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4巻
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しおりを挟む1.今の状況
ドラゴンの里の長をしている私――エセルバードは、自分の執務室にいた。私の目の前には、他のドラゴンの里の長であるアーチボルトとマリウスがいる。
私たちはともに、エンシェントドラゴンと彼を奴隷として使役する人間や獣人たちの襲撃に遭った。脅威そのものはなんとか退けられたが、妻のアビアンナや息子のアリスターたちとともにいた『神の愛し子』のカナデとフェンリルのフィル、そしてホフティーバードのクルクルは、エンシェントドラゴンに連れ去られてしまった。
今は、これからのことを検討しているところだ。
『それで、向こうは向こうで、動いている最中なんだな』
アーチボルトが口を開いた。
『ああ、先ほどアリアナから連絡があった』
アリアナは我が家のメイドで、アビアンナたちと行動をともにしていた。
『そうか、とりあえずお前の妻と息子が無事でよかった。それで、今どうしているのだ?』
今度はマリウスが言った。
『別の避難場所にいる。様子を見てこちらに戻ってくるか決める、と。それとは別に、他の者が先にある男を連れてくるらしい。やつらの仲間で、かなりの情報を持っているようだ。しっかりとは分かっていないが、どうもやつらの中でもかなり上の人間だとか。だが、すぐに話を聞けるかどうか』
『なんだ、どうした? ああ、アビアンナがやりすぎて口が利けなくなったか? なら、すぐにグッドフォローに治療させればいいだろう』
『いや、確かにそうなんだが……やつは捕まる瞬間、自ら命を絶とうと、呪いを使ったらしい。それを無理やりアビアンナが止めてだな。命は取り留めたのだが、無理やり止めた反動か、気絶してから意識が戻らないという』
『呪いを無理やり止めたのか!? ハハハッ! さすがアビアンナだ!』
アーチボルトが笑った。
『おい、笑いごとではないぞ。もし失敗していたら、アビアンナが危なかったんだ。まあ、さすがというのはあっているが』
マリウスがアーチボルトを軽く諫めた。私も呆れて、つい溜め息が出る。
『はあ、まったくアビアンナは。でだ、その意識の戻らない男を、なんとか起こさないといけない。呪いを強制的に止めたからな、止めたまではいいが、目が覚めるかどうかは分からない』
『そっちは分かった。で、俺たちはまだ会ったことはないが、「神の愛し子」の方は?』
マリウスが話題を変えた。
『カナデの方は今、ウィバリーとイングラムたちが追っている。本当ならすぐに私も追いかけたいところだが、今、ここを離れることはできないからな』
ウィバリーは人間、イングラムはワイルドウルフで、どちらも実力は十分、信頼にも足る男だ。また彼らには、カナデの護衛であるクラウドと私の甥のジェロームが同行している。彼らだけでも目的は果たせるだろう。
『まさか、人間や獣人たちが、あれほどの力を持っているとは』
『フンッ、どうせ何かやってんだろう。本当に力のあるやつは十数人ってところだ』
マリウスの呟きに、アーチボルトは鼻を鳴らした。
『それでも、やつらを率いている者。あれの実力は本物だろう。こちらもやつらを止めなければ、まずいことになる』
私はアーチボルトに警戒を促した。
彼は面倒くさそうな顔をするが――突然真剣な面持ちに変わった。
『お、あっちが動いたみたいだな。俺が行ってくる、何かあれば連絡を』
『気をつけろよ、アーチボルト』
『お前は加減を忘れて、自分自身に被害が及ぶときがあるからな』
『フンッ、俺を誰だと思ってんだ』
私とマリウスの言葉を背に受け、アーチボルトが部屋から出ていった。それに続けて、マリウスも様子を見てくると部屋を出ていき、ここには私一人になった。
これからこの里に連れてこられるという男は先ほど、アーチボルトたちと話した通り、かなりの情報を持っていて、敵組織の中でもかなり上の立場の人間らしい。
