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3 持参金要らず
しおりを挟むペントスの姫は持参金要らず
黄金の輝き 宝石の笑み
色とりどりの花が舞う
◇ ◇ ◇
「体質……?」
「『ペントスの姫は』っていう伝承歌があるでしょう。多くの人々はあれを〝王家の娘たちを讃えるために美しいものに喩えた歌〟だと思ってるみたいだけど、本当はそうじゃないの」
フルーラは、自分の膝の上にあった水色の花をひとつ摘まんだ。
「私は、お花のつぼみを握って生まれてきたんですって」
リシャードは、自分が手のひらに乗せている薄紅色の花も、フルーラがそっと萼のあたりを持っている春の空のような色の丸い花も、どちらも瑞々しく美しいが、見たことがあるようで見たことがない不思議な色形をしていることに気がついた。
「一番上のドローティアお姉さまは金の砂を、二番目のスフェーラお姉さまは小さな宝石を、それぞれ生まれたときに握っていらしたそうよ」
リシャードの脳裏に、外国の王族に嫁いだフルーラの姉姫たちの姿が浮かぶ。
「王家の血を引く女の子にときどき現れる現象なんですって。でも、三姉妹すべてがそうやって生まれてきたっていうのは珍しいらしいわ」
リシャードはまだはっきりと呑み込めていない様子で訊ねた。
「生まれたときに握っていたものを、奇術のようにぽんと出せるってことなのか……?」
フルーラは困ったような笑みを浮かべる。
「出せる、というか、出ちゃうの」
「でも、僕は小さいころしょっちゅう君と一緒にいたけど、こんな現象は一度も見たことがないぞ」
「……条件があるのよ」
その〝条件〟には触れずに、フルーラは話を続けた。
「『あなたはお花で良かったわね』ってよくお姉さまたちから言われたわ。いくら珍しいものでも、私のお花は時が経てば色あせて枯れていくけど、金や宝石はそうはいかないし、高値で取り引きされるものでしょう」
フルーラの表情が少し曇る。
「お姉さまたちは今はとても幸せに暮らしていらっしゃるけど、過去にはその体質を悪用されそうになったこともあったのよ。真珠が出せたというペルーラ叔母さまも、昔は何度か危ない目に遭われたんですって」
リシャードは、第一王女が一度離縁していることや、第二王女が誘拐事件に巻き込まれたことがあったのを思い出した。
「『持参金要らず』の歌が聴こえてくると、よくお父さまは面白くなさそうに『しっかり持たせてるぞ……』って小声でおっしゃってるわ」
持参金を持っていこうが、姉姫たちは嫁ぎ先から童話に出てくる黄金の卵を産むガチョウのように見なさているのではないかとリシャードが心配そうな顔をすると、フルーラは「大丈夫よ」と微笑んだ。
「今はお幸せだって言ったでしょう。それに、お姉さまたちはもうとっくに金や宝石を出せなくなってるのよ」
「そうなのか? 君の花も、いずれは出なくなるのか?」
「……そうね」
言いにくそうに下を向き、フルーラは打ち明けた。
「あの、この体質は……処女でなくなると終わるの」
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