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49話 思い出を喰う水3
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「え? 何これ? まさかとは思うけど、ここで水を使ったわけじゃないよね?」
「当たり前だろう」
「だよね。じいちゃんと神谷さんが、そんなことするわけないよね。じゃあ……、箱があるって事は、今開けたってこと? 雨にでも降られた? ここは降ってないけど」
「いや、よく見てみろ。箱は濡れてないだろう」
「……本当だ。じゃあ、もしかして。……初めからこんな状態で、ぬいぐるみが送られてきた?」
「それがのう、依頼主も分からないようでな」
「え?」
「連絡をもらった時に、ぬいぐるみの状態をしっかり確認したいってことで。ぬいぐるみが届いたら依頼主とテレビ通話をつなぎながら、箱を開けることになってたんだ。それで予定通り、通話をしながら箱を開けて、ぬいぐるみを取り出した瞬間。……崩れたんだよ。まるで中身が腐った果物みたいに、ぐしゃりとな」
テーブルには今、何とも言えない状態の、ぬいぐるみだった物が乗っている。
半分ほどドロドロの状態のワタ。そのドロドロのワタのせいで、やはりドロドロになってしまっている生地。そして独特の色に変色している各パーツ。あまりの状態に、元がどんなぬいぐるみだったか分からないくらいだ。
「依頼主が梱包した時は、確かに古いぬいぐるみで、修復が必要な状態だったが、ここまで酷い状態じゃなかったと。それにこんな状態なら、さすがに修復は頼まないってな」
「まぁ、うん、確かにこの状態だったら頼まないかも」
「だが、箱を開けて取り出してみたらこれだ。もちろん俺と師匠は箱を開けたばかりだし。しかもテレビ通話をしながらだったから、俺たちのせいじゃないってことは証明できていて、相手もそれは分かってくれている」
あっ、そうだよな。テレビ通話してて良かった。じゃないとじいちゃんと神谷さんが疑われるところだった。
「でだ。じゃあ、いつ、どうしてこんな風になったのか? って話になってな。今、依頼主が配送業者に確認中だ。向こうに何かあったのかもしれないからな」
「そっか。……酷いね。これじゃあ修復は」
「とりあえず、ワタは全て変えるのはもちろん。どこまで生地を使えるかだな。依頼主次第だが、元の写真はもらっているから、新しい生地で、作ってくれと言われれば、作る感じになるだろう」
「大切なぬいぐるみなのに……。ん? シロタマどうした?」
それまでテーブルに乗り、ドロドロのぬいぐるみの匂いを嗅いだり、ぬいぐるみの周りを回って、状態を見ていたシロタマが。俺の方へ来ると、腕にしっぽを絡ませ引っ張ってきたんだ。それにニャアニャア泣きながら、目で外に出るぞと訴えてきて。
「何だシロタマ、外に出たいのか? じいちゃん、シロタマを外に出してくるよ。ついでにおやつもあげてくる」
「ああ、今日は手伝いはなしで大丈夫だぞ。まずはこれをどうにかせんといかんからな。それに他の作業は、これのために終わらせてあったからの」
「何かあれば呼ぶから、シロタマの相手でもしてゆっくりしてろ。この前のイベントから、そんなにゆっくりできてないだろう」
「そうじゃぞ。今のうちにゆっくりしておくんじゃ」
「うん、分かった。じゃあ、何かあったら呼んでね」
そうして俺とシロタマは工房を出と、すぐに部屋の戻ったよ。そしてすぐにどうしたのか聞いた。
「シロタマ、どうしたんだ?」
『微かにだが、あのぬいぐるみからあやかしの匂いがした。俺の知らないあやかしのな』
「え!? 本当か!?」
『ああ、あまりにも溶け過ぎてしまっていて、微かになってしまっていたが。あれは絶対にあやかしの匂いだ』
「ということは、ぬいぐるみをあんな酷い状態にしたのは……」
『あやかしの可能性が高い』
「……もしかして絡鞭みたいな、ぬいぐるみにとって危険なあやかしか?」
『そうかもしれないし、違うかもしれない。もしかするとぬいぐるみの他にも、ああいう状態の物がいろいろあって。何が狙いかは分からんが、たまたまその中にあのぬいぐるみもあったか。それともあのぬいぐるみだけか、他のぬいぐるみもやられたか」
「はぁぁぁ。あやかしが絡んでるとなると、じいちゃんたちじゃなぁ。というか、ぬいぐるみもだけど、じいちゃんたちに危険が及ぶかもしれない。どうするか」
『結城に連絡してみろ。あいつなら、何かあやかしについて知っているかもしれない。それに俺よりもやつの所にいる影嗅の方が、しっかりと匂いを嗅ぐことができる。面倒ごとが起きる前に、いや、もう起きているが、これ以上の面倒ごとが起きないうちに、動いた方が良いだろう』
「分かった! 結城さんに連絡してみる!」
あんなドロドロのぬいぐるみにするあやかし、一体どんなあやかしだよ。それに何のためにドロドロにしてるのか……。全く大切なぬいぐるみを。
***************************
……あれはどこに行った? ……ああ、見つけた。匂いだ、匂いがあった。それに他の匂いもする。
たくさんの匂いだ。ここには沢山のあれがある。……場所はどこだ。どこだどこだ。