この男は、アビアンナに捕まりそうになると、自害をするために自分に呪いをかけようとした。本来ならそれで死んでいたはずなのだが、アビアンナが無理やりそれを止めた。私でも止められるか分からない呪いを、だ。
報告してきたアリアナに、どうやって止めたのかを聞けば、そのときアビアンナはカナデが攫われたことを気配で感じ取り、かなりキレていたという。まあ、アリスターも攻撃を受けたからな、一気に怒りが噴き出たのだろう。
何十発もビンタをして、無理やり呪いを祓ったらしい。
『ビンタで?』と、アリアナに、思わず聞き返してしまったが、魔力を溜めた状態で何度もビンタをしたおかげで、呪いを消すことができたようだ。
本来呪いに触れるのは、とても危険な行為だ。下手をしたら自分にも呪いがかかる可能性がある。まったく、なんて無茶をしたのか。その影響で今は眠ってしまっているが、それでも男を生きて捕まえられたのはいいことだ。これでやつらのことについて、何か分かれば……
私が相手をしていたあの首謀者と思われる男、そして男のそばにいた者たち。やつらはかなりの力を持っており、ドラゴンの私たちと、ほぼ互角に戦っていた。そのため、私はここを離れられなかった。それは、アーチボルトやマリウスも同じだった。
しかしそんなやつらが、カナデが攫われてから少しして、なぜか急に退き、今は我々の里から少し離れた場所に集まっている。
あの首謀者の男は一体何が目的だ? なぜカナデを攫った? カナデが『神の愛し子』と分かっているのか? もしそうならば、いつ『神の愛し子』とバレた? いや、『神の愛し子』はまったく関係なく、別の理由でカナデを捕らえようとした?
わざわざエンシェントドラゴンに、自分の命を捧げて奴隷契約までして? 分からないことばかりだ。本当に、今から運ばれてくる男から何か情報を聞き出せればいいが。その前にまた戦いが再開されれば、尋問どころではなくなってしまう。
いずれにせよ、カナデを取り戻すことが最も大切だ。それさえできれば、こちらもなんとか対処できるだろう。今はウィバリーやイングラムたちが追ってくれているが――
*
「それでこれからどうするの? 色々と想定外のことが起こっているみたいだけど? 悪い方の意味でね」
「ミランダ、口を慎め」
私――コースタスクの組織の幹部、ミランダとビルトルートが言い争っている。
「だって、本当のことじゃない。予定だったら今頃もう子供を攫って、ここから離れていたはずなのよ。それでゆっくりと温泉に浸かっていたはずだったのに。もう、ドラゴンとの戦いで、体がかなり汚れちゃって、気持ち悪いったらありゃしない」
「お前は一体、ここへ何をしに来ているのだ」
「あら、私はここへ、楽しみのために来ているのよ。あとはついでよ、ついで。そしてあとの楽しみのためにも、ここでのことは成功してほしいから、こうして話をしに来ているのよ。戦う理由は違うけれど、あなたたちの最終目的と、私の楽しみは同じ。私がここにいる理由はそれよ」
「なぜお前のような者が……はあ」
「ついでに言わせてもらうけど、互角にドラゴンと戦っているといっても、正直私たちの方がやっぱり押されているのよ。まあそれは、さすがドラゴンっていったところだけれど。このままだとまずいんじゃないの?」
「お前たち、少し静かにしろ。今、これからのことを考えている」
見かねた私がそう言えば、ビルトルートとミランダはすぐに黙った。今、私のところにいる幹部はこの二人だけだ。他の者は、それぞれの持ち場で待機させている。
私たちはドラゴンたちとの戦いを一時中断し、エセルバードの治めている里から、少し離れた場所まで移動していた。いくつか想定外のことが起こったからだ。いや、考えてはいたが、その考えを上回ったと言った方が正しいだろう。
まず一つ目として、エンシェントドラゴンが奴隷契約に対して二度目の抵抗を示したのだ。
子供を捕らえるべく移動しているときの一回目の抵抗では、私はすぐそれに気づいた。もともと奴隷契約は、もし奴隷が抵抗をすれば分かるようになっている。しかし私の場合は、それに加えて自分の命をもとにして奴隷契約をしているため、普通の奴隷契約よりも、さらに相手のことを細かく感じ取ることができた。
