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4巻
4-2
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『……これは一体どういうことだ?』
十五分くらいして、後ろからエンシェントドラゴンおじさんの声がしました。振り返ると、そこにはドラゴンじゃなくて、人が立っていました。この人は、エンシェントドラゴンおじさんが変身した姿みたいです。彼は僕たちをジト目で見ていました。
僕たち何か変? 別に変なことないと思うんだけど。
『どういうこと?』
『なんなの?』
「ぼくたち、へん?」
クルクル、フィル、僕たちが言います。
『いや、別に変ではないが……いやいや、やはりおかしいな。どうしてお前たちの周りに、それだけの虫と鳥が集まっているんだ』
僕たちの周りには今、そこら辺にいた虫たちと鳥たちが集まっています。花畑に入ってすぐね、僕たちに気づいたみんなが、どんどん集まってきたんだ。
呼び方が合っているか分からないけど、イモムシやケムシ、チョウにトンボにてんとう虫、カマキリにハチにカブトムシにクワガタ……他にもいっぱいです。まあ、完璧に地球と同じ姿だったり、ちょっと違ったり。
それから鳥の方は、もちろんクルクルと同じで、まだまだ子供の鳥もいます。でも、なんと僕の手のひらサイズ――クルクルと同じくらいの大きさなのに、もう大人の鳥もいました。クルクルに聞いたところ、ドラゴンの森では見たことがないって言っていました。
あと、ここにいる虫や鳥はみんな仲良しで、いつもこの花畑で遊んでいるんだって。ちなみにこの花畑と、少し花畑から出たところでしか行動しないみたい。周りの森には行かないみたいです。
そんな話をフィルとクルクルに通訳してもらった数分後、僕たちの周りは虫と鳥でいっぱいになりました。周りに集まっただけじゃなくて、僕の頭、肩、体全部にくっついたり留まったりします。フィルの背中も体も虫と鳥だらけです。
そんなことをしているうちに、エンシェントドラゴンおじさんが戻ってきたんだよ。ね、みんなが集まっているだけで、特に変なことはないでしょう?
『いや、どう考えてもおかしいだろう。そんなに時間が経っていないのに、なぜ皆が集まる』
そう言われてもねえ。みんなで顔を見合わせます。
『まあ、それもあとで聞く。とりあえず洞窟の中へ入るぞ。ついてこい』
僕たちは、エンシェントドラゴンおじさんの後ろを歩きはじめました。スタスタ歩いていくおじさんに僕がついていけるわけもなく、どんどん距離ができてしまいます。フィルが急いで僕を背中に乗せてくれるけど、上手くいかなくて、わたわたしていました。
すると、エンシェントドラゴンおじさんが戻ってきて、僕を抱っこしてくれました。それでまた歩きはじめますが、今度は別の問題が出てきました。
僕たちの周りに集まっていた虫や鳥たちが、ぞろぞろついてきたんです。早く動けない子や飛べない子は、別の虫や鳥が運びながらぞろぞろとね。
『なぜ、皆ついてくるのだ?』
『ぴぴぴっ!!』
『ぴゅぴぴぴ!!』
『シュウゥゥゥ!!』
『ジィー、ジィー!』
鳥たちだけじゃなくて、虫たちまで何かを訴えていて、エンシェントドラゴンおじさんは頷きました。
『分かった、分かった。が、それはあとだ。我には時間がないのだ。おそらく我はここから、戻ることになるだろう。その後はおそらく、あやつがこの者たちの面倒を見てくれるはずだ。気配が近づいてきているからな。そうしたら自由にしてくれ。今はダメだ』
それを聞いて、ぶすっとなる虫と鳥たち。クルクルに聞いてみたんだけど、みんなは僕たちと一緒に行きたいって言ってたみたい。でも、エンシェントドラゴンおじさんはダメだって。
それでも虫と鳥たちはなかなか引きません。最後は、絶対にあとで一緒に遊ばせてってエンシェントドラゴンおじさんに約束させていました。それでようやく、虫と鳥たちは花畑に戻っていきます……何回も僕たちの方を振り向きながら。
『はあ、これで中に入れる』
エンシェントドラゴンおじさんは洞窟に向かって、再び歩きはじめます。洞窟の入り口は光魔法で少し明るくしてあって、奥の方はもっと明るくなっていました。
中に入ると、エンシェントドラゴンおじさんは入り口に向かって手をかざします。何をしたのか聞いたら、外から中が見えなくなる魔法をかけたんだって。入り口の前に来ても、そこに洞窟があるなんて分からず、ただの岩盤に見える魔法だそうです。
『話の邪魔をされたくないからな。まあ、あやつには関係ないが』
あやつ? 少し進むと、かなり開けた場所につきました。エンシェントドラゴンおじさんは僕を降ろして、それから木の葉をいっぱい用意したから、その上に座れって指差しました。
エンシェントドラゴンおじさんの指差した場所には確かに、いっぱいの木の葉の山が二つと、小さな木の葉の山が一つありました。小さいのはクルクル用です。
みんなでそっちに歩いていって、木の葉の上にそっとそっと座ってみます。
おおお! おおおおお!! これは!! まさかこんなに木の葉の座布団がふわふわだなんて!!
もしかして、エセルバードさんのお屋敷の、あのふわふわソファーよりふわふわなんじゃ? ただの木の葉だよ? どうしてこんなにふわふわなの?
