 リムの英断に、最後の力を振り絞ってヘッドバンキングする。
 これ以上歩けば僕は死にます。

「つっても、場所がなぁ……」

 そう言ってリムはあたりを見回した。
 街道の両脇は森で、木や草が生い茂っている。見通しもよくないから、道の上で休憩してて早馬ならぬ早犬が来ようものなら、うっかりかれかねない。
 さてどうしたものか……ん? レーシアが右のほうの茂みを見てる?
 彼女の視線を辿ると、茂みの奥にぽっかりと、あんまり草が生えてないスペースがあった。四人くらい余裕で座れそうだ。なんなら寝転がることだってできるだろう。

「もうちょい進むか」
「そだね~」

 嗚呼、身長の関係でリムとマギナには見えないのか。ならばレーシアさん、お願いします!

「そうですね。もう少し歩きましょうか」

 なん……だと……!?
 見てたよね? 見えてたよね!?
 と、レーシアがこっちを向いた。そして、微笑んだ。
 確信犯だ。間違いない。
 こうなったら意地でも休憩してやる!

「ちょっ……待っ……」

 どうにか声を絞り出せた……けど、マギナとリムに届いたか?

「なんだ?」

 よし! 届いてた! あとは場所を知らせるだけだ。
 最後の最後の力で左手を持ち上げ、茂みの奥を指し示す。

「あそ……こ……スペース……ある」
「ん? どこだ?」
「どこどこ~?」

 リムとマギナは飛び跳ねて探し始めた。
 なんでそんなに元気なんだ……。

「ぁ、あったあった~。あそこなら休めそうだね!」

 先に見つけたのはマギナだった。

「お? おー……そうだな。いいんじゃねぇか?」

 リムは見つけられなかったのかな? 上げ底の差かもしれない。

「クーヤさんは目がよろしいですね」

 レーシアとは今度じっくり話し合ったほうがよさそうだ。身の安全を確保するためにも。
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