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美作永嗣
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美作永嗣とは仕事で知り合った。
彼の働いている出版社からの依頼で受けた装丁デザインを俺は任されていた。
なかなかデザインにOKが出ず、やっと決定稿という段階でデザインを変更してくれと編集部から連絡があり待ったがかかった。
作家がNGを出したのだ。
よくある話ではあるけど、その作家はそれが度々あって、うんざりした他のデザイン会社は二度とその作家からの依頼は受けないと噂で聞いてはいた。
難ありの人だから覚悟はしていたけど、ここでのNGはあまりにも非常識で他のスケジュールにも影響する。
俺は担当の彼に釘を刺した。
納期まで時間がないと急かせたのはそちらだ、あなたの方でなんとかしろと。
こちらは毎回最大限の提供をしているとクレームを入れた。
担当編集者の彼は謝ってくれた、申し訳ないと。
だが、こうも言った。
「それならまた最大限を超えてください」
頭に来た。
簡単に言いやがって、何様だ。
ピリピリするし、周りの編集者や俺の会社の人たちもハラハラしてた。
頭に来たから超えてやった。
作家はあんなにごねてたのが嘘みたいに絶対これがいいと喜んでくれて…
その横で例の彼がしたり顔で、
「できるじゃないですか」
と言いやがった。
腹は立ったけど何より期待に応えられたこと、自分の限界の先があることを知れたのが嬉しかったのを覚えている。
「前に朝都くんが編集の仕事に興味あると言ってたね。作品に携われるという喜びはあるけど、作家と読者、さらに俺たちみたいな業者との橋渡しの役割は板挟みとも言えるからなかなか難儀な職業だよね」
まさきさんはしみじみと言う。
それから、何かあると彼は俺に仕事を依頼するようになった。
例の作家の本の売れ行きが良くて、それにあやかった他の作家から、装丁を俺に頼みたいと指名してくれるようになったんだ。
有り難かった。
だから自然と彼との仕事が増えた。
彼のことも知る機会が増えた。それは向こうにとっても同じだった。
何度も打ち合わせをしたり、会う機会が多くなった。電話やメールで済むことなのに、いちいち会って確認してくる。
電話やメールで大丈夫ですよ、データも送ってますしと言っても、
「いや、会わないとダメですね、顔見て話して確認しないと伝わらない」
と譲らない。
「免許の写真ってみんな変ですよね?
真崎さんのはどんな感じですか?」
と免許証を見せてくれと言ってきたり、
「この仕事してるとクリスマス関係ないんですよねえ、俺、仕事です。真崎さんはどうですか?仕事ですか?」
と聞いてきたり、いろいろ面倒な人だなあと思ってた。
でもデザイナーとして期待に応えたい、超えたいという気持ちはいつもあった。
ある時、彼との打ち合わせが終わり席を立った瞬間、不意に抱きしめられた。
俺は戸惑った。
ここ会社だぞ。
幸い応接室には俺と美作さんしかいなかった。
振り解こうとする俺をきつく抱きしめて彼は、
「好きです、あなたのことが好きです。
付き合って欲しいと言ったら引きますか?
もう二度と会ってもらえなくなりますか?」
そう言った。
ああ、そういうことだったのか。
免許証で誕生日を確認したり、クリスマス一緒に過ごす相手がいるかを確かめたかったのか。
「美作さん?」
「お願い、顔見ないで。
俺、緊張して吐きそうだし、絶対顔赤いから」
そう言うから、
「それじゃこのまま返事すればいいですか?」
と抱きしめられたまま言ったら、体を強張らせて頷いた。
「俺、ゲイじゃないです」
「俺もです」
「どうしたらいいのかわからない…」
「男女の交際のように、それが男同士になっただけと捉えてもらえれば有り難いです」
「いや、でも…」
「真崎さんを他の人に取られるの嫌なんです、俺といて欲しいし、俺が大切にしたい」
「気持ちはわかりましたし、そう思ってくださるのは嬉しいですが、でも…」
「俺、絶対揺るがないです」
「どうしたらいいんだろう…困ったな…」
「好きです、真崎さんが好きです」
彼はそれしか言わなくなっていた。
「仕事は仕事と割り切れますか?」
「え?」
「公私混同しない、それができますか?
