LUF〜Connect Legend〜

ふずきまる

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7 想い

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僕らがやってきたのは海。
そう。砂浜があり大きな波音を立てるあの海だ。
「…で、なんで海なんだ?」
「君は体力なさ過ぎるからしばらくここでトレーニングって訳。君スポーツは?」
「中学までは野球を。ライトをしてた。」
「あら、なんでやめたの?」
「…イップスになってしまって。」
「なんでよ?」
「それは言えない。」
僕は重々しい雰囲気を放ちながらそう彼女に伝えた。肩を壊したわけではない。
「なんでよ。いいじゃない。」
「あんたは人のトラウマにそんなにつけこみたいのか!!」
「っ…悪かったわ。」
自然と大声が出てしまった。彼女は少し引き下がった。
当たり前だ。自分の嫌な思い出なんぞ話したくない。いや、本当に信頼できる人しか話せない。あんなこと、二度と思い出したくもない。
だから失礼な話、戦争体験者の人はよく自分が思い出したくない戦争の話をできるな。と尊敬してしまう。後世に伝えてかなければならないその悲惨さは僕を含め日本人全員理解している。
だけど僕の場合は別だ。
あの事件は夏に起きた。
僕はライト。9回裏。2アウト、1塁3塁の3-3。サヨナラがあるため警戒しなければならなかった。
ピッチャーがスライダーを投げたが相手打者は勢いよく振り長打となる。
記録としてはライト前ヒット。僕はとにかく得点させてはいけないと思い全力でホームに投げた。
僕の肩は強靭で皆からは「火事場の大田のレーザービーム」と呼ばれた。
火事場の馬鹿力でも言いたいのだろうか。最初は戸惑ったけどね。
そしてホームに突き刺さる訳だがキャッチャーが捉えきれず、さらにはホームインした走者のヘルメットが取れてしまいそのまま僕の送球を頭で受ける事になった。
結果としてはサヨナラ負けを喫した訳だがホームインした走者にタンカなどが走る。会場も騒然としていた。
最終的な怪我の結果として頭蓋骨骨折となった。
それ以来僕は投げる事すら出来なくなってしまい退部し、受験勉強に打ち込んだ。という訳だ。

全てを思い出してしまい少し気分が悪くなった。
「…では始めるわよ。」
彼女の言葉通りに僕はトレーニングを始めた。

「もっと足を上げる!!」
「遅い遅い!!もっとタイムを縮めなさい!」
「じ…地獄かよ…。」


…死ぬ。それが1番の感想だ。
50mダッシュを10本。まだここまでは良かったが100mと距離を伸ばし、更にはウサギ跳びで50m往復。
他にも色々行ったが本当にキツい。
僕は膝がガクガクとなり腰をついた。
座ったところで彼女が近寄って来る。ただ神妙そうな顔だ。
「貴方のトラウマに漬け込んでしまって申し訳なかった。ごめんなさい。」
お辞儀までしてまで謝ってきた。
「いや…いいよ。次からは気をつけて…。」
息も切れている状態でしかも頭がぼーっとしたため何も考えれず思ったことをそのまま言った。
「わかったわ…キャッ。」
キャッと少し悲鳴を上げた。カニが彼女のアキレス腱を挟んでいた。
振り払おうとするがしぶとく離そうとしない。
「もうっ…って、キャッ!!」
また叫んでるいればなんだと思い起き上がろうとした。
ただ、彼女は僕に倒れてきた。そのまま彼女に押し倒される形になった。
倒された衝撃でカニも吹っ飛んでいった。
僕らは少し混乱し、すぐ様状況を理解した。
「…~!!!」
彼女は赤面していた。
いや、早く離れてくれないかな。君の意外と大きい胸が当たってるからそろそろ理性が無くなるよ?
しかも顔近いし。もう少しでキスできる距離だ!
僕の心臓の音が聞こえたのか彼女は離れた。
「ご…ごめんなさい。けど…貴方に不快な思いさせたから…これで良いよね?
べ、別にこういうのはが好きという訳じゃないんだからね!?」
ツンデレを発揮する。可愛いと思えた。
結局僕は彼女をからかい彼女は恥ずかしがりながら対応。そんな感じだった。
時間もせまったため僕らは元に戻った。
戻れば皆トレーニングを終えていた。
「お、戻ったな。どうだった?」
飛鳥が話しかけて来た。
「きつかったよ…。本当に。それよりも…ねぇ?優香さん?」
「う、うるさいわね!!また潰すわよ!!」
僕はニヤつきながら彼女に目をやった。こういうのはからかいたくなるのだ。
「…ずるいな。」
飛鳥が悔しそうだった。何かを察したんだろう。
「まぁいいじゃないか。部屋に戻ろうよ。」
「うっせぇな!こちとら半分メンタル削られたよ!」
「えぁ!?」
結局皆で笑顔になった。
男女別の寮に戻った訳だが優香の話によるとそのあとの質問攻めが大変だったらしい。
僕もだった。
まぁこういうのもあってこそ楽しめるもの。
個人的には印象がついた一日だった。

夜。僕はすぐ様ベッドにダイブした。深夜になり起きてるのは自分だけ。疲れているためいつでも寝れる状態。
あの後終わってからも色々忙しかったから。
僕は電気を消し布団の中に入った。
今夜は満月の夜。月明かりが程よいほど明るい。
しかしそれとは別に白い光が刺さる。
僕は嫌々布団から起き、窓から刺さっていたため開けると、ロングの白い髪、ラピスラズリのような青い瞳、そして白いロングスカートを着た女性がベランダの淵に立っていた。
絶世美人。その言葉がふさわしい。
「あ…あなたは…。」
「……。」
彼女はどこか一点を見つめ答えなさい。
「お名前は…?」
「…フィーナ・ガルシア・デモトラント。」
表情を一切崩さずに答えた。ガルシアと言うとスペインに多い名前。
しかしよく見ると二の腕にはTartarosと書かれたロゴが見えた。
タルタロス…。まさか。
「Tartarosと書かれていますが?」
「あら、気づいたの。」
初めて彼女がこちらを向いた。現在Tartarosを知るのは自分のみ。のはず。
「私は人間。Tartarosの唯一の人間。」
「は?なら何故あの様なところへ?」
タルタロスの一員が僕の街が襲った時、僕は一人を倒した。そのままスッと消えている。僕は間近で見ている。

「私は人間がもう信じれない。だからこの世界を消したいの。」
「んな…。まだ早まる気が…。しかもに。」
「貴方には関係無い。私は私。」
僕が応えるのを拒否するかの様に早口で答えた。
ただ何故かアマテラスのリングが赤く点滅している。
「…火属性のアマテラス。…貴方では扱いきれないでしょう。」
一瞬で僕の「ルフ」を見抜いた。
「な、何故?」
「貴方弱すぎる。それだけ。」
きっぱり言われた。
「もし勝負したいのなら受けて立つわよ?ただ今の貴方とやっても私は退屈でしかない。」
「…」
僕は悔しさが滲み出た。
「これだけ伝えて頂戴。」
僕は俯いていた顔を見上げた。


「『欲にまみれた哀れなる人間よ。この未来、我らタルタロスが人間を滅ぼし新たなる世界を造る』と。」

彼女は月明かりとともに消え去った。
満月の月は僕を照らし続ける。
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