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20話 あまりの美味しさに状況を忘れかけた
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船に乗ってすぐ、ベルナードさんに言われて。ランドルフさんが私とポル君に、クッキー盛り合わせとジュースを持ってきてくれた。
「いいですか、ここで魔獣と一緒に静かにしていてください。動いてはダメですよ。クッキーとジュースは特別製で、とても美味しいですから。話が終わるまで、それを食べながら待っていてください。何かあれば、すぐに呼んでくださいね」
「ありがちょごじゃいましゅ」
「……それでは」
おお、笑った。なんだろう、ランドルフさん、グレイスに似ている感じがする。いつもは笑わないのに、時々ニコッて一瞬だけ笑うの。それにベルナードさんに、ブツブツ文句を言っている割には、言われたこと以外にも、いろいろ気をつけてくれてるっていうか。
ベルナードさんはベルナードさんで、最初からずっと私たちを気にしてくれている? う~ん、なにしろこの港を取り締まっている人たちだからね。
最初に思った通り、これが私たちにわざと優しく接して、警戒心を解いて話を引き出そうとしてるっていうのが、続いているだけかもしれないけど。
ただ、もしも本当に心配してくれて、いろいろ気にかけてくれているなら? 顔も姿もイケおじで、行動までイケオジなら、完璧なイケおじだな。そんなイケオジが本当にこの世にいるのか?
なんて考えていると、ポル君がこそっと私に、
『りあ、たべよ』
と言ってきた。私はケロケロを見ると、ケロケロが1回頷いたよ。今ケロケロはいつもみたいに話せない。
ケロケロたちみたいに強い魔獣は、人と話すことができるんだけど、普通の魔獣は、人と話すことはできないんだ。だからもし話しをして、ケロケロが強い魔獣だと分かったら、余計面倒なことになるかもしれないからね。
だから、頷いて返事をしてくれたの。これはケロケロたちとの約束で、知らない人や魔獣から何かをもらった時は、必ず2人に確認することになっていて。
そして2人が話せないときは、頷きで伝えることになっているんだ。1回なら大丈夫、2回ならダメっていう合図ね。
今は1回だから、このクッキーとジュースは食べて良いってこと。私は何種類もあるクッキーの中から適当に2枚取り、ポル君にどっちが食べたいか聞いたよ。そうして2人でクッキーを食べた瞬間……。
え!? 何これ!? うまっ!! え!? うまっ!! いやいや、うま!?
あまりのおいしさに衝撃を受けたよ。食感も、サクッ、ふわっ!! って、こう言い表せない、素晴らしい初めての食感だし。
え? 世の中にはこんなに美味しいクッキーがあるの!? あまりの美味しさに、今がどういう状況かを忘れて、
「うみゃ、うみゃ」
って言いながら、凄い勢いでクッキーを食べちゃったよね。でもそれは私だけじゃなくて、ポル君も同じだったらしく。私のカバンの中で、
「ちー、ちー」
って、美味しいのちーを、鳴き声みたいにして発しながら、思い切りクッキーを食べ始めていた。
そうして、すこぶる美味しいクッキーを、何枚か食べたあと、今度はジュースを飲んだんだけど……。
これまた今まで飲んだことがない、めちゃくちゃ美味しいジュースで。味は桃? 味に近いかな。とにかく初めての味で、しかも美味しすぎて、クッキーと同じ反応をしちゃったんだ。
そして最終的にはポル君と一緒に、雄叫びを上げてしまっていた。
「『みにょおぉぉぉっ!!』」
ってね。うん、どうにもやっぱり、ちびっ子の体に引っ張られているみたいで、子供っぽい態度をとってしまう。まぁ、うん、そのへんはもう気にしないことにしよう。
ただ、雄叫びを上げた瞬間、周りからクスクスと、笑う声が聞こえてきて。何かと思って周りを見てみれば。何故か、船に乗っている人たちみんなが笑っていたんだ。
ランドルフさんは笑わないで、そのまま中に入って行っちゃって。ベルナードさんは苦笑いしていたけど。みんなどうしたんだろう?
『はぁぁぁ』
ん? ケロケロは溜め息? え? 本当にみんなどうしたの? と。ポル君と一緒に、みんなを見ていたら。話しをするはずのグレイスが、私たちの方にきて。……怒られました。
『あなたたち、一体何をしているんですか。緊張感のない。それに静かにしているように言ったはずでしょう? 向こうでの約束、忘れたんですか? それに、そんな可愛らしい顔や姿を、見ず知らずの人間たちに見せるなんて。いいですか、これからはもっと静かに食べてください。絶対に雄叫びなんて上げないように!』
途中の可愛らしいって言うのは、よく分からないけど。そうだ、今私たちは敵の船、じゃなくて取り締まり船に乗っていたんだった、と思い出した私とポル君。うんと頷きあったあと、残りのクッキーはちゃんと気をつけて、静かに食べることに。
でも食べ始めてすぐに、何故かケロケロはまた溜息を吐いていたよ。静かに食べていたのに何でだろうね。他の人たちもなんか笑いを堪えていたし。みんな本当どうしたの?
