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5巻
5-3
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*********
父さんと一緒に部屋から出た私――ラディスは、手紙の内容を確認するため父さんに質問をした。
「それで父さん、手紙にはなんて?」
「組織の幹部だった者達は、アースカリナに連れてこいと。アルバート自ら尋問したいらしい」
「国王陛下自ら?」
「ああ、今回の事件は、はるか昔に封印されたはずの、あの『悪の化身』が関わっているからな。完全体ではなかったとはいえ、少しの間復活したことは間違いないからのう。それと、ジョーディやグッシー達に、改めてお礼がしたいそうじゃ」
父さんが受け取った分厚い手紙の前半には、今父さんが話してくれた内容が書かれていて、後半には、アースカリナへ連行する者達の名前が書かれているらしい。また、それ以外の者達に関してだが……陛下自ら、または直属の部下が尋問する必要のない者達に関しては、こちらで刑を確定しろというお達しがあったということだ。その刑についても手紙に細かく書いてあるらしい。
組織の幹部、また、それに近い者達に関しては、これからまだまだ尋問の必要があるが、ニッカのように、本当の目的を知らされておらず、騙されて下っ端の仕事をさせられていた者達に、これ以上尋問しても仕方ないだろう。
軽く内容を確認した父さんによると、手紙の中にはニッカの名前もあったようだ。
「これからアースカリナへ送る者と、そうでない者を分け、アースカリナへ送る者は新しく建てられた、臨時冒険者ギルドの牢へ入れろ。そうでない者達はさっさと刑を執行し、その分の見張りをギルドの方へ向かわせよ」
「分かった」
「ラディス、お前にはこれを渡しておく」
父さんが手紙を二枚、分厚い手紙の中から抜き取って、私に渡してきた。
「アルバートから特別にニッカについて、あやつの刑のことが書かれておる。それを見て、お前があやつをどうするか決めろと」
私は手紙を受け取ると、牢へ向かいながらそれを確認した。そこには私がうすうす考えていた内容が書かれており……
*********
森での儀式が無事に食い止められた後、俺――ニッカはあの子供ジョーディの祖父にミリーヘンという街に連行され、急ごしらえの冒険者ギルドにある地下牢に入れられた。
そして今俺は牢から出され、取調室のような部屋で椅子に座らされていた。机を挟んだ向かいにはジョーディの父親と母親が立っている。どうも俺の刑が決まったようで、それを言いに来たらしい。思っていたよりも早く決まったな――これから刑が執行されるならば、もうジョーディに会うことはないか。
俺は刑を聞く前に、ジョーディの今を聞いておくことにした。
「どうだ、あいつは、ちゃんと寝られているか?」
「まぁな、この頃はぐっすり眠れている」
「そうか、ならいいが。俺の弟は怖いことがあると、夜中によく起きていたからな」
俺の弟クインは、まだ病気で寝込む前、絵本や、何か生活の中で怖いことがあると――例えばイタズラをして、祖父母に思いきり怒られた時など――夜中に怖い夢を見てよく起きていた。
俺達がジョーディや魔獣達に怖い思いをさせてしまったから、夜寝られていないんじゃないかと心配していたが、どうやら眠れているようで安心した。
最後にもう一度会って、俺達を止めてくれたこと、俺を心配してくれたこと、クインの病気を治そうとしてくれたこと――その全てにお礼を言いたかったが、こればかりは仕方ない。
クインや祖父母には悪いことをした。もう会いに行き、謝ることはできないが、どうかクインには残りの人生を楽しんでもらいたい。ロスト――もう『様』を付けるようなことはしない――の治療で少しは寿命が延びたはずだ。祖父母にも親孝行をしたかったが、本当に申し訳ない。
俺は椅子に座る姿勢を正し、刑を聞く準備をする。ジョーディの母親がジョーディの父親の持っていた紙を受け取りそれに目を通す。素早く読み終えたジョーディの母親は、
「やっぱりね」
とだけ聞こえるように言うと、あとはジョーディの父親に耳打ちする。話を聞いたジョーディの父親は肩をすくめ、軽く頷いていた。それからジョーディの父親とジョーディの母親も椅子に座った。一体どんな刑が書かれているのか。一番よくて奴隷落ちだろうか? まぁ、おそらく死刑だろうが。
「まず、私から刑を言い渡す前に話があるわ。あなたの住んでいる街は、アルビートで間違いないわね」
そうジョーディの母親が俺に尋ねてきたので、俺は手短に返事をする。
「ああ、間違いない」
「あなたが知っているか分からないけれど、あの黒服の組織に連れてこられた人達のうち、アルビート出身の貧しい人はあなただけというわけではなかったの。それでね、アルビートの悪い貴族や、治癒師たちが属している組織を、私達が調査して潰すことになったわ」
は? 潰す? 何を言っているんだ?
