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来訪者
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暑さの中に秋の空気が混ざり始めた夏の終わり、今日も俺は暑い暑いと言いながら、まさきさんの部屋で本を借り、ご飯の支度をしていた。
今日のメニューは店長にレシピを教えてもらった茄子を豚肉で巻いたやつだ。
まさきさんが気に入っているので店長に作り方を教えてもらったのだ。
こういうのって門外不出なんじゃないの?と思ったら、店長は、
「出し惜しみするようなレシピじゃないし、美味しいって言ってくれる人にはいくらでも教えるよ」
と、あっけらかんとしている。
教えてもらって何度か作ったが、まさきさんは、
「美味い。美味いけど店長の味とはちょっと違う美味さだね」
という。
そうなのだ、真似しようとレシピ教えてもらったけど店長の味にならない。
そう店長に言ったら、ガハハと笑って、
「だろ?俺、凄いのよ」
とドヤってた。
「いい匂いする、腹減った」
コーヒーを淹れにまさきさんがキッチンに来る。
「もうすぐ出来ますよ」
「ねえ、そういえば最近エプロン置いていってる?」
「あ、バレました?」
「物を増やすな」
むむ。
「ボディソープ切れそうだったんで補充しておきました」
「う…」
「廊下の電球チカチカしてるんで替えておきました」
「うう…」
「コピー用紙とインク、明日届くんで受け取ってくださいね」
「ううう…」
「まさきさん、大人なんだからしっかりして」
「うううう…」
忙しくなると、いろいろおざなりになるまさきさんは細々したところを突っ込まれると何も言えなくなる。
それが面白い。
打ち合わせや用事で訪ねてくる編集さんたちには、
「高左右くん、雇った方がいいよ」
と言われるくらいには、まさきさんはダメっぷりを発揮している。
ピンポーン
「あ、俺出ますよ」
「悪い」
「宅配かも」
インターホンの受話ボタンを押す。
「はい」
「あ、あれ?」
モニター越しに男性が戸惑っている。
宅配じゃないのか?セールス?
「あの、ご用件は…」
そう聞くと、その男性は戸惑いを隠さず、
「あの…こちらは真崎さんのご自宅で間違いないでしょうか?」
と聞く。
「はい、そうですが」
「ああ、良かった、あの、真崎さんはご在宅でしょうか?」
この人なんだろう、怪しい。
まさきさんの客人か?
それなら電話とかLINEでアポ取るよな?
まさきさん、来客があるなんて言ってなかったし。
「どちら様でしょうか?」
警戒した声で尋ねると、その人は言った。
「美作です、美作永嗣と申します」
心臓がヒュッとなった。
美作永嗣…
「朝都くん、誰?宅配じゃないの?」
まさきさんのその声で我に返った。
「…宅配でした」
まさきさんにそう答える。
「そっか」
まさきさんはまた作業に戻る。
モニターに映る男性に、
「今、開けます、どうぞ」
とオートロックを解除する。
美作永嗣。
心臓がどうにかなりそうなくらい激しく動く。
手が震える。
頭が回らない。
ピンポーン
しばらくすると部屋のインターホンが鳴った。
「…まさきさん、ちょっと俺手が離せないんで出てもらえませんか…」
「ん、わかった」
もう一度インターホンが鳴る。
「はい、今開けます」
まさきさんがドアを開ける。
まさきさんの声が、体が止まる。
目の前に立ってる男性が言葉を発するまで。
「匠吾」
まさきさんが崩れる。
「まさきさん!」
慌てて駆け寄り、まさきさんを支える。
かなり動揺している。
「まさきさん、大丈夫?歩ける?」
まさきさんの体を支えながらリビングへ行く。
歩きながら玄関に立ち尽くす男性に声をかける。
「美作さん、どうぞ入ってください」
動揺を隠せないまさきさんをリビングのソファーに座らせる。
まさきさんは何も言わずに俺の手を握る。
その手はずっと震えている。
来客用のスリッパを履いた美作さんがリビングの入り口に立ち、震えてるまさきさんを見つめている。
「匠吾…」
美作さんが声をかけるも、まさきさんは俯いたままだ。
「まさきさん、コーヒー淹れてくるから待ってて」