エンシェントドラゴンの抵抗は数十分続き、そしてついに奴隷契約による罰が発動した。
それからすぐに、その場にいた幹部のピロートから連絡が入り、詳しい状況を聞いた。そのときの抵抗具合は、あの時点でのエンシェントドラゴンの力を考えると妥当だった。それくらいならば奴隷契約が破られるおそれはなかったため、そのまま子供を追わせることにした。
だが、それから数時間後、子供に追いついたであろう頃に、またエンシェントドラゴンが抵抗したのだ。しかもその抵抗は、私の考えを遥かに超えるほど強いもので、子供とフェンリル、そして鳥を連れて、そのままどこかへ飛び去ったという。
私の考えでは、エンシェントドラゴンの力は一回目のときと二回目のときで、そこまで変わらないはずだった。
確かに子供のもとへ着く頃には、かなり力が戻っていただろう。ただ、それ以前でも力はかなり戻っていたため、そう考えていたのだ。
完全に私の考えが甘かった。そのため、少し予定が狂ってしまった。
私は、エンシェントドラゴンが子供を攫ってきたら、ドラゴンの森は部下たちに任せ、自分は子供を連れて、すぐ別の場所へ移動しようと考えていたのだ。
ただ、どれだけエンシェントドラゴンが抵抗しようとも、これに関しては計画の時間が遅くなるだけで、重大な問題ではない。
そもそも、あの奴隷契約には魔法が付与されている。その魔法が発動すれば、エンシェントドラゴンは強制的に私のもとへ戻ってくるのだ。
なぜ子供を連れ、ここから離れたかは知らないが、戻ってくるときに、結局は子供も連れてくることになる。
どちらかと言えば、もう一つの想定外の方が問題だ。ピロートが意識のない状態とはいえ、ドラゴンに捕らえられたことだ。
私はピロートだけではなく、幹部全員に、そしてその幹部の下の者たち――そう、使い捨ての者たち以外の全員に、敵に捕らえられそうになった場合、自害する呪いを覚えさせていた。
それはそこそこ知られているような弱いものではなく、確実に自害できるほどに強力なものにしていた。捕らえられそうになったピロートは、その呪いを使ったそうなのだが……
まさかエセルバードの妻、アビアンナというドラゴンが、その呪いを消してしまうとは思いもしなかった。
なぜあの強力な呪いを消すことができたのか。報告では頬を何発か叩くことで呪いを消してしまったとあるが……そんなことがあるのか? これは本当に予想外だった。
ピロートだけでも厄介なのに、また捕まる者が出てくるかもしれず、面倒なことになりかねない。
「それで、これからどうするの?」
「エンシェントドラゴンと子供の方は、そのうち強制的に戻ってくる」
ミランダには事実だけを伝えておく。
「念のために、ジェルロウを向かわせている。あちらはジェルロウに任せ、こちらはできる限りドラゴンと魔獣を減らすぞ。これからのことを考えれば、どの道ここのドラゴンたちは邪魔な存在になるからな」
「しかしミランダではありませんが、ここへ来てから、あまりドラゴンも魔獣も減っていませんね」
ビルトルートが口を挟んだ。
「ふん、そこはさすがドラゴンとこの森に住む魔獣といったところだ。が、あの方が復活されるまでは、これ以上私たちの力を上げることはできない。それに向こうには、かなりの力を持った治癒師がいるからな。だが、それでも邪魔な者は消さなければいけない。お前たちはそのまま、自分たちの持ち場でドラゴンたちをなんとか消せ」
「かしこまりました」
「分かったわ。様子を見てまた仕掛けるわ。それでいいでしょう?」
「ああ」
ビルトルートとミランダが私の前から消える。そうだ、これからのために今は少しでもドラゴンたちを消しておかなければ。そしてその合間を縫って、これからドラゴンの里へ連れていかれるピロードの対策をせねば。移送の隙をつき、殺せるのであれば殺す。少なくとも、口は封じねばなるまい。
それにしても、エンシェントドラゴンは、罰を分かっていて、強制的に戻ることを分かっていて、なぜ子供を連れていったのか。あの子供には私が気づいていない、何か秘密があるのか?