まずそこを確かめさせてもらえませんか」
そう答えた。
これからも仕事上の付き合いはあるだろうし、断るにしても穏便に済ませたい、そう思った。
彼は俺を強く抱きしめて、
「できます!絶対守ります!」
そう言った彼の顔は本当に真っ赤だった。
まさきさんが一緒に住んでいたという人の話をしてくれている。
「その人、真崎さんのこと本気だったんですね」
「どうだろう」
「まさきさんはそう思わなかったんですか?」
「そんなことはないよ。
でもね、彼、全然割り切れなくてね」
おかしそうに笑う。
「酷かったんだよ、俺指名で来た仕事は全部自分が担当すると言い出すし、打ち合わせだと言ってすぐ外へ連れ出して帰してくれない。
俺の社長に、『うちの仕事を真崎さんがいつでも受けられるよう、真崎さんの仕事をセーブしてください』って直談判したり、『近くまで来たから』と用もないのに来たり、みんなに仲良しで微笑ましいって言われて喜んでるし、公私混同の手本みたいなことしてた」
すごいな、愛されてんなあ。
「俺、怒ったよ。
公私混同にしないと約束しましたよね?って。仕事に支障きたすし、付き合ってないのに公認みたいになってるし」
「彼はどうしたんですか?」
「言い訳してたよ、必死に。
『だって他の人と仕事してほしくないもん』だの、『ちょっとでもいいから顔みたい』だの、『外堀埋めようかと…』とつらつらと」
「それで?」
「これじゃ無理です、付き合えないって言ったら、みるみる涙目になっちゃって、『ごめんなさい、お願い、捨てないで』って。
捨てるもなにもまだ始まってもないでしょ?って言ったら、本気で泣き出して…」
まさきさん、笑っちゃってる。
「『心入れ替えます、俺、真崎さんに好かれるよう頑張る。
だから前向きに考えてもらえませんか?』って。それからは少しだけマシになった」
直ってないんだ、マシになっただけなんだw
彼の働いている出版社からの依頼で受けた装丁デザインを俺は任されていた。
なかなかデザインにOKが出ず、やっと決定稿という段階でデザインを変更してくれと編集部から連絡があり待ったがかかった。
作家がNGを出したのだ。
よくある話ではあるけど、その作家はそれが度々あって、うんざりした他のデザイン会社は二度とその作家からの依頼は受けないと噂で聞いてはいた。
難ありの人だから覚悟はしていたけど、ここでのNGはあまりにも非常識で他のスケジュールにも影響する。
俺は担当の彼に釘を刺した。
納期まで時間がないと急かせたのはそちらだ、あなたの方でなんとかしろと。
こちらは毎回最大限の提供をしているとクレームを入れた。
担当編集者の彼は謝ってくれた、申し訳ないと。
だが、こうも言った。
「それならまた最大限を超えてください」
頭に来た。
簡単に言いやがって、何様だ。
ピリピリするし、周りの編集者や俺の会社の人たちもハラハラしてた。
頭に来たから超えてやった。
作家はあんなにごねてたのが嘘みたいに絶対これがいいと喜んでくれて…
その横で例の彼がしたり顔で、
「できるじゃないですか」
と言いやがった。
腹は立ったけど何より期待に応えられたこと、自分の限界の先があることを知れたのが嬉しかったのを覚えている。
「前に朝都くんが編集の仕事に興味あると言ってたね。作品に携われるという喜びはあるけど、作家と読者、さらに俺たちみたいな業者との橋渡しの役割は板挟みとも言えるからなかなか難儀な職業だよね」
まさきさんはしみじみと言う。
それから、何かあると彼は俺に仕事を依頼するようになった。
例の作家の本の売れ行きが良くて、それにあやかった他の作家から、装丁を俺に頼みたいと指名してくれるようになったんだ。
有り難かった。
だから自然と彼との仕事が増えた。
彼のことも知る機会が増えた。それは向こうにとっても同じだった。
何度も打ち合わせをしたり、会う機会が多くなった。電話やメールで済むことなのに、いちいち会って確認してくる。
電話やメールで大丈夫ですよ、データも送ってますしと言っても、
「いや、会わないとダメですね、顔見て話して確認しないと伝わらない」
と譲らない。
「免許の写真ってみんな変ですよね?
