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第8話。

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 翌日。
 俺は冒険者ギルドに顔を出した。
 受付嬢にギルドカードを見せて、

「ギルマスを呼んでくれ」
「……………」
「ん? どうした?」
「…………重犯罪ですよ」
「重犯罪? 何が?」

 ギルドの受付嬢の様子がおかしい。
 受付嬢は、俺の顔にビシッと指を突き付けて言い放った。

「ギルドカードの偽造作成並びにギルドランク詐称は重犯罪です!!」

 ナニヲイッテルンダロウカ?
 ギルドカードノギゾウサクセイ?
 ギルドランクサショウ?

 俺の頭は、受付嬢の言葉を理解出来なかった。

「警備係りの人。この犯罪者を逮捕して下さい!」

 しかし、誰も動かない。

「何をしてるんですか!? 冒険者ギルドの重犯罪者ですよ!? 早く逮捕して下さい!!」

 受付嬢が金切り声で叫ぶが、それでも誰も動かない。

「なあ、アンタ。錯乱系の魔法でも喰らったか?」
「な、何ですって!? 私を誰だと思っているのかしら? サムシング辺境伯様の侍女頭マリーカの縁者よ! 私に歯向かうのなら、辺境伯様が黙っていないわよ? 不敬罪で斬首刑になりたくなかったら、大人しく逮捕されなさい!」

 やっぱり、錯乱系の魔法を喰らっているとしか思えない。
 しかし、【鑑定】してみると、状態異常は確認出来なかった。何処をどう見ても正常だった。
 俺のほうが錯乱しそうだった。
 その時、

「いい加減にしろっ! バカ娘がっ!!」

 ギルマスのシシリア姐さんが二階から飛び降りてきて、その受付嬢の頭に拳を落とした。

 ゴンッ!

 良い音だなぁ…喰らったら痛いだろうなぁ…。
 受付嬢は悲鳴をあげて、床を転がっている。

「何をするんですか! 叔母に言い付けますよ! ギルマスだって無事ではすみませんよ! 今、この場で頭を下げて謝るのな「黙れ。クソ虫女」な、何を…?」

 俺はキレた。
 闇魔法の【ダークバインド】で締め上げ、宙に浮かせる。
 闇の鎖が受付嬢の身体に減り込むまで締め上げる。
 受付嬢は、声にならない悲鳴をあげながら身体を捩る。

「テメェ。シェリー姐さんを脅すたぁ、良い度胸してるじゃねえか。自殺願望の台詞には、男心をくすぐられたぜ? だからよ。お礼として、テメェを砕き殺してやるよ」

 魔力を込めて、更に締めつける。
 首に食い込んだ鎖が喉を潰したか、口から血が滴り落ちる。
 内臓にもダメージを与える。
 全身の骨が悲鳴をあげて、粉砕骨折まで後一歩というところで、俺に声がかかった。
 振り向くと、サムシング辺境伯様の侍女頭のマリーカさんがいた。
 マリーカさんは、その場で土下座して受付嬢の命乞いをした。

「こんなバカでも私の親類です。命ばかりはお助け下さい。お願い致します」
「……シェリー姐さん。どうするよ?」

 シェリー姐さんは、腕を組んでの仁王立ち。

「全ての冒険者ギルドからの追放。ミューラーと私への慰謝料として大金貨1枚ずつと、ギルドへの迷惑料として、更に大金貨1枚を払って貰おうか。それが出来ないのであれば、奴隷落ちだ。まだ若いから、性奴隷として売れるだろう」

 シシリア姐さんの声には、一切の譲歩も許さない圧が込められていた。

「大金貨3枚、ですか。畏まりました」

 マリーカさんは冒険者ギルドカードを出して、他の受付嬢に頼んで、ギルド口座から大金貨3枚を引き出した。

「これで宜しいでしょうか」

 手渡された俺は、シェリー姐さんと顔を合わせて頷いた。
 【ダークバインド】を解いてやると、マリーカさんの親戚だと言う受付嬢…元受付嬢は、ドサっと床に落ちた。
 意識は無いが、治癒魔法を受けるかポーションを飲むかすれば命は助かるだろう。
 まあ、俺は何もしてやらないけどな。
 マリーカさんはポケットからポーションを取り出して、元受付嬢の口に無理矢理流し込む。
 元受付嬢の呼吸と顔色が生気を取り戻したところで、頬を思いっきり叩いて強制的に目を覚まさせる。
 意識が戻った元受付嬢は、マリーカさんの顔を見て泣きついた。しかし、マリーカさんはそれを許さなかった。
 頬に拳を叩き込んで黙らせると、首根っ子を掴んで、冒険者ギルドから出ていった。

「シェリー姐さん。何の茶番なの?」
「バカのする事だ。私にも分からん」
「そっか。まあ、いいか。でも、あの女はどんな折檻を受けるのかな?」
「そうだなぁ。何しろ「瞬殺拳の女王」と呼ばれたマリーカだからな」

 瞬殺拳の女王。
 冒険者ギルドの伝説の一人。
 たった一人でナザラード山の山賊150人を一人残らず殴り殺した、伝説の冒険者。それが、マリーカさんだったとは。
 ギルド中が騒めく。
 中には、マリーカさんにチョッカイをかけた事があるのだろう何人かの顔から血の気が失せている。

「んで? お前は何をしにきたんだ?」
「何をって。ダンジョンのドロップ品の買い取り交渉に決まってるだろ?」
「ああ! そうだったな。スマン。この騒ぎでド忘れしてたわ。じゃあ、執務室に行きましょう」

 俺はシェリー姐さんの執務室に行く。

「で? どれくらいのドロップ品があるの?」
「昨日、辺境伯様とシェリー姐さんに渡した物を除いて、これくらいかな」

 ドロップ品のリストを渡す。
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