*
『ねえ、あれは何?』
「あしょこ、にゃにがありゅにょ?」
『むこうの、ちゃいろのところ、なになの?』
クルクル、僕――望月奏、フィルが、口々に言います。今はエンシェントドラゴンおじさんに捕まって、空を移動中です。
『あっ! あの青いのは?』
「ありぇ、みじゅうみかにゃあ?」
『おさかないっぱいなの!?』
『……はあ、お前たち、静かにしていろと言っただろう』
エンシェントドラゴンおじさんが呆れたように言いました。
え~だって暇なんだよ。ずっとエンシェントドラゴンおじさんの足に包まれて飛んでるだけなんだもん。ちなみにクルクルはポケットから顔だけ出しています。
僕たちは二日くらい飛んでいます。
そんなに遠くまで来なくてもと思っていたんだけど、エンシェントドラゴンおじさんは、なるべく離れないとダメだとか、なるべく遠くへとか、ブツブツ言っていました。
もちろん、ずっと飛んでいたわけじゃなくて、何回か地上に降りています。降りるとすぐにエンシェントドラゴンおじさんが、その辺の木になっていた木の実や果物を、風でバササササッと採ってくれました。
それを食べると、トイレに行けって言われて、草むらで隠れて済ませた後は、そこをクリーンで綺麗にしました。それから、食後の休憩を少しだけして、また空を飛びます。ずっとそれの繰り返しでした。
逃げ出そうとしなかったか? それはしなかったよ。だって僕たちが、エンシェントドラゴンおじさんから逃げられるわけもないし。
もし逃げられたとしても、今、自分たちがどこにいるかも分からないのに、どうやってエセルバードさんたちの、ドラゴンの森に戻ればいいの? 絶対その辺を彷徨うことになって、その間にまたエンシェントドラゴンおじさんに見つかっちゃうもん。
そんな、ほぼほぼ何もできない、世界を知らない僕たちにできることって? 何もできないなら、エンシェントドラゴンおじさんの言うことを、聞いてる方がいいでしょう?
エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちのことを殺すつもりはないって言いました。初めの頃は信用ができないでいたけど、これまでのエンシェントドラゴンおじさんの僕たちに対する態度を見ていたら、その言葉が本当のことだって思えてきたよ。
さっきご飯のときにフィルたちと、エンシェントドラゴンおじさんに聞かれないようにそう話しました。だって殺すつもりなら、最初に僕たちと会ったときに殺してるはずだもん。
また、僕に聞きたいことがあったとしても、その話をさっさと聞いたらすぐに殺してると思います。それがないってことは、本当に僕たちを殺すつもりはないんじゃないかってことになりました。
だから今は、大人しくエンシェントドラゴンおじさんについていくことにします。でもそうなると、どこまで行くか知らないけど、やることがなくて暇です。マジックバッグからおもちゃを出して、遊ぶわけにもいきません。けれど、地上をただただ見ているのも飽きました。
それで今、色々エンシェントドラゴンおじさんに質問していたんだよ。静かに運ばれてるんだから、それくらい聞いてもいいでしょう?