「あ…」
まさきさんが不安がって俺の手を更に強く掴む。
「大丈夫、すぐ戻るから」
「美作さん、どうぞ、座ってください」
L字型のソファーの対角に美作さんが座る。
「今、コーヒー淹れてきますので」
と声をかけ、キッチンに向かう。
今、この部屋で動揺していない人間はいないだろう。
それぞれがそれぞれに動揺している。
どうして今更…
どうして来たんだ…
どうして別の人といるんだ…
コーヒーを淹れ、ローテーブルに置く。
「ありがとう」
美作さんは静かに礼を言う。
低くて落ち着いていて心地のいい声の人だと思った。
「まさきさんもどうぞ」
「…うん、ありがとう」
まさきさんは俯いたままだ。
そんなまさきさんを見て、美作さんが口火を切る。
「私は美作永嗣と申します。
失礼ですがあなたは真崎とどういった関係なのでしょうか」
ズバリ確信を突いてきた。
「高左右朝都と言います。
俺はまさきさんの…」
「やめろ」
言いかけた俺の言葉をまさきさんが遮った。
「朝都くんは俺の大切な友人だ。
下衆な勘繰りをするな」
まさきさんの声には少しの悲しみと少しの怒りが滲んでいた。
「まさきさん、俺のことはいいから…」
そう言う俺に美作さんは、
「失礼しました、申し訳ない」
と頭を下げる。
「いえ、そんな…」
美作さんはまさきさんに向き合うと、
「話がしたい」
と言う。
まさきさんは答えない。
「すみません、少しまさきさんと話をしてもいいですか?」
美作さんに確認する。
「はい…」
美作さんの声がだんだん小さくなる。
「まさきさん」
まさきさんの正面に座って手を取る。
俯いていた顔を少し上げて不安そうに俺を見る。
ほら、また泣きそうな顔になってる。
「まさきさん、美作さんと話をして。
自分が納得するまで話をして」
「怖い…」
消え入りそうな声でまさきさんが言う。
「大丈夫、まさきさん。
全部は消えない、俺は消えない。
だから大丈夫。
心を動かしても大丈夫だよ」
ふっ
泣きそうに笑う。
「開き直っちゃえ」
ふふっ
「うん…」
「美作さん、俺、外にいますね。
まさきさんを頼みます」
そう言って席を外した。
今日のメニューは店長にレシピを教えてもらった茄子を豚肉で巻いたやつだ。
まさきさんが気に入っているので店長に作り方を教えてもらったのだ。
こういうのって門外不出なんじゃないの?と思ったら、店長は、
「出し惜しみするようなレシピじゃないし、美味しいって言ってくれる人にはいくらでも教えるよ」
と、あっけらかんとしている。
教えてもらって何度か作ったが、まさきさんは、
「美味い。美味いけど店長の味とはちょっと違う美味さだね」
という。
そうなのだ、真似しようとレシピ教えてもらったけど店長の味にならない。
そう店長に言ったら、ガハハと笑って、
「だろ?俺、凄いのよ」
とドヤってた。
「いい匂いする、腹減った」
コーヒーを淹れにまさきさんがキッチンに来る。
「もうすぐ出来ますよ」
「ねえ、そういえば最近エプロン置いていってる?」
「あ、バレました?」
「物を増やすな」
むむ。
「ボディソープ切れそうだったんで補充しておきました」
「う…」
「廊下の電球チカチカしてるんで替えておきました」
「うう…」
「コピー用紙とインク、明日届くんで受け取ってくださいね」
「ううう…」
「まさきさん、大人なんだからしっかりして」
「うううう…」
忙しくなると、いろいろおざなりになるまさきさんは細々したところを突っ込まれると何も言えなくなる。
それが面白い。
打ち合わせや用事で訪ねてくる編集さんたちには、
「高左右くん、雇った方がいいよ」
と言われるくらいには、まさきさんはダメっぷりを発揮している。
ピンポーン
「あ、俺出ますよ」
「悪い」
「宅配かも」
インターホンの受話ボタンを押す。
「はい」
「あ、あれ?」
モニター越しに男性が戸惑っている。
宅配じゃないのか?セールス?
「あの、ご用件は…」
そう聞くと、その男性は戸惑いを隠さず、
「あの…こちらは真崎さんのご自宅で間違いないでしょうか?」
と聞く。
「はい、そうですが」
「ああ、良かった、あの、真崎さんはご在宅でしょうか?」
この人なんだろう、怪しい。
まさきさんの客人か?
