冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ

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step8 ドレスはピンク色が良いです

結局言いくるめられて始まる恋愛もどき

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確かに仁菜はアホだけど強い子だとは思っていた。
母親はそれをよく分かっているようで、自信満々にそう答えた。

そんな話を梅ちゃんとしていると、バタバタと階段を忙しく駆けおりてくる足音がする。
その足音が居間に到着すると、つい先日出て行った仁菜がいた。

「あれっ、彰人さん、どうしたんですか?」

「どうしたって、忘れ物」

そう言って目線をピンクのカゴにうつす。

「え?忘れ物じゃないですよ?」

「は?」

「もう帰るところでしたから」

帰るところ?どこに?まさか俺の家へ?
いやいや、

「だって泣いて、お家に帰るって」

「一度ねお母さんに預けてもらっていた荷物を取りに帰って来たかったんです。でもまさか彰人さんの方から迎えに来てくれるなんて」

「はぁ……」

訳が分からなくて思わず間抜けな声が出る。
あぁそうだ、この子は基本へこたれない子だ。

そう言って両手に持っている大きな紙袋を見ると、そこにはあのブサイクなぬいぐるみが顔を出していた。
その中身は、またくだらないのばっかり入っているのだろう。そしてこのブサイクまた増えんのか、これ以上俺の部屋の景観を損ねるなと言ってやりたいところだが、梅ちゃんの手前ここは口を噤んだ。

……本当に良いんだろうか。
相手はこの脳内万年お花畑の仁菜だぞ。
俺は、人生血迷ってるんじゃなかろうか。

自分で自分が心配になってきたところで、それを察したらしい梅ちゃん。俺が心変わりする前にと思ったのか、すかさず先手を打ってきた。

「にいちゃん、彰人さん、お試しだけどお付き合いしてくれるって」

それを聞いて耳が割れんばかりの大声で喜ぶ仁菜。

「本当っ!?」

そう聞き返され、げっそりとした声で返事をした。

「……あぁ」

「ゼクシィ買って帰らなきゃ」

すると、うっとりしたような声で大分先走ったことを言い始めた。

「式はいつにします?仁菜、ピンク色のドレスが着たいです」

そんな仁菜に、あらまぁ気が早いこと、なんて言いながら微笑む梅ちゃん。
俺の方は、まだまだ前途多難過ぎて、もう勘弁してくださいとしか言い返せなかった。



「はぁ……」

二人で家を出ると、重いため息をつく。

「大丈夫ですよ、きっと上手くいきます」

すかさず仁菜が俺を励ます。そんな仁菜をじっと見て、

「本当かよ」

と尋ねた。そもそも付き合うってことをちゃんと理解しているのか疑問だ。
不意に、屈んでぷっくりした血色の良い唇に口づけてみる。

「……っ」

するとたちまち真っ赤になる仁菜の顔。

「付き合うってこういうことするんだけど、ちゃんと分かってる?」

「ふ、不意打ち禁止!」

「あーあ、これじゃ先が思いやられるなー」

と冗談交じりに言うと本気にしたのか、俺のシャツを引っ張って屈ませると、ぶつけるようなキスをしてきた。唇と唇が触れていたのはほんの一瞬で、すぐに離れて視線がぶつかる。

一言、笑って下手くそ、と言うとむっとして、これでも頑張ったのに、とブツブツ言う。
なんとなく可愛くなって、その顎を上げるとまた俺の方から口づけた。

身長差があってなかなか屈んでいるのが辛いから、それですんなり終わろうとしたのに、いつの間にか首の後ろに両手を回されている。
その手がかすかに震えていることに気付いて、仁菜の腰に手を回してその小さな体を抱きしめた。


「……あらあら。でも、まだ早いんじゃない?そういうのはお家に帰ってから、ね」

見送ろうと出てきたお母さんの登場に驚いて、咄嗟に仁菜から離れる。


車までの帰り道、小さな仁菜の手を握って帰った。

少しずつ、付き合ってるっぽいことをしていこうと思って。
だけど、正直、この先不安だらけ。
きっとまた喧嘩するだろうし、いつか仁菜に愛想がつくかもしれない。

横に並んで歩く彼女の顔を見る。
赤い頬、緊張感が握った手から伝わってくる。
いつになく静かな仁菜に、思わず口元がゆるむ。


「きっと、こういうのを愛しいっていうんだろうな」

「……っ」

俺の初めて見せた愛情表現に、感極まったのかボロボロ泣き始めた。

「なんで泣くんだよ」

「だ、て、嬉し……っ」

顔をくしゃくしゃにさせて泣く仁菜。繋いでる手を引っ張り距離を詰めると、前髪を上げて広いおでこにキスをした。なんとなくだけど、もしかしたら上手くやっていけるかも、なんて思ったりした。


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