『ねえ、あれは何? あそこのゴワゴワしてるところ』
「あっちは、もにゃもにゃ」
『あっ! まっくろがあるなの!』
クルクル、僕、フィルがまた言います。
『だから静かにしていろ! はあ、なぜこんなうるさいのか……あいつもそうだったな』
ん? エンシェントドラゴンおじさん、最後なんて言ったの? 声が小さくて聞こえなかったよ。
『ねえ、あれは何!』
クルクルがエンシェントドラゴンおじさんに尋ねます。
『あれは、岩の山だ。岩だけでできている珍しい岩山だ』
「もにゃもにゃは?」
『もやもやのことなの』
僕がうまく喋れないのを、フィルがフォローしてくれます。
『……あれのことか? あれは湿地帯だ。緑のもやもやは苔が広がっている場所だ』
『くろは、なになの?』
またフィルが聞きます。
『あそこは炭でできている谷だ。周りも炭だらけで、あそこに行ったら真っ黒になるぞ』
『まっくろ! たのしそうなの! おえかきできるなの!』
『じゃあ、あれは?』
今度はクルクルです。
『まだあるのか? はあ、まったく』
なんだかんだ言いながら、エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちの質問に全部答えてくれます。そんなことをしているうちに、二日目も夕方に。向こうに綺麗な夕陽が見えてきた、そのときでした。
『おい、見えてきたぞ。我はあそこに向かっている。日が落ちるまでには着くはずだ』
え? エンシェントドラゴンおじさん、着いたの? 僕たちは進んでいる方向を見ます。う~ん、よく分かんないや。フィルたちに何か見えるって聞いたけど、フィルたちも何も見えないそうです。
『お前たちにはまだ見えないか。もう少しすると、色々な色が見えてくるぞ。我はそこに向かっているのだ』
僕たちは話をやめて、エンシェントドラゴンおじさんが言った、色々な色が見えてくるのを待ちます。そして数分後――
『あっ!! 何か見えてきた!』
『ボクもみえたなの!』
「ぼくもみえちゃ!!」
クルクル、フィル、僕が声を上げます。
それはまだ、一本の線にしか見えなかったけど、でもただの線じゃなくて、色々な色でできていました。赤に黄色、緑に青、水色にピンク、白にだいだい色。本当に色々な色に見えます。
さらにまたまた数分後には、色々な色が一面に広がってきました。その色々な色に夕陽が当たって、とっても綺麗に見えました。
「あしょこ、いく?」
僕はエンシェントドラゴンおじさんに聞きました。
『ああ、あそこへ行く。だから、もう少しだけ静かにしていてくれ』
『あれなにかななの』
『う~ん、色々な色の岩?』
「いりょいりょにゃ、いりょにょ、き?」
フィルが言ったあと、クルクルと僕も喋ります。
『まじゅうが、あつまってるなの! おやしきのまわりも、いろいろないろのまじゅう、いたなの!』
フィルと一緒に盛り上がる僕たち。静かにしろって言われたけど、あんなに綺麗な場所を見たらね……何があるのか気になるでしょう? ああでもない、こうでもない、と盛り上がります。
『おい、だから我は静かにしていろと……』
『ねえねえ、あれはずっと向こうまで続いてるの、それともあそこだけ?』
『きれい、いっぱいなの?』
「いっぱいがいい、いっぱいけりえい、みんなしゅき」
「『『ねえ』』」
『……はあ、そうだな。綺麗がいっぱいがいいな……確かに我はお前たちを殺す気はないが、そして殺さないと伝えたが、もう少し警戒した方がいいのではないか?』
エンシェントドラゴンおじさんは、クルクル、フィル、僕に呆れるように言った後、降下を始めました。そうすると、その色々な色がもっとハッキリ見えてきたよ。
「わああああ!! しゅごいねえ」
『いっぱいなの!! フワフワなの!!』
『ボク、こんなに綺麗がいっぱい初めて。ドラゴンの森にはなかった。たぶん? 行った場所にはなかった』
僕、フィル、クルクルはさらに盛り上がります。
そして、その色々な色の真上に着く少し前、それがなんなのか判明しました。それは、どこまでも続いている花畑でした。僕たちは大興奮です。だって本当に凄いんだよ。
花畑の上を飛びはじめて、改めて前の方を見ても、花畑が終わっている様子はなく、見たこともない、可愛い花、カッコいい花、ヘンテコな形をしている花、色々な花がどこまでも咲いていました。
しかも、カラフルな花が夕陽に照らされて、風でゆらゆら揺れているもんだから……
フィルが言った通り、フワフワしている感じもするし、とっても綺麗だし、こんなに凄い場所があるなんて。
