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 私もクリフに会いたい、居場所が分かるなら会いに行きたい。

「『虐げられた王』を売っていたお店です。店主らしき人と話してましたね~」
「本当に、本当にクリフだった……?」
「あの特徴のある眼鏡は見間違うはずありませんよ~。ちょっと濡れた感じはありましたけど、前髪も長かったですし」

 確かにあの牛乳瓶の底眼鏡は、他で見た事が無い。
 本当にクリフ……なの?
 髪が少し濡れた感じって、前に武術大会で会った時と同じ感じかしら。
 整髪料のようなものをつけていたのかも。
 前髪が長かったという事は崩れてしまったのかもしれないけれど、アカリ様が見かける前はきちんと髪を整えていたのかもしれない。
 髪を整える必要があるような……例えばデートの後だった、とか……?
 ぅぅ、なんだか胸がモヤモヤする。

「クリフ様にお借りしていたイヤリングを持っていたら声をかけたんですけどねぇ」
「イヤリングを……クリフに借りたの?」

 そんな話は初めて聞いた。

「もうかなり前なんですけどね~、ついつい返しそびれてしまって」
「今、持っていたりする?」
「はい、ありますよ。次に会った時こそ返せるように、なるべく持ち歩くようにしようと思いまして」

 アカリ様がイヤリングを見せてくれた。
 見覚えのあるデザインの、ブルーサファイアのイヤリング。
 牛乳瓶の底眼鏡に隠された、クリフの瞳みたいに綺麗な色をしている。

 見覚えがある……というよりも、私が持っているのと同じなのでは?

 鏡台のひきだしを開け、小箱にしまっておいたイヤリングを取り出す。
 以前クリフにプレゼントしてもらったイヤリング。
 お金が無くて片方しか買えなかったって、クリフが言っていた。

「あれぇ、そのイヤリング、私がいま持っているのと同じですねぇ?」
「……アカリ様、そのイヤリング、クリフからいつ借りたか覚えてる?」
「ぇっとぉ……たしか……、そうそう、マッジョルド殿下がアルアスラ王国に来て夜会が催された日だったと思いますぅ」
「そう……」

 頭を整理したくて、イヤリングを左耳につけてから椅子に座り、お茶を一口だけ飲んだ。

 クリフがアカリ様に渡したのと、私へプレゼントしてくれたの、どちらが先なのかしら……。

 アカリ様にイヤリングを片方貸してしまい、その言い訳として私に片方しか買えなかったと言った?
 それとも……

 いま私たちがいるメルヴェイユ王国では男性が、愛する女性に右耳よりも一つ多いイヤリングを左耳につけさせる。
 この女性は自分の最愛だから、誰も手を出すなと周りに知らしめるために。

 もしクリフが、私にイヤリングをプレゼントした後でアカリ様にイヤリングを貸したのだとしたら?
 クリフがメルヴェイユ王国の風習を知っていて、左右きちんと揃ったイヤリングを持っていたにもかかわらず片方しか私にイヤリングをつけさせなかったという事になって……。

 ボンッと点火したように顔が熱くなってしまった。

 いやいやいやいや、それは無いでしょうっっ
 慣れない環境で疲れているのかもしれない、自分にとって都合のいいように物事を解釈してしまいそう。

 ぁぁできることなら……、一度だけでいいからお城を出る許可をもらいたい。
 許可を貰えたら、僅かな可能性にかけてアカリ様がクリフを見たというお店へ行ってみたい。

 二人掛け用の小さめなテーブルで、私と向かい合ってお茶を飲んでいたアカリ様が内緒話をするように口へ手を添え顔を少し寄せてきた。
 珍しく、声のボリュームを落とし小声で話し始めたアカリ様。

「それにしてもマッジョルド殿下の評判は悪いですねぇ。本を買ったお店でも、戦争好きなうえに隣国王太子の婚約者を奪って自分のものにした極悪人だって噂されているのを聞きましたよ。自分の婚約者だと誇示するために、黄金のティアラをつけさせてるらしいって」

 自分の婚約者だと誇示するために……。
 やはり貴族以外の人も、私がマッジョルド殿下の婚約者だと知っているのね。

 でも、極悪人だなんて噂までされているのは驚きだわ。
 王族の悪口を言っていると知られたら、不敬罪に問われる可能性だってあるのに。
 もうどうなっても構わないと開き直っているみたいに思えて、少し怖い。
 『虐げられた王』のように暴君が滅びるのを望む思いがそれだけ大きいという事かしら。

 マッジョルド殿下へ身辺に気をつけるよう伝えないと。



 そう思っていたけれど、事態は私が考えていたよりも遥かに緊急だった。

 夕食後、部屋で寛いでいたところに届いた暴動発生の知らせ。

 王宮の一階部分で火の手が上がり。
 その火は四階にあるマッジョルド殿下の居室へ向かって瞬く間に燃え上っていったという。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 


 【お知らせ】

 読者様、いつも閲覧&しおり、お気に入り登録等してくださり、本当にありがとうございます。 

 クリフがアカリにイヤリング?何の事だっけ??と思われている読者様も多いですよね、ごめんなさいっっ。
 26弟シャルマンのひとりごと、での話です。
 亀更新のためだいぶ前に投稿した内容が出てくる事となり、大変申し訳ありません……。





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