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第三十八話 猫とガチャと終わらない欲望
ダンジョンマスターの朝は早い。
――そして今日は。
「……あいつ、完全に堕落したな」
俺はカウンターの中から、頭上を見上げていた。
ナーがいる。
いつもの定位置。
俺の頭の上。
だが――
「ナー、ほら」
アイリーンが手を伸ばす。
「……ナー」
するり。
降りた。
俺の頭から。
「おい」
ツッコむ。
だがナーは完全に無視。
そのままアイリーンの腕の中に収まる。
「よしよし」
「……ナー」
撫でられている。
満足そうに。
「(完全に餌付けされてるなこれ)」
原因は分かっている。
ゾロドフだ。
「……これ」
無言で差し出す。
アイス。
またか。
「ナー」
ぱくり。
食べる。
満足。
「……」
俺は無言になる。
「おい」
「……何だ」
「なんでアイスなんだよ」
「……うまい」
ゾロドフが答える。
そういう問題じゃない。
「(いやまあ、うまいけど)」
否定できないのが腹立つ。
「……限度があるだろ」
だがナーは気にしない。
完全におねだりモードだ。
撫でられる。
食べる。
また撫でられる。
「(ダメだこいつ)」
完全に“店の猫”になっている。
――そして。
「店主!」
アイリーンが声を上げる。
テンションが高い。
「これ見ろ!」
手に持っているのは――
フィギュア。
「……アイナーか」
猫型のやつ。
「あと一つなんだ!」
「へえ」
「コンプ目前だぞ!」
「そうか」
興味はある。
だが問題は――
「出ないんだよ!」
「だろうな」
ガチャだ。
そう簡単には揃わない。
だが――
「最近な」
アイリーンがにやりと笑う。
「外で交換してるんだ」
「……は?」
聞き返す。
「ダブったやつをな」
指を立てる。
「欲しいやつと交換する」
「……」
なるほど。
「それで、なんとか揃えるんだ」
「……できるのか」
「結構な!」
胸を張る。
店の外を見る。
確かに。
人が集まっている。
「これ持ってる人いませんかー!」
「それならこれと交換しませんか!」
「……」
成立している。
完全に。
「(文化になってるな……)」
ガチャ。
収集。
交換。
そして――
コミュニティ。
「……やるじゃないか」
素直に感心する。
だが。
俺は知っている。
「……侮るなよ」
「え?」
アイリーンが首をかしげる。
「日本の文化を」
「……?」
理解していない。
だが――
「あと少しなんだろ」
「おう!」
「コンプ目前だろ」
「そうだ!」
笑っている。
だが――
「そのときに限って」
一拍。
「終わる」
「……は?」
「ガチャが切り替わる」
静かに言う。
「……」
沈黙。
「……マジか?」
「マジだ」
「……」
アイリーンの顔が固まる。
「……じゃあ」
「その前に揃えないと終わりだ」
「……」
数秒。
そして――
「回す!!」
叫んだ。
「死ぬ気で回す!!」
「そうなる」
分かっていた。
こうなることは。
――そして。
数日後。
「まだだ!!」
「出ねえ!!」
「もう一回!!」
完全に沼だ。
みんな回している。
必死に。
交換もしながら。
だが――
「……もうすぐ切り替えです」
ランちゃんが淡々と告げる。
「嘘だろおおおお!!」
絶叫。
店内が揺れる。
「(ほらな)」
俺は静かに頷く。
これだ。
これが――
終わりの圧力。
人を動かす。
追い込む。
回させる。
「(やっぱえげつねえな……)」
だが。
それでも止まらない。
回る。
欲しいから。
失いたくないから。
そして――
ナーは。
「ナー」
アイスを食べていた。
のんびりと。
「……」
俺は無言になる。
「……お前だけだよ」
この状況で平和なのは。
――こうして。
コンビニはついに、
収集と期限で人を縛る装置へと完成した。
「……日本、ほんと怖いな」
その言葉だけが、