「市民を守るはずの貴族が、『悪の化身』の復活を目論む組織と手を組んであなた達を苦しめていたせいで、今回これだけの被害を生み、さらに最悪の状況を作り出すところだった」
ジョーディの父親が言うことには、国王陛下も、今回のことは見過ごせないと、すでに動いているというのだ。その中のメンバーにジョーディの母親も入っていて、俺の街へ行き、他のメンバーと合流して、貴族共を潰しに行くらしい。
ジョーディの所にグッシーと呼ばれていたグリフォンがいたが、それ以外にもグリフォンがいるようで、俺の話が終わったらすぐに、ジョーディの母親はそのグリフォンに乗って、俺の街へ行くそうだ。
ジョーディの母親は、あいつら悪い貴族の悲鳴を聞くのが楽しみだと言って、ニコニコ笑っていた。しかしその目は笑っておらず……
だが、それも数秒、すぐに表情を戻すと、俺に謝ってきたのだ。
「私達と同じ貴族が、あなた達市民にした仕打ち、代わりに謝らせてもらうわ。本当にごめんなさいね。今までも、調べてはいたの。でもあいつらは証拠を隠すのも、破棄するのも上手くてね。でも、私達がもっと早く、あの貴族たちを止めていればこんなことには……」
貴族が俺のような人間に謝るなんて驚きだ。俺達の街にいる貴族はいつも威張り散らし、俺たちが何かの拍子に近づけば、殴り飛ばすような連中ばかりだった。
考えてみれば、森にいた数日、ジョーディの父親達はそんな態度を一度も取らなかった。この臨時ギルドに来てもそうだ。俺の話をきちんと聞いてくれていた。もちろんしでかしたことに対しては、それ相応に言われたが。
こんな貴族もいるのかと……俺の街の貴族もこういう人ばかりだったらと、今更ながらに思ってしまった。
「でも必ず、あいつらを捕まえ、潰して、地獄を見せると約束するわ。大体あいつらがそんなことをしなければジョーディは……」
何か不穏な言葉が聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。父親が若干汗をかきながら、
「そろそろいいか」
と聞けばジョーディの母親は、
「あら、ごめんなさいね」
と困った顔をして笑って静かになった。
「ゴホンッ。よし、じゃあ、これから本題に入る。まぁ、今の話も重要だったが。お前の刑が決まった」
俺は再び姿勢を正した。そしてしっかりとジョーディの父親の目を見る。
「陛下がお前や、お前と同じような事情であの組織に入り、あいつらのやろうとしていたことを知らないまま働かされていた者達に恩情をかけた。よって最高刑の死刑にはならない」
そうか、死刑にはならないのか。ならばやはり奴隷落ちか。
「お前にはこれからある所で働いてもらう。また、それは一生だ。お前の全てを捧げ、その場所で一生働き、一生を終えることになる」
なるほど、人が寄り付かないような、過酷な場所に労働力として送られ、そこで一生を過ごすのか。
「ちなみに今回の刑は、陛下がお決めになった、かなり特別な刑となっている。陛下に感謝するんだな」
一体どんな刑だ?
「お前の刑を言い渡す。お前はこれより私の家に仕えよ」
*********
パパとママとじぃじが、王様からお手紙を貰ってお仕事に行った日、僕達が寝るまでに三人は帰ってきませんでした。ベルに聞いたら、とっても大切なお仕事をしてるから帰ってこれないって言ってました。あの手紙、そんなに大切なことが書いてあったのかな? いつもの手紙よりも分厚かったもんね。
パパ達が帰ってこなくても、その日は夜途中で起きて泣きませんでした。あっ、起きたんだけどね、お兄ちゃんが大丈夫だよって、頭を撫でてくれたの。それからグッシー達も、窓の外から光の魔法とかで、周りを明るくしてくれて。だから泣かなかったんだよ。
ドラック達も最初、僕にボールで遊ぶ? とか、シャボンで遊ぶ? とか、色々言ってくれました。けど、そのうち自分達が遊び始めちゃって、ベルに夜中なんだから静かにしなさいって怒られてたんだ。
それで次の日の朝。僕達はパパ達が帰ってこないまま、自分達だけで朝ご飯を食べた後、グッシー達と遊ぼうと思って、小屋に行きました。でもグッシー達は小屋にはいなくて、小屋の前にはいつもみたいに、今朝食べたばかりの魔獣の骨がドンッて置いてあるだけ。それなのに、少し遠くの、あの草の壁の穴から、また果物を貰っていました。
「ビッキー、そんなに食べたら今よりも大きくなって、カッコ悪くなっちゃうよ」
お兄ちゃんがビッキーに文句を言います。
『大丈夫だ。これくらいともない。そうだろう、グッシー?』
『ああ、これくらいで変わることなどない』
「ちょの、めっ」
グッシーもだよ。せっかく綺麗でカッコいいグッシーが、まん丸のグッシーになっちゃったら嫌だよ。
僕とお兄ちゃんがグッシー達に注意してたら、土人形のポッケが『いいこと考えた、太らないように、僕達がもっと遊んであげればいいんだよ』って言いました。
『こんなのどうかな? 僕達を背中に乗せて、グルグル競争するの。家の外に出ちゃうと怒られちゃうから、壁の近くすれすれをね。もう庭にゴミはないから、きっと走っても大丈夫だよ。後は……』
ポッケが遊び方について続けます。
『後はね、僕達を背中に乗せたまま、体を前に倒して戻してを繰り返すの。それから僕達を咥えて、首を下げて上げてを繰り返したりするのもいいかも。同じようなことを、冒険者さん達も騎士さん達も、時々お庭でやってるんだ。それをやればいいよ』
うん、それがいいよ。みんなが頷いてグッシー達の方を見ます。お兄ちゃんは料理人さんとお話ししてるベルの所に、競争してもいいか聞きに行きました。グッシー達はせっかくゆっくりしてるのにって怒ってたけど、毎日こんなに食べてたら絶対太っちゃうもん。そんなのダメだよ。
ベルがお庭のうち、左側半分だったら競争してもいいって言いました。右側半分には、家の材料や、片付けた物が色々置いてあって、それから料理人さん達がご飯作ってるからダメって。だから左側半分で、競争することにしました。
「グッシー様、ビッキー様、先に準備運動をされてから方がよろしいのではないでしょうか?」
ベルがそう注意してくれました。あっ、そうだね。運動する時は準備運動からって、地球にいた時にテレビで見たことあるよ。怪我をしないように準備運動するんだよね。
僕はグッシーの前に行って、背中を向けました。まずは僕を咥えて首の運動から。あっ、ドラック達も一緒に咥えてもいいよ。
グッシーは嫌な顔したまま、僕を咥えてノロノロと首の運動を始めました。ビッキーもお兄ちゃんを咥えます。
『おいグッシー、お前の方が軽くないか?』
『何を言っている、自分の主を咥えているだけだ』
ヒョイヒョイ首の運動をするグッシー。僕はお兄ちゃんより軽いんだから、やっぱりドラック達も咥えた方がいいんじゃない? そう思ってたらグッシーはすぐに終わりにしちゃったんだ。もういいだろうって。まだ二十回くらいしかしてないよ?