『どうだ。お尻は痛くないだろう?』
僕たちはぶんぶん頷きます。
『それから、これも用意した。話をする前に、喉を潤した方がいいと思ってな』
おじさんが手を軽く上げると風が吹いて、別の場所から木の葉が飛んできました。そしてその木の葉が地面に敷かれると、次は果物と木の実が飛んできてその上に載ります。
『それを食べたら、話を始める』
僕たちはすぐに果物と木の実を食べはじめました。そんな僕たちを見たり、周りを見たりしながら、エンシェントドラゴンおじさんは小さな声で、何か独り言を呟いていました。
『ここは昔と変わりはないな。中が無事でよかった。それに、木の葉と食べ物も、昔と変わらずに豊富でよかった。ささっと集めただけで、かなりの量になったからな。ふむ、話が終わったら、もっといい寝所を用意してやるか。今の木の葉は座る用にして……』
『カナデ、おいしいねなの!』
「うん、おいちいね、ふぃりゅ!」
『ボク、この木の実好き』
『……あと三日くらいなら余裕があるからな。その後は最後まで面倒をみられなくて悪いが、あいつにお前たちを任せ、我はお前たちから離れなければ。強制的に帰される前に、できるだけ遠くに……』
ご飯を食べたあとは、エンシェントドラゴンおじさんが僕たちにまとめてクリーンをかけてくれて、顔も体も綺麗になりました。果物の汁で、顔も体もべちゃべちゃだったからね。
それから、僕たちが汚しちゃったところも綺麗にしてくれました。全部終わってから、エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちの前にドシンッと座ります。このときおじさんはドラゴンの姿に戻っていました。
ただ、洞窟に合わせたからなのか、最初に見たときよりもぜんぜん小さいサイズです。どうも好きなように、体の大きさを変えることができるみたいだよ。でもね、わざわざ小さくなってまでドラゴンの姿になるより、そのまま人の姿でいいんじゃないのかなって思って聞いたら……
久しぶりに人間の姿に変身したから、なんか疲れちゃったんだって。まだ元々の姿、ドラゴンの姿で小さくなってる方が楽みたい。まあ、みんな楽な方がいいからね。それに、僕たちはエセルバードさんたちで慣れてるから、ドラゴン姿でも問題ありません。
人によっては、初めてドラゴンと会うと気絶しちゃう人たちもいるそうです。だから、エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちが怖がらないで話ができてよかったって言いました。
その話が終わると、エンシェントドラゴンおじさんは本題に入りました。
『それで、お前は何者だ? お前の気配、我の知っている者とそっくりだが、外見がまったく違う。それに、ここに飛んでくるまでの間、お前を観察していたが、性格もまったく違う』
何者? 僕は僕だよ。ここはきちっと自己紹介した方がいいよね。その方がエンシェントドラゴンおじさんも、僕のことが分かるだろうし。
「ぼくにょにゃまえは、かにゃででしゅ」
『ボクはフィルなの!! なまえ、カナデがかんがえてくれたなの! とってもカッコいいなまえなの!!』
『ボク、クルクル。ボクの名前もカッコいいでしょう』
「しょれかりゃ、みにゃかじょくで」
『いつもいっしょなの!!』
『うん、ずっと一緒。バラバラにならない』
うん、これでばっちり! みんなでうんうんって頷きます。でも――
『いや、我が聞いているのは、お前たちの自己紹介ではない。お前が……カナデと言ったか。カナデ、お前が何者か聞いているのだ』
え~今自己紹介したじゃん。何者って、だから僕はカナデだよ。それしかないでしょう? あっ、もしかしてもっと詳しい方がよかったとか?
「えちょ、いまは、どりゃごんにょ、しゃといりゅ。ちょっちょまえ、きちゃ」
『うん、ちょっとまえに、アリスターのおうちきたなの』
『ボクも!』
『いや、だからな。なんと聞けばいいのだ? ……お前は人間ではないだろう? いや人間だが、ただの人間ではないはずだ』
ん? 人間だけど人間じゃない? そのとき、クルクルが僕の肩に乗ってきて、小さな声で僕にだけ聞こえるように言いました。もしかしてあれじゃないかって。そう『神の愛し子』のことじゃないかって。
ああ!! 僕は手を叩きました。確かにそれなら、僕は人間だけど、『神の愛し子』ってやつでもあるよね。どういう存在か、いまいち分かってないけど……
「えちょ、もひとちゅ。でもぼく、よくちらにゃい」
『それはなんだ?』
「みにゃときどき、『かみにょいとちご』っていう」
『……やはりそうか。お前は「神の愛し子」か。私が感じた通りだったか』
ん? もしかしてその言い方だと、僕が『神の愛し子』って知ってた感じ? なら別に、僕にわざわざ聞かなくてもよかったんじゃないかな。
『しかし、それが確認できたところで他の、あいつのことに関しては、まだ分からないな。どうしてお前からあいつの気配がするのか……お前、我と出会ったのは初めてか?』
それはもちろん。大体、僕がここに来て、会ったことがある人なんて、そんなにいないからね。もしエンシェントドラゴンおじさんみたいな人に出会っていたら、忘れるはずがないし。これで忘れてたらおかしいでしょう。
『ボク、おじさんしらないなの』
『ボクも知らない』
フィルとクルクルも言います。
『お前たちは知らなくて当たり前だ。お前たちのように、生まれたばかりの者たちが我を知っていたら逆に驚きだ』