それなら電話とかLINEでアポ取るよな?
まさきさん、来客があるなんて言ってなかったし。
「どちら様でしょうか?」
警戒した声で尋ねると、その人は言った。
「美作です、美作永嗣と申します」
心臓がヒュッとなった。
美作永嗣…
「朝都くん、誰?宅配じゃないの?」
まさきさんのその声で我に返った。
「…宅配でした」
まさきさんにそう答える。
「そっか」
まさきさんはまた作業に戻る。
モニターに映る男性に、
「今、開けます、どうぞ」
とオートロックを解除する。
美作永嗣。
心臓がどうにかなりそうなくらい激しく動く。
手が震える。
頭が回らない。
ピンポーン
しばらくすると部屋のインターホンが鳴った。
「…まさきさん、ちょっと俺手が離せないんで出てもらえませんか…」
「ん、わかった」
もう一度インターホンが鳴る。
「はい、今開けます」
まさきさんがドアを開ける。
まさきさんの声が、体が止まる。
目の前に立ってる男性が言葉を発するまで。
「匠吾」
まさきさんが崩れる。
「まさきさん!」
慌てて駆け寄り、まさきさんを支える。
かなり動揺している。
「まさきさん、大丈夫?歩ける?」
まさきさんの体を支えながらリビングへ行く。
歩きながら玄関に立ち尽くす男性に声をかける。
「美作さん、どうぞ入ってください」
動揺を隠せないまさきさんをリビングのソファーに座らせる。
まさきさんは何も言わずに俺の手を握る。
その手はずっと震えている。
来客用のスリッパを履いた美作さんがリビングの入り口に立ち、震えてるまさきさんを見つめている。
「匠吾…」
美作さんが声をかけるも、まさきさんは俯いたままだ。
「まさきさん、コーヒー淹れてくるから待ってて」
「あ…」
まさきさんが不安がって俺の手を更に強く掴む。
「大丈夫、すぐ戻るから」
「美作さん、どうぞ、座ってください」
L字型のソファーの対角に美作さんが座る。
「今、コーヒー淹れてきますので」
と声をかけ、キッチンに向かう。
今、この部屋で動揺していない人間はいないだろう。
それぞれがそれぞれに動揺している。
どうして今更…
どうして来たんだ…
どうして別の人といるんだ…
コーヒーを淹れ、ローテーブルに置く。
「ありがとう」
美作さんは静かに礼を言う。
低くて落ち着いていて心地のいい声の人だと思った。
「まさきさんもどうぞ」
「…うん、ありがとう」
まさきさんは俯いたままだ。
そんなまさきさんを見て、美作さんが口火を切る。
「私は美作永嗣と申します。
失礼ですがあなたは真崎とどういった関係なのでしょうか」
ズバリ確信を突いてきた。
「高左右朝都と言います。
俺はまさきさんの…」
「やめろ」
言いかけた俺の言葉をまさきさんが遮った。
「朝都くんは俺の大切な友人だ。
下衆な勘繰りをするな」
まさきさんの声には少しの悲しみと少しの怒りが滲んでいた。
「まさきさん、俺のことはいいから…」
そう言う俺に美作さんは、
「失礼しました、申し訳ない」
と頭を下げる。
「いえ、そんな…」
美作さんはまさきさんに向き合うと、
「話がしたい」
と言う。
まさきさんは答えない。
「すみません、少しまさきさんと話をしてもいいですか?」
美作さんに確認する。
「はい…」
美作さんの声がだんだん小さくなる。
「まさきさん」
まさきさんの正面に座って手を取る。
俯いていた顔を少し上げて不安そうに俺を見る。
ほら、また泣きそうな顔になってる。
「まさきさん、美作さんと話をして。
自分が納得するまで話をして」
「怖い…」
消え入りそうな声でまさきさんが言う。
「大丈夫、まさきさん。
全部は消えない、俺は消えない。
だから大丈夫。
心を動かしても大丈夫だよ」
ふっ
泣きそうに笑う。
「開き直っちゃえ」
ふふっ
「うん…」
「美作さん、俺、外にいますね。
まさきさんを頼みます」
そう言って席を外した。
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