じゃあ次は、僕達を背中に乗せて運動ね。僕は一人だと落ちちゃうかもしれないから、ベルと一緒に乗ります。今度はドラック達も一緒に、半分に分かれてそれぞれの背中に乗っかりました。
そしたらドラックパパ達がニヤニヤしながらやって来ました。オレ達も一緒の方がいいんじゃないかって言って、グッシー達の背中に前足を置くと、少しだけ体重を乗せます。
『なんで、お前達まで乗るんだ』
『運動なのだろう? ジョーディだけでは、お前達には軽すぎる。さっきの運動を見ていてそう思っただけだ』
「ちゃいの! ふん!!」
『分かった分かった。やればいいのだろう? はぁ』
グッシーがため息をつきながら、ビッキーと動こうとした時でした。後ろの方からパパの声が聞こえました。
「ジョーディ、マイケル、みんなも一体何をしているんだ?」
「ぱ~ぱ、ちーちぇ」
『グッシー、後ろ向いて』
『今度は後ろか、分かった分かった』
グッシーが体ごと振り返ります。振り返ったらちょっと向こうの方にパパがいました。変な顔して僕達の方を見てます。それからすぐに僕達の所に来て、
「何をしているか知らないが、今はやめて付いてきなさい」
って言いました。パパ、これはグッシー達の運動だよ。でも、言われた通り、僕達はそのままグッシーに乗ってパパに付いて行きます。玄関に行ったら、ママとじぃじが立ってました。ん? ママ達の側に誰かいる? 誰だろう。
じぃじは体が大きいから、側に立ってる人が誰なのか隠れてて見えません。だから僕達は玄関のちょっと前でグッシーから下ります。ママに抱きつこうと思って高速ハイハイしようとしたら、パパが僕の洋服の首のところを掴んで止めました。
「今日から私達のために働く者を連れてきたんだ。さぁ、挨拶を」
働く者? 使用人さん? それともメイドさん? じぃじの後ろにいて見えなかった人が前に出てきます。出てきたのは……僕は思わず叫びました。
「ににゃ!!」
僕はママの方じゃなくて、じぃじの後ろから出てきた人の方に、高速ハイハイで移動します。それでその人の前まで行くと、その足にしがみ付きました。後ろからドラック達も駆け寄ってきます。
「ににゃ!」
『お話終わったの? とっても長いお話だったね』
『遅いよ!』
『遅いなの!』
『ずっと待ってたんだな!』
じぃじの後ろから出てきたのはニッカでした。ずっとお話があるからって、会えなかったニッカ。ここにいるってことは、もうお話は終わったってことだよね。それにパパ達のお仕置きも終わったんでしょう? じゃあ今日からまた遊べるね。
僕ね、ニッカのこと、『ににゃ』って言うことにしてたんだ。この前みんなでお話しして決めたの。お兄ちゃんのことは『にー』でしょう? ニッカのこともこの前は『にー』とかなんとなく呼んでたけど、それだとお兄ちゃんと一緒になっちゃいます。
これからニッカと遊ぶ時に、お兄ちゃんも一緒にいて、もしニッカを呼んだら? 一緒の『にー』だと、お兄ちゃん達が困っちゃいます。きっと二人とも返事しちゃうよね。
だからどうしようって、みんなでお話し合いしたんだ。僕が『にー』はダメだから、『かー』にしようかって聞いたら、それだとカラルみたいだよってドラックに言われました。
森にカラルっていう鳥がいて、真っ黒なその鳥は、カーカーって鳴くから、ドラック達はいつもカラルのことを『カー』って呼んでいたんだって。それってカラスじゃないの?
カラルの呼び方と一緒になっちゃうから、『かー』って呼ぶのはダメになりました。それによく考えたら、『かー』じゃちょっと変だよね。
それからも色々考えた僕達。『にに』とか、ニッカは黒い魔法――たぶん闇魔法が使えるから、闇の黒色で『くー』とか、『クク』とか。考えたんだけど、みんなあんまりよくないって。
結局、最後は僕がニッカって言えるように、頑張って練習しました。それで今は『ににゃ』まで言えるようになったの。まだ上手に言えないけど、他の呼び方をするよりいいでしょう?
「しょぼ!!」
僕がニッカに遊ぼうって言ったら、パパがまだ遊ばないぞって、ニッカの足に抱きついてた僕を抱き上げました。え~? だってお話も、お仕置きも終わったから帰ってきたんでしょう? 僕、遊ぶの楽しみにしてたんだよ。
「まだニッカの挨拶が終わってない。ほらみんなも一度離れなさい」
ぶつぶつ言いながら、ニッカから離れるドラック達。ママもじぃじもニッカから離れて、僕達の後ろに立ちました。ニッカは一人で僕達の前にピシッと立ちます。
あれ? そういえばニッカの見た目が違ってる。前は少しぼさってした髪型だったのに、今は綺麗に整っていて、さっぱりした感じです。
それから洋服は、黒服さん達と一緒にいた時の、あの黒いやつじゃなくて、今は冒険者さんみたいな。うん、黒い洋服よりも、今の方が似合ってるよ。あの黒い洋服はカッコ悪かったもん。
「マカリスター侯爵家で働くことになったニッカです。よろしくお願いします」
ニッカがそう挨拶しました。働く? 僕達の家で? じゃあこれからいつでも一緒に遊べるってこと?
