猫又と俺の願いを縫う不思議な工房

ありぽん

文字の大きさ
24 / 91

24話 新たな出会いと危険なあやかし3

しおりを挟む
「2時か。シロタマたちはどうしたかな? 様子を確認したら、すぐに帰ってくるって言ってたけど。これだけ帰ってこないって事は、居酒屋に何か問題があって、それの対処をしているか、それともお酒を飲んでるかのどっちかか?」

 俺は今、居間からじいちゃんたちの工房を見張っている。時刻は深夜2時。じいちゃんも神谷さんも眠っている時間だ。

 今日は、シロタマの時以来の夜の見張りをしているんだ。なにせ最近、町や周辺の民家から、ぬいぐるみが次々と姿を消しているからな。

 まだ誰かが、盗んだって決まったわけじゃないけど。みんながみんな、ぬいぐるみを置いた場所を忘れるなんて考えにくいし。隣に置いてあった物までなくなっているんだ。
 本当に人間か、あるいはあやかしの泥棒がいるんだとしたら、まったく困った連中だよ。みんなの大切なぬいぐるみを奪うなんてさ。

 そして……、本当にぬいぐるみが狙われているんだとしたら。修復のためにたくさんのぬいぐるみが送られてきている、じいちゃんの家だって、狙われる可能性は高いって事で。

 今日はシロタマもカエンも、居酒屋の件でいないからな。だから今夜は、俺がひとりで工房を見張ることにしたんだ。

 ちなみに、シロタマのぬいぐるみは、シロタマ自身がどこかに隠してきたから大丈夫だって言ってた。だから問題はないだろう。

「なるべく来てほしくないんだけどな。もちろん、他の人やあやかしの所にも。みんなそれぞれ、ぬいぐるみのことを大事にしてるんだから。それに、もしか犯人が分かったとしても、何か証拠は必要だし。本当困るよなぁ」

 そんな事を考えながら、見張りを続けた俺。

 時間はされに進み、時刻は午後3時に。そろそろ糖分補給でもするかって。見張りのお供といえばあんぱんだよな、と用意しておいたあんぱんに手を伸ばしかける。と、その時だった。

「え?」

 ちょうど庭が視界の端に入る位置で、あんぱんを取ろうとしていたんだけど。その横目に、何か黒いものが動いたような気がして、俺は急いでそっちを見た。すると、なんと作業小屋の屋根の上に、黒い人型のような何かが立っていたんだ。

 しかもその直後だった。誰も触れていないはずなのに、工房の窓がひとりでに開き。その開いた窓から、さっきの黒い人型の何かが、するりと工房の中へと入って行ってしまった。

 慌てて用意しておいた、防衛と攻撃のための野球バットを手に、俺は工房へと向かう。そして中の誰かに気づかれないように、入る前にそっとドアに耳を当てて、中の様子をうかがった。

 すると中からガサゴソという、何かを探しているような音が聞こえて。中に誰かがいる。それは俺の見間違いじゃなかった。

 一旦そっと小屋から離れ、俺は急いで110番通報をする。相手が人間でもあやかしでも、とりあえず警察は呼んでおかないと。人間なら、うまくいけばそのまま警察が捕まえてくれるかもしれない。あやかしの場合は……、まぁ、その時考えよう。

 そうして通報を終えた俺は、再び小屋へと向かった。すぐに警察は来てくれと。その間に俺は、今度は窓の方からそっと中を覗き込んで、誰がいるか確認する事に。そこには……。

 ……はぁ。やっぱり人間じゃなかったか。人間のほうがまだ対処しやすいのに、と思った俺。
 工房の中には、マネキンのような無機質な頭に、ひらひらとした布が揺れる、まるで昔の人が着ていたような洋服をまとった、人型のあやかしがいたんだ。

 さて、ここからはどうするか。警察は来てくれるけど、俺はあやかしを相手にできるのか? 相手がどんな力を使うかも分からないんだぞ? バットで何とかできれば良いけど。

 というか、たぶんこのあやかしは、人に姿を見られたくないはず。だったら、少しでも警察の気配がすれば、すぐに逃げてしまうかもしれない。まぁ、俺には気付いていないけど。

 なんて、いろいろ考える。が、それはすぐに中断された。あやかしが1つのぬいぐるみを手に取り、それを洋服の中に入れたんだ。

「あっ!! おい!! それはダメだ!!」

 俺はまだ何も決まっていなかったのに、工房の中に入る。

「おい!! それはばあちゃんの大事なぬいぐるみなんだ!! 返してもらうぞ!!」

『カタカタカタカタッ』

「……」

 向こうはジッと俺を見たまま、首をカタカタ揺らし始め、少しだけ後ろに下がった。それから何か棒のような物を洋服から取り出す。

 その棒で俺の相手をするってか? 良いだろう、臨むところだ!! 絶対にぬいぐるみ入る返してもらうぞ!!

 お互いを見たまま動かず、相手の出方をうかがう。と、先ほどまであやかしが、ガタガタと動かしたぬいぐるみの1体が、ころりと床に転がった。その瞬間だった。

 ついにあやかしが動き、俺の方へ棒を振ってきたんだ。すると、棒には何も付いていなかったはずなのに、いつのまにかムチのような蔓がついていて。俺の足に蔓を巻き付かせ、俺を空中に上げたんだ。そのままの勢いで、天井にぶつけられる俺。

「ぐっ!!」

 衝撃に一瞬息が止まる。しかし俺はすぐに、バット以外に持ってきていた、野球のボールをあやかしに向けて投げ、ついでに蔓を掴んだ。

 野球のボールを避けて、今度は俺を壁にぶつけるあやかし。痛みはあるが、ここで逃げるわけにはいかない。というか、どうせ蔓で逃げられない。

 俺はそのままそのまま立ち上がり、片足が捕まえられている状態だったが、そのままあやかしに突っ込んでいきバットで応戦する。が、バットは交わされ、また、壁に叩きつけられそうになった。その時。

『晴翔に何をする!!』

 シロタマが窓から中に飛び込んできて、引っ掻き攻撃をして蔓を切ってくれると、どこからか入ってきたカエンが、落ちそうになる俺を受け止めてくれた。

 下がるあやかし。そんなあやかしに、すぐに何かが叩きつけられ。ゴンッと音がして、その叩きつけられた物が落ちた。見ると何とフライパンだったよ。

「フライパン?」

 フライパンに気を取られていると、その隙にあやかしが窓から外へ逃げてしまった。

「あ、おい! 待て!!」

 急いで追いかけようとする俺。そんな俺を、知らない声が止めた。

「急がなくても大丈夫だ。やるの居場所は俺が探してやる」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...