冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ

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step7 あなたとあたしさくらんぼ

スーパーポジティブの底力

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その日は休日の終わり。そろそろ夕食を作り始めるかとソファーから重い腰をあげようとしたところ、懐かしいアホみたいな声が玄関から響き渡ってきた。

「彰人さーんっ」

「……え?」

「見て、さくらんぼいっぱいっ」

そう言って登場した仁菜。ノースリーブに短パンと麦わら帽といった姿。そして日焼けしたての赤い肌。クーラーボックスを2つ首に左右ぶら下げ満開の笑顔で、その中にぎっしり詰められたさくらんぼを見せつけてくる。

もはやどこから突っ込んでいいか分からない。それに、確か結構ひどいことを言ったはずなのにどうしてこいつはこんなに陽気に俺に話しかけてこれるんだろうか。大量のさくらんぼに顔を引きつらせて困惑していると、仁菜の方から説明し始めた。

「さくらんぼ狩りしてきたんです」

「どこで?」

「山形です!かの有名な、イトウニシキですよー」

「なんで山形までわざわざさくらんぼ狩りに行くんだよ」

「だって彰人さん元気ないから、さくらんぼ食べたら元気になるかなって」

なんで?俺さくらんぼが好きだなんて一言も言ったことないし、実際別に嫌いじゃないけど特別好きっていうものじゃない。

それを何で、俺がさくらんぼ食べると元気になると思うんだろう。それだけのために山形に行くって、しかもこんな重いクーラーボックス二つも持って。本当毎回思うけど、こいつの脳みそはどういった思考回路しているんだろう。

「なんで、さくらんぼ?」

「だってさくらんぼ嫌いな人いないじゃないですか?」

「俺がさくらんぼ食べれなかったらどうすんだよ」

「え?食べられないの?」

「いや食べれるけどさ。せめて聞いてから行けよな」

「だってそれじゃサプライズにならないから。……あまり嬉しくないですか?」

少し寂しそうに言うもんだから、慌ててフォローする。

「あぁ、え、嬉しいか嬉しくないかって言われたら、嬉しい……かな」

「良かった」

そう言って安心したようにクーラーボックスをキッチンに下ろしさくらんぼを洗い始めた。

「……お前怒ってねぇの?」

「どうして?」

「どうしてって、俺結構ひどいこと言ったと思うんだけど」

「えっ?全然気にしてませんよ、人間生きていれば多少感情に波があるのは当たり前です。そんなこと気にしないでください、ただでさえ思い悩んでいるのに余計な心労を増やしちゃだめです」

……目から鱗というか。俺よりずっと年下で頼りないのに、それを聞いて俺なんかよりずっと懐が深いような気がした。

「彰人さん、小分けするのにパック使って良いですか?」

「あ、あぁ」

そう言ってソファーから立ち上がり、キッチンの引き出しからパックを何個か出してやる。


「いっぱい取って来たから、あの変態にもおすそ分けしてあげましょうか。これはぷりん先輩への賄賂分、これはいつもお世話になっているめろんちゃんの分。余ったらジャムにしましょう」

嬉しそうに話す仁菜、ふとノースリーブから二の腕の赤い日焼け跡が目に入った。ところどころ皮がむけている。

「これ、痛くねぇの」

詳しく見ようと、腕に触ろうとするとびっくりして俺から一歩後ずさりした。

「なんだよ、いつもは自分からひっついてくるくせに」

「だ、だって、自分からと相手からとじゃ違いますよ。不意打ちはダメです。触るなら触るって事前に申告してもらわないと」

「なんだそれ、こんなプニプニした腕で何そんなに勿体ぶってんだよ」

そう言って半ば強引に二の腕を掴むと、悲鳴があがった。

「いっ、いったーっ」

だろうな、というような反応。

「日焼け止め塗らなかったのか?」

「持ってなくて」

21才の女子が日焼け止め持ってないってことがあるんだろうか。男の俺でさえ持っているというのに。


「一回シャワー浴びて来い」

「え?」

「薬塗った方が良い」

「これ位大丈夫ですよ」

「一応、女の子なんだから跡残したら大変だろ」

そう言うと元々丸い目を更に丸くさせた後、目線を足元に落とし何を勘違いしたのか頬を赤く染めて静かにはいと頷いた。

いつもだったらその顔をむにゅっと掴んでやるところだ。

風呂場に行ったところで、常備薬の中から軟膏を探す。

その後、夕食の支度をして仁菜が出てくるのを待った。
しばらくして首にタオルをかけて出てきた風呂上がりの仁菜に、薬を塗ろうと座ってるソファの隣をぽんぽんと叩いて言う。

「はい、ここ座って」

「え?」

「塗ってやるよ」

「い、いや、じ、自分で塗ります」

「後ろ届かないだろうが」

「でも、」

「ほら、おいで」

慌てふためく仁菜を半ば強引に、隣に座らせ後ろを向かせた。

「ひっ」

薬を塗ろうと半袖をまくると、驚いたような声を出して両肩に力が入る。かちこちになった体に、笑いながら言う。

「はいはい、恥ずかしがらない」

「……っ」

「そんなに緊張することないだろ、こっちが気まずくなるわ」

力の入ったままの体に、背中側の肩と腕を中心に軟膏を塗った。ひりひりするのか、触るたびに変な声をあげてびくびくしている。

「……お前が人肌恋しいっていうのが、少し分かった気がする」

「え?」

「やることなすこと本当馬鹿で手がかかるんだけど、なんだかんだ言って癒されてる気がするよ」

「え?結婚したい?」

「だからどうしたらそう翻訳されるんだ」


「彰人さんがこんなに優しくしてくれるなら、秋は山梨にブドウ狩りにでも行ってこようかな」

「何、居座る気でいるんだよ」

「だって今、側にいてって言ったじゃん」

「言ってねぇよ」

都合良く解釈してて、思わず吹き出して笑ってしまう。笑う俺に恨みがましい目を向けながらほっぺたを膨らませ始めた。

その様子が微笑ましくて目を細めて、コロコロ変わる仁菜の顔を見つめた。

「だけどもし結婚したらって想像すると、こんなに笑える相手はいないのかもしれないな」

仁菜が目をうるうるさせ始めたところで、はっとして

「まず結婚しないけどな」

と付け足した。



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