そう僕が聞いて、ドラックとドラッホがそれを伝えてくれます。
『ジョーディのお家で働くの? クイン君の病気は? 僕達、ずっとニッカと遊べるってこと?』
『ボク、ニッカと遊ぶの楽しみにしてたんだ。ジョーディたちから聞いたけど、みんなは帰ってくるまでに、ニッカとたくさん遊んだんでしょう? それに絵本も読んでもらって! ボクだけまだだもん。ニッカ、早く遊ぼう!』
そうだ、ドラッホは僕がさらわれている時、クレインおじさんのお家にいたもんね。
うん、ドラッホも一緒に遊んでもらおうね。
またみんなでニッカの所に行こうとします。でもパパが少し待ちなさいって言いました。どういうこと? だって僕の家で働くんでしょう? ならいつでも遊べるはずだよね?
「いいか。確かにニッカはこれからずっと私達と一緒にいるが、レスターやベルみたいに、家で働くんだ。お仕事がいっぱいだから、いつでもたくさん遊べるわけじゃないんだぞ」
レスターやベルと一緒? じゃああんまり遊んでもらえないよ。だってレスター達はいつも仕事で忙しくて、遊べるのはたまにだけです。せっかく家に来てくれるのに。そっかぁ、お仕事ならあんまり遊べないんだ……
いっぱい遊ぼうと思ってたから、僕達はちょっとしょんぼりした気持ちです。でも、仕事なら仕方ないよね。全然遊べないわけじゃないなら、まあいっか。
「ジョーディ、みんなもそんなにがっかりするな。ニッカは訓練や、私達がお願いした仕事をしてる時以外は、いつもジョーディ達といるんだぞ。ジョーディ達を守るのが、ニッカの一番の仕事だからな」
ん? どういうこと? 一緒にいるのが仕事なの? でもレスター達と同じなんでしょう?
「あなた、そんな細かく難しいこと言っても、ジョーディにはまだ分からないわよ。詳しいことはその時その時で話せばいいわ。とりあえず……ジョーディ、みんなも、ニッカは私達の家で働くってことよ。それで時々ジョーディ達と遊んでくれるわ。よかったわね」
うん、ママの説明が分かりやすい。お仕事で忙しいけど時々遊べる。それでいいよ。全然遊べないわけじゃないもん。
僕はパパに下に降ろしてもらって、またみんなでニッカの所に行きます。もうすぐ仕事なのかな? もし仕事が夜までに終わるんだったら、今日はニッカに夜寝る時の絵本を読んでもらいたいな。
それで明日かその次の日は、ニッカとクイン君のお話もしなくちゃ。クイン君の病気が治ったら、僕に初めての人間のお友達が出来るかも。えへへ、楽しみだなぁ。
でもその前に、まず今日は、グッシー達の運動をしないと。もしニッカと遊べるなら、遊んでからグッシー達の運動ね。
*********
ニッカが帰ってきて二日。
「そっちはダメだ」
「ちゃの!」
「あっちもダメだ」
「ぶ~!」
「怒ってもダメだ。向こうはまだ片付いていないんだ」
僕達のそばにはいつもニッカがいます。パパやママのお仕事、他の人達から頼まれたお仕事がない時は、いつも僕達と一緒です。ニッカのお仕事は僕達のそばにいて、僕達の面倒を見ることなんだって。
帰ってきた日に、ニッカに貰ったボールでドラック達と一緒に遊んでたら、ニッカとママがこんなお話をしてました。
「あなたの仕事はジョーディ達の護衛よ、しっかりね」
「俺がやらなくても、ジョーディ様のそばには強い魔獣がたくさんいるのではないですか?」
「それでもよ。あなたにはあなたの刑が言い渡されたの。それをしっかり全うしなさい。それにあのこと、分かっているわね」
「はい」
僕達がそのお話を聞いていたら、ドラックが護衛って何かなって言いました。絵本に描いてあったけど、確か護衛っていうのは、お姫様を護る人だったような。でも僕達はお姫様じゃないよね。
そんなお話をしてたらドラッホパパが来て、護衛と面倒見ることは一緒だって言いました。
『ローリーはジョーディのことを、護ってくれるだろう? それから遊んでくれたり。それと同じだ』
本当? なんか違う気がするけど。
『まぁ、簡単に言えば、ずっとお前のそばにいる、なんでも言うことを聞いてくれる人間ということだ』
僕達はそれを聞いていたから、壊れた壁から見えた綺麗なお花の所に連れて行って、ってニッカに言ったんだ。だけどニッカは全然僕達の言うことを聞いてくれませんでした。
もう! ドラッホパパの言ったこと、全然違ったよ。僕はプンプン怒りながらグッシーの背中に、ニッカは僕の後ろに乗ります。グッシーとビッキーを運動させるためです。
ニッカが帰ってきた日から、ちゃんとグッシー達は運動を続けています。そうそう、今朝グッシー達の小屋に行ったら、また大きな魔獣の骨がありました。グリフォンって毎日あんなにご飯を食べるの? だって夜も同じくらい食べてるんだよ。
父さんと一緒に部屋から出た私――ラディスは、手紙の内容を確認するため父さんに質問をした。