『なら、カナデも同じ。カナデはボクたちの中で、一番小さい』
クルクルが言いました。
『確かに見た目は小さいが、あいつの場合、若返ることもできるんじゃないかとな。そして何かの事情で、我に自分が誰なのか話せないでいるのかと、考えていたんだ』
さっきから出てくる『あいつ』って、誰のこと? それに僕は絶対に、エンシェントドラゴンおじさんに会ったことがないよ。
う~ん、エンシェントドラゴンおじさんは、僕の何が知りたいんだろう? エンシェントドラゴンおじさんも、もう少し詳しく話してくれないかな。そうしたら、答えられることがあるかもしれないし。
「おじちゃ、あいちゅ、だりえ?」
『おじさんの話、よく分からない。おじさんもボクたちのこと知らない。みんなよく分からないし知らない』
僕とクルクルが尋ねます。
『ボクはフィルなの!!』
うん、フィル、それは分かってるから、ちょっと静かにだよ。クルクルも同じことを考えていたみたいで、静かにってフィルに注意します。
『ふむ。何かの拍子に、記憶が失われた可能性もあるな。少し昔の話をしてみるか』
「むかちのはなち?」
『そうだ、そうすればもしかしたら、お前の記憶が蘇るかもしれん。まったくの別人ならば、あまり意味はないが。別人ならばそれはそれで、ここへ連れてきた理由を、お前たちにきちんと話さなければならんしな』
今までは背筋を伸ばして、力が入っていた感じだったけど、エンシェントドラゴンおじさんが深く座り直して、もっと楽な姿勢になりました。
『我は昔、ここに住んでいたことがある。そしてここで、ある者に出会った――』
2.エンシェントドラゴンおじさんの過去 ある人との出会い
昔々、エンシェントドラゴンおじさんは、この洞窟に住んでいました。どのくらい昔かっていうと、ドラゴンの森に今住んでいるドラゴンたち全員が、まだぜんぜん生まれていない頃だって。
誰も? セバスチャンよりも? そう聞いたら、セバスチャンとは誰かって聞かれました。セバスチャンの大体の年齢を言ったら、それよりももっと前だそうです。僕もフィルたちもビックリしました。そんなに昔って、エンシェントドラゴンおじさんは今いくつなの?
『我も、もう歳は分からん。だが、確実にその者たちよりは、もっと昔から生きている』
この場所はおじさんにとって、とっても住みやすい場所でした。綺麗な花畑が広がっているし、その周りには、ドラゴンの里よりも広い森が広がっていました。
広い森だから、それだけ魔獣もいて、それから木の実に果物もあって、食料にも全く困らない場所です。
おじさんは綺麗な花畑を見ながら、ご飯を食べるのが大好きでした。ドラゴンの里には、怖い魔獣もいるので、ここの森の魔獣はエンシェントドラゴンおじさんの邪魔をしなかったのって聞いたら、みんなそんな馬鹿なことしなかったって。
『我は誰よりも強いからな。あのドラゴンの里の長よりもな』
周りの森に住んでいる魔獣たちはかなり強いけど、おじさんに勝てるわけもなく、魔獣たちもそれは分かっているから、絶対に手を出してこなかったみたいです。
それに、それだけ強い魔獣がいる森だったから、周りの人間や獣人、他の種族の人たちも手を出してきません。
そんな誰にも邪魔されないで、幸せにまったりと暮らしていたエンシェントドラゴンおじさんの前に、ある日突然、ある人が現れました。
本当にそれは突然で、森に自然に湧いている天然のお酒を飲みながら、月を見て、花畑を見て、まったりしているところへ、頭の上にいきなり人間が現れたそうです。
「よう、初めまして!」
『……』
あまりの突然のことに、しかも自分を怖がることなく、敵意も全く感じさせずに挨拶をしてきた人間に、さすがのエンシェントドラゴンおじさんも、驚きで少しの間動けませんでした。
その後、我に返ったエンシェントドラゴンおじさんは、人間を頭から降ろすと、その人間を結界で囲って逃げないように、そして攻撃ができないようにして、尋問をします。
何しろ本当に突然だったからね。近づいてくる気配も一切なく、自分の頭の上に現れたら、そりゃあ、色々聞くよね。今は敵意を見せていなくても、本当はエンシェントドラゴンおじさんを倒しに来たのかもしれないし。
でも、返ってきた答えは――神様からこの世界に送ってもらった。そう、その人間は、僕と同じ『神の愛し子』だったんだ。
名前はアサヒさん。アサヒさん……名前からして日本人かな? そのアサヒさんによると、神様の何かのミスで、元いた場所で生きることができなくなって、お詫びにこの世界で生活できるようにしてもらったらしいです。
ついでに、ただ送るのも申し訳ないってことで、色々加護を貰って、『神の愛し子』として、この世界に送ってもらいました。
それで、送ってもらったのはいいんだけど、アサヒさんによると本当は、人間が住んでいる村か、街の近くに送ってもらう予定だったみたいです。
でも実際は、エンシェントドラゴンおじさんの頭の上で、周りには花畑と森が広がっていました。神様が送るところを間違えたんだろうって、アサヒさんは大笑いしてたらしいよ。
いやいやアサヒさん、笑いごとじゃないと思うな。それに今の話、まんま僕たちじゃない? 神様のミスと、加護を貰って別の世界へ――というか、この世界へ。そして、僕は神様に『神の愛し子』のことは聞いていなかったけど、それも一緒です。
あげく、送ってもらえる予定だった場所には送ってもらえず、アサヒさんはエンシェントドラゴンおじさんの頭の上で、おじさんの尋問を受けることに。僕とフィルは、僕は二歳児になって、イノシシ魔獣に襲われて……ほら、最後の部分以外、一緒じゃん。