それから、私たちがまた食べ始めてすぐに、なんとおかわりのクッキーが届いたんだ。ランドルフさんが戻ってきて、手には新しい山盛りのクッキーが。それを、最初のクッキー皿にそっと乗せてくれたんだ。
「ほぉぉぉ、ありがちょ!」
『ちー!!』
「いいえ。それでは」
やはりランドルフさんは良い人かもしれない。と、こうして再びクッキーを楽しんでいた私たち。
だけどここで、急にベルナードさんが大きな声を出したんだ。
「やっぱりか! お前あのウルシェイドか!!」
何々、どうしたの!? 何かあった? ベルナードさんの大声に、驚いたポル君が急いで、クッキーをカバンの中にしまい始めた。
「いいですか、ここで魔獣と一緒に静かにしていてください。動いてはダメですよ。クッキーとジュースは特別製で、とても美味しいですから。話が終わるまで、それを食べながら待っていてください。何かあれば、すぐに呼んでくださいね」
「ありがちょごじゃいましゅ」
「……それでは」
おお、笑った。なんだろう、ランドルフさん、グレイスに似ている感じがする。いつもは笑わないのに、時々ニコッて一瞬だけ笑うの。それにベルナードさんに、ブツブツ文句を言っている割には、言われたこと以外にも、いろいろ気をつけてくれてるっていうか。
ベルナードさんはベルナードさんで、最初からずっと私たちを気にしてくれている? う~ん、なにしろこの港を取り締まっている人たちだからね。
最初に思った通り、これが私たちにわざと優しく接して、警戒心を解いて話を引き出そうとしてるっていうのが、続いているだけかもしれないけど。
ただ、もしも本当に心配してくれて、いろいろ気にかけてくれているなら? 顔も姿もイケおじで、行動までイケオジなら、完璧なイケおじだな。そんなイケオジが本当にこの世にいるのか?
なんて考えていると、ポル君がこそっと私に、
『りあ、たべよ』
と言ってきた。私はケロケロを見ると、ケロケロが1回頷いたよ。今ケロケロはいつもみたいに話せない。
ケロケロたちみたいに強い魔獣は、人と話すことができるんだけど、普通の魔獣は、人と話すことはできないんだ。だからもし話しをして、ケロケロが強い魔獣だと分かったら、余計面倒なことになるかもしれないからね。
だから、頷いて返事をしてくれたの。これはケロケロたちとの約束で、知らない人や魔獣から何かをもらった時は、必ず2人に確認することになっていて。
そして2人が話せないときは、頷きで伝えることになっているんだ。1回なら大丈夫、2回ならダメっていう合図ね。
今は1回だから、このクッキーとジュースは食べて良いってこと。私は何種類もあるクッキーの中から適当に2枚取り、ポル君にどっちが食べたいか聞いたよ。そうして2人でクッキーを食べた瞬間……。
え!? 何これ!? うまっ!! え!? うまっ!! いやいや、うま!?
あまりのおいしさに衝撃を受けたよ。食感も、サクッ、ふわっ!! って、こう言い表せない、素晴らしい初めての食感だし。
え? 世の中にはこんなに美味しいクッキーがあるの!? あまりの美味しさに、今がどういう状況かを忘れて、
「うみゃ、うみゃ」
って言いながら、凄い勢いでクッキーを食べちゃったよね。でもそれは私だけじゃなくて、ポル君も同じだったらしく。私のカバンの中で、
「ちー、ちー」
って、美味しいのちーを、鳴き声みたいにして発しながら、思い切りクッキーを食べ始めていた。
そうして、すこぶる美味しいクッキーを、何枚か食べたあと、今度はジュースを飲んだんだけど……。
これまた今まで飲んだことがない、めちゃくちゃ美味しいジュースで。味は桃? 味に近いかな。とにかく初めての味で、しかも美味しすぎて、クッキーと同じ反応をしちゃったんだ。
そして最終的にはポル君と一緒に、雄叫びを上げてしまっていた。
「『みにょおぉぉぉっ!!』」
ってね。うん、どうにもやっぱり、ちびっ子の体に引っ張られているみたいで、子供っぽい態度をとってしまう。まぁ、うん、そのへんはもう気にしないことにしよう。
ただ、雄叫びを上げた瞬間、周りからクスクスと、笑う声が聞こえてきて。何かと思って周りを見てみれば。何故か、船に乗っている人たちみんなが笑っていたんだ。
ランドルフさんは笑わないで、そのまま中に入って行っちゃって。ベルナードさんは苦笑いしていたけど。みんなどうしたんだろう?
『はぁぁぁ』
ん? ケロケロは溜め息? え? 本当にみんなどうしたの? と。ポル君と一緒に、みんなを見ていたら。話しをするはずのグレイスが、私たちの方にきて。……怒られました。
『あなたたち、一体何をしているんですか。緊張感のない。それに静かにしているように言ったはずでしょう? 向こうでの約束、忘れたんですか? それに、そんな可愛らしい顔や姿を、見ず知らずの人間たちに見せるなんて。いいですか、これからはもっと静かに食べてください。絶対に雄叫びなんて上げないように!』
途中の可愛らしいって言うのは、よく分からないけど。そうだ、今私たちは敵の船、じゃなくて取り締まり船に乗っていたんだった、と思い出した私とポル君。うんと頷きあったあと、残りのクッキーはちゃんと気をつけて、静かに食べることに。
でも食べ始めてすぐに、何故かケロケロはまた溜息を吐いていたよ。静かに食べていたのに何でだろうね。他の人たちもなんか笑いを堪えていたし。みんな本当どうしたの?
それから、私たちがまた食べ始めてすぐに、なんとおかわりのクッキーが届いたんだ。ランドルフさんが戻ってきて、手には新しい山盛りのクッキーが。それを、最初のクッキー皿にそっと乗せてくれたんだ。
「ほぉぉぉ、ありがちょ!」
『ちー!!』
「いいえ。それでは」
やはりランドルフさんは良い人かもしれない。と、こうして再びクッキーを楽しんでいた私たち。
だけどここで、急にベルナードさんが大きな声を出したんだ。
「やっぱりか! お前あのウルシェイドか!!」
何々、どうしたの!? 何かあった? ベルナードさんの大声に、驚いたポル君が急いで、クッキーをカバンの中にしまい始めた。
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