「それで父さん、手紙にはなんて?」
「組織の幹部だった者達は、アースカリナに連れてこいと。アルバート自ら尋問したいらしい」
「国王陛下自ら?」
「ああ、今回の事件は、はるか昔に封印されたはずの、あの『悪の化身』が関わっているからな。完全体ではなかったとはいえ、少しの間復活したことは間違いないからのう。それと、ジョーディやグッシー達に、改めてお礼がしたいそうじゃ」
父さんが受け取った分厚い手紙の前半には、今父さんが話してくれた内容が書かれていて、後半には、アースカリナへ連行する者達の名前が書かれているらしい。また、それ以外の者達に関してだが……陛下自ら、または直属の部下が尋問する必要のない者達に関しては、こちらで刑を確定しろというお達しがあったということだ。その刑についても手紙に細かく書いてあるらしい。
組織の幹部、また、それに近い者達に関しては、これからまだまだ尋問の必要があるが、ニッカのように、本当の目的を知らされておらず、騙されて下っ端の仕事をさせられていた者達に、これ以上尋問しても仕方ないだろう。
軽く内容を確認した父さんによると、手紙の中にはニッカの名前もあったようだ。
「これからアースカリナへ送る者と、そうでない者を分け、アースカリナへ送る者は新しく建てられた、臨時冒険者ギルドの牢へ入れろ。そうでない者達はさっさと刑を執行し、その分の見張りをギルドの方へ向かわせよ」
「分かった」
「ラディス、お前にはこれを渡しておく」
父さんが手紙を二枚、分厚い手紙の中から抜き取って、私に渡してきた。
「アルバートから特別にニッカについて、あやつの刑のことが書かれておる。それを見て、お前があやつをどうするか決めろと」
私は手紙を受け取ると、牢へ向かいながらそれを確認した。そこには私がうすうす考えていた内容が書かれており……
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森での儀式が無事に食い止められた後、俺――ニッカはあの子供ジョーディの祖父にミリーヘンという街に連行され、急ごしらえの冒険者ギルドにある地下牢に入れられた。
そして今俺は牢から出され、取調室のような部屋で椅子に座らされていた。机を挟んだ向かいにはジョーディの父親と母親が立っている。どうも俺の刑が決まったようで、それを言いに来たらしい。思っていたよりも早く決まったな――これから刑が執行されるならば、もうジョーディに会うことはないか。
俺は刑を聞く前に、ジョーディの今を聞いておくことにした。
「どうだ、あいつは、ちゃんと寝られているか?」
「まぁな、この頃はぐっすり眠れている」
「そうか、ならいいが。俺の弟は怖いことがあると、夜中によく起きていたからな」
俺の弟クインは、まだ病気で寝込む前、絵本や、何か生活の中で怖いことがあると――例えばイタズラをして、祖父母に思いきり怒られた時など――夜中に怖い夢を見てよく起きていた。
俺達がジョーディや魔獣達に怖い思いをさせてしまったから、夜寝られていないんじゃないかと心配していたが、どうやら眠れているようで安心した。
最後にもう一度会って、俺達を止めてくれたこと、俺を心配してくれたこと、クインの病気を治そうとしてくれたこと――その全てにお礼を言いたかったが、こればかりは仕方ない。
クインや祖父母には悪いことをした。もう会いに行き、謝ることはできないが、どうかクインには残りの人生を楽しんでもらいたい。ロスト――もう『様』を付けるようなことはしない――の治療で少しは寿命が延びたはずだ。祖父母にも親孝行をしたかったが、本当に申し訳ない。
俺は椅子に座る姿勢を正し、刑を聞く準備をする。ジョーディの母親がジョーディの父親の持っていた紙を受け取りそれに目を通す。素早く読み終えたジョーディの母親は、
「やっぱりね」
とだけ聞こえるように言うと、あとはジョーディの父親に耳打ちする。話を聞いたジョーディの父親は肩をすくめ、軽く頷いていた。それからジョーディの父親とジョーディの母親も椅子に座った。一体どんな刑が書かれているのか。一番よくて奴隷落ちだろうか? まぁ、おそらく死刑だろうが。
「まず、私から刑を言い渡す前に話があるわ。あなたの住んでいる街は、アルビートで間違いないわね」
そうジョーディの母親が俺に尋ねてきたので、俺は手短に返事をする。
「ああ、間違いない」
「あなたが知っているか分からないけれど、あの黒服の組織に連れてこられた人達のうち、アルビート出身の貧しい人はあなただけというわけではなかったの。それでね、アルビートの悪い貴族や、治癒師たちが属している組織を、私達が調査して潰すことになったわ」
は? 潰す? 何を言っているんだ?