ガチャの回転音の中に、静かに消えていった。
――そして今日は。
「……あいつ、完全に堕落したな」
俺はカウンターの中から、頭上を見上げていた。
ナーがいる。
いつもの定位置。
俺の頭の上。
だが――
「ナー、ほら」
アイリーンが手を伸ばす。
「……ナー」
するり。
降りた。
俺の頭から。
「おい」
ツッコむ。
だがナーは完全に無視。
そのままアイリーンの腕の中に収まる。
「よしよし」
「……ナー」
撫でられている。
満足そうに。
「(完全に餌付けされてるなこれ)」
原因は分かっている。
ゾロドフだ。
「……これ」
無言で差し出す。
アイス。
またか。
「ナー」
ぱくり。
食べる。
満足。
「……」
俺は無言になる。
「おい」
「……何だ」
「なんでアイスなんだよ」
「……うまい」
ゾロドフが答える。
そういう問題じゃない。
「(いやまあ、うまいけど)」
否定できないのが腹立つ。
「……限度があるだろ」
だがナーは気にしない。
完全におねだりモードだ。
撫でられる。
食べる。
また撫でられる。
「(ダメだこいつ)」
完全に“店の猫”になっている。
――そして。
「店主!」
アイリーンが声を上げる。
テンションが高い。
「これ見ろ!」
手に持っているのは――
フィギュア。
「……アイナーか」
猫型のやつ。
「あと一つなんだ!」
「へえ」
「コンプ目前だぞ!」
「そうか」
興味はある。
だが問題は――
「出ないんだよ!」
「だろうな」
ガチャだ。
そう簡単には揃わない。
だが――
「最近な」
アイリーンがにやりと笑う。
「外で交換してるんだ」
「……は?」
聞き返す。
「ダブったやつをな」
指を立てる。
「欲しいやつと交換する」
「……」
なるほど。
「それで、なんとか揃えるんだ」
「……できるのか」
「結構な!」
胸を張る。
店の外を見る。
確かに。
人が集まっている。
「これ持ってる人いませんかー!」
「それならこれと交換しませんか!」
「……」
成立している。
完全に。
「(文化になってるな……)」
ガチャ。
収集。
交換。
そして――
コミュニティ。
「……やるじゃないか」
素直に感心する。
だが。
俺は知っている。
「……侮るなよ」
「え?」
アイリーンが首をかしげる。
「日本の文化を」
「……?」
理解していない。
だが――
「あと少しなんだろ」
「おう!」
「コンプ目前だろ」
「そうだ!」
笑っている。
だが――
「そのときに限って」
一拍。
「終わる」
「……は?」
「ガチャが切り替わる」
静かに言う。
「……」
沈黙。
「……マジか?」
「マジだ」
「……」
アイリーンの顔が固まる。
「……じゃあ」
「その前に揃えないと終わりだ」
「……」
数秒。
そして――
「回す!!」
叫んだ。
「死ぬ気で回す!!」
「そうなる」
分かっていた。
こうなることは。
――そして。
数日後。
「まだだ!!」
「出ねえ!!」
「もう一回!!」
完全に沼だ。
みんな回している。
必死に。
交換もしながら。
だが――
「……もうすぐ切り替えです」
ランちゃんが淡々と告げる。
「嘘だろおおおお!!」
絶叫。
店内が揺れる。
「(ほらな)」
俺は静かに頷く。
これだ。
これが――
終わりの圧力。
人を動かす。
追い込む。
回させる。
「(やっぱえげつねえな……)」
だが。
それでも止まらない。
回る。
欲しいから。
失いたくないから。
そして――
ナーは。
「ナー」
アイスを食べていた。
のんびりと。
「……」
俺は無言になる。
「……お前だけだよ」
この状況で平和なのは。
――こうして。
コンビニはついに、
収集と期限で人を縛る装置へと完成した。
「……日本、ほんと怖いな」
その言葉だけが、
ガチャの回転音の中に、静かに消えていった。
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