『カナデ、なんのおはなしなの? おじさん、ボクたちのおはなししてるなの?』
あ~あ、フィルが混乱しちゃったよ。でもそうだよね、そうなるよね。
『違う、フィル。別の人の話してる。昔の人間の話』
クルクルがフォローしてくれました。
『でも、ボクとおなじなの。ボクたちのおはなしなの』
『なんだ? どういうことだ?』
まだまだ話を聞きはじめたばかりですが、僕は簡単に、僕たちがここに来たときの話をしました。地球のことや僕が二歳になったことは面倒だから言わなかったけど、神様がミスをしたことや、ここに来るまでの出来事をね。
そして僕が話している間、フィルとクルクルは、あのダメダメ神様の歌を歌っていました。
話を聞き終わったエンシェントドラゴンおじさんは、大きな溜め息をつきます。僕だって溜め息をつきました。まさか神様が、ほぼ同じことをしていたなんてね。いつかまた再会したとき、文句を言うことが増えました。
『はあ、やつはまたやらかしたのか。しかも、このような幼子の送る場所を間違えるとは。やつは自分の責任というものを、しっかりと考えたことがあるのだろうか? とりあえず、お前たちのことは分かった』
その後も、エンシェントドラゴンおじさんの話は続きました。それはとってもとっても頭にくる、そしてとってもとっても悲しいお話でした――
とりあえずアサヒさんが間違えてここへ送られてきたことを理解したエンシェントドラゴンおじさんは、知り合いの人間が住んでいる場所へ、アサヒさんを連れていこうとしました。
でも、なぜかアサヒさんはそれを拒否して、ここで暮らすって言ったみたいです。ただ、エンシェントドラゴンおじさんがそれを許可するわけもなく、無理矢理にでも連れていこうとしたところ――そこでアサヒさんの魔法が炸裂しました。しかも魔力が暴走しかけて、この場所が吹き飛びそうになりました。
エンシェントドラゴンおじさんはなんとか、その魔力の暴走を結界で防いだそうです。でも、魔力の暴走が収まったときには、アサヒさんの髪の毛も洋服も、全てがボロボロのごわごわになっていました。エンシェントドラゴンおじさんも頭が少し焦げて、そこから湯気が出ています。
少しの間、真顔でお互いを見ていたエンシェントドラゴンおじさんとアサヒさんだけど、いきなりアサヒさんが笑いはじめて、止まらなくなっちゃいました。
そんなアサヒさんに、エンシェントドラゴンおじさんは、笑いすぎだって注意します。そして、もしも爆発を起こしていたら、死んでいたかもしれないって怒ったり、エンシェントドラゴンおじさんの住処を破壊するつもりかって怒ったり、他にもこれほどの力を与えるなんてって神様を怒ったりしました。
ただ、今回のことでエンシェントドラゴンおじさんは、このまま人間の世界にアサヒさんを連れていくのはまずいと判断したみたいです。
また、仕方なく、本当に仕方なく、アサヒさんの力を抑えることができる、自分のもとに置くことに決めて、知り合いの人間に、ここへ来てもらうことにしたんだって。
これも僕たちとそっくりだね。魔力の暴走で道を二つ作ったり、ウィバリーさんのところから、ローズマリーさんか他の人が、人間のことを教えに来てくれる予定だったり。本当によく似ているよ。
こうしてアサヒさんは、エンシェントドラゴンおじさんや、色々な種族の人たちに手伝ってもらいながら、ここで暮らしはじめます。
そして、すぐにここでの生活に慣れたみたいです。一般常識はもちろん、来て一ヶ月経つ頃には、魔法もほぼ完璧に扱えるようになり、数ヶ月経つ頃には、エンシェントドラゴンおじさんと一緒に狩りができるまでになりました。
そんな生活が続いて、最初はアサヒさんの世話をするなんて面倒だと思っていたエンシェントドラゴンおじさんも、アサヒさんの規格外さも含めて慣れていったみたいです。
しかも、今まではなかなか、エンシェントドラゴンおじさんについてこられる人はいなかったけど、アサヒさんは違います。
エンシェントドラゴンおじさんは、今までも一人で楽しく生活していたものの、もっと毎日が楽しいと感じるようになっていました。まあ、そのせいで森の魔獣たちが外に逃げて、周りの街や村に被害が出て……少し、うん、少しだけ問題になったみたいだけど。
こうして楽しい日々はどんどん過ぎていき、気づけばアサヒさんがこの世界に来て十年が経ちました。この頃には、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんは、色々な場所へ二人で旅をしていたみたいです。
でもその頃、ある場所で最悪な事態が起きようとしていました。そしてその事態は後々、世界中を巻き込み、最終的にはアサヒさんとエンシェントドラゴンにも降りかかります。
世界中が最悪な事態に巻き込まれたとき、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんは、自分たちが大切に思っている者や物を守ろうと、精一杯敵と戦いました。そしてなんとかその最悪な事態は落ち着いてきて、これならなんとかなると感じていたのに……
最悪なこととは別に、ううん、全く関係ないわけじゃないんだけど、ある事件が発生します。この事件が最終的に、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんに、永遠の別れをもたらしました。