「市民を守るはずの貴族が、『悪の化身』の復活を目論む組織と手を組んであなた達を苦しめていたせいで、今回これだけの被害を生み、さらに最悪の状況を作り出すところだった」
ジョーディの父親が言うことには、国王陛下も、今回のことは見過ごせないと、すでに動いているというのだ。その中のメンバーにジョーディの母親も入っていて、俺の街へ行き、他のメンバーと合流して、貴族共を潰しに行くらしい。
ジョーディの所にグッシーと呼ばれていたグリフォンがいたが、それ以外にもグリフォンがいるようで、俺の話が終わったらすぐに、ジョーディの母親はそのグリフォンに乗って、俺の街へ行くそうだ。
ジョーディの母親は、あいつら悪い貴族の悲鳴を聞くのが楽しみだと言って、ニコニコ笑っていた。しかしその目は笑っておらず……
だが、それも数秒、すぐに表情を戻すと、俺に謝ってきたのだ。
「私達と同じ貴族が、あなた達市民にした仕打ち、代わりに謝らせてもらうわ。本当にごめんなさいね。今までも、調べてはいたの。でもあいつらは証拠を隠すのも、破棄するのも上手くてね。でも、私達がもっと早く、あの貴族たちを止めていればこんなことには……」
貴族が俺のような人間に謝るなんて驚きだ。俺達の街にいる貴族はいつも威張り散らし、俺たちが何かの拍子に近づけば、殴り飛ばすような連中ばかりだった。
考えてみれば、森にいた数日、ジョーディの父親達はそんな態度を一度も取らなかった。この臨時ギルドに来てもそうだ。俺の話をきちんと聞いてくれていた。もちろんしでかしたことに対しては、それ相応に言われたが。
こんな貴族もいるのかと……俺の街の貴族もこういう人ばかりだったらと、今更ながらに思ってしまった。
「でも必ず、あいつらを捕まえ、潰して、地獄を見せると約束するわ。大体あいつらがそんなことをしなければジョーディは……」
何か不穏な言葉が聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。父親が若干汗をかきながら、
「そろそろいいか」
と聞けばジョーディの母親は、
「あら、ごめんなさいね」
と困った顔をして笑って静かになった。
「ゴホンッ。よし、じゃあ、これから本題に入る。まぁ、今の話も重要だったが。お前の刑が決まった」
俺は再び姿勢を正した。そしてしっかりとジョーディの父親の目を見る。
「陛下がお前や、お前と同じような事情であの組織に入り、あいつらのやろうとしていたことを知らないまま働かされていた者達に恩情をかけた。よって最高刑の死刑にはならない」
そうか、死刑にはならないのか。ならばやはり奴隷落ちか。
「お前にはこれからある所で働いてもらう。また、それは一生だ。お前の全てを捧げ、その場所で一生働き、一生を終えることになる」
なるほど、人が寄り付かないような、過酷な場所に労働力として送られ、そこで一生を過ごすのか。
「ちなみに今回の刑は、陛下がお決めになった、かなり特別な刑となっている。陛下に感謝するんだな」
一体どんな刑だ?
「お前の刑を言い渡す。お前はこれより私の家に仕えよ」
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パパとママとじぃじが、王様からお手紙を貰ってお仕事に行った日、僕達が寝るまでに三人は帰ってきませんでした。ベルに聞いたら、とっても大切なお仕事をしてるから帰ってこれないって言ってました。あの手紙、そんなに大切なことが書いてあったのかな? いつもの手紙よりも分厚かったもんね。
パパ達が帰ってこなくても、その日は夜途中で起きて泣きませんでした。あっ、起きたんだけどね、お兄ちゃんが大丈夫だよって、頭を撫でてくれたの。それからグッシー達も、窓の外から光の魔法とかで、周りを明るくしてくれて。だから泣かなかったんだよ。
ドラック達も最初、僕にボールで遊ぶ? とか、シャボンで遊ぶ? とか、色々言ってくれました。けど、そのうち自分達が遊び始めちゃって、ベルに夜中なんだから静かにしなさいって怒られてたんだ。
それで次の日の朝。僕達はパパ達が帰ってこないまま、自分達だけで朝ご飯を食べた後、グッシー達と遊ぼうと思って、小屋に行きました。でもグッシー達は小屋にはいなくて、小屋の前にはいつもみたいに、今朝食べたばかりの魔獣の骨がドンッて置いてあるだけ。それなのに、少し遠くの、あの草の壁の穴から、また果物を貰っていました。
「ビッキー、そんなに食べたら今よりも大きくなって、カッコ悪くなっちゃうよ」
お兄ちゃんがビッキーに文句を言います。
『大丈夫だ。これくらいともない。そうだろう、グッシー?』
『ああ、これくらいで変わることなどない』
「ちょの、めっ」
グッシーもだよ。せっかく綺麗でカッコいいグッシーが、まん丸のグッシーになっちゃったら嫌だよ。
僕とお兄ちゃんがグッシー達に注意してたら、土人形のポッケが『いいこと考えた、太らないように、僕達がもっと遊んであげればいいんだよ』って言いました。
『こんなのどうかな? 僕達を背中に乗せて、グルグル競争するの。家の外に出ちゃうと怒られちゃうから、壁の近くすれすれをね。もう庭にゴミはないから、きっと走っても大丈夫だよ。後は……』
ポッケが遊び方について続けます。
『後はね、僕達を背中に乗せたまま、体を前に倒して戻してを繰り返すの。それから僕達を咥えて、首を下げて上げてを繰り返したりするのもいいかも。同じようなことを、冒険者さん達も騎士さん達も、時々お庭でやってるんだ。それをやればいいよ』
うん、それがいいよ。みんなが頷いてグッシー達の方を見ます。お兄ちゃんは料理人さんとお話ししてるベルの所に、競争してもいいか聞きに行きました。グッシー達はせっかくゆっくりしてるのにって怒ってたけど、毎日こんなに食べてたら絶対太っちゃうもん。そんなのダメだよ。
ベルがお庭のうち、左側半分だったら競争してもいいって言いました。右側半分には、家の材料や、片付けた物が色々置いてあって、それから料理人さん達がご飯作ってるからダメって。だから左側半分で、競争することにしました。
「グッシー様、ビッキー様、先に準備運動をされてから方がよろしいのではないでしょうか?」
ベルがそう注意してくれました。あっ、そうだね。運動する時は準備運動からって、地球にいた時にテレビで見たことあるよ。怪我をしないように準備運動するんだよね。
僕はグッシーの前に行って、背中を向けました。まずは僕を咥えて首の運動から。あっ、ドラック達も一緒に咥えてもいいよ。
グッシーは嫌な顔したまま、僕を咥えてノロノロと首の運動を始めました。ビッキーもお兄ちゃんを咥えます。
『おいグッシー、お前の方が軽くないか?』
『何を言っている、自分の主を咥えているだけだ』
ヒョイヒョイ首の運動をするグッシー。僕はお兄ちゃんより軽いんだから、やっぱりドラック達も咥えた方がいいんじゃない? そう思ってたらグッシーはすぐに終わりにしちゃったんだ。もういいだろうって。まだ二十回くらいしかしてないよ?
