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しおりを挟む「マッジョルド第二王子殿下……?」
なぜ、馬車に??
私と目が合うと、マッジョルド殿下は満足げな笑みを浮かべた。
「名前を憶えてもらえていて光栄だよ、ヴェレッド嬢」
「こちらこそ光栄です。まさか名前を呼んでいただけるなんて」
マッジョルド殿下は乙女ゲームのヒロイン、アカリ様の攻略対象。
悪役令嬢の私はほとんどお会いした事が無いのに。
ふ、とマッジョルド殿下が悪戯っぽく微笑んだ。
「前に会った時のイヤリングが印象的だったからな。恋人から貰ったんだろ?」
「ぁ、ぃぇ、これ、は……」
思わず左の耳朶に指で触れ、口ごもってしまった。
そうだったら、どんなにいいか。
マッジョルド殿下の住むメルヴェイユ王国では、自分の婚約者や恋人に右耳よりも一つ多いイヤリングを左耳につけさせる風習がある。
この女性は自分のものだ、誰も手を出すなと周りへ知らしめるために。
今日は以前クリフがプレゼントしてくれたイヤリングを、左耳だけにつけている私。
でもそれは、たまたまクリフにお金が無くて片方しか買えなかっただけ。
恋人どころか、クリフがどこにいるのかさえ分からない状況なのよ。
ゲームではマッジョルド殿下が、右耳のイヤリングを落としてしまって左耳だけにつけていたヒロインのアカリ様に興味を示して声をかける。
でもふたりが出会うきっかけとなる夜会イベントは、アカリ様の遅刻という形で回避した。
だからハンター気質であろうマッジョルド殿下が、恋人がいる(と誤解した)アカリ様を自分に振り向かせようとする状況は作られていない。
アカリ様とのイベントは回避した……けど。
マッジョルド殿下は、私に恋人がいると勘違いしている?
まさかの、恋愛フラグ……?
いや、まさか、ねぇ……
どうぞ、とさりげなく導かれ、馬車の中でマッジョルド殿下とクンベル殿下の間に座る。
うぅ、これだとあんまり窓の外が見えない。
街なかにクリフがいないか馬車の中から探したかったのに。
クンベル殿下とマッジョルド殿下は第二王子同士ということもあって気が合うと聞いていたけれど、それは噂だけじゃなくて実際にそうらしい。
とても仲が良さそうだもの。
馬車の中で他に人がいないせいか、互いの話に笑ったり驚いたりする二人の表情はとても自然。
けれどなんだか、違和感を覚える。
それは二人の仲に対して、というのではなくて……
二人の、会話に。
ゲームでは、ヒロインがマッジョルドルートに入ったらアルアスラ王国とメルヴェイユ王国の間で戦争が起きる。
マッジョルド殿下が、聖剣の乙女であるアカリ様を手に入れるために。
だからどちらかというと、戦争をする事に対して積極的なのかと思っていた。
だけど、そうでもないみたい。
むしろ今の二国間の不穏な雰囲気を嘆いている様子も見られる。
それにゲームの世界では、王になりたいと願った幼い頃のマッジョルド殿下が人を雇って兄であるクルーフォス殿下を殺してしまう設定だったのに。
そんなに王の座に執着しているとは思えない。
むしろ……
「もしかしてマッジョルド殿下、王位を継ぎたくないのでは……?」
二人の雰囲気があまりにも気さくなものだったので、思ったことをつい口に出してしまった。
ぴた、と会話が止まり、マッジョルド殿下が目を大きく見開いている。
ぁ、マズいこと言ったかな。
だって、マッジョルド殿下。
兄であるクルーフォス第一王子が王になるのを望んでいるみたいなんだもの……。
「……俺のまわりはアルアスラ王国との戦争を望む者ばかりだ。兄上が王となった方が、国のためになるだろう」
「お兄様と話をすべきでは? 側近を交えずお二人で話し合えば、国にとってより良い方向性が見つけられるかもしれません」
「前に一度、部屋を訪ねたことがある。ノックしたがドアを開けてくれなかった」
一度ダメだったくらいで諦めないで欲しい。
ここはゲームの世界だけど、ここに住む人たちにとっては現実の世界。
二国間の戦争なんて絶対に起こしてはならない。
国民の命がかかっているのだから。
隣に座るマッジョルド殿下の手を、私の両手で包み込むようにしてギュッと掴む。
「何度でも訪ねていくべきです。もしよければ、私もご一緒しますので」
「……わかった。貴女がそこまで言うのなら」
ん?
マッジョルド殿下が、照れた??
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