『世界の最悪なこと、何?』
クルクルが尋ねます。
『世界中で争いが起こったのだ。闇の者たちによってな』
『やみのものなの?』
今度はフィルです。
『ああ、全てを闇に包み込み、この世界に生きる者すべてに、絶望を与えようとしたのだ。自分たちの力のために、世界を手に入れるために』
「みんにゃ、しょにょひとたちと、たたかっちゃ?」
最後に僕が訊きます。
十五分くらいして、後ろからエンシェントドラゴンおじさんの声がしました。振り返ると、そこにはドラゴンじゃなくて、人が立っていました。この人は、エンシェントドラゴンおじさんが変身した姿みたいです。彼は僕たちをジト目で見ていました。
僕たち何か変? 別に変なことないと思うんだけど。
『どういうこと?』
『なんなの?』
「ぼくたち、へん?」
クルクル、フィル、僕たちが言います。
『いや、別に変ではないが……いやいや、やはりおかしいな。どうしてお前たちの周りに、それだけの虫と鳥が集まっているんだ』
僕たちの周りには今、そこら辺にいた虫たちと鳥たちが集まっています。花畑に入ってすぐね、僕たちに気づいたみんなが、どんどん集まってきたんだ。
呼び方が合っているか分からないけど、イモムシやケムシ、チョウにトンボにてんとう虫、カマキリにハチにカブトムシにクワガタ……他にもいっぱいです。まあ、完璧に地球と同じ姿だったり、ちょっと違ったり。
それから鳥の方は、もちろんクルクルと同じで、まだまだ子供の鳥もいます。でも、なんと僕の手のひらサイズ――クルクルと同じくらいの大きさなのに、もう大人の鳥もいました。クルクルに聞いたところ、ドラゴンの森では見たことがないって言っていました。
あと、ここにいる虫や鳥はみんな仲良しで、いつもこの花畑で遊んでいるんだって。ちなみにこの花畑と、少し花畑から出たところでしか行動しないみたい。周りの森には行かないみたいです。
そんな話をフィルとクルクルに通訳してもらった数分後、僕たちの周りは虫と鳥でいっぱいになりました。周りに集まっただけじゃなくて、僕の頭、肩、体全部にくっついたり留まったりします。フィルの背中も体も虫と鳥だらけです。
そんなことをしているうちに、エンシェントドラゴンおじさんが戻ってきたんだよ。ね、みんなが集まっているだけで、特に変なことはないでしょう?
『いや、どう考えてもおかしいだろう。そんなに時間が経っていないのに、なぜ皆が集まる』
そう言われてもねえ。みんなで顔を見合わせます。
『まあ、それもあとで聞く。とりあえず洞窟の中へ入るぞ。ついてこい』
僕たちは、エンシェントドラゴンおじさんの後ろを歩きはじめました。スタスタ歩いていくおじさんに僕がついていけるわけもなく、どんどん距離ができてしまいます。フィルが急いで僕を背中に乗せてくれるけど、上手くいかなくて、わたわたしていました。
すると、エンシェントドラゴンおじさんが戻ってきて、僕を抱っこしてくれました。それでまた歩きはじめますが、今度は別の問題が出てきました。
僕たちの周りに集まっていた虫や鳥たちが、ぞろぞろついてきたんです。早く動けない子や飛べない子は、別の虫や鳥が運びながらぞろぞろとね。
『なぜ、皆ついてくるのだ?』
『ぴぴぴっ!!』
『ぴゅぴぴぴ!!』
『シュウゥゥゥ!!』
『ジィー、ジィー!』
鳥たちだけじゃなくて、虫たちまで何かを訴えていて、エンシェントドラゴンおじさんは頷きました。
『分かった、分かった。が、それはあとだ。我には時間がないのだ。おそらく我はここから、戻ることになるだろう。その後はおそらく、あやつがこの者たちの面倒を見てくれるはずだ。気配が近づいてきているからな。そうしたら自由にしてくれ。今はダメだ』
それを聞いて、ぶすっとなる虫と鳥たち。クルクルに聞いてみたんだけど、みんなは僕たちと一緒に行きたいって言ってたみたい。でも、エンシェントドラゴンおじさんはダメだって。
それでも虫と鳥たちはなかなか引きません。最後は、絶対にあとで一緒に遊ばせてってエンシェントドラゴンおじさんに約束させていました。それでようやく、虫と鳥たちは花畑に戻っていきます……何回も僕たちの方を振り向きながら。
『はあ、これで中に入れる』
エンシェントドラゴンおじさんは洞窟に向かって、再び歩きはじめます。洞窟の入り口は光魔法で少し明るくしてあって、奥の方はもっと明るくなっていました。
中に入ると、エンシェントドラゴンおじさんは入り口に向かって手をかざします。何をしたのか聞いたら、外から中が見えなくなる魔法をかけたんだって。入り口の前に来ても、そこに洞窟があるなんて分からず、ただの岩盤に見える魔法だそうです。
『話の邪魔をされたくないからな。まあ、あやつには関係ないが』
あやつ? 少し進むと、かなり開けた場所につきました。エンシェントドラゴンおじさんは僕を降ろして、それから木の葉をいっぱい用意したから、その上に座れって指差しました。
エンシェントドラゴンおじさんの指差した場所には確かに、いっぱいの木の葉の山が二つと、小さな木の葉の山が一つありました。小さいのはクルクル用です。
みんなでそっちに歩いていって、木の葉の上にそっとそっと座ってみます。
おおお! おおおおお!! これは!! まさかこんなに木の葉の座布団がふわふわだなんて!!
もしかして、エセルバードさんのお屋敷の、あのふわふわソファーよりふわふわなんじゃ? ただの木の葉だよ? どうしてこんなにふわふわなの?