じゃあ次は、僕達を背中に乗せて運動ね。僕は一人だと落ちちゃうかもしれないから、ベルと一緒に乗ります。今度はドラック達も一緒に、半分に分かれてそれぞれの背中に乗っかりました。
そしたらドラックパパ達がニヤニヤしながらやって来ました。オレ達も一緒の方がいいんじゃないかって言って、グッシー達の背中に前足を置くと、少しだけ体重を乗せます。
『なんで、お前達まで乗るんだ』
『運動なのだろう? ジョーディだけでは、お前達には軽すぎる。さっきの運動を見ていてそう思っただけだ』
「ちゃいの! ふん!!」
『分かった分かった。やればいいのだろう? はぁ』
グッシーがため息をつきながら、ビッキーと動こうとした時でした。後ろの方からパパの声が聞こえました。
「ジョーディ、マイケル、みんなも一体何をしているんだ?」
「ぱ~ぱ、ちーちぇ」
『グッシー、後ろ向いて』
『今度は後ろか、分かった分かった』
グッシーが体ごと振り返ります。振り返ったらちょっと向こうの方にパパがいました。変な顔して僕達の方を見てます。それからすぐに僕達の所に来て、
「何をしているか知らないが、今はやめて付いてきなさい」
って言いました。パパ、これはグッシー達の運動だよ。でも、言われた通り、僕達はそのままグッシーに乗ってパパに付いて行きます。玄関に行ったら、ママとじぃじが立ってました。ん? ママ達の側に誰かいる? 誰だろう。
じぃじは体が大きいから、側に立ってる人が誰なのか隠れてて見えません。だから僕達は玄関のちょっと前でグッシーから下ります。ママに抱きつこうと思って高速ハイハイしようとしたら、パパが僕の洋服の首のところを掴んで止めました。
「今日から私達のために働く者を連れてきたんだ。さぁ、挨拶を」
働く者? 使用人さん? それともメイドさん? じぃじの後ろにいて見えなかった人が前に出てきます。出てきたのは……僕は思わず叫びました。
「ににゃ!!」
僕はママの方じゃなくて、じぃじの後ろから出てきた人の方に、高速ハイハイで移動します。それでその人の前まで行くと、その足にしがみ付きました。後ろからドラック達も駆け寄ってきます。
「ににゃ!」
『お話終わったの? とっても長いお話だったね』
『遅いよ!』
『遅いなの!』
『ずっと待ってたんだな!』
じぃじの後ろから出てきたのはニッカでした。ずっとお話があるからって、会えなかったニッカ。ここにいるってことは、もうお話は終わったってことだよね。それにパパ達のお仕置きも終わったんでしょう? じゃあ今日からまた遊べるね。
僕ね、ニッカのこと、『ににゃ』って言うことにしてたんだ。この前みんなでお話しして決めたの。お兄ちゃんのことは『にー』でしょう? ニッカのこともこの前は『にー』とかなんとなく呼んでたけど、それだとお兄ちゃんと一緒になっちゃいます。
これからニッカと遊ぶ時に、お兄ちゃんも一緒にいて、もしニッカを呼んだら? 一緒の『にー』だと、お兄ちゃん達が困っちゃいます。きっと二人とも返事しちゃうよね。
だからどうしようって、みんなでお話し合いしたんだ。僕が『にー』はダメだから、『かー』にしようかって聞いたら、それだとカラルみたいだよってドラックに言われました。
森にカラルっていう鳥がいて、真っ黒なその鳥は、カーカーって鳴くから、ドラック達はいつもカラルのことを『カー』って呼んでいたんだって。それってカラスじゃないの?
カラルの呼び方と一緒になっちゃうから、『かー』って呼ぶのはダメになりました。それによく考えたら、『かー』じゃちょっと変だよね。
それからも色々考えた僕達。『にに』とか、ニッカは黒い魔法――たぶん闇魔法が使えるから、闇の黒色で『くー』とか、『クク』とか。考えたんだけど、みんなあんまりよくないって。
結局、最後は僕がニッカって言えるように、頑張って練習しました。それで今は『ににゃ』まで言えるようになったの。まだ上手に言えないけど、他の呼び方をするよりいいでしょう?
「しょぼ!!」
僕がニッカに遊ぼうって言ったら、パパがまだ遊ばないぞって、ニッカの足に抱きついてた僕を抱き上げました。え~? だってお話も、お仕置きも終わったから帰ってきたんでしょう? 僕、遊ぶの楽しみにしてたんだよ。
「まだニッカの挨拶が終わってない。ほらみんなも一度離れなさい」
ぶつぶつ言いながら、ニッカから離れるドラック達。ママもじぃじもニッカから離れて、僕達の後ろに立ちました。ニッカは一人で僕達の前にピシッと立ちます。
あれ? そういえばニッカの見た目が違ってる。前は少しぼさってした髪型だったのに、今は綺麗に整っていて、さっぱりした感じです。
それから洋服は、黒服さん達と一緒にいた時の、あの黒いやつじゃなくて、今は冒険者さんみたいな。うん、黒い洋服よりも、今の方が似合ってるよ。あの黒い洋服はカッコ悪かったもん。
「マカリスター侯爵家で働くことになったニッカです。よろしくお願いします」
ニッカがそう挨拶しました。働く? 僕達の家で? じゃあこれからいつでも一緒に遊べるってこと?