真崎さんのはどんな感じですか?」
と免許証を見せてくれと言ってきたり、
「この仕事してるとクリスマス関係ないんですよねえ、俺、仕事です。真崎さんはどうですか?仕事ですか?」
と聞いてきたり、いろいろ面倒な人だなあと思ってた。
でもデザイナーとして期待に応えたい、超えたいという気持ちはいつもあった。
ある時、彼との打ち合わせが終わり席を立った瞬間、不意に抱きしめられた。
俺は戸惑った。
ここ会社だぞ。
幸い応接室には俺と美作さんしかいなかった。
振り解こうとする俺をきつく抱きしめて彼は、
「好きです、あなたのことが好きです。
付き合って欲しいと言ったら引きますか?
もう二度と会ってもらえなくなりますか?」
そう言った。
ああ、そういうことだったのか。
免許証で誕生日を確認したり、クリスマス一緒に過ごす相手がいるかを確かめたかったのか。
「美作さん?」
「お願い、顔見ないで。
俺、緊張して吐きそうだし、絶対顔赤いから」
そう言うから、
「それじゃこのまま返事すればいいですか?」
と抱きしめられたまま言ったら、体を強張らせて頷いた。
「俺、ゲイじゃないです」
「俺もです」
「どうしたらいいのかわからない…」
「男女の交際のように、それが男同士になっただけと捉えてもらえれば有り難いです」
「いや、でも…」
「真崎さんを他の人に取られるの嫌なんです、俺といて欲しいし、俺が大切にしたい」
「気持ちはわかりましたし、そう思ってくださるのは嬉しいですが、でも…」
「俺、絶対揺るがないです」
「どうしたらいいんだろう…困ったな…」
「好きです、真崎さんが好きです」
彼はそれしか言わなくなっていた。
「仕事は仕事と割り切れますか?」
「え?」
「公私混同しない、それができますか?
まずそこを確かめさせてもらえませんか」
そう答えた。
これからも仕事上の付き合いはあるだろうし、断るにしても穏便に済ませたい、そう思った。
彼は俺を強く抱きしめて、
「できます!絶対守ります!」
そう言った彼の顔は本当に真っ赤だった。
まさきさんが一緒に住んでいたという人の話をしてくれている。
「その人、真崎さんのこと本気だったんですね」
「どうだろう」
「まさきさんはそう思わなかったんですか?」
「そんなことはないよ。
でもね、彼、全然割り切れなくてね」
おかしそうに笑う。
「酷かったんだよ、俺指名で来た仕事は全部自分が担当すると言い出すし、打ち合わせだと言ってすぐ外へ連れ出して帰してくれない。
俺の社長に、『うちの仕事を真崎さんがいつでも受けられるよう、真崎さんの仕事をセーブしてください』って直談判したり、『近くまで来たから』と用もないのに来たり、みんなに仲良しで微笑ましいって言われて喜んでるし、公私混同の手本みたいなことしてた」
すごいな、愛されてんなあ。
「俺、怒ったよ。
公私混同にしないと約束しましたよね?って。仕事に支障きたすし、付き合ってないのに公認みたいになってるし」
「彼はどうしたんですか?」
「言い訳してたよ、必死に。
『だって他の人と仕事してほしくないもん』だの、『ちょっとでもいいから顔みたい』だの、『外堀埋めようかと…』とつらつらと」
「それで?」
「これじゃ無理です、付き合えないって言ったら、みるみる涙目になっちゃって、『ごめんなさい、お願い、捨てないで』って。
捨てるもなにもまだ始まってもないでしょ?って言ったら、本気で泣き出して…」
まさきさん、笑っちゃってる。
「『心入れ替えます、俺、真崎さんに好かれるよう頑張る。
だから前向きに考えてもらえませんか?』って。それからは少しだけマシになった」
直ってないんだ、マシになっただけなんだw
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