『どうだ。お尻は痛くないだろう?』
僕たちはぶんぶん頷きます。
『それから、これも用意した。話をする前に、喉を潤した方がいいと思ってな』
おじさんが手を軽く上げると風が吹いて、別の場所から木の葉が飛んできました。そしてその木の葉が地面に敷かれると、次は果物と木の実が飛んできてその上に載ります。
『それを食べたら、話を始める』
僕たちはすぐに果物と木の実を食べはじめました。そんな僕たちを見たり、周りを見たりしながら、エンシェントドラゴンおじさんは小さな声で、何か独り言を呟いていました。
『ここは昔と変わりはないな。中が無事でよかった。それに、木の葉と食べ物も、昔と変わらずに豊富でよかった。ささっと集めただけで、かなりの量になったからな。ふむ、話が終わったら、もっといい寝所を用意してやるか。今の木の葉は座る用にして……』
『カナデ、おいしいねなの!』
「うん、おいちいね、ふぃりゅ!」
『ボク、この木の実好き』
『……あと三日くらいなら余裕があるからな。その後は最後まで面倒をみられなくて悪いが、あいつにお前たちを任せ、我はお前たちから離れなければ。強制的に帰される前に、できるだけ遠くに……』
ご飯を食べたあとは、エンシェントドラゴンおじさんが僕たちにまとめてクリーンをかけてくれて、顔も体も綺麗になりました。果物の汁で、顔も体もべちゃべちゃだったからね。
それから、僕たちが汚しちゃったところも綺麗にしてくれました。全部終わってから、エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちの前にドシンッと座ります。このときおじさんはドラゴンの姿に戻っていました。
ただ、洞窟に合わせたからなのか、最初に見たときよりもぜんぜん小さいサイズです。どうも好きなように、体の大きさを変えることができるみたいだよ。でもね、わざわざ小さくなってまでドラゴンの姿になるより、そのまま人の姿でいいんじゃないのかなって思って聞いたら……
久しぶりに人間の姿に変身したから、なんか疲れちゃったんだって。まだ元々の姿、ドラゴンの姿で小さくなってる方が楽みたい。まあ、みんな楽な方がいいからね。それに、僕たちはエセルバードさんたちで慣れてるから、ドラゴン姿でも問題ありません。
人によっては、初めてドラゴンと会うと気絶しちゃう人たちもいるそうです。だから、エンシェントドラゴンおじさんは、僕たちが怖がらないで話ができてよかったって言いました。
その話が終わると、エンシェントドラゴンおじさんは本題に入りました。
『それで、お前は何者だ? お前の気配、我の知っている者とそっくりだが、外見がまったく違う。それに、ここに飛んでくるまでの間、お前を観察していたが、性格もまったく違う』
何者? 僕は僕だよ。ここはきちっと自己紹介した方がいいよね。その方がエンシェントドラゴンおじさんも、僕のことが分かるだろうし。
「ぼくにょにゃまえは、かにゃででしゅ」
『ボクはフィルなの!! なまえ、カナデがかんがえてくれたなの! とってもカッコいいなまえなの!!』
『ボク、クルクル。ボクの名前もカッコいいでしょう』
「しょれかりゃ、みにゃかじょくで」
『いつもいっしょなの!!』
『うん、ずっと一緒。バラバラにならない』
うん、これでばっちり! みんなでうんうんって頷きます。でも――
『いや、我が聞いているのは、お前たちの自己紹介ではない。お前が……カナデと言ったか。カナデ、お前が何者か聞いているのだ』
え~今自己紹介したじゃん。何者って、だから僕はカナデだよ。それしかないでしょう? あっ、もしかしてもっと詳しい方がよかったとか?
「えちょ、いまは、どりゃごんにょ、しゃといりゅ。ちょっちょまえ、きちゃ」
『うん、ちょっとまえに、アリスターのおうちきたなの』
『ボクも!』
『いや、だからな。なんと聞けばいいのだ? ……お前は人間ではないだろう? いや人間だが、ただの人間ではないはずだ』
ん? 人間だけど人間じゃない? そのとき、クルクルが僕の肩に乗ってきて、小さな声で僕にだけ聞こえるように言いました。もしかしてあれじゃないかって。そう『神の愛し子』のことじゃないかって。
ああ!! 僕は手を叩きました。確かにそれなら、僕は人間だけど、『神の愛し子』ってやつでもあるよね。どういう存在か、いまいち分かってないけど……
「えちょ、もひとちゅ。でもぼく、よくちらにゃい」
『それはなんだ?』
「みにゃときどき、『かみにょいとちご』っていう」
『……やはりそうか。お前は「神の愛し子」か。私が感じた通りだったか』
ん? もしかしてその言い方だと、僕が『神の愛し子』って知ってた感じ? なら別に、僕にわざわざ聞かなくてもよかったんじゃないかな。
『しかし、それが確認できたところで他の、あいつのことに関しては、まだ分からないな。どうしてお前からあいつの気配がするのか……お前、我と出会ったのは初めてか?』
それはもちろん。大体、僕がここに来て、会ったことがある人なんて、そんなにいないからね。もしエンシェントドラゴンおじさんみたいな人に出会っていたら、忘れるはずがないし。これで忘れてたらおかしいでしょう。
『ボク、おじさんしらないなの』
『ボクも知らない』
フィルとクルクルも言います。
『お前たちは知らなくて当たり前だ。お前たちのように、生まれたばかりの者たちが我を知っていたら逆に驚きだ』
『なら、カナデも同じ。カナデはボクたちの中で、一番小さい』
クルクルが言いました。
『確かに見た目は小さいが、あいつの場合、若返ることもできるんじゃないかとな。そして何かの事情で、我に自分が誰なのか話せないでいるのかと、考えていたんだ』