……力にしなければ。我の力だ。……全て我の力にしなければ。そしてさらに強く……。
「当たり前だろう」
「だよね。じいちゃんと神谷さんが、そんなことするわけないよね。じゃあ……、箱があるって事は、今開けたってこと? 雨にでも降られた? ここは降ってないけど」
「いや、よく見てみろ。箱は濡れてないだろう」
「……本当だ。じゃあ、もしかして。……初めからこんな状態で、ぬいぐるみが送られてきた?」
「それがのう、依頼主も分からないようでな」
「え?」
「連絡をもらった時に、ぬいぐるみの状態をしっかり確認したいってことで。ぬいぐるみが届いたら依頼主とテレビ通話をつなぎながら、箱を開けることになってたんだ。それで予定通り、通話をしながら箱を開けて、ぬいぐるみを取り出した瞬間。……崩れたんだよ。まるで中身が腐った果物みたいに、ぐしゃりとな」
テーブルには今、何とも言えない状態の、ぬいぐるみだった物が乗っている。
半分ほどドロドロの状態のワタ。そのドロドロのワタのせいで、やはりドロドロになってしまっている生地。そして独特の色に変色している各パーツ。あまりの状態に、元がどんなぬいぐるみだったか分からないくらいだ。
「依頼主が梱包した時は、確かに古いぬいぐるみで、修復が必要な状態だったが、ここまで酷い状態じゃなかったと。それにこんな状態なら、さすがに修復は頼まないってな」
「まぁ、うん、確かにこの状態だったら頼まないかも」
「だが、箱を開けて取り出してみたらこれだ。もちろん俺と師匠は箱を開けたばかりだし。しかもテレビ通話をしながらだったから、俺たちのせいじゃないってことは証明できていて、相手もそれは分かってくれている」
あっ、そうだよな。テレビ通話してて良かった。じゃないとじいちゃんと神谷さんが疑われるところだった。
「でだ。じゃあ、いつ、どうしてこんな風になったのか? って話になってな。今、依頼主が配送業者に確認中だ。向こうに何かあったのかもしれないからな」
「そっか。……酷いね。これじゃあ修復は」
「とりあえず、ワタは全て変えるのはもちろん。どこまで生地を使えるかだな。依頼主次第だが、元の写真はもらっているから、新しい生地で、作ってくれと言われれば、作る感じになるだろう」
「大切なぬいぐるみなのに……。ん? シロタマどうした?」
それまでテーブルに乗り、ドロドロのぬいぐるみの匂いを嗅いだり、ぬいぐるみの周りを回って、状態を見ていたシロタマが。俺の方へ来ると、腕にしっぽを絡ませ引っ張ってきたんだ。それにニャアニャア泣きながら、目で外に出るぞと訴えてきて。
「何だシロタマ、外に出たいのか? じいちゃん、シロタマを外に出してくるよ。ついでにおやつもあげてくる」
「ああ、今日は手伝いはなしで大丈夫だぞ。まずはこれをどうにかせんといかんからな。それに他の作業は、これのために終わらせてあったからの」
「何かあれば呼ぶから、シロタマの相手でもしてゆっくりしてろ。この前のイベントから、そんなにゆっくりできてないだろう」
「そうじゃぞ。今のうちにゆっくりしておくんじゃ」
「うん、分かった。じゃあ、何かあったら呼んでね」
そうして俺とシロタマは工房を出と、すぐに部屋の戻ったよ。そしてすぐにどうしたのか聞いた。
「シロタマ、どうしたんだ?」
『微かにだが、あのぬいぐるみからあやかしの匂いがした。俺の知らないあやかしのな』
「え!? 本当か!?」
『ああ、あまりにも溶け過ぎてしまっていて、微かになってしまっていたが。あれは絶対にあやかしの匂いだ』
「ということは、ぬいぐるみをあんな酷い状態にしたのは……」
『あやかしの可能性が高い』
「……もしかして絡鞭みたいな、ぬいぐるみにとって危険なあやかしか?」
『そうかもしれないし、違うかもしれない。もしかするとぬいぐるみの他にも、ああいう状態の物がいろいろあって。何が狙いかは分からんが、たまたまその中にあのぬいぐるみもあったか。それともあのぬいぐるみだけか、他のぬいぐるみもやられたか」
「はぁぁぁ。あやかしが絡んでるとなると、じいちゃんたちじゃなぁ。というか、ぬいぐるみもだけど、じいちゃんたちに危険が及ぶかもしれない。どうするか」
『結城に連絡してみろ。あいつなら、何かあやかしについて知っているかもしれない。それに俺よりもやつの所にいる影嗅の方が、しっかりと匂いを嗅ぐことができる。面倒ごとが起きる前に、いや、もう起きているが、これ以上の面倒ごとが起きないうちに、動いた方が良いだろう』
「分かった! 結城さんに連絡してみる!」
あんなドロドロのぬいぐるみにするあやかし、一体どんなあやかしだよ。それに何のためにドロドロにしてるのか……。全く大切なぬいぐるみを。
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……あれはどこに行った? ……ああ、見つけた。匂いだ、匂いがあった。それに他の匂いもする。
たくさんの匂いだ。ここには沢山のあれがある。……場所はどこだ。どこだどこだ。
……力にしなければ。我の力だ。……全て我の力にしなければ。そしてさらに強く……。
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