そう僕が聞いて、ドラックとドラッホがそれを伝えてくれます。
『ジョーディのお家で働くの? クイン君の病気は? 僕達、ずっとニッカと遊べるってこと?』
『ボク、ニッカと遊ぶの楽しみにしてたんだ。ジョーディたちから聞いたけど、みんなは帰ってくるまでに、ニッカとたくさん遊んだんでしょう? それに絵本も読んでもらって! ボクだけまだだもん。ニッカ、早く遊ぼう!』
そうだ、ドラッホは僕がさらわれている時、クレインおじさんのお家にいたもんね。
うん、ドラッホも一緒に遊んでもらおうね。
またみんなでニッカの所に行こうとします。でもパパが少し待ちなさいって言いました。どういうこと? だって僕の家で働くんでしょう? ならいつでも遊べるはずだよね?
「いいか。確かにニッカはこれからずっと私達と一緒にいるが、レスターやベルみたいに、家で働くんだ。お仕事がいっぱいだから、いつでもたくさん遊べるわけじゃないんだぞ」
レスターやベルと一緒? じゃああんまり遊んでもらえないよ。だってレスター達はいつも仕事で忙しくて、遊べるのはたまにだけです。せっかく家に来てくれるのに。そっかぁ、お仕事ならあんまり遊べないんだ……
いっぱい遊ぼうと思ってたから、僕達はちょっとしょんぼりした気持ちです。でも、仕事なら仕方ないよね。全然遊べないわけじゃないなら、まあいっか。
「ジョーディ、みんなもそんなにがっかりするな。ニッカは訓練や、私達がお願いした仕事をしてる時以外は、いつもジョーディ達といるんだぞ。ジョーディ達を守るのが、ニッカの一番の仕事だからな」
ん? どういうこと? 一緒にいるのが仕事なの? でもレスター達と同じなんでしょう?
「あなた、そんな細かく難しいこと言っても、ジョーディにはまだ分からないわよ。詳しいことはその時その時で話せばいいわ。とりあえず……ジョーディ、みんなも、ニッカは私達の家で働くってことよ。それで時々ジョーディ達と遊んでくれるわ。よかったわね」
うん、ママの説明が分かりやすい。お仕事で忙しいけど時々遊べる。それでいいよ。全然遊べないわけじゃないもん。
僕はパパに下に降ろしてもらって、またみんなでニッカの所に行きます。もうすぐ仕事なのかな? もし仕事が夜までに終わるんだったら、今日はニッカに夜寝る時の絵本を読んでもらいたいな。
それで明日かその次の日は、ニッカとクイン君のお話もしなくちゃ。クイン君の病気が治ったら、僕に初めての人間のお友達が出来るかも。えへへ、楽しみだなぁ。
でもその前に、まず今日は、グッシー達の運動をしないと。もしニッカと遊べるなら、遊んでからグッシー達の運動ね。
*********
ニッカが帰ってきて二日。
「そっちはダメだ」
「ちゃの!」
「あっちもダメだ」
「ぶ~!」
「怒ってもダメだ。向こうはまだ片付いていないんだ」
僕達のそばにはいつもニッカがいます。パパやママのお仕事、他の人達から頼まれたお仕事がない時は、いつも僕達と一緒です。ニッカのお仕事は僕達のそばにいて、僕達の面倒を見ることなんだって。
帰ってきた日に、ニッカに貰ったボールでドラック達と一緒に遊んでたら、ニッカとママがこんなお話をしてました。
「あなたの仕事はジョーディ達の護衛よ、しっかりね」
「俺がやらなくても、ジョーディ様のそばには強い魔獣がたくさんいるのではないですか?」
「それでもよ。あなたにはあなたの刑が言い渡されたの。それをしっかり全うしなさい。それにあのこと、分かっているわね」
「はい」
僕達がそのお話を聞いていたら、ドラックが護衛って何かなって言いました。絵本に描いてあったけど、確か護衛っていうのは、お姫様を護る人だったような。でも僕達はお姫様じゃないよね。
そんなお話をしてたらドラッホパパが来て、護衛と面倒見ることは一緒だって言いました。
『ローリーはジョーディのことを、護ってくれるだろう? それから遊んでくれたり。それと同じだ』
本当? なんか違う気がするけど。
『まぁ、簡単に言えば、ずっとお前のそばにいる、なんでも言うことを聞いてくれる人間ということだ』
僕達はそれを聞いていたから、壊れた壁から見えた綺麗なお花の所に連れて行って、ってニッカに言ったんだ。だけどニッカは全然僕達の言うことを聞いてくれませんでした。
もう! ドラッホパパの言ったこと、全然違ったよ。僕はプンプン怒りながらグッシーの背中に、ニッカは僕の後ろに乗ります。グッシーとビッキーを運動させるためです。
ニッカが帰ってきた日から、ちゃんとグッシー達は運動を続けています。そうそう、今朝グッシー達の小屋に行ったら、また大きな魔獣の骨がありました。グリフォンって毎日あんなにご飯を食べるの? だって夜も同じくらい食べてるんだよ。
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