さっきから出てくる『あいつ』って、誰のこと? それに僕は絶対に、エンシェントドラゴンおじさんに会ったことがないよ。
う~ん、エンシェントドラゴンおじさんは、僕の何が知りたいんだろう? エンシェントドラゴンおじさんも、もう少し詳しく話してくれないかな。そうしたら、答えられることがあるかもしれないし。
「おじちゃ、あいちゅ、だりえ?」
『おじさんの話、よく分からない。おじさんもボクたちのこと知らない。みんなよく分からないし知らない』
僕とクルクルが尋ねます。
『ボクはフィルなの!!』
うん、フィル、それは分かってるから、ちょっと静かにだよ。クルクルも同じことを考えていたみたいで、静かにってフィルに注意します。
『ふむ。何かの拍子に、記憶が失われた可能性もあるな。少し昔の話をしてみるか』
「むかちのはなち?」
『そうだ、そうすればもしかしたら、お前の記憶が蘇るかもしれん。まったくの別人ならば、あまり意味はないが。別人ならばそれはそれで、ここへ連れてきた理由を、お前たちにきちんと話さなければならんしな』
今までは背筋を伸ばして、力が入っていた感じだったけど、エンシェントドラゴンおじさんが深く座り直して、もっと楽な姿勢になりました。
『我は昔、ここに住んでいたことがある。そしてここで、ある者に出会った――』
2.エンシェントドラゴンおじさんの過去 ある人との出会い
昔々、エンシェントドラゴンおじさんは、この洞窟に住んでいました。どのくらい昔かっていうと、ドラゴンの森に今住んでいるドラゴンたち全員が、まだぜんぜん生まれていない頃だって。
誰も? セバスチャンよりも? そう聞いたら、セバスチャンとは誰かって聞かれました。セバスチャンの大体の年齢を言ったら、それよりももっと前だそうです。僕もフィルたちもビックリしました。そんなに昔って、エンシェントドラゴンおじさんは今いくつなの?
『我も、もう歳は分からん。だが、確実にその者たちよりは、もっと昔から生きている』
この場所はおじさんにとって、とっても住みやすい場所でした。綺麗な花畑が広がっているし、その周りには、ドラゴンの里よりも広い森が広がっていました。
広い森だから、それだけ魔獣もいて、それから木の実に果物もあって、食料にも全く困らない場所です。
おじさんは綺麗な花畑を見ながら、ご飯を食べるのが大好きでした。ドラゴンの里には、怖い魔獣もいるので、ここの森の魔獣はエンシェントドラゴンおじさんの邪魔をしなかったのって聞いたら、みんなそんな馬鹿なことしなかったって。
『我は誰よりも強いからな。あのドラゴンの里の長よりもな』
周りの森に住んでいる魔獣たちはかなり強いけど、おじさんに勝てるわけもなく、魔獣たちもそれは分かっているから、絶対に手を出してこなかったみたいです。
それに、それだけ強い魔獣がいる森だったから、周りの人間や獣人、他の種族の人たちも手を出してきません。
そんな誰にも邪魔されないで、幸せにまったりと暮らしていたエンシェントドラゴンおじさんの前に、ある日突然、ある人が現れました。
本当にそれは突然で、森に自然に湧いている天然のお酒を飲みながら、月を見て、花畑を見て、まったりしているところへ、頭の上にいきなり人間が現れたそうです。
「よう、初めまして!」
『……』
あまりの突然のことに、しかも自分を怖がることなく、敵意も全く感じさせずに挨拶をしてきた人間に、さすがのエンシェントドラゴンおじさんも、驚きで少しの間動けませんでした。
その後、我に返ったエンシェントドラゴンおじさんは、人間を頭から降ろすと、その人間を結界で囲って逃げないように、そして攻撃ができないようにして、尋問をします。
何しろ本当に突然だったからね。近づいてくる気配も一切なく、自分の頭の上に現れたら、そりゃあ、色々聞くよね。今は敵意を見せていなくても、本当はエンシェントドラゴンおじさんを倒しに来たのかもしれないし。
でも、返ってきた答えは――神様からこの世界に送ってもらった。そう、その人間は、僕と同じ『神の愛し子』だったんだ。
名前はアサヒさん。アサヒさん……名前からして日本人かな? そのアサヒさんによると、神様の何かのミスで、元いた場所で生きることができなくなって、お詫びにこの世界で生活できるようにしてもらったらしいです。
ついでに、ただ送るのも申し訳ないってことで、色々加護を貰って、『神の愛し子』として、この世界に送ってもらいました。
それで、送ってもらったのはいいんだけど、アサヒさんによると本当は、人間が住んでいる村か、街の近くに送ってもらう予定だったみたいです。
でも実際は、エンシェントドラゴンおじさんの頭の上で、周りには花畑と森が広がっていました。神様が送るところを間違えたんだろうって、アサヒさんは大笑いしてたらしいよ。
いやいやアサヒさん、笑いごとじゃないと思うな。それに今の話、まんま僕たちじゃない? 神様のミスと、加護を貰って別の世界へ――というか、この世界へ。そして、僕は神様に『神の愛し子』のことは聞いていなかったけど、それも一緒です。
あげく、送ってもらえる予定だった場所には送ってもらえず、アサヒさんはエンシェントドラゴンおじさんの頭の上で、おじさんの尋問を受けることに。僕とフィルは、僕は二歳児になって、イノシシ魔獣に襲われて……ほら、最後の部分以外、一緒じゃん。
『カナデ、なんのおはなしなの? おじさん、ボクたちのおはなししてるなの?』
あ~あ、フィルが混乱しちゃったよ。でもそうだよね、そうなるよね。
『違う、フィル。別の人の話してる。昔の人間の話』
