【R18】お兄ちゃんと契約結婚!?~不感症でオタクなちょいぽちゃの私がスパダリ御曹司に溺愛されて恋愛フラグ争奪戦~

弓はあと

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「太陽先輩、そこ座ってください」

 かのこちゃんがソファを手で示す。

「いや、いいよ。俺はここで。深川さんソファ使って」

 持っていたバッグを床へ置き、お兄ちゃんはラグの上にあぐらで座る。
 いつも通り優しく耳に響くお兄ちゃんの声を聞いたら、なんだか涙がでそうになった。

「俺も今は深川なんですけどねー」
「翼は大羽の苗字だったイメージが抜けないんだよな」

 翼くんの淹れてくれたコーヒーが、リビングのローテーブルに四つ。
 個包装のチョコや焼き菓子をのせたお皿をその中央に置くと、翼くんはお兄ちゃんの隣に腰を下ろした。

 ローテーブルを挟んで正面にいるお兄ちゃんの方を見ることができない。
 すぐ隣に座るかのこちゃんと斜め前に座る翼くんの間で彷徨う私の視線。

 どうすれば、いいんだろう……。
 お兄ちゃんと何か話すべき?

「そういえば琴莉、今も弓道場には行ってるの?」
「うん」

 かのこちゃんが話を振ってくれてホッとした。
 きっと、私が困っているのを感じとったんだと思う。
 かのこちゃんは昔から、こういう時にさりげなく私を助けてくれる。
 先生になったら、生徒からすごく好かれそう。

「高松さんだっけ、厳しいけどいいお爺ちゃんいたよね。今も弓道してる?」
「うん、高松さんすごく元気だよ。毎朝庭で乾布摩擦してるんだって」
「えぇー、本当に? 真冬でも?」
「そう、雪が降っても」

 すごい、と言ってかのこちゃんが笑う。

 運動音痴だけどちょいぽちゃ体型だし何かしら運動はしたいと思い、弓道ならできるかなと中学の時から区内の弓道場へ通い始めた私。
 若い子は珍しかったらしく、皆が可愛がってくれた。

 だから習い始めてすぐに、考えていたよりも弓道は体力を使って大変だと気付いたけれど今日まで続けることができているのだと思う。

 何回か道場まで迎えに来てくれた日があるから、お兄ちゃんとかのこちゃんは高松さんに会ったことがある。

 私が通っている弓道の会――弓友会の会長を務める高松さんは礼儀や作法にかなり厳しい。
 でも褒める時にはしっかり褒めてくれて。
 威厳があって、怖いけど優しいお爺ちゃん。

 お兄ちゃんが高3だった時に私とかのこちゃんと翼くんは高1だったこともあり、自然と高校時代の話になった。

「琴莉が使っていた学習アプリのおかげで、あの頃はすごく助かりました」
「俺も俺も。あれが無かったら部活を続けられなかったかもしれない。先輩に感謝ですよ」

 どういう頭の構造をしていればできるのかさっぱり分からないけれど、高校の時お兄ちゃんが私に学習アプリを作ってくれた。

 ゲーム好きの私のために、問題に正解するとキャラが育ったりアイテムが貰えたりするゲーム要素のある学習アプリ。
 時々バグを発見してお兄ちゃんに報告すると褒めてもらえるのも嬉しくて。
 高校時代は土日もやり込むくらいハマってしまう。

 ひとしきりお兄ちゃんが作った学習アプリの話で盛り上がったあと、卒業式の話題に。

「太陽先輩、卒業式の日制服のボタン全部無くなってましたよね」
「俺が卒業する時には、かのこしかボタン貰ってくれなかったのになぁ」
「私がいただけいいでしょ」

 かのこちゃんと翼くんの、心地よい笑い声が室内に響く。

 学ランだった母校の男子用制服。
 卒業式の日の朝、お兄ちゃんから「欲しいっていう人がたくさんいて困ってるんだ。琴莉が貰ってくれると助かる」と言われて第二ボタンを渡されたのを思い出す。
 
「礼拝堂に厳つい学ラン男っていうのはけっこうシュールな図だったよなぁ。そういえば先輩が生徒会長の時でしたよね、大規模改修でステンドグラスを交換したの」
「そうそう、私たちが入学した時は花の模様のステンドグラスだったけど、太陽先輩の卒業式の時には鳥だった」

 母校は生徒の主体性を大切にする校風で、ステンドグラスを新しくする時に生徒会の方でデザイン案を作成することになったらしい。
 当時生徒会長だったお兄ちゃん、「職権乱用して『小鳥と太陽』にしちゃったよ」と悪戯っぽく笑っていて。

 完成したのはたくさんの小鳥が太陽に向かって羽ばたいている、優しい色合いで見事なステンドグラスだった。


 ぁ……飲み終わっちゃう……。


 時間稼ぎのようにチビチビ飲んでいたコーヒーがとうとう空になってしまった。
 みんなはもうとっくに飲み終わっている。

「琴莉」

 マグカップをテーブルに置くとお兄ちゃんから名前を呼ばれ、肩がビクッと震えた。

 私を呼ぶお兄ちゃんの、優しい声。
 優しいから、つらい。

「そろそろ帰ろうか」

 フルフルと左右に首を動かす。

「帰れないよ……」
「どうして?」
「私は本当の家族じゃないもの。お兄ちゃんの家には、帰れないよ……」

 ぇ、と戸惑ったような小さな声が、かのこちゃんの方から聞こえた。

 自分のバッグを持ち、立ち上がったお兄ちゃんが近づいてくる。
 そしてソファに座る私のすぐそばで、片膝をついて。

「お兄ちゃん……?」

 まるで騎士が忠誠を誓う時のような姿勢。
 見た目のいいお兄ちゃんだから、とてもサマになっている。

 その視線を受けとめるのが、ちょいぽちゃな私というのが残念なところ。

「琴莉、俺と本当の家族になって欲しい」
「本当の、家族になって……?」

 どういう事……?

 頭が疑問符だらけの私の目の前に、スッと一枚の紙が現れた。

 実物を見るのは初めてだけど、ドラマや漫画で目にしたことがある用紙。

 左上には『婚姻届』の文字。

「これは……?」
「琴莉、俺と結婚しよう」

 け、っコン?

 よく聞く言葉のはずなのに、理解できない。





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