きっと地球にもないはずだよ。よく大きな公園とか、外でみんなが遊べる施設とかで、季節によっては、たくさんの綺麗な花を見ることができるけど。もうね、そんな感じじゃないの。
本当にどこまでもどこまでも花畑が続いていて、もしかしたらドラゴンの里と同じくらいの広さがあるかもしれません。
そんな凄い花畑を見て、僕たちはエンシェントドラゴンおじさんの足の中で、思わず暴れてしまいました。パシパシ目の前の指を叩いたり、少しだけ飛び跳ねたり。フィルも軽くジャンプしながら遠吠えをしたり、しっぽでバシバシ叩いたりします。
クルクルも完全には僕から離れないものの、僕のポケットから出てきて、ポケットのボタンに足を引っかけてバサバサ羽を動かしたり、ピピピピ、ピロロロロって歌を歌いはじめたりしました。
『お前たち、感動したのは分かったから、もう少し静かに……』
『ねえ、どこまで続いてるの!』
『した、おりたいなの!』
「あち、はにゃかわい!」
エンシェントドラゴンおじさんは注意するけど、クルクル、フィル、僕の興奮は収まりません。
『……はあ、もうすぐ降りる。だから待っていろ。ほら、あの岩場が見えるだろう。あそこの前に降りるんだ』
エンシェントドラゴンおじさんの教えてくれた方を見ると、花畑の中に大きな岩と小さな岩が積み重なった小さな山がありました。
エンシェントドラゴンおじさんは徐々に降下していきます。僕たちはさらに興奮しました。そして――
『さあ、着いたぞ』
エンシェントドラゴンおじさんは、完璧な着地で、岩の山の前に降りました。いつも思っていたけど、僕たちを包んでいる足で、よく綺麗に着陸できるよね。しかも、僕たちを地面で擦ったりしないでさ。それにね、ぜんぜん反動がないんだよ。フワッと降りるの。これも結界のおかげなのかな?
それはともかく、小さな山と思っていたものは、地面から露出している岩盤で、それがいっぱい重なって、岩の山に見えていたみたいです。
その岩盤には大きな穴が開いていて、中に入れるようになっていました。暗いからどのくらい奥まで続いているかは分からなかったけど、見た感じ、結構奥まで続いていそうです。
『さて、我は中を調べてくる。お前たちはそうだな、その辺の花でも見て待っていろ。結界は張ってあるから安心しろ』
そう言うと、エンシェントドラゴンおじさんはさっさと洞窟の中へ入っていきました。僕たちは言われた通り、そして〝待ってました!〟と、すぐに花畑の方へ行きます。
近くで見ても、やっぱり綺麗でフワフワで、とっても可愛い花畑でした。上から見たときも感動して、こうして近くで見てまたまた感動します。
それに、上から見ていたときは気づかなかったけど、花畑には虫や小鳥がいっぱい集まっていました。ただ見える限り、大きな虫や大きな鳥魔獣はいません。みんな、花畑に降りてくると、花に隠れて見えなくなっちゃうくらいの大きさです。
ちなみに、エセルバードさんのお屋敷で図鑑を見せてもらったときに、虫にも様々な大きさがあるって教えてもらいました。
小さい虫、中ぐらいの虫、それから大きな虫、色々な虫がいます。
小さな虫は、僕の手の指先くらいの大きさから、僕と同じくらいの大きさまでの虫が、小さい虫に分類されています。中ぐらいの虫は、僕よりもぜんぜん大きくて、僕なんて潰されちゃうってくらい。大きさで言うと、人が使う三人がけソファーを五つ重ねたくらいまでが、中くらいの虫だって。
それ以上が、大きな虫に分類されています。なんと、ドラゴン姿のエセルバードさんと同じ大きさくらいの虫もいるらしいよ。まあ、そういう虫は、特別な場所にしかいないみたいだけど。
それで、今この花畑には、見た限り小さな虫しかいません。うん、小さな虫ばっかりでよかった。大きな虫がいたら、この綺麗な花畑がボロボロになるところでした。
鳥も同じです。大きな鳥魔獣だけじゃなくて、ただの鳥でも、様々な大きさの鳥もいるからね。鳥も小さい鳥ばっかりでよかったです。花畑がボロボロになるだけでなく、今頃僕は羽ばたきで飛ばされていたかもしれません。エンシェントドラゴンおじさんが結界を張ってくれているから、大丈夫だとは思うけど。
それに、今は僕の盾がないから、自分の身を守れません。エンシェントドラゴンおじさんに連れてこられたとき、盾はクラウドと一緒に飛ばされてしまいました。盾が壊れてないといいな。
そんなことを考えながら、最初は花畑の中に入らないで花を観察していた僕たちは、ちょっとだけ花畑の中に入ってみることにしました――
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