クルクルがフォローしてくれました。
『でも、ボクとおなじなの。ボクたちのおはなしなの』
『なんだ? どういうことだ?』
まだまだ話を聞きはじめたばかりですが、僕は簡単に、僕たちがここに来たときの話をしました。地球のことや僕が二歳になったことは面倒だから言わなかったけど、神様がミスをしたことや、ここに来るまでの出来事をね。
そして僕が話している間、フィルとクルクルは、あのダメダメ神様の歌を歌っていました。
話を聞き終わったエンシェントドラゴンおじさんは、大きな溜め息をつきます。僕だって溜め息をつきました。まさか神様が、ほぼ同じことをしていたなんてね。いつかまた再会したとき、文句を言うことが増えました。
『はあ、やつはまたやらかしたのか。しかも、このような幼子の送る場所を間違えるとは。やつは自分の責任というものを、しっかりと考えたことがあるのだろうか? とりあえず、お前たちのことは分かった』
その後も、エンシェントドラゴンおじさんの話は続きました。それはとってもとっても頭にくる、そしてとってもとっても悲しいお話でした――
とりあえずアサヒさんが間違えてここへ送られてきたことを理解したエンシェントドラゴンおじさんは、知り合いの人間が住んでいる場所へ、アサヒさんを連れていこうとしました。
でも、なぜかアサヒさんはそれを拒否して、ここで暮らすって言ったみたいです。ただ、エンシェントドラゴンおじさんがそれを許可するわけもなく、無理矢理にでも連れていこうとしたところ――そこでアサヒさんの魔法が炸裂しました。しかも魔力が暴走しかけて、この場所が吹き飛びそうになりました。
エンシェントドラゴンおじさんはなんとか、その魔力の暴走を結界で防いだそうです。でも、魔力の暴走が収まったときには、アサヒさんの髪の毛も洋服も、全てがボロボロのごわごわになっていました。エンシェントドラゴンおじさんも頭が少し焦げて、そこから湯気が出ています。
少しの間、真顔でお互いを見ていたエンシェントドラゴンおじさんとアサヒさんだけど、いきなりアサヒさんが笑いはじめて、止まらなくなっちゃいました。
そんなアサヒさんに、エンシェントドラゴンおじさんは、笑いすぎだって注意します。そして、もしも爆発を起こしていたら、死んでいたかもしれないって怒ったり、エンシェントドラゴンおじさんの住処を破壊するつもりかって怒ったり、他にもこれほどの力を与えるなんてって神様を怒ったりしました。
ただ、今回のことでエンシェントドラゴンおじさんは、このまま人間の世界にアサヒさんを連れていくのはまずいと判断したみたいです。
また、仕方なく、本当に仕方なく、アサヒさんの力を抑えることができる、自分のもとに置くことに決めて、知り合いの人間に、ここへ来てもらうことにしたんだって。
これも僕たちとそっくりだね。魔力の暴走で道を二つ作ったり、ウィバリーさんのところから、ローズマリーさんか他の人が、人間のことを教えに来てくれる予定だったり。本当によく似ているよ。
こうしてアサヒさんは、エンシェントドラゴンおじさんや、色々な種族の人たちに手伝ってもらいながら、ここで暮らしはじめます。
そして、すぐにここでの生活に慣れたみたいです。一般常識はもちろん、来て一ヶ月経つ頃には、魔法もほぼ完璧に扱えるようになり、数ヶ月経つ頃には、エンシェントドラゴンおじさんと一緒に狩りができるまでになりました。
そんな生活が続いて、最初はアサヒさんの世話をするなんて面倒だと思っていたエンシェントドラゴンおじさんも、アサヒさんの規格外さも含めて慣れていったみたいです。
しかも、今まではなかなか、エンシェントドラゴンおじさんについてこられる人はいなかったけど、アサヒさんは違います。
エンシェントドラゴンおじさんは、今までも一人で楽しく生活していたものの、もっと毎日が楽しいと感じるようになっていました。まあ、そのせいで森の魔獣たちが外に逃げて、周りの街や村に被害が出て……少し、うん、少しだけ問題になったみたいだけど。
こうして楽しい日々はどんどん過ぎていき、気づけばアサヒさんがこの世界に来て十年が経ちました。この頃には、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんは、色々な場所へ二人で旅をしていたみたいです。
でもその頃、ある場所で最悪な事態が起きようとしていました。そしてその事態は後々、世界中を巻き込み、最終的にはアサヒさんとエンシェントドラゴンにも降りかかります。
世界中が最悪な事態に巻き込まれたとき、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんは、自分たちが大切に思っている者や物を守ろうと、精一杯敵と戦いました。そしてなんとかその最悪な事態は落ち着いてきて、これならなんとかなると感じていたのに……
最悪なこととは別に、ううん、全く関係ないわけじゃないんだけど、ある事件が発生します。この事件が最終的に、アサヒさんとエンシェントドラゴンおじさんに、永遠の別れをもたらしました。
『世界の最悪なこと、何?』
クルクルが尋ねます。
『世界中で争いが起こったのだ。闇の者たちによってな』
『やみのものなの?』
今度はフィルです。
『ああ、全てを闇に包み込み、この世界に生きる者すべてに、絶望を与えようとしたのだ。自分たちの力のために、世界を手に入れるために』
「みんにゃ、しょにょひとたちと、たたかっちゃ?」
最後に僕が訊きます。
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